(2)災害時の緊急人道支援
日本は、海外で大規模な災害が発生した場合、被災国政府、または国際機関の要請に応じ、直ちに緊急援助を行える体制を整えています。人的援助としては、国際緊急援助隊の①救助チーム(被災者の捜索・救助活動を行う)、②医療チーム(医療活動を行う)、③感染症対策チーム(感染症対策を行う)、④専門家チーム(災害の応急対策と復旧活動について専門的な助言・指導などを行う)、⑤自衛隊部隊(大規模災害など、特に必要があると認められる場合に、医療活動や援助関連の物資や人員の輸送を行う)の5つがあり、個別に、または組み合わせて派遣します。
また、物的援助としては、緊急援助物資の供与があります。日本は海外4か所の倉庫に、被災者の当面の生活に必要なテント、毛布などを備蓄しており、災害が発生したときには速やかに被災国に物資を供与できる体制にあります。2015年度においては、ネパール、ミャンマー、フィジーなど9か国に対して計10件の緊急援助物資の供与を行いました。

黄熱ワクチンキャンペーンの様子(コンゴ民主共和国における黄熱流行に対する支援)(写真:JICA)
さらに、日本は、海外における自然災害や紛争の被災者や避難民を救援することを目的として、被災国の政府や被災地で緊急援助を行う国際機関等に対し、援助活動のための緊急無償資金協力を行っています。その国際機関が実際に緊急援助活動を実施する際のパートナーとして、日本のNGOが活躍することも少なくありません。2015年度においては、災害緊急援助として、ネパールやミャンマー等アジアにおける自然災害の被災者への人道支援を主な目的として、国際機関等を通じ、緊急無償資金協力を行いました。
また、日本のNGOがODA資金を活用して、政府の援助がなかなか届かない地域で、そのニーズに対応した様々な被災者支援を実施しています。NGO、経済界、政府による協力・連携の下、緊急人道支援活動を行う組織「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」は自然災害や紛争によって発生した被災者および難民・国内避難民支援のために出動し、JPF加盟のNGO団体が支援活動を実施しています。
2015年度には、アフガニスタンおよびパキスタンでの地震被災者支援、ミャンマー水害被災者支援等を実施しました。また、2015年4月のネパール地震の際には、被災者支援プログラムを立ち上げ、加盟NGO団体は被害が甚大であった山間部を中心に現地のニーズに合った支援活動を行いました。さらに、アジア5か国の緊急人道支援NGOや民間団体等と広い連携関係を持つ日本発の防災協力のネットワークであるアジアパシフィックアライアンスも、日本政府からの拠出金を活用し、捜索活動、医療支援や食糧物資配布事業を行いました。
2016年7月、コンゴ民主共和国における黄熱流行に対応するため、日本は、350万ドル(約3億7,100万円)の緊急無償資金協力の実施に加え、国際緊急援助隊・感染症対策チームを初めて派遣し、現地においてコンゴ民主共和国政府や世界保健機関(WHO)等国際機関等との協力の下、同国保健省幹部への助言、検査診断のための技術支援、ワクチン接種キャンペーンの準備支援等を実施しました。

ミャンマーにおける洪水被害に対する緊急援助供与物資(毛布)の引渡し式の様子(写真:JICA)
2015年7月、ミャンマーでは大雨に伴い、甚大な被害が発生しました。日本は、同国の復旧・復興に貢献するため、学校の再建、浄水車や井戸掘機材の供与など、合計50億円程度の無償資金協力を実施しました。また、2016年5月、ベトナムにおける干ばつ塩水遡上被害に対して、約3億円の緊急無償資金協力の実施を決定しました。
●国際機関等との連携

