匠(たくみ)の技術、世界へ 6
アフリカの環境改善に貢献する日本流リサイクル
〜石川県の中小企業がナイジェリアに環境配慮型の自動車リサイクルを導入〜

ナイジェリアにて、解体作業のノウハウを教える日本人スタッフ(写真:会宝産業(株))

首都アブジャ近郊の廃車置き場(写真:会宝産業(株))
およそ1億7,000万人というアフリカ最大の人口を有するナイジェリア。同国ではモータリゼーションが進行中で、国内の自動車保有台数は1,000万台以上といわれています。路肩に放置されたままの廃車が多く、交通事故や犯罪、環境悪化などの原因になることから問題視されていました。こうした廃車も、ていねいに解体し、部品ごとに細かく分けていけば新たな資源になりますが、現地ではそうした処理方法が確立しておらず、リサイクルの技術や設備も整っているとはいえません。
そこで、石川県を拠点に自動車リサイクルと中古部品の輸出を手掛ける会宝産業(株)が、これまで日本国内で培ったノウハウを駆使して、ナイジェリアでの自動車リサイクルビジネスに乗り出しました。なぜ今、ナイジェリアだったのでしょうか。
「2010年、UNIDO(国際連合工業開発機関)本部の一行が当社を訪問された際、当時ナイジェリアのUNIDO代表を務めていた日本人の方からナイジェリアの放置車両の問題を聞かされ、『ぜひナイジェリアに進出してほしい』との要望を受けたことがきっかけでした。目標は、環境配慮型の自動車リサイクルの確立と現地の雇用創出です。」と会宝産業専務取締役の馬地克哉(ばじかつや)さんは経緯を語ります。
2012年からは、約2年間にわたり、JICAの支援を得て、環境コンサルティング会社イースクエアと共同で、日本の自動車リサイクル技術を使ったナイジェリアでの廃車の再資源化事業のための協力準備調査(BOPビジネス連携促進)※1を実施しました。これまで世界各国に自動車部品を輸出してきた同社がナイジェリアの産業や環境に貢献していくためには何が必要なのかを探るためのODAを活用した調査です。
「日本流の自動車リサイクルがナイジェリアで事業として成立するのかを調査するのと同時に、現地の自動車修理組合のスタッフを対象に解体の技術研修も行いました。これまでも彼らは、車からエンジンなどの主要な部品を取り出して販売することはしていましたが、たとえば、ドアの内側にリサイクル可能な銅線があることなどは知りませんでした。力任せに行う解体作業は大きな危険を伴います。やみくもな解体作業がいかに危ないものかを説明し、安全性や環境配慮の重要性を訴えました。我々が車両の構造や解体の手順をきちんと教えたところ、簡単に解体できることに彼らは驚いていましたね。」
現在、地球上にはおよそ11億台の自動車があり、そのうちの3億5,000万台が日本車だといわれます。会宝産業がナイジェリアの自動車リサイクルに乗り出した背景には、「日本車の後始末は日本人がつけるべき」という同社社長・近藤典彦さんの思いがあるといいます。日本では、戦後の高度経済成長期、様々な資源を利用して製品を作る「動脈産業」が発展しましたが、一方、その結果もたらされた環境への負荷をリサイクルなどで軽減する「静脈産業」も発達しました。環境汚染やごみ問題を経験し、やがて世界でも屈指のリサイクル技術と静脈産業が発達した日本は、現在途上国が行き当たっている課題に先んじて取り組み、乗り越えてきた経験があります。かつての日本が抱えていた問題に直面している途上国に対して、いま日本ができることは少なくありません。「今後は、ナイジェリアの行政機関と連携して、現地での技術教育にかかわるとともに、貧困層を巻き込んだ自動車リサイクルビジネスを展開していきます。」と馬地さん。ナイジェリアで静脈産業が発展し、環境保全と両立する持続可能な成長を支えていくための第一歩になるのではないかと期待されています。
※1 開発途上国でのBOPビジネスを計画している本邦法人からの提案に基づき、ビジネスモデルの開発、事業計画の策定、およびJICA事業との協働事業の可能性について検討・確認を行うもの。事業の上限金額は5,000万円、協力期間は最大3年間。

石川県の研修施設「国際リサイクル教育センター」(IREC)での研修の様子(写真:会宝産業(株))