2016年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 1

持続可能な節水型乾燥地農業をモロッコで
~独自の技術が乾燥地域の節水と土壌改良に一役~

モロッコにてポーラスαの節水型農業技術に取り組む竹内義章さん(中央)とスス・マッサ地域農業開発公団のメンバー(写真:(株)鳥取再資源化研究所)

モロッコにてポーラスαの節水型農業技術に取り組む竹内義章さん(中央)とスス・マッサ地域農業開発公団のメンバー(写真:(株)鳥取再資源化研究所)

 

アフリカ大陸の北西端に位置し、北は地中海、西は大西洋に面したモロッコでは農業が重要な産業であり、GDPの13%、輸出の11%、就業労働人口の25%(約300万人)を占めています。しかし、乾燥地域が多く慢性的な水不足に悩まされ、干ばつ時には収穫量が通常の50%程度にまで落ち込むこともあります。気候変動による降水量の減少も予想されることから、農業用水を確保するための経費が年々上昇するなど、水の持続的な利用が課題となっています。

野菜の生産が盛んなモロッコ中部のスス・マッサ地域では、少量の水を効果的に使う点滴灌漑(てんてきかんがい)が普及しているものの、水不足の解消には至っていません。こうした中、同地域の節水型農業に期待がかかるのが、株式会社鳥取再資源化研究所が開発した「ポーラスα(アルファ)®」です。ポーラスαは廃ガラスと貝殻(炭酸カルシウム)を原料とする同社が独自に開発した多孔質(たこうしつ)発泡ガラス素材です。開発当初は、土木資材の軽量盛土材や防犯砂利※1としての利用を想定していましたが、鳥取大学乾燥地研究センターとの共同研究の結果、土壌に混ぜて使用すると多数の細かい孔(あな)に水が蓄えられて土壌の保水性が高まり、土壌改良材として優れた効果を発揮することが分かりました。その上、ポーラスαは環境に与える影響(負荷)も小さいなどの特徴もあり、2010年には乾燥地向け節水型農業技術として国連工業開発機関(UNIDO)※2の環境技術データベースにも登録されています。

スス・マッサ地域農業開発公団の研究施設で行われた試験栽培でインゲンを収穫している様子(写真:(株)鳥取再資源化研究所)

スス・マッサ地域農業開発公団の研究施設で行われた試験栽培でインゲンを収穫している様子(写真:(株)鳥取再資源化研究所)

同社がモロッコの農業が抱える水問題と接したのは2008年のこと。既に確立していたポーラスαの節水型農業技術をモロッコで開かれた学会で紹介したときに、モロッコの政府機関から実証実験についての打診を受けました。このときは、モロッコ政府との間で役割分担や費用負担などで合意に至らず実現しませんでしたが、その後、JICAの民間技術導入可能性調査という制度を利用してセネガルでポーラスαの実証実験を行いました。そこで成果を上げ、さらに農業が大規模に行われている国を検討したところ、同社は再度モロッコに思い至り、2015年6月から2年半の予定で、ODAを活用した中小企業海外展開支援※3の普及・実証事業※4を行うこととなりました。

2015年9月から2016年4月にスス・マッサ地域農業開発公団の研究施設で行われた第1回試験栽培では、トマトとインゲンを栽培しました。その結果、従来と比べて半分の水の量で、トマトは28%増、インゲンは22%増の収穫量がありました。節水効果、収穫量増大、土壌・作物への安全性など、ポーラスαの有効性の高さを示す結果が得られたのです。

「ポーラスαを入れた畑がそうでない畑よりも生育が良いということが分かり、農業開発公団の現場責任者も手応えを感じたようです。2015年12月に現地で開催された農業展示会で、彼が来場者にポーラスαを売り込む姿を見たときには、当社製品を信頼してくれていることが実感できうれしく思いました」と竹内義章(たけうちよしあき)社長は振り返ります。

こうした結果を受け、2016年8月からは大規模農家での試験導入も始まっています。竹内社長は、「農業開発公団の試験栽培は0.06ヘクタールでしたが、大規模農家の総面積は2ヘクタール以上です。また、生産者ごとに農法や農地の環境が微妙に異なるため、どのような結果が出るのか期待と不安があります」と話します。

2016年8月、ケニアの首都ナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) VI)に出展し、ポーラスαを活用した節水型農業技術を紹介しました。乾燥地を多く抱えるアフリカ諸国の関係者からも、大いに注目を集めました。

「モロッコの乾燥地域では水の需要量が供給量を上回り、地下水位が年々下がっています。ポーラスαの利用で水の使用量を半減できれば、地下水位の低下を食い止め、気候変動による少雨化、干ばつにも不安を抱くことなく、安心して農業に取り組めると考えています」と竹内社長。

今後は対象作物を果樹などに拡大するとともに、ポーラスαの現地での製造・販売体制を構築していく計画です。


※1 「防犯砂利」は、踏むと音が出て、侵入者の足音に気づかせる用途がある。

※2 United Nations Industrial Development Organization

※3 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※4 普及・実証事業は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。

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