第4節 日本がリードしたアジェンダ
●質の高いインフラ投資

ケニアのリフトバレー地方において、オルカリアⅠ地熱発電所の4・5号機(70MW×2)の建設により電力供給の安定性の改善を図る(写真:JICA)
2016年5月、日本が議長国を務めたG7伊勢志摩サミットにおいて、質の高いインフラ投資の基本的要素を盛り込んだ、『質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則』にG7として合意しました。インフラ(経済社会基盤)投資の世界的な需給ギャップは、世界中で経済成長や世界が直面している開発課題の深刻なボトルネックになっています。特に、アジアのインフラ需要は膨大であるといわれていますが、ここで大事なのは、インフラづくり自体が目的であってはならないということです。重要なのは、インフラの整備を通じて、アジアが世界の成長センターとして世界経済を牽引(けんいん)し続けること、そして、その成長の配当が、社会的な弱者を含め、地域や社会の隅々まで行き渡ることです。そのような目的を実現するために、「質の高いインフラ投資」が必要であるとの問題意識が世界中で広まっています。「質の高いインフラ投資」については、「2030アジェンダ」や最近のG7、G20、ASEAN(アセアン)〈注1〉関連首脳会議、APEC〈注2〉などの首脳文書にも明記されました。

2015年4月に開通した、カンボジアのネアックルン橋(つばさ橋)。主橋梁640m、橋長2,215m、取り付け道路を合わせると、5400mに及ぶ。メコン川を渡河するフェリーは、通過に1時間要していたが、橋の開通で5分程に短縮された。(写真:久野真一/ JICA)
インフラ投資においては、インフラ自体が使いやすく、安全で、災害にも強い、「質」の高いものであるだけでなく、インフラの計画が相手国のニーズを踏まえたものであることが重要です。地元の環境やコミュニティ、人々の生活と調和するものであること、工事やメンテナンスに至る長い目で費用対効果が高いこと、そして、現地に雇用が生み出され、技術が伝わることも大事です。計画の段階から、長期的な視野からの調整や対話が丁寧に行われること、様々な国際的なスタンダードやルールに従っていくことも重要です。そして、民間の資金やノウハウを活用することも必要です。これが「質の高いインフラ投資」の全体像です。
また、伊勢志摩サミットに先駆け、日本は「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を通じて、世界全体に対し、今後5年間で総額約2,000億ドル規模の質の高いインフラ投資を実施していくことを発表しました。その後もG7伊勢志摩原則に盛り込まれた質の高いインフラ投資の基本的要素については、TICAD Ⅵに際して採択されたナイロビ宣言、G20杭州サミット首脳コミュニケ、東アジア首脳会議の成果文書等においても言及されており、今や国際的に認知されています。日本政府は今後も、世界の成長や、貧困や格差などの開発課題の解決にとって「質の高いインフラ投資」を進める必要がある点およびその具体的な中身を様々な場面で発信し、アジアを含む世界の国々や国際機関と連携し「質の高いインフラ投資」を推進していきます。
●女性
日本は、女性が持つ力を最大限発揮できるようにすることが、社会全体に活力をもたらし、成長を支える上で不可欠との考えの下、「女性が輝く社会」の実現に向け、国際社会との協力を進めています。その一環として、2014年から国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)を開催し、海外から多数のリーダーを招き、女性の社会進出を阻む働き方や男女の役割分担意識の変革を訴えることに加え、若者や、困難を抱える女性の声に耳を傾け、防災、起業、教育、平和構築など、女性を取り巻く様々な課題について包括的に議論してきました。
2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、日本は議長国として、2015年のエルマウ・サミット(ドイツ)の成果も踏まえ、教育を含む女性のエンパワーメントや、自然科学・技術分野における女性の活躍推進などのテーマを優先課題の一つとして取り上げ、あらゆる分野における女性の活躍推進に向けた国際的機運を高めました。また、SDGsに明記されている「ジェンダー主流化(gender mainstreaming)」を実践するために、安倍総理大臣のリーダーシップの下、史上初めて、G7の首脳会合およびすべての閣僚会議において、女性に関する議題を取り上げました。その成果として、G7首脳は、女性の潜在力を花開かせるためのエンパワーメント、科学、技術、工学、数学(STEM)〈注3〉分野における女性の活躍推進および平和・安全保障分野への女性の参画促進が重要であることの認識を共有し、「女性の能力開花のためのG7行動指針:持続可能、包摂的、並びに、公平な成長及び平和のために」に合意しました。また、理工系分野における女性の活躍推進の気運を高め、環境整備を後押しするため、「女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ(WINDS)〈注4〉」を立ち上げました。
また、日本はこの機会に、開発協力大綱に基づく新たな分野別開発政策の一つとして「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表するとともに、2016年から2018年までの3年間で、約5,000人の女性行政官等の人材育成と約5万人の女子の学習環境の改善を実施する旨を表明し、着実に実施しています。
「女性の活躍推進のための開発戦略」は、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、①権利の尊重、②能力発揮のための基盤の整備、③政治、経済、公共分野におけるリーダーシップ向上を重点分野としています。具体的には、女性に配慮したインフラ整備や、STEM分野を含む女子教育支援、防災分野をはじめとする女性の指導的役割への参画推進等を通じ、女性が自らの人生に関する選択肢を広げ、主体的に自らの可能性を自由に追求できるような環境整備や制度構築を支援することを目指しています。

