(5)女性の能力強化・参画の促進
開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい状況にあります。ミレニアム開発目標(MDGs)が策定された2000年代初めと比べると、女子の就学率は格段に向上し、女性の政治参加は増加し、より多くの女性が幹部公務員級、大臣級のポストに就いています。〈注61〉しかし、政府による高度な意思決定など公の場に限らず、家庭など私的な場面でも、自分たちの生活に影響を及ぼす意思決定に参加する機会を、女性が男性と同じように持っているとはいえない状況が続いている国や地域もまだまだ多くあります。
一方で、女性は開発の重要な担い手でもあり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。たとえば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上させることは、公衆衛生やHIV/エイズ等の感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させ、適切な家族計画の策定につながり、女性の社会進出、女性の経済的エンパワーメントの促進にもつながります。
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」における開発目標(SDGs)の目標5に「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー(社会的・文化的に形成された性別)平等と女性の活躍推進、そして開発における女性活躍の主流化(ジェンダー主流化)の推進が不可欠であり、そのためには男女が等しく開発に参加し、等しくその恩恵を受けることが重要なのです。
< 日本の取組 >

エチオピアの首都近郊にて、就業技能を身に付けるために革製品の製造訓練を受講する女性たち(写真:大川絢子/在エチオピア日本大使館)
2016年12月、東京において開催された国際女性会議WAW !(World Assembly for Women:WAW! 2016)公開フォーラムの冒頭、スピーチを行う安倍総理大臣
日本は、女性が持つ力を最大限発揮できるようにすることは、社会全体に活力をもたらし、成長を支える上で不可欠との考えの下、「女性が輝く社会」の実現に向け、国際社会との協力を進めています。開発協力大綱(2015年2月閣議決定)は、人間の安全保障の考え方に基づき、「質の高い成長」とそれを通じた貧困削減等に重点的に取り組むこととしています。また、同大綱には、開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進し、女性が公正に開発の恩恵を受けられるよう一層積極的に取り組むことが明記されています。
2013年9月、第68回国連総会における一般討論演説において、安倍総理大臣は、「女性が輝く社会」の実現に向けた支援の強化を打ち出しました。具体的には、「女性の社会進出推進と能力強化」、「国際保健外交戦略の推進の一環としての女性の保健医療分野の取組強化」、「平和と安全保障分野における女性の参画・保護」を三つの柱として、2013 ~ 2015年の3年間で30億ドルを超えるODAを実施することを表明し、着実に実施しました。
2014年9月、安倍政権の最重要課題の一つである「女性が輝く社会」を実現するための取組の一環として、「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」“World Assembly for Women 2014”(WAW! 2014)を初めて開催しました。2015年8月には2回目となるWAW! 2015を開催し、女性分野で活躍する国内外のリーダー145人が参加しました。WAW! 2015では、2014年に引き続き、参加者からのアイデアや提案をとりまとめたWAW! To Do 2015(国連文書:A/C.3/70/3)を発出しました。
2016年12月には3 回目となるWAW! 2016を開催し、「働き方」改革、STEM(科学、技術、工学、数学(Science, Technology, Engineering and Mathematics))分野における女性活躍、女性の健康等、幅広い議論を行い、着実に行動に移していくことを確認しました。また、安倍総理大臣は、WAW! 2016でのスピーチにおいて開発途上国における女性のために、権利の尊重、能力発揮のための基盤の整備、リーダーシップの向上を重点分野として、2018年までに総額約30億ドル以上の取組を着実に進めることを表明しました。
日本は、2011年に国連システムの中の4つの部門を統合し設立された、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(自らの力で問題を解決することのできる技術や能力を身に付けること)のための国連機関(UN Women)〈注62〉を通じた支援も実施しており、2016年には約3,000万ドルの拠出を行い、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する暴力撤廃、平和・安全分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化等の取組に貢献しています。
2016年9月、安倍総理大臣はUN Womenが進めるHeForSheキャンペーン〈注63〉関連会合に出席し、G7伊勢志摩サミットでの女性分野における成果や国際女性会議WAW!の意義を強調するとともに、女性の活躍促進のさらなる加速に向け決意を示し、各参加者に「女性が輝く社会」実現に向けた取組を呼びかけました。
紛争下の性的暴力は、日本としても看過できない問題であるという立場から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG:Special Representative of the Secretary General)事務所との連携を重視しており、2015年度は同事務所に対し、270万ドルの拠出を行いました。
2015年3月にミシェル・オバマ米大統領夫人(当時)が訪日した際には、安倍昭恵総理夫人との間で女児・女性のエンパワーメントとジェンダーに配慮した教育関連分野において、2015年からの3年間で420億円以上のODAを実施することが表明されました。
2015年9月、安倍総理大臣は、国連総会一般討論演説において、安保理決議第1325号に基づく女性の参画と保護に関する「行動計画」を定めたことを発表し、2014年に続き2015年もWAW! 2015を開催したことに触れ、女性のエンパワーメント、活躍促進の分野で日本が世界をリードしていく決意を示しました。
2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットでも、女性の活躍推進が大きく取り上げられました。女性の潜在力の開花と自然科学分野における女性の活躍促進が重要との認識の下、G7首脳は「女性の能力開花のためのG7行動指針」および「女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ」(Women's Initiative in Developing STEM Career(WINDS))に合意しました。また、日本はこの機会に、SDGsと開発協力大綱の重点分野を踏まえ、国際協力分野における女性活躍推進のための新たな戦略である「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表するとともに、今後3年間(2016年~ 2018年度)で約5,000人の女性行政官等の人材育成、約5万人の女子の学習環境の改善を実施する旨を表明しました。
「女性の活躍推進のための開発戦略」は、女性の力は成長の源泉であるという認識の下、女性の権利の尊重、能力の発揮のための基盤の整理、リーダーシップの向上を重点分野としています。具体的には、女性にやさしいインフラ整備や女子教育(科学、テクノロジー、工学、数学(STEM)を含む)支援、防災分野をはじめとする女性の指導的役割への参画推進等を通じ、女性が自らの人生に関する選択肢を広げ、主体的に自らの可能性を自由に追求できるような環境整備や制度構築を支援することを目指しています。
- 注61 : (出典)The Millennium Development Goals Report 2015
- 注62 : ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関 UN Women:United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women
- 注63 : UN Womenによる、ジェンダー平等のために男性・男児の関与を呼びかけるキャンペーン。
●タジキスタン
ペンジケント市女性センター建設計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2015年2月~ 2016年8月)

