2016年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)防災の主流化、防災対策・災害復旧対応

世界各国で頻繁に発生している地震や津波、台風、洪水、干ばつ、土石流などの災害は、単に多くの人命や財産を奪うばかりではありません。災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、災害難民となることが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が開発途上国の経済や社会の仕組み全体に深刻な影響を与えています。

こうしたことから、開発のあらゆる分野のあらゆる段階において、様々な規模の災害を想定したリスク削減策を盛り込むことによって、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組である「防災の主流化」を進める必要があります。

< 日本の取組 >

防災協力
ネパール中部に位置するシャンジャ郡の小学校にて日本式の避難訓練を行っている青年海外協力隊の山本晃司さんと机の下に隠れる子どもたち(写真:児成まりえ)

ネパール中部に位置するシャンジャ郡の小学校にて日本式の避難訓練を行っている青年海外協力隊の山本晃司さんと机の下に隠れる子どもたち(写真:児成まりえ)

「低・中所得者向けの耐震住宅の建築技術・普及態勢改善プロジェクト」で建設された中米大学(UCA)の実験施設を用いて、「中南米 建物耐震技術の向上」の研修参加者が耐震実験を行っている様子(写真:エルネスト・マンサーノ/ JICA)

「低・中所得者向けの耐震住宅の建築技術・普及体制改善プロジェクト」で建設された中米大学(UCA)の実験施設を用いて、「中南米 建物耐震技術の向上」の研修参加者が耐震実験を行っている様子(写真:エルネスト・マンサーノ/ JICA)

日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培われた自らの優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで防災対策および災害復旧対応において積極的な支援を行っています。

2005年、兵庫県神戸市で開催された第2回国連防災世界会議において、国際社会における防災活動の基本的な指針となる「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、持続可能な開発の取組に防災の観点を効果的に取り入れることの重要性が確認されました。

また、この会議において、日本はODAによる防災協力の基本方針などを「防災協力イニシアティブ」として発表しました。そこで日本は、制度の構築、人づくり、経済社会基盤の整備などを通じて、開発途上国における「災害に強い社会づくり」を自らの努力で成し遂げることができるよう積極的に支援していくことを表明しました。

2012年7月には、東日本大震災の被災地である東北3県で「世界防災閣僚会議in東北」を開催し、防災の主流化・強靱(きょうじん)な社会の構築の必要性、人間の安全保障の重要性、ハード・ソフトを組み合わせた防災力最大化の必要性、幅広い関係者の垣根を越えた連携の必要性、気候変動・都市化などの新たな災害リスクへの対処の重要性などを確認し、これらを総合的に推進していく「21世紀型の防災」の必要性を世界に向けて発信しました。また、「21世紀型の防災」を実際に推進していくために、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」における防災の位置付け、および、同会議の成果を踏まえたポスト兵庫行動枠組の策定の必要性を各国と確認しました。

2015年3月14日~ 18日に、仙台において第3回国連防災世界会議が開催されました。これは、国際的な防災戦略について議論するために国連が主催して開かれる会議で、日本は防災に関する知見・経験を活かし、積極的に国際防災協力を推進していることから、第1回(1994年横浜)、第2回(2005年神戸)に続き、第3回会議もホスト国となりました。今回の会議には185の国連加盟国、6,500人以上が参加し、関連事業を含めると国内外から延べ15万人以上が参加する、日本で開催された史上最大級の国際会議となりました。

今回の会議に当たって、日本として目指していたことは以下の3点でした。

① 様々な政策の計画・実施において防災の視点を導入していくこと(防災の主流化)

②防災に関する日本の知見・技術を発信すること

③ 東日本大震災からの復興を発信すること、被災地の振興

会議の結果、仙台宣言とともに、第2回会議で策定された防災の国際的指針である「兵庫行動枠組」の後継枠組となる「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。仙台防災枠組には、防災投資の重要性、多様なステークホルダー(関係者)の関与、「より良い復興(Build Back Better)」、女性のリーダーシップの重要性など、日本の主張が取り入れられました。