2015年3月、仙台で開催された国連防災世界会議の様子(写真:UNISDR)
日本は、2006年に設立された「世界銀行防災グローバル・ファシリティ」〈注94〉への協力を行っています。このファシリティ(基金)は、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な低・中所得国を対象に、災害予防の計画策定のための能力向上および災害復興の支援を目的としています。
防災の重要性への認識の高まりを背景に、2006年の国連総会においては、各国と世界銀行など防災にかかわる国連機関が一堂に会しました。この総会で、防災への取組を議論する場として、「防災グローバル・プラットフォーム」の設置が決定され、2007年6月に第1回会合が開催されました。日本は、この組織の事務局である国連国際防災戦略(UNISDR)〈注95〉事務局の活動を積極的に支援しています。2007年10月には、UNISDRの兵庫事務所が設置されました。
日本は防災に関する自身の豊富な知見・経験を活かし、積極的に国際防災協力を推進している立場から、国連防災世界会議を第1回(1994年横浜市)、第2回(2005年神戸市)に続き、第3回の会議もホスト国となり、2015年3月に仙台市で開催しました。第3回会議では、仙台防災枠組2015-2030および仙台宣言が採択され、防災の新しい国際的指針の中に、防災投資の重要性、多様なステークホルダーの関与、「より良い復興(Build Back Better)」など日本から提案した考え方が取り入れられました。また、ASEAN(アセアン)防災人道支援調整センター(AHA(アハ)センター)〈注96〉に対して、情報通信システムの支援や人材の派遣等を行うとともに、緊急備蓄物資の提供と物資の管理・輸送体制の構築支援を行っています。
- 注94 : 世界銀行防災グローバル・ファシリティ Global Facility for Disaster Reduction and Recovery
- 注95 : 国連国際防災戦略 UNISDR:United Nations International Strategy for Disaster Reduction
- 注96 : ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター) AHA Centre:ASEAN Coordinating Centre for Humanitarian Assistance on Disaster Management
●コンゴ(民)
コンゴ民主共和国における黄熱の流行に対する国際緊急援助隊・感染症対策チームの派遣について
国際緊急援助隊の派遣・緊急無償資金協力(2016年7月~ 2016年8月)

黄熱検査のための技術支援 (写真:JICA)
2015年12月、アフリカ南西部に位置するアンゴラ共和国において黄熱が流行したことを受け、同国と国境を接するコンゴ民主共和国(以下、コンゴ(民))でも、2016年3月以降、首都のあるキンシャサ特別州を含む5州において黄熱の疑いのある患者が確認されました。
7月19日、コンゴ(民)政府からの支援要請を受け、日本は、外務省およびJICAの職員、感染症専門家などで構成される国際緊急援助隊・感染症対策チームを派遣しました。感染症対策チームは、国際緊急援助隊の新たな一形態として2015年10月に創設されたもので、今回が初めての派遣となりました。
感染症対策チームは、コンゴ(民)政府、世界保健機関(WHO)等と協力しつつ、キンシャサにおいて保健省幹部へのアドバイスを行ったほか、黄熱検査のための技術支援、ワクチン接種キャンペーンの事前準備支援や改善提言などを実施しました。とりわけ、人的資源や資機材不足等の理由で稼働が止まっていた、コンゴ(民)唯一の検査診断機関である国立生物医学研究所(INRB)の検査施設が同チームの支援により稼働を再開し、未検査のまま残っていた検体の検査が7月中に完了したことは、顕著な成果といえます。
また、感染症対策チームによる人的貢献に加え、日本は、ワクチン接種キャンペーンや予防啓発活動、国境管理等の支援のために、WHOや国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、国際移住機関(IOM)を通じて、350万ドル(約3億7,100万円)の緊急無償資金協力を実施しました。
国際的な保健システムの強化は、日本が開発途上国支援の中で重点を置く分野です。2016年8月27日、28日にケニアで開催されたTICAD(ティカッド) Ⅵにおいても、アフリカにおける感染症など公衆衛生上の危機への対応について日本とアフリカ諸国の間で活発な議論が行われました。
上記の日本の支援もあり、コンゴ(民)における黄熱は終息に向かいましたが、今後、流行発生の要因分析や、次の流行を抑え込む対策なども必要と考えられます。