裁縫教室で大勢の女性が職業訓練を受けている様子(写真:森川裕子)
人口約22万人を擁するペンジケント市および周辺地区は、首都ドゥシャンベ市から260キロメートル、車で約4時間のタジキスタン北西部に位置し、同地域の行政・文化の中心的役割を担っていますが、標高2,000 ~5,000メートルの山々を抱えるファン山脈の端に位置するため、他都市からのアクセスは容易ではありません。
このように孤立しがちな地域において、NGO「ザノニ・シャルク〈注1〉」は、ペンジケント市を拠点に、地域に根ざした女性支援活動を21年間にわたり行っています。ザノニ・シャルクの活動内容は幅広く、経済的に困窮した女性へのマイクロ・クレジット〈注2〉貸付のほか、法的知識を持たない女性への司法相談、女性の権利に関する法律講座、HIV/エイズに関する啓蒙(けいもう)セミナー、女子生徒を対象とした進学推進セミナー、コンピュータ・裁縫・料理・ロシア語・英語のレッスン開催等を行っています。また、ロシアやカザフスタンなどで労働移民として働く予定の人々に対し、人身売買被害を防ぐための教育セミナーや、渡航後の連絡手段を確保するためのインターネット講座も主催しています。
多様な女性支援活動を行うザノニ・シャルクですが、これまでは市中心部のテナントビルの一角を借りて活動を行っていたため、活動スペースはたいへん手狭でした。また、家庭内暴力等の被害にあった女性を保護する部屋もなく、当時は職員が自宅で被害女性を保護していました。このような状況の中、自由に活動を行える場所を確保することは、同団体の長年の願いでした。
今般、在タジキスタン日本大使館の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により、ペンジケント市から同団体に無償貸与された土地に、ザノニ・シャルクの新活動拠点となる女性センターが建設されました。3階建ての十分な広さを誇る施設内には、職業訓練やセミナーを行う専用室が確保され、女性シェルター室も設置されました。これにより、月平均500名を超す同センター利用者が、安全で快適な環境で必要なサポートを受けることができるようになりました。
- 注1 : 「ザノニ・シャルク」は、タジク語で「東方の女性」の意味。
- 注2 : マイクロ・クレジットとは、貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向けの金融サービス。
●ケニア
ジェンダー視点に立った農業普及推進プロジェクト
技術協力プロジェクト(2014年9月~実施中)

ジェンダー視点に立った農業普及についてのワークショップの様子(写真:JICA)
ケニアでは、農業に従事する人の割合が労働人口の約6割を占めています。さらに農業生産労働者の7割を女性が占めており、女性は農業において重要な役割を担っています。しかしながら、女性は、土地、農業資材、農業技術、マーケット等へのアクセスが限られているために、農業に従事する女性の生産性は、男性と比較した場合、2割~3割も低いと見積もられています。
このような状況を踏まえ、ケニア政府は、農業においても男女の社会的な役割や課題、ニーズを踏まえた上で機会の均等を目指す、「ジェンダー主流化」の必要性を認識し、ジェンダーの視点を農業政策と農業開発計画に取り入れています。
日本は、「小規模園芸農民組織強化計画プロジェクト」(2006年~ 2009年)において、市場志向型農家経営の推進に取り組み、その中で事業におけるジェンダー主流化を推進し、農家経営における男女共同参画の促進、農家の所得や生計の向上に寄与した実績があります。
今回の協力では、こうした過去の成果を活用し、ジェンダー主流化をケニア政府に一層定着させるために、小規模農家向けの農業普及におけるジェンダー主流化に必要な様々な活動を、プロジェクトの準備から終了までの段階ごとに、マニュアル、ガイドラインなどとしてまとめた「ジェンダー主流化パッケージ」を作成しています。このパッケージをケニアの農業普及を実施する人たちが活用することにより、女性の農業経営への参画が促進され、小規模農家の生計が男女共に向上することが期待されます。
(2016年8月時点)