さらに、日本は新たな協力イニシアティブとして、安倍総理大臣が今後の日本の防災協力の基本方針となる「仙台防災協力イニシアティブ」を発表しました。日本は2015年~ 2018年の4年間で40億ドルの資金協力、4万人の防災・復興人材育成を表明するなど、防災に関する日本の進んだ知見・技術を活かして国際社会に一層貢献していく姿勢を示しました。

2015年9月の持続可能な開発のための2030アジェンダを採択する国連サミットにおいて、安倍総理大臣は「仙台防災枠組」の実施をリードする決意を示すとともに、津波に対する意識啓発のため、国連での「世界津波の日」の制定を各国に呼びかけました。その結果、12月23日、国連総会において、11月5日を「世界津波の日」とする決議が採択されました。これを受け、2016年に「世界津波の日高校生サミット in 黒潮」や避難訓練等、世界各地で津波に対する意識向上のための啓発活動や津波対策の強化等を実施しました。

2015年3月、仙台で開催された国連防災世界会議のバナー( 写真:UNISDR)

2015年3月、仙台で開催された国連防災世界会議のバナー( 写真:UNISDR)

 

●チリ

津波に強い地域づくり技術の向上に関する研究プロジェクト
科学技術協力(2012年1月~ 2016年3月)

タルカウアノ港視察(市長、研究者等)(写真:JICA)

タルカウアノ港視察(市長、研究者等)(写真:JICA)

チリは日本と同様に環太平洋造山帯に位置する地震・津波多発国であり、1960年および2010年には大地震・津波が発生し、チリへの甚大な被害をもたらすとともに、太平洋を横断した津波は日本にも被害をもたらしています。2010年のチリ地震の際には特に津波による被害が大きく、警報発令の遅れや港湾への被害による海上支援ルート確保の遅れ等の課題が明らかになりました。

チリ地震の被害によって浮かび上がった課題を解決し、津波による悲劇を繰り返さないために、チリは、津波に対する防災能力強化の支援を日本に要請しました。チリ沿岸の津波の研究は、日本の津波防災にとっても重要なテーマであることから、両国が協力してチリにおける津波研究を行う「津波に強い地域づくり技術の向上に関する研究プロジェクト」が実施されました。

本プロジェクトでは①津波被害推定のための数値シミュレーションモデルの開発、②津波被害予測および被害軽減にかかるガイドラインの作成、③高い精度の津波予測警報システム(SIPAT)の開発、④避難計画の提案と普及等を行い、津波災害に対するチリの防災能力の強化に向けて日本とチリが協働して取り組みました。

プロジェクト成果の普及は近年のチリにおける地震・津波の被害軽減に貢献しています。2014年のイキケ沖地震の際には、住民の避難行動の迅速化に大きく貢献したことや、2015年9月の地震の際にはSIPATから提供された情報がチリ政府の津波警報に活用されました。

また、このプロジェクトで日本と協働したチリの研究者たちは、チリで実施中の技術協力プロジェクト「中南米防災人材育成拠点化支援プロジェクト」(通称「KIZUNA」プロジェクト)に研修の講師として参加し、他の中南米諸国の防災関係者に研究成果や技術を伝えています。この技術協力プロジェクトは、チリの防災技術や知見を中南米地域内に普及させ、チリの防災専門家育成の拠点化を支援するのが目的です。

こうした津波に対する防災能力強化は日本やチリだけでなく、太平洋岸に位置する他の中南米国にとっても必要です。2015年12月には、日本とチリをはじめ142か国が共同提案した「世界津波の日(11月5日)」が国連総会で制定されています。今後も日本はチリと協力し、中南米における津波に強い地域づくりを推進していきます。

●フィリピン

台風ヨランダ復旧・復興計画
無償資金協力(2014年5月~実施中)

タクロバン空港へ供与した化学消防車の前にて(写真:JICA)

タクロバン空港へ供与した化学消防車の前にて(写真:JICA)

