2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

匠(たくみ)の技術、世界へ 3

独自の工法で交通渋滞を回避
〜インドネシアの下水管路建設における技術革新を提案〜

機体に、サメをモチーフにしたイラストが描かれた掘進機(写真:(株)イセキ開発工機)

機体に、サメをモチーフにしたイラストが描かれた掘進機(写真:(株)イセキ開発工機)

中国、インド、アメリカに次ぐ世界第4位の人口(約2億4,700万人)を誇るインドネシアは、人口約960万人の首都ジャカルタを中心に急速な発展を遂げていますが、下水道や電力・通信などのインフラはまだ十分に整備されていません。中でも下水道の普及率は2%と、アジア諸国の中でも極めて低い水準にとどまっています。地下のインフラ整備が進まない要因の一つが、都市部の交通渋滞です。自動車やオートバイの利用者が年々増加する一方、道路の数が追いつかず慢性的な渋滞を引き起こしています。

渋滞を悪化させないためにも、工事中の道路の使用区域が少ない効率的な地下工事が求められていましたが、そこで名乗りを上げたのが、掘進機(くっしんき)および周辺機器メーカー、(株)イセキ開発工機(東京・赤坂)でした。同社は、長距離やカーブの掘進に対応する独自の掘進機と推進工法によって、海外でも豊富な納入実績を持っています。

「通常、地下に水道管などの管路を掘る場合、開削工法と推進工法の二つの方法があります。管路の長さの分だけ土を掘る開削工法は、工事中ずっと道路を通行止めにするため渋滞の原因にもなり、土の埋戻しも大がかりになります。一方、推進工法は地上に2か所穴を開けて掘進機を地下に入れて掘り進めるだけなので、渋滞も開削工法と比べて大幅に抑えることができます。川や鉄道の下の掘進も可能で、大量の土を掘らずに済むため、廃棄物になる残土や騒音も最小限で済みます。日本の都市部では一般的なこの工法が、ジャカルタのような渋滞の激しい都市でも有効ではないかと考え、我々の開発した機械と技術を提案しました。」と(株)イセキ開発工機・国際部の脇田智晴(わきたともはる)さんは語ります。

今回、中小企業の海外展開を支援するための、JICAの「普及・実証事業」※1に採用され、ジャカルタでの「下水管建設における推進工法技術の普及・実証事業」を2013年9月に開始しました。相手国の実施機関はジャカルタ特別州政府とジャカルタ特別州下水道公社。総延長1,600mの下水管路建設のうち、イセキはその一部の300mをデモ施工として、地元施工業者に掘進を指導する形で請け負うことになりました。「インドネシアの公共事業にこの工法を積極的に採用してもらうためには、実際に機材を導入し、効果を明らかにした上での普及・広報活動が必要だと考え、今回の事業に応募しました。我々のような一民間企業が相手国の州政府と仕事ができるのは、日本政府の支援を得ている事業だという後ろ盾があってのことです。」

推進工法の技術自体はジャカルタにもありますが、一度に100m程度の短距離しか掘進できないため、工期が長引くなどの問題がありました。イセキの製品・技術は一気に300~400mの長距離を掘進することが可能なため、作業も迅速です。ところが、現地では予想外に工事が遅れ、2014年6月までという当初の普及・実証事業の実施期間を2015年3月末までに延長しなければならなくなったそうです。

操作盤の前で、現地のオペレーターを指導する日本人技術者(写真:(株)イセキ開発工機)

操作盤の前で、現地のオペレーターを指導する日本人技術者(写真:(株)イセキ開発工機)

「日本では当たり前のことが、なかなか思うようにいきません。たとえば、施工業者に発電機を持ってきてほしいと頼んでもなかなか持ってきてくれなかったり、持ってきたかと思えば壊れていたり。海外で工事を進めることがどんなにたいへんかを思い知らされました。」 

今回、機械はイセキからJICAが買い取り、実証事業の間はJICAが同社にこの機械を無償貸与(たいよ)する形になっています。ですから、ともすれば開発途上国では不安材料ともなる、相手国の支払い遅延の心配もありません。実証事業が終われば、イセキの機械はJICAから州政府のものとなり、今後の工事に活用される予定です。

もともと慢性的な渋滞に悩まされているジャカルタでは、こうした工事工法の改善により少しでも渋滞を避けられれば、人々の生活面での助けとなるばかりでなく、経済上の大きな損失を未然に防ぐことにもなります。日本の先進的な製品・技術がインドネシアの地下インフラ整備に貢献し、人々の生活の向上と経済発展に役立とうとしています。


※1 中小企業などからの提案に基づき、製品・技術に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。事業の上限金額は1億円、協力期間は1~3年程度。


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