(3)民主化支援
開発途上国における民主主義の基盤強化は、統治と開発への国民の参加および人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとって極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対しては、開発協力大綱の原則の観点からも、これを積極的に支援し、選挙制度支援など民主化への動きを後押しすることが重要です。
< 日本の取組 >
2013年12月に開催された日・カンボジア首脳会談において、フン・セン首相から安倍総理大臣に対して、選挙改革への支援が要請されました。これを受け、日本は2014年5月から、支援ニーズの把握および具体的協力内容の検討を目的とした調査団の派遣や、カンボジア与野党関係者の本邦招聘(しょうへい)(衆院選を視察する機会を提供)などの取組を実施しました。そして、2015年5月4日に開催された日・カンボジア首脳会談においては、安倍総理大臣から、①技術的助言、②専門家派遣、③機材供与を通じて、引き続きカンボジアの選挙改革を支援する旨が表明され、フン・セン首相からも高い期待が示されました。これを受け、日本は2015年9月から専門家を派遣するなど、選挙改革のための具体的な協力を進めています。
2015年11月のミャンマーの連邦議会総選挙の平和・平穏な実施に向けて、選挙の実施に必要とされる物品を供与するために、1億1,100万円の無償資金協力「2015年ミャンマー総選挙支援計画(UNDP連携)」を実施しました。選挙の実施に当たっては、笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表を団長とする選挙監視団を派遣しました。東ティモールに対しては、「社会的包摂、多層的ガバナンス及び法の支配強化のための選挙支援計画(UNDP連携)」を2016年8月にUNDPとの間で署名し、2017年に予定されている大統領選挙および国民議会選挙をはじめとした、今後の国内の選挙の民主的かつ平和な実施に向けて、選挙管理機関、ジャーナリズム、司法および警察への研修・技術支援や機材の供与等を行っています。
このような支援を通じて、選挙が公正かつ透明性を持って円滑に実施され、その国の平和や民主主義の定着に寄与するとともに、国際社会の平和と安定につながることが期待されます。
●メディア支援
世界では、紛争の影響下にある国で、メディアが政治に利用されるケースも多くあります。政治家に利用されない、公正・中立・正確なメディアの育成が紛争予防の大きな課題ともなっています。
●ウクライナ
ウクライナの民主化に向けた知見の共有
技術協力プロジェクト(2015年3月~ 2015年9月)
2013年11月以降のウクライナ情勢の悪化を受けて、日本は、ウクライナ情勢の安定化と国内改革の後押しのために、①経済状況の改善、②民主主義の回復、③国内の対話と統合の促進、の三つの新たな基本方針を掲げ、G7の一員として、ウクライナをめぐる諸課題の解決に向けて積極的役割を果たしてきました。その中で、2014年7月にウクライナを訪問した岸田外務大臣が、司法制度改革や腐敗防止のための技術協力の拡充を表明したことを受け、「民主主義の回復」に役立つ日本の新たな対応として、JICAによるウクライナ国別研修「ウクライナの民主化に向けた知見の共有」コースを実施しました。
「ウクライナの民主化に向けた知見の共有」コースでは、「メディア支援コース」、「立法府支援コース1~3」、「行財政改革支援コース」といった研修が日本で実施されました。JICA研修員として、メディア関係者、最高会議(ウクライナ議会)議員団、最高会議汚職対策委員会関係者、中央選挙管理委員会関係者がウクライナから来日し、日本の知見をウクライナの関係者に共有することを研修目標として、日本の国会運営、選挙制度、地方自治の実態およびメディア報道に関する講義・視察や関係者との意見交換を通じて知識を深めました。
また、上述の日本での研修に加え、円借款の事業に従事するウクライナ人関係者を対象とした「汚職対策研修」をキエフで開催し、汚職対策に関する日本の知見を共有するとともに、EU、ポーランドおよびドイツから汚職対策の分野における専門家を講師として招聘(しょうへい)し、各ドナー(援助国)の取組の発表やドナー協調の機会を提供しました。
このような研修を通じて研修参加者が得た知識が、今後、ウクライナの民主化や情勢安定等に役立つことが期待されます。
●コソボ
国営放送局能力向上プロジェクト
技術協力プロジェクト(2015年10月~実施中)

RTK1、RTK2の共同番組撮影風景(写真:JICA)
1990年代のコソボ紛争を経て、2008年にセルビアから独立したコソボは、西バルカン地域の中で最も開発が遅れており、経済・社会基盤が不安定な国とされています。
日本は、2000年5月~ 2002年8月に行われたUNDPの「コソボ独立メディアプロジェクト」を通じ、公正なメディアの能力強化に向けた協力を実施しました。
2015年からは、「ラジオ・テレビジョン・コソボ(以下RTK)」を協力対象とするJICAの「コソボ国営放送能力向上プロジェクト」を開始しました。コソボは、国民の9割を占めるアルバニア系住民のほか、セルビア系やトルコ系などが混在する多民族国家で、独立の際多くの犠牲者が出たこともあり、紛争終結後も民族間の対立意識は未だ解消されたとはいえない状況にあります。本プロジェクトでは、民族融和に向けた基盤づくりに向けて、少数民族のためのチャンネルを有するコソボ唯一の放送局であるRTKが、すべての民族に対して偏りない正確・中立・公正な情報を提供し、「放送を通じた民族融和」のモデルとなるための協力を行っています。主に、「テレビ放送機材の運用と維持管理」、「番組制作と報道」の2分野の能力強化を行っており、2016年4月には、JICAの委託を受けてプロジェクトを実施している一般財団法人NHKインターナショナルが、東京でRTK職員に対する研修を行いました。研修に参加した職員は、講義や視察を通して、取材や番組制作の技術を学び知見を深めました。
日本の支援により、コソボにおける公共放送の能力が強化され、また、情報の公正な伝達が図られることが期待されています。