2015年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 6

雨季でも工事ができる簡易道路補修材
〜カンボジアで道路の維持管理手法を提案〜

路面に大きな穴が開くことで、渋滞や事故を引き起こす原因となっている(写真:(株)愛亀)

路面に大きな穴が開くことで、渋滞や事故を引き起こす原因となっている(写真:(株)愛亀)

道路の損傷個所に、道路補修材「エクセル」を使用する様子(写真:(株)愛亀)

道路の損傷個所に、道路補修材「エクセル」を使用する様子(写真:(株)愛亀)

カンボジアでは、2000年以降から日本や各国の支援を受けつつ道路交通インフラ整備が実施されています。近年の経済発展に伴う急激な交通量の増加や、過積載車両の往来により、これまでに整備された道路の損傷が激しくなってきています。

適切なタイミングで補修が行われないと損傷が進み、予算や工期が嵩(かさ)むだけではなく、安全輸送の妨げとなり、交通事故の多発の要因の一つとなり、これらは同国の開発課題となっています。

このような開発課題に貢献できる常温舗装補修材や道路維持管理技術を有するのが、愛媛県松山市に本社を置く愛亀社です。愛亀社の補修材は、路面に空いた穴に入れて踏み固めるだけで、大型の機械を使わずに簡単に道路を補修できます。加えて、雨天で道路に水が溜(た)まっていても工事することが可能であり、日本国内の道路補修で広く利用されています。

愛亀社の社長の西山周(にしやましゅう)さんは、カンボジアで地雷除去に携わる知人の紹介で、カンボジアのバッタンバン州にある建設会社から研修生を受け入れ、カンボジアの道路事情を知るようになりました。そこで、西山さんは、自らが開発した補修材が役に立つかもしれないと思い、ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業※1-案件化調査※2に応募しました。こうして2014年11月に愛亀社が参加する、「高品質な道路補修材の普及と舗装マネジメントシステムに係る案件化調査」の事業が開始されました。

この現地調査で、カンボジアの道路の大部分が、簡易式の舗装であり、強度が弱く、路面に穴(ポットホール)が開きやすいという課題があることが分かりました。

ポットホールが開いてしまうと、速やかに道路補修しなくてはなりませんが、今までカンボジアで使用されてきた道路補修材は、工事に時間がかかります。そのため、道路を長時間通行停止にしないと補修作業ができません。しかし、カンボジアの経済発展を担う産業車などの通行を長い時間停止させることもできません。加えて、雨季の長いカンボジアですが、雨が降る日には道路補修の作業ができません。こうした事情が重なり、路面にできたポットホールが放置され、重量オーバーのトラックや大型バスなどがそこの上を通ることで、さらにポットホールが大きくなってしまいます。走行するバイクや自動車が、そこを避けて通行するので、交通事故が多発します。そして、恒常的に交通渋滞が起きるのです。

これは、まさに愛亀社の簡易道路補修材の出番です。調査を終え、西山さんは、さっそくこの技術のカンボジアでの採用に向けて動きました。

西山さんはまず、カンボジア公共事業運輸省で関係者を集めてセミナーを開き、この簡易道路補修材を中心に、日本で培った道路の維持管理のノウハウを紹介しました。セミナーには公共事業運輸省の副大臣も出席し、カンボジア側の高い関心と期待が感じられました。

その後、カンボジア西部のバッタンバン州と首都のプノンペン周辺の主要な国道で、実際にこの簡易道路補修材を使った実証テストをしました。雨季を想定して、道路のポットホールに雨水が入った状態にしてこの道路補修材を使用しましたが、トラブルなく道路補修が行えることが確認できました。

このようにして、どしゃぶりの多い雨季の使用にも耐え、ロードローラーなどの大型の機械も必要としない、道路補修の技術は、カンボジア公共事業運輸省によっても認められ、導入に向けて検討が始まりました。

調査を終えた西山さんは次のようにいいます。「JICAのプロジェクトは現地での絶大な信頼があると肌で感じました。カンボジアの公共事業運輸省副大臣ともお会いすることになり、省庁や道路公社の関係者との仕事がやりやすくなりました。民間企業が単独で現地に乗り込んで、省庁と調整し現場関係者に動いてもらうのはたいへんなことです。JICAはカンボジアで新たな道路や橋をかけるプロジェクトも計画していると聞きました。今後はこうしたプロジェクトにも関わり、安全に快適に走行できる道路づくりと、その維持管理に貢献し、カンボジアの発展に貢献していきたいと思います。」

この技術力の高い簡易道路補修材のカンボジアでの本格的な導入に向けて、愛亀社は、現地の会社と深い関係も構築し、カンボジアに会社を設立することになりました。愛媛県の企業が生んだ日本の舗装技術が、カンボジアの道路を維持管理に役立てられていきます。


※1 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 案件化調査は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る