2016年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)食料安全保障および栄養

国連食糧農業機関(FAO)〈注110〉、国際農業開発基金(IFAD)〈注111〉、および国連世界食糧計画(WFP)〈注112〉共同の報告「世界の食料不安と現状2015年報告(SOFI2015)〈注113〉」によると、世界の栄養不足人口は過去10年間で1億6,000万人以上、1990年~ 1992年以降では2億人以上減少しているという良好な傾向が確認されたものの、依然として約8億人(2014年~ 2016年、推計値)が栄養不足に苦しんでいるとされています。

この報告書によれば統計上は未達であったが、開発の観点からは、2015年までに飢餓人口の割合を半減するというミレニアム開発目標(MDGs)は達成したと見なせるとされています。MDGsの後継となる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2として「飢餓の終焉(しゅうえん)、食料安全保障と栄養改善の実現、持続可能な農林水産業の実現」が掲げられ、この目標の達成に向けた取組が進められています。

食料安全保障(すべての人がいかなるときにも十分で安全かつ栄養ある食料を得ることができる状態)を確立するためには、持続可能な食料増産のみならず、栄養状態の改善(特に妊娠から2歳の誕生日を迎えるまでの1000日間における栄養改善は子どもにとって効果的)、社会的セーフティー・ネット(人々が安全で安心して暮らせる仕組み)の確立、必要な食料支援や家畜の感染症への対策など、国際的な協調による多面的な施策が求められています。

< 日本の取組 >

東ティモールの首都ディリのコミュニティ・ヘルス・センターの巡回診療で子どもにビタミンAを投与しているところ。毎年乳幼児へのビタミンA集中投与月間が実施される。(写真:長壁総一郎)

東ティモールの首都ディリのコミュニティ・ヘルス・センターの巡回診療で子どもにビタミンAを投与しているところ。毎年乳幼児へのビタミンA集中投与月間が実施される。(写真:長壁総一郎)

フィジーの首都スバ市にある国家食料栄養センターに派遣されている青年海外協力隊(栄養士)の森温子さん。栄養指導の一環で学校を巡回し、食事のバランスの大切さを子どもたちに教えている。(写真:アサエリ・ナイカ)

フィジーの首都スバ市にある国家食料栄養センターに派遣されている青年海外協力隊(栄養士)の森温子さん。栄養指導の一環で学校を巡回し、食事のバランスの大切さを子どもたちに教えている。(写真:アサエリ・ナイカ)

このような状況を踏まえ、日本は、食料不足に直面している開発途上国からの要請に基づき食糧援助を行っています。2015年度には、二国間食糧援助として10か国に対し総額40.3億円の支援を行いました。

国際機関を通じた支援では、主にWFPを通じて、緊急食料支援、教育の機会を促進する学校給食プログラム、食料配布により農地や社会インフラ整備などへの参加を促し、地域社会の自立をサポートする食料支援などを実施しています。2016年には世界各地で実施しているWFPの事業に総額2億712万ドルを拠出しました。また、FAOを通じて、開発途上国の農業・農村開発に対する技術協力や、食料・農業分野の国際基準・規範の策定、統計の整備などを支援しています。

また、15の農業研究機関から成る国際農業研究協議グループ(CGIAR)〈注114〉が行う品種開発等の研究にも支援を行うとともに、研究者間の交流を通じ連携を進めています。

ほかにも日本は、開発途上国が自らの食料の安全性を強化するための支援を行っています。口蹄疫(こうていえき)などの国境を越えて感染が拡大する動物の伝染病について、越境性感染症の防疫のための世界的枠組み(GFTADs)〈注115〉など国際獣疫事務局(OIE)〈注116〉やFAOと連携しながら、アジア・太平洋地域における対策を強化しています。さらに、日本は国際的に栄養不良改善への取組を主導しているScaling Up Nutrition(SUN)に深く関与しています。

なお、2016年5月に日本が議長国を務めたG7伊勢志摩サミットにおいては、「2030年までに開発途上国において5億人を飢餓および栄養不良から救い出す」というG7の目標の達成に向け、特に優先すべき三つの分野(農業およびフードシステムにおける女性のエンパワーメント、人間中心のアプローチを通じた栄養の改善、農業およびフードシステムにおける持続可能性および強靱性の確保)についてG7がとるべき具体的行動をまとめた「食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン」を策定しました。これを踏まえ、10月には国際シンポジウムを東京で開催し、多様な関係者の参加の下、食料安全保障と栄養に関する議論を行いました。

 


  1. 注110 : 国連食糧農業機関 FAO:Food and Agriculture Organization
  2. 注111 : 国際農業開発基金 IFAD:International Fund for Agricultural Development
  3. 注112 : 国連世界食糧計画 WFP:World Food Programme
  4. 注113 : SOFI2015:The State of Food Insecurity in the World 2015
  5. 注114 : 国際農業研究協議グループ CGIAR:Consultative Group on International Agricultural Research
  6. 注115 : 越境性感染症の防疫のための世界的枠組み GF-TADs:Global Framework for Progressive Control of Transboundary Animal Diseases
  7. 注116 : 国際獣疫事務局 OIE:Office des Internationale Epizooties 通称はWorld Organisation for Animal Health
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