2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

匠(たくみ)の技術、世界へ 07

火山周辺の荒廃地に緑を取り戻せ
〜インドネシアで産学協同による緑化再生の土づくり〜

多機能フィルターの上に設置された種バッグ(写真:多機能フィルター(株))

多機能フィルターの上に設置された種バッグ(写真:多機能フィルター(株))

インドネシアは、130もの活火山があり、そのうち17の火山が今も活発に活動する火山国です。バリ島北東部のバトゥール山周辺では、1917年と1926年の大噴火による噴出物が今も広範囲に残っており、土地の荒廃が進んでいます。木や植物が根を張らなくなった土地は地盤がもろくなり、土砂崩れなどの災害を引き起こす原因になります。また、土地の荒廃は、観光地として知られるバリ島市街地の水源となる地下水脈の枯渇にもつながることから、緊急な対策が望まれています。

荒廃した土地に緑を甦(よみがえ)らせるべく、バリ島南部のウダヤナ大学がさまざまな植物を試験的に植えてみたものの、どれも思うように育ちません。ウダヤナ大学と交流協定を結ぶ山口大学は、防災に関する共同研究を通して、こうした課題を知ることになりました。そこで、山口大学は、山口県に拠点を持つ多機能フィルター(株)と産学連携※1で開発した、植物の生育を促す養生マット「多機能フィルター」による環境再生をウダヤナ大学側に提案しました。

「1994年に開発した『多機能フィルター』は、極細のポリエステル繊維に補強ネットを重ねた構造で、周囲から飛んでくる種子の定着を促します。このシートを土の上に敷きつめることで、保湿性も保ちながら、より自然に近い状態での土づくりと緑化が可能となります。表土と密着することで雨による土の移動を食い止め、土砂崩れを防ぐ効果もあります。日本国内では、47都道府県すべてで採用された実績を持ち、土地の緑化再生などに利用されてきました。」と多機能フィルター(株)代表取締役社長の山本一夫(やまもとかずお)さんは、その独自の機能を説明します。

2011年に、調査の一環でバトゥール山の荒廃地に多機能フィルターシート100㎡を敷設。さらに、植物の種子と土壌微生物などを詰めた同社の特殊植生袋「種バッグ」50袋を設置したところ、効果が確認されました。2012年には、外務省の「案件化調査※2」に採択され、約2,500㎡のシートと100袋の種バッグを設置。植物は順調に生育し、緑の再生に効果を上げています。しかし、こうした取組を一過性のプロジェクトで終わらせないためには、現地での継続的な活動が必要です。

そこで山本さんたちは、地元の素材を用いて製品を開発、地元で製造することにしました。同時に、地元住民や高校生とも協力して、環境保全や防災に対する啓発活動も行います。そのために多機能フィルター社は、JICAの「普及・実証事業※3」を活用し、インドネシアにおいて新たな実証活動を2013年9月に開始しました。地元の素材を活用した多機能フィルターと現地の微生物を用いた種バッグをウダヤナ大学、山口大学と共同開発。ウダヤナ大学構内に設置した研究所で製造し、バトゥール山周辺地域でその効果を検証しているところです。

2013年12月に開催された、現地での植樹祭の様子(写真:多機能フィルター(株))

2013年12月に開催された、現地での植樹祭の様子(写真:多機能フィルター(株))

「現在、バトゥール山周辺の荒涼地の植樹に取り組んでいます。環境教育の一環としても行われている植樹祭には、地元の高校生や住民ボランティアなど総勢320人余りが参加し、ギンネム(マメ科の落葉低木)、チーク(シソ科の落葉高木)など現地植物の種子を入れた種バッグを設置。地元住民からは『通常の苗木植栽に比べて簡単だった』と高い評価を受けました。こうした活動が、地元の人々に環境保全と防災に対する意識を根付かせることを願っています。」と山本さんは地元での展開に胸を膨らませています。

自然災害の多いインドネシアでは、防災・環境保全分野でやるべきことはまだまだたくさんあります。同じように自然災害の多い日本にはインドネシアの必要とする技術や知識の蓄えがあり、この面で大いに役立つことができます。

「今回の普及・実証事業では、まず荒廃地の再生に着手しましたが、今後さらに、道路や海岸などでも活用できないか検証していくことになると思います。実証事業の成果を確認しながら、インドネシア全土での土壌環境改善を検討していく予定です。現地の素材を活用するのでインドネシアの経済に貢献できますし、現地で新たな雇用も創出していけると思います。さらに、ウダヤナ大学、山口大学との共同研究や技術開発などによる人材の交流にも大きな期待を寄せています。」と山本さん。小さな種が芽を出し、やがて緑が育つ。産学協同によるプロジェクトは、現地にしっかりと根を張って大きく育っていきそうです。


※1 民間企業と大学などの教育・研究機関が共同で研究、商品開発などの事業を行うこと。
※2 中小企業などからの提案に基づき、製品・技術を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。
※3 中小企業などからの提案に基づき、製品・技術に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。事業の上限金額は1億円、協力期間は1~3年程度。


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