2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

匠(たくみ)の技術、世界へ 2

雨水タンクによるソーシャルビジネスですべての人々に安全な水を届ける
〜水問題が深刻化するバングラデシュで雨水タンクの普及を推進〜

完成した1,000基目の「AMAMIZU」雨水タンクの前で。中央が村瀬さん(写真:村瀬誠)

完成した1,000基目の「AMAMIZU」雨水タンクの前で。中央が村瀬さん(写真:村瀬誠)

近年、アジアの途上国では水問題が深刻化しています。必要な量の水が確保できない、あるいは安全な水にアクセスできないなど、命の源である水にまつわる様々な問題に直面しているのです。東京都の墨田区役所の職員として、またNPO「雨水市民の会」事務局長として、長年にわたり雨水利用に取り組み、「ドクター・スカイウォーター」としても国際的に知られる村瀬誠(むらせまこと)さんは、水問題に悩む世界の人々のために雨水で何かできないかと考えていました。

区職員の時代は、雨水を溜めて都市型洪水の被害を抑え、溜めた雨水をいかに有効利用すべきかという課題に取り組んでいました。1985年の両国国技館の建設時には雨水を溜めて利用するためのタンクの設置に尽力しました。「雨水は、そのまま下水に流せば洪水に、溜めれば資源になるのです。」と村瀬さんはいいます。

村瀬さんが日本での経験を活かして、水問題で貢献できる国として着目したのが、バングラデシュでした。この国では、多くの人が日々の生活で池の水を飲み水として使っていますが、塩分や有機物の汚れが混じるなど衛生的に問題が多く、頻繁に下痢に悩まされています。こうした事態を受けてたくさんの井戸が掘られました。ところが、多くの井戸で地下水が有害なヒ素に汚染されていることが分かりました。バングラデシュには、ヒ素を含む地層が分布しており、国内の井戸の3割が汚染されているといいます。村瀬さんは、とりわけ水問題が深刻な場所を探して、バングラデシュの南西部・バゲルハット県にたどり着き、2000年から活動を開始しました。2010年には(株)天水研究所を設立し、2010年度にコンサルティング会社と組んで、JICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)※1に応募して、採択され、バングラデシュにおける雨水タンク事業の実現に向けた調査を行いました。

「この地では古くから『モトカ』と呼ばれる素焼きの甕(かめ)に雨水を溜めて飲んできた歴史があります。しかし、最大でも100リットル程度の容量しかなく、しかも割れやすい。そこで、それよりも容量が大きく割れにくい雨水タンクを製造、販売しようと考えました。」

過去の経験から、雨水利用が盛んなタイの東北部に安価で丈夫なモルタル製の甕があることを知っていた村瀬さんは、この技術をなんとかバングラデシュに持ち込めないかと考えます。そこで、タイにバングラデシュの左官工を派遣して技術を習得させることにしました。

「職人が必要な技術を完全に習得するまでに1年くらいはかかったでしょうか。タイとは使う泥やセメント、砂の質も異なるため、当初は試行錯誤の連続でした。しかし、私はあくまで、人も素材も地元にこだわりました。その方が生産コストを抑えることができ、地元で雇用機会を作り出すことにつながります。」 

地元の素材、地元の人たちによるタンクづくり(地産地消)(写真:村瀬誠)

地元の素材、地元の人たちによるタンクづくり(地産地消)(写真:村瀬誠)

完成したモルタル製の雨水タンクは容量が1,000リットルで、「AMAMIZU」と名付けられました。そこには、天からの恵みを感謝していただくという自然に対する畏敬の気持ちが込められています。2012年、AMAMIZU を200基販売して好調なスタートを切り、2013年には現地法人スカイウォーター・バングラデシュを設立し、600基のAMAMIZUを販売するなど順調に実績を重ねています。JICAの協力準備調査においてタンクの販売価格を3,000タカ(現在1タカは約1.3円)にすれば村人の50パーセントが購入可能であることが明らかになったことから、当初のAMAMIZUの価格を3,000タカに設定、運搬費と雨どいなどの設置費を入れて4,300タカとしました。一人でも多くの人が購入できるように分割払い方式も取り入れました。

「無償の支援を否定するつもりはありませんが、これからの国際協力事業は、コスト管理の考え方を導入する一方でオーナーシップ(主体的取組)を育み、いかに持続可能な形にしていけるのかが鍵だと思います。『地域の産業として根付かせる』という視点がなければ、その場だけ、一時だけの取組で終わってしまうのではないでしょうか。」と、村瀬さんは「ソーシャルビジネス」として国際協力を続けることに、大きな意義を見いだしています。

「日本はアジアの中で雨水利用の先進国です。日本が雨に恵まれているのは、バングラデシュ方面からモンスーンの風に乗ってやってくる雲のおかげです。日本とバングラデシュの空はつながっています。彼らの抱える水問題は決して他人事ではありません。日本がこの分野で積極的に国際貢献していくことが大切だと考えています。」


※1 開発途上国でのBOP(Base Of the economic Pyramid)ビジネスを計画している本邦法人からの提案に基づき、ビジネスモデルの開発、事業計画の策定、およびJICA事業との協働事業の可能性について検討・確認を行うもの。事業の上限金額は5,000万円、協力期間は最大3年間。


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