匠(たくみ)の技術、世界へ 4
ITを活用した情報配信システムで都市部の交通渋滞を緩和
〜京都のベンチャー企業によるインド・グジャラート州での試み〜

道路の渋滞情報や推奨ルートが表示された交通情報板(写真:(株)ゼロ・サム)
約12億の人口を有し、急速な経済成長を遂げているインド。その一方、電力や鉄道、道路などのインフラ不足が問題になっています。とりわけ都市部では人口流入による交通渋滞が年々深刻化。政府は年間7,000㎞の道路整備目標を掲げるなど、ハード面での対応に力を入れていますが、急速な自動車の増加に追いついていないのが現実です。人口が密集する都市部では、土地利用に制約があるため、道路整備のみで渋滞解消を実現するには限界があります。ハード面の整備だけでなく、交通の流れを効率的にコントロールする渋滞解消システムの確立が求められています。
そんなインドの交通事情に対して、ITを活用した交通渋滞情報配信システムを構築しようとしているのが、京都を拠点とする(株)ゼロ・サムです。2004年に設立され、主に日本国内向けに携帯電話向けのシステムやコンテンツの開発・配信を手掛けてきた同社は、インドでのビジネス展開を目的に、2007年にゼロ・サム・インディアという子会社をインドに設立しました。
「現地の携帯電話利用者数の急激な増加を目の当たりにして、このマーケットは巨大なものになると確信しました。インドの現地のニーズと日本の技術力を組み合わせたシステムやコンテンツを作ろうと考えたのです。」と代表の菊池力(きくちちから)さんは語ります。ちなみに、ゼロ・サム・インディアを設立した当時、インドの携帯電話利用者は5,000~6,000万人でしたが、2014年には約9億人にまで達しています。インドの携帯電話関連マーケットが驚くべき勢いで拡大しているのが分かります。
子会社設立をきっかけにインドを頻繁に訪れるようになった菊池さんは、都市部のすさまじい交通渋滞に驚きました。渋滞が原因で自社のビジネスはもとより、インド経済にも支障が出ていると感じ、日本の技術力で渋滞解消システムを作れないかと考えるようになりました。もともと日本国内でカーナビゲーションのシステム開発にかかわっていたこともあり、インド西部・グジャラート州の最大都市アーメダバード市で交通渋滞解消を目的としたJICAの「普及・実証事業」※1を2013年11月にスタートさせました。相手国協力機関は、アーメダバード市政府とグジャラート州の交通警察です。
渋滞解消のためのシステムとは、まず道路上に設置したセンサーやタクシーに搭載されているGPS※2、携帯端末のナビゲーション機能によって道路を走る車の台数や速度などのデータを集めて渋滞情報を生成、それを道路上の交通情報板や携帯電話にモバイル通信を使って配信していくというもの。ドライバーにどの道路が渋滞しているのかを示し、ほかの道路の利用を促すことで、効率的な運行と渋滞の緩和を促進します。

今回の事業で市内4か所に設置された情報板の一つ(写真:(株)ゼロ・サム)
「道路に設置する交通情報板の設計・開発は日本で行い、生産はコストが安い中国で行いました。品質管理は厳しくしています。ネックとなったのが、現地の気温です。グジャラート州は気温が50度近くになる日も少なくないため、従来の設計では暑さで情報板が動かなくなってしまうのです。何度も試行錯誤を繰り返し、空冷ファンを4倍にするなどの工夫によって暑さに耐え得る設計にしました。インドでは、『日本製のエアコンは気温が高くなっても止まらないが、他国の安価なエアコンは止まってしまう』という話をよく耳にしました。日本の技術に対する信頼性がとても高いのです。我々もそのイメージを守らないといけないと思い、品質にはこだわりました。」と菊池さん。
今回の普及・実証事業には、既にグジャラート州の第2、第3の都市、あるいは他の州からも強い関心が寄せられていると菊池さんはいいます。「新たに道路を作れない地域でも、既存のインフラを最大限に活かして渋滞を緩和できるシステムとして注目されています。同じように渋滞に悩まされているほかの地域でもうまくいくはずです。交通渋滞で失われるものは小さくありません。経済効率の低下も招きます。我々の技術力がその緩和に役立てるとしたらとてもうれしいですね。」
※1 中小企業などからの提案に基づき、製品・技術に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。事業の上限金額は1億円、協力期間は1~3年程度。
※2 Global Positioning System