2016年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 2

「Mame-NET」で患者の医療情報を共有化
~ベトナムの医療サービスの向上にITを活用~

ベトナム・ゲアン省で行われたMame-NETセミナー会場の様子(写真:(株)テクノプロジェクト)

ベトナム・ゲアン省で行われたMame-NETセミナー会場の様子(写真:(株)テクノプロジェクト)

ベトナムでは世界各国の支援により医療設備などの拡充は図られていますが、個々の医療機関・設備の増強にとどまっており、地域間の医療格差が大きく、患者が都市部の病院へ集中するので慢性的に病院が混雑しています。この混雑を緩和するとともに、地域の診療所の医療水準を向上させることなどが課題となっています。

こうしたベトナムの医療事情に対して、自社が開発した地域医療情報ネットワークシステム「まめネット」が役立つのではないかと着目したのが、ソフトウェアの開発などを手がける島根県松江市の株式会社テクノプロジェクトです。同社のエンジニアが以前、ベトナムでIT関係の仕事をしていたことがきっかけとなり、ベトナムの地域医療が抱える地方と都市部の医療格差など社会的な課題が、島根県と似ていることに気付きました。同社では「まめネット」のベトナムにおける普及を図るため、2015年2月からゲアン省の省都ヴィン市で、ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業※1の普及・実証事業※2を開始しました。

「まめネット」は「元気」を意味する島根の方言である「まめ」から名付けられました。島根県では、高齢化により保健医療サービスの需要が増える一方で、医師の不足などの理由により地域の保健医療サービスを提供する体制を維持することが難しくなっています。そこで、より良い医療の提供を目的に、患者の同意を得てその受診歴や病歴などの診療情報(これを「連携カルテ」と呼びます。)を各地の中核病院や診療所、検査機関、調剤薬局などの複数の医療機関で共有する仕組みである、「まめネット」を採用することとしました。この連携カルテを中心に画像診断などの様々な機能を活かして、一人の患者の医療情報を複数の医療機関が共有することで、正確な診断や治療、調剤など、安心で安全な医療サービスの提供につなげています。現在、島根県内の770の医療機関が参加し、患者登録数は3万人に達しています。

ゲアン省医療ITセミナーでMame-NETについて説明を行う深田倍生さん(写真:(株)テクノプロジェクト)

ゲアン省医療ITセミナーでMame-NETについて説明を行う深田倍生さん(写真:(株)テクノプロジェクト)

同社では、このシステムをベトナムでも利用できるよう特別に改良した「Mame-NET」で、地方都市であるヴィン市の3つの病院と25の診療所を接続し、患者一人ひとりの医療情報の閲覧、より上位の医療機関に対する紹介状の発行、電子カルテの連携、掲示板の提供などを行っています。さらに、ベトナムの医療システムの先駆け企業と提携し、現地の医師と職員に対するシステム運用トレーニングやサポート体制を確立したほか、医療情報サービス利用に関するガイドライン案も策定しました。

同社業務主任の深田倍生さんは、導入当初を振り返り、「ベトナムの人々は当初、援助慣れをしていて特別な関心を示さなかった」と述べます。「しかし、私たちは現地の人々の声に耳を傾け、繰り返し人々のニーズや、そのニーズが生まれる背景を理解した提案をすることで、現地の医師や職員からも意見が出てくるようになりました。ベトナムの社会課題を解決したいという私たちの熱意と理念が伝わったことを実感できた瞬間です」と語ります。

医療の現場にも変化が現れました。たとえば、紙による紹介状では断片的にしか得られなかった患者の情報が、導入後は連携カルテを共有することでそれまでの経緯なども正確に確認できるようになり、医療の質も向上したといいます。また、電話や書面でのやり取りが減ったことで患者対応に使える時間が増え、さらには患者と向き合うことで医療関係者側のモチベーションも上がったそうです。

前述の深田さんは、「ベトナムでは、非効率的と分かっていても人を投入して対応する傾向が見られます。今回システムを導入することで、ITを活用し医療機関同士が情報を共有することがもたらす長所を現場で実感してもらい、診療にかかる費用、時間が削減でき、診療の質の向上につながりました。さらに、医療関係者間のスキル共有も実現でき、医療サービス全般の向上も実現できるものと思っています」と語ります。2016年9月の普及・実証事業終了後も、「Mame-NET」はベトナムのゲアン省保健局が継続してヴィン市の病院・診療所で運用していく予定です。

深田さんは「今回の取組が、ベトナムにおける地域医療ネットワークのグッドプラクティス(優良事例)になればと願っています。そして、将来的には介護サービスも組み込みながら、ゲアン省だけでなくベトナム全土をネットワークでつなぎたい」と、さらなる事業拡大に意欲を示しています。

日本のネットワーク技術による質の高い医療システムがベトナムに根を下ろし始めています。


※1 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 普及・実証事業は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。

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