(2)安全な水・衛生
水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2015年に世界で約6億6,300万人、トイレや下水道などの改善された衛生施設を利用できない人口は開発途上国人口の約半分に当たる約24億人に上ります。〈注53〉安全な水と衛生施設が不足しているために引き起こされる下痢は、5歳未満の子どもの死亡原因の9%を占めています。〈注54〉さらに、安全な水にアクセスできないことは経済の足かせにもなっています。たとえば、水道が普及していない途上国では、多くの場合、女性や子どもが水汲みの役割を担っています。時には何時間もかけて水を汲みに行くので、子どもの教育や女性の社会進出の機会が奪われてしまっています。また、水の供給が不安定だと、医療や農業にも悪影響を与えます。
こうした観点で、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」においても、目標6に「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが設定されています。
< 日本の取組 >

大洋州・ソロモンのマライタ州北部のコロフェ村にて、日本の支援により初めて整備された水供給設備から水を飲む子どもたち(写真:山口浩司/在ソロモン日本大使館)
日本は、水と衛生分野での援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、①総合的な水資源管理の推進、②安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保(衛生施設の整備)、③食料増産などのために水を利用できるようにする支援(農業用水など)、④水質汚濁を防止(排水規制)・生態系の保全(緑化や森林保全)、⑤水に関連する災害の被害を軽減(予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化)など、ソフト・ハード両面で全体的な支援を実施しています。
日本の開発協力では、専門家の派遣や開発途上国からの研修員受入れなどの技術協力や円借款や無償資金協力により、開発途上国での安全な水の普及に向けて支援を続けているほか、国際機関を通じた支援も行っています。
たとえば、アジア・大洋州地域においては、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、パラオといった国々で上水道の整備・拡張のための事業を実施中であり、ラオスについては、2016年3月に新たに円借款「首都ビエンチャン上水道拡張計画」の署名が行われました。人口増加や経済発展が進むインドにおいても、2016年3月、新たに円借款「オディシャ州総合衛生改善計画(第二期)」の署名が行われました。
また、アフリカでは、エチオピア、セネガル、ルワンダなどにおいて、安全な水へのアクセス改善、給水率の向上に向けた事業を実施中であり、スーダンについては、2016年10月に新たに無償資金協力「コスティ市浄水場施設改善計画」の署名が行われました。

ラオス・ビエンチャン市内における安全で安定的な、都市給水の技術向上のため日本の専門家が活躍している。1996年に日本の無償資金協力により建設されたチナイモ浄水場にて、浄水場の水を使用したミネラルウォーターボトルを持つ場長と木下雄介JICA専門家(左)。(写真:久野真一/ JICA)
ほかにも、日本NGO連携無償資金協力によって、日本のNGOによる水・衛生環境改善事業を支援しています。たとえば、特定非営利活動法人ホープ・インターナショナル開発機構は、エチオピアのツァイテ郡の5つの村において、2015年度から1年間、住民が安全な水へのアクセスを長期的に確保できるようにするため、水供給システムや学校・診療所における公共トイレを設置し、運営管理体制の構築、保健衛生教育の人材育成を行いました。
こうした取組と並行して、草の根・人間の安全保障無償資金協力などによる協力、国内および現地の民間団体と連携した途上国の水環境改善の取組も、世界各地で行われています。
環境省でも取組を行っています。たとえば、アジアの多くの国々において深刻な水質汚濁の問題が生じており、関連する情報・知識不足を解消するため、同省はアジア水環境パートナーシップ(WEPA)〈注55〉を開始しました。アジアの13の参加国〈注56〉の協力の下、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、能力構築等を通じて、アジア水環境ガバナンスを強化することを目指しています。
- 注53 : (出典)WHO/UNICEF“ Progress on Sanitation and Drinking-Water: 2015 Update and MDG Assessment”
- 注54 : (出典)UNICEF“ Committing to Child Survival: A Promise Renewed” (Progress Report 2015)
- 注55 : アジア水環境パートナーシップ WEPA:Water Environment Partnership in Asia
- 注56 : カンボジア、タイ、ラオス、マレーシア、中国、インドネシア、韓国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、ネパール
●コンゴ(民)
モンガフラ区ンジリキランブ地区浄水装置設置計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2015年2月~ 2016年7月)

設置された浄水装置の前に集まるプロジェクト参加者たち(写真:在コンゴ民主共和国日本大使館)
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ(民))は、長期にわたる国外および国内紛争により社会・経済が疲弊し、社会サービスへのアクセス改善、経済開発への取組が差し迫った課題となっています。
本計画実施前当時のコンゴ(民)の給水率は約46%にとどまっており、首都キンシャサにおいても、水道公社による供給範囲は市内中心部に限られていました。上水設備未整備の地域では、住民は川の水を飲用するか、数キロ離れた場所まで湧水を汲みに行くことを余儀なくされるなど、不衛生な水の利用に起因するコレラ等の感染症が問題となっていました。
このような地域の深刻な水問題を緩和するため、NGO「Coup de Pouce(助け合いの会)」は、ヤマハ発動機株式会社の協力を得て、草の根・人間の安全保障無償資金協力による浄水装置整備計画の実施支援を日本に要請しました。
一般的な急速ろ過装置を利用する場合、フィルターの交換や専門的なメンテナンス知識が必要となり、村人による自主管理は難しいと考えられます。一方で、本計画で設置されたヤマハ発動機の浄水装置は、特別な薬品やフィルター交換の必要がないため、被供与団体および地域住民による持続的な運営・維持管理が可能となります。
2016年7月には、浄水装置の設置工事を経て、引渡し式が実施されました。新しい浄水装置により、1日当たり約8,000リットルの飲料水を供給することが可能となり、対象地域の住民約1万3,000人が安全な飲料水にアクセスできるようになりました。