2013年11月、「過去に類を見ないほどの規模」と形容された台風ヨランダは、フィリピン全土に甚大な被害を与えました。最も被害の大きかった東ビサヤ地域では、高潮や最大瞬間風速87.5m/sに及ぶ暴風により、フィリピン全体の犠牲者数の9割以上に上る5,895人もの尊い命を失いました。また、病院や学校等の公共施設の多くが利用できなくなり、人々の生業である漁業や農業等も壊滅的な打撃を受けました。

日本は、災害が発生した直後から被災者の救急や医療等の緊急援助を実施するとともに、緊急対応から復興に向けて継ぎ目のない協力を実施するため、東ビサヤ地域のレイテ湾岸を対象に復興支援プロジェクトを形成し、迅速に実施してきました。

本件無償資金協力では、「Build Back Better(単に復旧するのではなく、災害に強いより良い地域社会の復興を目指す)」という目標に沿って、耐風・耐震性能を強化した設計を採用し、東ビサヤ地域医療センター、地域診療所、小学校等の施設の再建を支援しています。具体的には、高潮の危険性のない土地へ建物を移転したり、1階部分は高潮が通過する高床方式構造とする建物の設計を行ったり、被災時に人々の避難先となる広い中廊下を設置するなどの対策を行っています。

また、被災後のガレキ処理や復興事業を実施する役割を担う公共事業道路省、世界に多くの船員を輩出しているフィリピンの船員育成の一翼を担う国立航海技術訓練センター、地域の水産養殖向けの稚魚を生産する水産開発センター、東ビサヤ地域の拠点空港であるタクロバン空港、暴風により倒れた電柱や切れた電線を復旧する電力公社、台風により破損したギウアン気象レーダーを管理する気象天文庁などに対し、それらの機能回復のための機材を供与しました。

2016年9月には、機材はすべてフィリピン側に引き渡され、国立航海技術訓練センターでは被災前の全訓練プログラムが、水産開発センターでは稚魚の生産が再開されています。

施設の再建は、現場では急ピッチで作業が進められており、2017年にはフィリピン側に引き渡される予定です。

(2016年9月時点)

●ベトナム

災害に強い社会づくりプロジェクトフェーズ2
技術協力プロジェクト(2013年8月~ 2016年8月)

フエ省での総合的な洪水管理計画について議論を行う専門家とフエ省の関係者(写真:JICA)

フエ省での総合的な洪水管理計画について議論を行う専門家とフエ省の関係者(写真:JICA)

ベトナムは、東南アジア諸国の中でも風水害による被害が大きい国の一つで、特に中部地域の沿岸部は、台風を含む熱帯低気圧の影響を大きく受けるとともに、ラオスとの国境に沿って続く山脈の影響で豪雨が多発する地域となっています。こうした気候・地形条件から、ベトナムの中部地域は、毎年のように浸水などの被害に見舞われており、中部地域での災害対応力を高めていくこと、中でも洪水への対策が重要な課題となっています。

日本は2009年から2012年まで、「災害に強い社会づくりプロジェクトフェーズ1」において、ベトナム中部地域のフエ省(省は日本の県に相当)を中心として、総合的な洪水管理計画の策定、地方政府およびコミュニティレベルでの防災体制の強化、河岸浸食対策などを支援しました。その結果、フエ省では総合的な洪水管理計画が作成されたほか、各種マニュアルが整備されるなどの成果がありました。

2013年からは「災害に強い社会づくりプロジェクトフェーズ2」として、洪水被害が深刻である中部地域の省(ゲアン省、ハティン省、クアンビン省およびフェーズ1の対象であったフエ省)および中央政府を対象に、フェーズ1同様、総合的な洪水管理体制の強化を目指して支援を行ってきました。

具体的には、日本から洪水管理の専門家をベトナムに派遣し、ベトナム側の関係者へ洪水の解析技術の指導、総合的な洪水管理計画づくりの協働作業などを実施しました。その結果、クアンビン省では総合的な洪水管理計画が作成されました。また、ゲアン省、ハティン省では、計画どおりの氾濫解析技術の指導が行われ、総合的な洪水管理計画の作成に向けて省ごとでの検討が進められています。

このような支援を通じて、ベトナムでは、災害リスクを踏まえた総合的な洪水管理計画を作成することにより、災害に強い社会づくりが進んでいます。

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