2016年版開発協力白書 日本の国際協力

第3節 難民・移民問題を含む人道支援

紛争や自然災害、深刻な貧困、気候変動の影響等により、人道危機は、複雑化、大規模化、長期化し、2016年現在、紛争の影響を受け、避難を余儀なくされた難民や国内避難民等が第二次世界大戦後最大となっています。

G7伊勢志摩サミット直前の2016年5月、潘基文(バンギムン)国連事務総長(当時)の呼びかけによって世界人道サミットが初めて開催され、日本からは福田康夫政府代表(元内閣総理大臣)が出席しました。同サミットには55か国の首脳、および潘基文国連事務総長(当時)をはじめとする国際機関の長、NGO、企業関係者、学術関係者等約9,000名が参加し、中東地域の難民問題をはじめとした深刻化する人道危機への効果的な対応について議論が行われ、各関係者が具体的な行動を取ることを表明しました。

2016年5月、世界人道サミットにてスピーチを行う福田康夫政府代表

2016年5月、世界人道サミットにてスピーチを行う福田康夫政府代表

福田政府代表は、世界各地の深刻な人道状況の現場で苦しんでいる人々が、自らの国の未来を自らの手で切り拓くための「力」を手に入れてもらうべく、中東・北アフリカにおける社会安定化とすべての人を支える成長を実現するための支援を発表しました。具体的には、今後3年間で約2万人の人材育成を含む総額約60億ドルの支援、シリア人留学生受入れの拡大、国際協力機構(JICA)専門家等の「シリア難民及びホストコミュニティ支援チーム(J-TRaC)〈注1〉」の派遣です。

その後開催されたG7伊勢志摩サミットでは、議長国を務めた日本は難民・移民問題を地球規模の課題として認識し、これらの問題を含む人道危機に対応する際、2030アジェンダの「誰一人取り残されない」という基本理念を念頭に対応すべき点を強調しました。また、人道危機に対する国連主導の取組を支持するとともに、「世界人道サミット」、「難民及び移民に関する国連サミット」(後述)、「オバマ米大統領(当時)主催難民サミット」(後述)の開催を歓迎しました。日本は、G7伊勢志摩サミットの議長国として、人道支援のみならず、中長期的な観点から、貧困や格差、若年層の雇用問題をはじめ、中東地域の復興・開発を後押しすることで、中東地域が不安定化する根本的な原因の解決を促していくことが不可欠であり、安倍総理大臣が打ち出した「中庸が最善」という考えの下、暴力的過激主義の拡大を阻止し、「寛容で安定した社会」を中東に構築するため、前述の支援策の実施を表明しました。

2016年9月、難民及び移民に関する国連サミットでスピーチを行う安倍総理大臣(写真:内閣広報室)

2016年9月、難民及び移民に関する国連サミットでスピーチを行う安倍総理大臣(写真:内閣広報室)

さらに、難民や移民による人の大規模な移動が国際社会に大きな影響を与えていることを受け、2016年9月の国連総会に際し、難民・移民をテーマとした二つのサミットが開催され、日本からは、安倍総理大臣が出席し、難民問題への日本の取組を発信しました。

9月19日に潘基文国連事務総長(当時)の呼びかけで開催された「難民及び移民に関する国連サミット」は、難民と移民に焦点が当てられた世界初のサミットとなり、多くの国連加盟国や機関が参加しました。安倍総理大臣は、日本は難民への緊急的な人道支援に加えて難民および受入れコミュニティへの開発協力を並行して実施する「人道支援と開発協力の連携」のアプローチにより難民支援を行ってきていることを紹介し、2016年から3年間で総額28億ドル規模の難民・移民への人道支援、自立支援および受入国・コミュニティ支援を行うことを発表しました。

2015年のミャンマーの洪水による避難民の子どもたち(写真:国連WFP)

2015年のミャンマーの洪水による避難民の子どもたち(写真:国連WFP)

9月20日には、オバマ米国大統領(当時)の呼びかけにより、「難民サミット」が開催され、日本を含む約50か国・機関の代表が出席しました。オバマ大統領が、世界的な難民危機への対応を強化するため、人道支援資金の増額、難民受入数の増加および難民の自立支援を参加国に呼びかけました。

安倍総理大臣は、G7伊勢志摩サミットでの難民問題に関する議論に触れつつ、日本は、「人間の安全保障」の実現のため、難民等への総額28億ドル規模の支援、新たに立ち上げられた世界銀行のグローバル危機対応プラットフォームへの総額1億ドル規模の協力、紛争の影響を受けた約100万人に対する教育支援・職業訓練等の人材育成、そしてJ-TRaCとして青年海外協力隊員がシリア難民の子ども達の支援を行うことを表明しました。

日本は国際機関等と連携し、難民・移民への人道支援、自立支援と同時に、受入国やホストコミュニティの経済発展を支える開発協力等を実施するとともに、難民と難民受入国双方に役立つ二国間支援をより一層拡充することで、人道支援と開発協力の連携を促進し、G7伊勢志摩サミットでのコミットメントを着実に実施していきます。

レバノン・ベッカー高原にあるUNHCRの難民受付センターで順番を待つシリア難民(写真:UNHCR)

レバノン・ベッカー高原にあるUNHCRの難民受付センターで順番を待つシリア難民(写真:UNHCR)


  1. 注1 : シリア難民及びホストコミュニティ支援チーム J-TRaC:Japan Team for Refugees and Communities
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