2015年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 1

井戸の寿命を延ばすために
〜ボリビアで井戸の維持管理に水中カメラを提案〜

井戸内部の状態を映し出す「ボアホールカメラ」(写真:(株)レアックス)

井戸内部の状態を映し出す「ボアホールカメラ」(写真:(株)レアックス)

サンタクルス県にて、改修工事の流れまでを説明するセミナー(写真:(株)レアックス)

サンタクルス県にて、改修工事の流れまでを説明するセミナー(写真:(株)レアックス)

南米大陸の内陸部にあるボリビアは、世界のリチウムの約50%を埋蔵するなど、豊富な天然資源に恵まれています。しかし、国民の生活を支えるインフラの整備は未だ遅れています。特に、地方の状況は深刻です。

ボリビアの井戸の多くは、揚水量が低下しているにもかかわらず井戸の機能診断が不十分で、機能回復に必要な維持管理が行き届いていません。井戸を長い年月にわたって使い続けると、井戸内に染み出してくる地下水に混じる不純物を取り除くスクリーンに目詰まりが生じて、汲み上げられる水の量が減少し、衛生状態も悪くなります。

しかしボリビアでは、深い井戸にあるスクリーンの目詰まりの状況を把握する方法がありませんでした。その結果、目詰まりがひどくなって地下水が出なくなり、井戸が機能しなくなるという問題が生じていました。

また、ボリビアでは、井戸のスクリーンの目詰まりの原因となっている箇所を特定する技術もなく、水量が減少すると、高額な費用をかけて、新たに別の井戸を掘るなどの対策がとられます。しかしこれは費用の負担が大きいため容易に行うことはできません。

このような問題を解決する製品を開発したのが、地質・環境調査が専門の会社で、札幌市に本社を置くレアックス社です。北海道はもちろん日本全国での調査も手がけてきました。この会社が、地中の岩盤や構造物の細かな亀裂の状態まで確認するために開発したのが「ボアホールカメラ」です。「ボアホールカメラ」には、井戸の調査に最適なタイプもあります。最新の機種は、先端部分と側面に取り付けられた複数のフォーカス機能付きのカメラで、井戸の内部の状態を動画と静止画の両方で記録することができ、目詰まりして修復すべき箇所などを鮮明に探り当てられます。

そこで、2014年、レアックス社はODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業※1-案件化調査※2として、ボリビアで「ボアホールカメラ」を使った「井戸診断による長寿命化に関する案件化調査」を開始しました。

レアックス社の技術者は、まずはボアホールカメラの性能を現地の人々に見てもらうために、デモンストレーションを行いました。このデモンストレーションに参加した現地の水道公社の職員は、井戸に挿入されたボアホールカメラによって、スクリーンの目詰まりの状態が鮮やかな映像で映し出されることに非常に驚きました。

レアックス社の技術者は、同様のデモンストレーションを2回にわたって行いました。そして、公開テストで得られた画像やデータも活用しながら、カメラの機能や使用方法、そして井戸の改修工事の全体の流れに関する技術研修会を、ラパス、オルロ、およびサンタクルスの3つの都市で実施しました。

このような活動を通じて、レアックス社のボアホールカメラは、井戸の改修を可能にする画期的な技術としてボリビアで高い関心を集めるようになり、導入を決めた現地自治体も現れ、井戸の改修工事を手がける現地企業と同社の提携が進むなど、普及に向けた動きが出始めています。

ボリビアでの事業を担当するレアックス社の最上哲弥(もがみてつや)さんは調査で得られた成果についてこう語ります。

「案件化調査を実施したことで、世界では飲料水の問題が切実であることを実感できました。今後はボアホールカメラだけでなく、現地で必要とされている井戸管理に関する的確な診断や洗浄の技術など総合的な維持管理のノウハウも提供していきたいですね。」

このように、北海道の中小企業の技術が、ボリビアの人々の生活向上に役立てられています。


※1 ODA等を活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 案件化調査は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。

現地で行われたデモンストレーションの様子(写真:(株)レアックス)

現地で行われたデモンストレーションの様子(写真:(株)レアックス)

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