匠の技術、世界へ 6
油化事業で南アフリカに新ビジネスを
~廃プラスチックから電力と雇用をつくる日本企業~

採油されたビンを持つ関係者。左からCFP佐藤哲也さん、廣木重之在南アフリカ日本国大使、木野本浩之JICA南アフリカ事務所長、アーネスト・ソネンバーグ氏(ケープタウン市議)。(写真:(株)CFP)
南アフリカ共和国は豊富な鉱物資源に恵まれ、鉱業を主力に成長しましたが、2015年のGDP産業別内訳では第三次産業※1が69%を占め、また、製造業や金融業が発展するなど、アフリカ経済を牽引(けんいん)する高中所得国に成長しています。しかし、人々の生活が豊かになる一方で、一般廃棄物※2は年々増加しています。こうした状況の中、廃棄物のリサイクルが課題となっています。中でも一般廃棄物の60%を占める廃プラスチックのリサイクルは進んでいません。南アフリカ政府は廃プラスチックのリサイクル率の目標を25%と設定していますが、実際には約18%にとどまっており、そのほとんどが廃棄物処分場に直接投棄されています。
こうした課題の解決に役立つと期待されているのが、株式会社CFP※3(広島県福山市)が開発した廃プラスチック油化装置です。マテリアルリサイクル※4では、食品や泥などの汚れが付着したビニール袋などのリサイクルが難しく、また、従来の油化装置では生成した油は低温になると固まってしまうため、燃料として使いにくいという難点もありました。
そこでCFP社は、廃プラスチック油化装置に株式会社カネミヤ※5(愛知県半田市)の洗浄機を組み合わせることで、汚れの付着している廃プラスチックも油化原料として利用することを可能にしました。さらに、CFP社の特許技術により、生成されたリサイクル油は0℃以下の低温でも固化しないことが大きな特徴です。CFP社の開発した油化装置は通常1日に4000リットルの油を生成※6 できますが、今回のパイロットプラントでは500kgの廃プラスチックから1日に最大500リットルのリサイクル油を生成し、その油をディーゼル発電機の燃料として利用できました。その発電した電気は油化装置の動力として使えるため、単純な焼却処理と比べてCO2の排出量を大幅に削減することができます。

前処理装置と廃プラスチック油化装置の構成(写真:(株)CFP)
両社は共同企業体として、この廃プラスチック油化装置の現地への適合性を確認するため、2014年3月から南アフリカのケープタウンで、ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業※7の普及・実証事業※8を実施しました。ケープタウンは同国の中で廃棄物の分別収集を行っている数少ない都市の一つであり、原料となる廃プラスチックを比較的容易に入手できる環境が整っていたことなどから、同市で事業を実施することになりました。
2015年10月には、廃プラスチック油化装置をケープタウンの廃棄物分別処分場に設置しました。性能検証試験を現地スタッフと行う中で、彼らの技術向上も見られ、最終的には日本と同水準の安定的な運転をすることができました。また、生成された油をディーゼル発電機の燃料、油化装置のバーナー燃料、フォークリフトの燃料として利用でき、その燃料を使用して発電した電気で油化装置が稼働することを確認しています。
CFP油化事業部海外営業課ジェネラルマネージャーの佐藤哲也(さとうてつや)さんは「この油化装置を導入することで、廃棄物の削減とリサイクル率の向上、持続的な廃棄物管理・リサイクルシステムの構築につなげていきたい」と話します。また南アフリカでは、慢性的な電力不足と所得格差の拡大が課題となっている中で、「私たちの油化装置は、電力不足を補うだけでなく、新たなリサイクルビジネスによる雇用の創出にもつながるはず」と佐藤さん。
2016年9月の普及・実証事業終了後は、実証に使用した油化装置はケープタウン市に譲渡され、現在では同市内の民間企業が活用して事業が継続されています。佐藤さんは、「廃棄物のリサイクルは開発途上国が抱える共通の課題です。今回の普及・実証事業を見本として、アフリカ各国で油化装置の導入を進めていきたい」と意気込みを語ります。
両社は、2016年8月にケニアで開催されたTICAD(ティカッド) VI※9のサイドイベントに出展し、アフリカ各国の関係者に廃プラスチック油化装置の技術を紹介するなど、日本による対アフリカ協力の機運が高まる中で、さらなる展開に向けて動き出しています。
※1 電気・ガス・水道・運輸・通信・小売・卸売・飲食・金融・保険・不動産・サービス・公務・その他の産業。(第一次産業は農業・林業・漁業、第二次産業は鉱業・建設業・製造業。)
※2 一般廃棄物は、産業廃棄物以外の廃棄物
※3 CFP社は廃プラスチック(PP、PE、PS等)を粉砕・溶解・熱分解することにより油の製造が可能な油化装置を開発。生成された油は、ディーゼル発電機、ボイラー等の燃料として使用可能。
※4 マテリアルリサイクルとは、使用済み製品や生産工程から発生した廃プラスチックを処理し、新しい製品の材料や原料として使うリサイクルの手法。
※5 カネミヤ社は、これまでリサイクルが困難だった食品や泥など汚れの付着したビニール袋等の廃プラスチックをリサイクル可能な原料として小型、低コストで洗浄処理する機材の開発。
※6 1kgの廃プラスチックから1リットルのリサイクル油を生成
※7 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。
※8 普及・実証事業は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。
※9 第6回アフリカ開発会議