2016年版開発協力白書 日本の国際協力

第3節 人材育成

適切な質の教育や職業訓練による人材育成は、経済成長とそれに伴う貧困問題の解決に不可欠です。貧困国のみならず、たとえばタイのように一定の経済成長を遂げた国でも、「中所得国の罠」〈注1〉に陥らないよう、生産性向上や技術革新を促す人材の育成支援が必要です。人材育成は、分野横断的な課題でもあり、それに対応するため日本は実に様々な取組をODAにより実施しています。

たとえば、安倍総理大臣は、2015年の日ASEAN(アセアン)首脳会議において、アジアの持続的な成長には各国の基幹産業の確立や高度化を担う産業人材が不可欠との考えの下、「産業人材育成協力イニシアティブ」を発表しました。これは、アジア地域で、主に技術協力を通じて2015年以降の3年間で4万人の産業人材育成を支援するものです。

具体的には、各国の経済発展段階に応じた人材育成ニーズに合わせて、理数科などの基礎教育や工学系高等教育の拡充に加えて、技術者、エンジニア、研究開発者、経営人材、産業政策の策定を担う行政官などの幅広い分野で人材育成を支援していきます。

ミャンマーから日本の修士課程に派遣される行政官たちの壮行会の様子(写真:山崎淳一/日本国際協力センター)

ミャンマーから日本の修士課程に派遣される行政官たちの壮行会の様子(写真:山崎淳一/日本国際協力センター)

また、各開発途上国や地域の実情に合わせて、様々な日本での研修プログラムも提供しています。そのうちの一つに、日本の大学院に留学する機会を提供するものがあります。たとえば「人材育成奨学計画(JDS)〈注2〉」では、毎年、約10か国から計200人以上の若手行政官が来日し、日本の大学院で祖国の社会経済発展のために知識を深めています。

最近では、行政官や教員、研究者だけではなく、有望なビジネスマンも対象とする本邦研修事業も始まりました。たとえば「ABEイニシアティブ〈注3〉」では、アフリカの人材に修士課程の留学と日本企業でのインターンシップの体験を提供しています。さらに2016年8月にケニアで開催されたTICAD(ティカッド) Ⅵにおいては、その後継となる「ABEイニシアティブ2.0」をはじめ、研究・実学・ビジネス実践を通じて、経済活動の核となる産業人材をアフリカにおいて約3万人育成することを安倍総理大臣から表明しました。

このような日本での研修の機会の提供は、帰国後に彼らが日本の良き理解者として活躍することにもつながっています。たとえば、日本企業がアフリカで経済活動を進める際に、卒業生と協力し合える可能性に期待が寄せられています。過去にも実際に、かつてJICAが実施した、ベトナムのハノイ工科大学のIT分野教育能力強化プロジェクトで訪日した研修生が、帰国後に日本の留学先の大学にちなんだ名前の会社を起業し、日本とベトナムのIT業界の橋渡し人材となった例があります。

さらに2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」に基づき、外務省・JICAは、「イノベーティブ・アジア〈注4〉」という新しい事業を始めます。この事業は、アジアの開発途上国等の優秀な人材が日本国内の企業等で就労し、日本のイノベーションに貢献することに加え、いずれは自国のイノベーションおよび産業発展にも貢献することができるよう、高度人材の育成および環流を促進させるためにODA等を活用するものであり、第一弾としてASEAN諸国やインド、スリランカなど、アジアの14か国の大学とパートナーシップを結び、日本の大学院や研究機関で学んだり、企業等でインターンシップを体験したりする機会を提供します。この事業により、2017年度からの5年間で合計1,000人の科学技術研究に従事する優秀な学生を日本に招くことを目標にしています。

また、こうした外国人の学生が日本国内で一定期間就職することを希望する場合には、日本の在留資格を取得する際に優遇措置(「高度人材ポイント制」の特別加算等)を受けられるようにします。

イノベーションは社会の多様性から生まれます。本事業を通じて、日本を含むアジアの中で知と人材の還流が一層活発になり、持続的な経済の発展の基礎となるイノベーションが引き起こされ、人々の生活がより豊かになることを目指します。


  1. 注1 : 一定レベルの所得水準を獲得した国の所得・開発の進捗が、人件費の上昇や後発国の追い上げ等により競争力を失うことで、停滞してしまう状態を指す概念。
  2. 注2 : 人材育成奨学計画 JDS:Project for Human Resource Development Scholarship
  3. 注3 : ABEイニシアティブ ABE Initiative: African Business Education Initiative for Youth
  4. 注4 : イノベーティブ・アジア Innovative Asia
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