2016年12月、東京で開催されたWAW!(World Assembly for Women)2016でスピーチを行う岸田外務大臣
●保健

ザンビアのチレンジェヘルスセンターの母子保健センターにおける乳幼児健診の様子(写真:渋谷敦志/ JICA)
日本は、人間一人ひとりに着目し、個人の保護・能力強化を通じ、人々が尊厳を持って生きる社会を実現する「人間の安全保障」の理念の下、国際保健分野での貢献を重視し、推進しています。特に、2015年9月の持続可能な開発のための「2030アジェンダ」採択および開発協力大綱の保健分野の課題別政策である「平和と健康のための基本方針」の策定以降、公衆衛生危機対応とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)〈注5〉促進を念頭に、国際会議の主催等を通じて、指導力を発揮し、成果を挙げてきました。
2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは議長国として議論を主導し、「G7伊勢志摩首脳宣言」において、保健を大きく取り上げ、感染症等の公衆衛生危機への対応能力強化、危機管理対応にも役立つUHCの推進、AMR〈注6〉への対応強化の3分野が重要との点で合意し、これら分野での取組の方針をまとめた「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」を発表しました。また、安倍総理大臣は、日本の具体的な貢献として、公衆衛生危機対応、感染症対策やUHCの実現に向けた保健システム強化等のため、国際保健機関等に対する約11億ドルの支援方針を新たに表明しました。

ブータンの旧都、プナカの県立病院地域保健課で助産師として活動する青年海外協力隊の計良知美さん。妊産婦からの相談業務や妊婦健診、乳幼児健診、予防接種、家族計画などの母子保健サービスを実施している。(写真:ブータン放送 BBS:Bhutan Broadcasting Service)
さらに、2016年8月のTICAD Ⅵにおいては、保健を優先課題の一つとして掲げ、ナイロビ宣言での「質の高い生活のための強靱(きょうじん)な保健システム促進」として、公衆衛生危機への対応強化、危機への予防・備えにも役立つUHCの推進に向けた取組について合意しました。また、安倍総理大臣は、G7伊勢志摩サミットでの国際保健機関に対する約11億ドルの拠出表明に関し、グローバルファンドやGaviワクチンアライアンス等を通じて、約5億ドル以上の支援をアフリカで実施し、約30万人以上の命を救うこと、約2万人の感染症対策のための専門家・政策人材育成や基礎的保健サービスにアクセスできる人数を約200万人増加させることを表明しました。また、日本が共催した「UHC in Africa」ハイレベルイベントでは、グローバルファンドと世界銀行からアフリカの保健制度に関して、今後3~5年間で240億ドルを支援することが表明されました。さらに日本は、アフリカにおけるUHCの実現に向け、アフリカ諸国が具体的な国家戦略を策定する際に参考となる政策枠組「UHC in Africa」を世界保健機関(WHO)〈注7〉、世界銀行、グローバルファンド等と共同で発表しました。
- 注1 : 東南アジア諸国連合 ASEAN:Association of South-East Asian Nations
- 注2 : アジア太平洋経済協力 APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation
- 注3 : 科学、技術、工学、数学 STEM:Science, Technology, Engineering, and Mathematics
- 注4 : 女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ WINDS:Women's Initiative in Developing STEM Career
- 注5 : ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ UHC:Universal Health Coverage
- 注6 : 薬剤耐性 AMR:antimicrobial resistance
- 注7 : 世界保健機関 WHO:World Health Organization