開発協力トピックス 02
「女性の輝く社会」の実現に向けて
■ 女性の能力が向上し、ジェンダー平等が実現しなければ、貧困撲滅の達成は難しい
ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは、国際協力において重要な課題です。これまで開発途上国の女性の状況の改善のために様々な取組が行われてきました。その結果、教育や保健、経済分野など、様々な分野で男女間の格差は小さくなる方向にあります。それでも、依然として女性の置かれている状況には厳しいものがあります。女性が直面している問題、これは日本も決して例外ではありません。女性にとって働きやすい環境をつくり、女性の労働機会、活動の場を充実させることは、日本にとっても焦眉の課題です。「女性の輝く社会」をつくるために日本は様々な取組を行っています。世界には、女性であるがゆえに社会の底辺に置かれ、教育や医療へのアクセスが十分に与えられず、女性が普通の生活を送ることすら困難な状況にある地域も依然として数多くあります。先進国・途上国を問わず、ジェンダーに基づく偏見や不平等、ジェンダー格差を解消し、個々の能力が活かされ、安全で安心して暮らせる社会をつくっていくことは世界共通の課題なのです。
安倍総理大臣は2013年9月の国連総会一般討論演説の中で「女性の輝く社会」を取り上げました。それは、日本国内で成長の最大の潜在力として「女性の力」を活かしていくこと、「女性の輝く社会」をつくることは世界に大きな活力をもたらすとの考えに立って、国際社会との協力や途上国支援を強化していくことです。
「女性の輝く社会」の構築に向けてどのような支援が行われているのでしょうか。具体的な事例を見ていきます。
■ インドで広がる衛生的で安心な生理用品の普及への支援

少女たちに生理の基本知識や、生理用品の使用方法を伝え、衛生意識を高めることにより、女性の就学機会の向上や社会進出に貢献している(写真:ユニ・チャーム)
近年、急速な発展を遂げているインドですが、農村部では、まだ生理用品を使う習慣が浸透していません。古くなった衣類などを利用し、月経時には外出を控える女性も少なくなく、衛生的な生理用品の存在や、生理のメカニズムなどを知らない女性も多いのが現状です。また、都市部においては、生理用品を使う習慣は浸透しつつありますが、自らの状態に合った生理用品の選択や正しい使い方が十分には浸透していません。
こうした状況に対し、2013年1月からJICAは、我が国で生理用品の製造・販売を行い、インドの女性を対象にビジネス展開を強化しようとしているユニ・チャーム株式会社や、現地で女性支援活動を行っているNGOと協力し、文化や慣習の異なるいくつかの地域において衛生状況や生理用品の実態調査を行うと同時に、女性および少女を対象とする初潮教育を行っています。身体面、衛生面から、生理についての正しい知識や、生理用品の使用方法を伝え、女性たちに理解を深めてもらうことで、女性の就学、行動範囲や社会進出の機会の拡大を支援しています。
■ ケニアにおけるジェンダー視点に立った小規模園芸農家の組織強化に向けた支援

園芸農家グループの女性。「作って売る農業」から「売るために作る農業」へ(写真:久野武志/JICA)
ケニアでは農業は、GDPの24%、雇用の80%を占める重要な産業です。日本は、農業の中でも特に成長が著しい園芸作物分野において、小規模園芸農家のグループに対して、農家自身が市場に対応した営農の課題に取り組めるよう、その能力強化を支援しています。対象となる小規模農家では、70%以上の農作業を女性が担っていることから、このプロジェクトでは、ジェンダー問題にも取り組んできました。たとえば、研修機会を男女平等に提供すること、収益を男女で話し合って使えるような家計管理研修を実施することなどをプロジェクト活動に組み込みました。
その結果、対象園芸農家の家庭内の夫婦関係が「経営者と労働者」から「平等な経営パートナー」へと変わっていきました。同時に営農の効率化が進み、対象支援農家の男女双方の所得が増加しました。特に女性の増加率が高く、プロジェクトの第一段階においては開始当初と比較すると、男性と女性の所得差は、31%から15%まで縮小しました。現在はプロジェクトの第二段階が進行中ですが、これまでに得た経験をより広い地域で展開しています。
なお、このプロジェクトで協力関係にあるケニア農業・畜産・水産省は、プロジェクトのジェンダーアプローチを高く評価し、この経験を基礎に、より幅広い農家支援事業の中でジェンダー主流化を進めるための技術協力を日本に要請し、2014年9月から「ジェンダー視点に立った農業普及推進プロジェクト」が開始されました。
■ 国際機関を通じた支援:中東・北アフリカ地域における女性のエンパワーメントと若者の雇用創出

イエメンでは、UNDPの「若年層エンパワーメント・プロジェクト」の成果として、若い男女1,200人が就職や起業をすることができた。かつて塗装業は男性の職業と考えられていたが、女性も技術を身に付け、塗装工として活躍している(写真:UNDP Yemen)
アラブ地域では若者の失業率が極めて高く、国によっては、若年労働人口の30%以上が失業しています。たとえばイエメンでは、若者が失業者の半分を占めています。若者が社会参加できるかどうかはその社会の安定の鍵です。我が国は、2012年より、国連開発計画(UNDP)が中東・北アフリカ地域6か国(アルジェリア、エジプト、モロッコ、チュニジア、ヨルダン、イエメン)で実施する若者を対象とした雇用創出プロジェクトを支援しています。プログラムの活動は、雇用政策の立案、NGO・企業との連携による職業訓練と就業機会の提供など、多岐にわたります。この取組は、農村部の女性をはじめ、多くの若者たちを力づけ、彼らの起業の後押しや良い就職口の確保に貢献しています。保守的な風土の中で、これまでは外出もままならなかった若い女性が、塗装や縫製などの技術を身に付けることで、自信をつけ、経済的にも自立できました。女性ならではの顧客を開拓するなど、生き生きと仕事に取り組んでいます。