6.中南米地域
中南米地域は人口6億人、域内総生産約6兆ドル(2013年)の巨大市場です。また、民主主義が根付き、2008年以降比較的安定した成長を続けてきいる上、鉄鉱、銅鉱、銀鉱、レアメタル(希少金属)、原油、天然ガス、バイオ燃料などの鉱物・エネルギー資源や食料資源の供給地でもあり、国際社会での存在感を着実に高めています。平均所得の水準はODA対象国の中では比較的高いものの、国内での貧富の格差が大きく、貧困に苦しむ人が多いことも、この地域の特徴です。また、アマゾンの熱帯雨林をはじめとする豊かな自然が存在する一方、地震、ハリケーンなど自然災害に脆弱(ぜいじゃく)な地域でもあることから、環境・気候変動、防災での取組も重要となっています。
< 日本の取組 >

エルサルバドル中央部のサンペドロ・マサウア市で、住民参加型の防災啓蒙活動。がれきの下からの人命救助方法を学ぶ小学生たち(写真:エルネスト・マンサノ/JICA)

エクアドルの中部山岳地方チンボラソ県リオバンバ市において、平成24 年度「クンドゥアナ地区下水道整備計画」により、新しく整備された下水道の竣工式(写真:園田豊/在エクアドル日本大使館)

2014年11月、カリブ共同体(カリコム)諸国(14か国)の外相等を東京に招き、第4回日・カリコム外相会合を開催した

モザンビーク保健省で、保健人材養成機関教員能力強化プロジェクトの一環で、モザンビーク側のカウンターパートと協議する日系ブラジル人専門家の伊藤ルーシー小百合さん(写真:永武 ひかる/JICA)
中南米地域は、地震、津波、ハリケーン、火山噴火などの自然災害に見舞われることが多く、防災の知識・経験を有する日本の支援は重要です。日本は、2010年1月のマグニチュード7.0の大地震により壊滅的な被害を受けたハイチに対する復旧・復興支援をはじめ、カリブ海上の国々および太平洋に面した国々に地震、津波対策のための支援を行っています。また、中米域内については、コミュニティ・レベルでの防災知識の共有や災害リスク削減を目指す「中米広域防災能力向上プロジェクト“BOSAI”」が大きな成果を上げています。
中南米は、近年、生産拠点や市場としても注目されており、多くの日本企業が進出しています。2011年にメキシコの医師を招聘(しょうへい)して実施した心臓カテーテル技術*の研修は、中南米地域において日本企業の技術の普及を後押しするものとして期待されています。また、中南米諸国の経済開発のための基盤整備の観点から、首都圏および地方におけるインフラ整備も積極的に行っています。
環境問題に対しては、日本は、気象現象に関する科学技術研究、生物多様性の保全、アマゾンの森林における炭素動態(注7)の広域評価や廃棄物処理場の建設など、幅広い協力を行っています。近年注目を集めている再生可能エネルギー分野においては、太陽光発電導入への支援を多くの国で実施しており、地熱発電所の建設に向けた支援も行う予定です。
医療・衛生分野でも、日本は中南米に対して様々な協力を行っています。中米地域では、同地域特有の寄生虫病であるシャーガス病撲滅のための技術支援を行い、感染リスクの減少に貢献しています。パラグアイでは、大学病院の改築、医療機材の供与を行いました。衛生分野でも、ペルーをはじめとする国々において安全な飲料水の供給や生活用水の再利用のため、上下水道施設の整備への協力を数多く行っています。
今も多くの貧困が残存し、教育予算も十分でない中南米諸国にとって、教育分野への支援は非常に重要です。日本は、小学校などの教育施設の建設への支援や、指導者の能力向上のためのボランティア派遣などを実施し、現地で高い評価を得ています。
また、カリブ海の小島嶼(とうしょ)国において、水産業は国民への食料供給および雇用創出の面で重要な産業であることから、日本は水産分野への支援を通してこれら地域の水産資源の持続可能な利用の促進に貢献しています。
長年の日本の開発協力の実績が実を結び、第三国への支援が可能な段階になっているブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチンの4か国は、南南協力*で実績を上げています。これらの国と日本はパートナーシップ・プログラムを締結し、たとえば、ブラジルと共に、アフリカのモザンビークにて、また、メキシコと共にパラグアイにて、農業開発分野の協力を進めているほか、アルゼンチン、ドミニカ共和国等と協力し、震災後のハイチの復興支援などを行っています。
より効果的で効率的な援助を実施するため、中南米地域に共通した開発課題については中米統合機構(SICA)やカリブ共同体(CARICOM(カリコム))といった地域共同体とも協力しつつ、広い地域にかかわる案件の形成を進めています。
日本は官民連携で地上デジタル放送の日本方式(ISDB-T方式)の普及に取り組み、2013年9月末時点までに中南米では12か国が、日本方式を採用しています。日本はこれら採用した国々に対して、同方式を円滑に導入できるよう技術移転を行い、人材育成を行っています。
また、2010年に大地震に見舞われたハイチに対し、日本はこれまで総額約1.9億ドルの復興支援を実施してきており、引き続き中長期的観点から、保健・衛生や教育といった基礎社会サービス分野を中心に復興支援を行っています。
- *心臓カテーテル技術
- 具体的には、経橈骨動脈冠動脈カテーテル技術。手首の大きな血管からカテーテルを挿入して、細くなったり閉塞したりしている心臓の血管を広げる方法。
- *南南協力
- より開発の進んだ開発途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の途上国に対して行う協力。自然環境・文化・経済事情や開発段階などが似ている状況にある国々に対して、主に技術協力を行う。また、ドナー(援助国)や国際機関が、このような途上国間の協力を支援する場合は、「三角協力」という。
- 注7 : 一定期間中における炭素量の変動。
●パラグアイ
小規模ゴマ栽培農家支援のための優良種子生産強化プロジェクトフェーズII
技術協力プロジェクト(2012年12月~実施中)

プロジェクトで実施しているゴマの優良種子の選別(写真:JICA)
パラグアイにおいて、ゴマは大豆と並ぶ主要輸出品の一つであり、日本はその最大の輸出相手国です。しかし、小規模農家がゴマばかり連続して栽培することによる連作障害や、種子の品質低下などが問題となってしまいます。その結果、単位面積当たりの生産量が、栽培が広がり始めた1993年ごろと比べて半分以下に低下している例も見られるようになりました。
そこで日本は、2009年から、ゴマ栽培小規模農家に優良な種子を安定して提供するために技術協力を実施してきました。モデルとなる種子生産農家グループを育成し、現在では白ゴマの主力品種である「エスコバ」の純化栽培※1を行っています。また、メキシコから導入された品種の適応性試験、有望な品種の普及、企業から委託を受けて生産農家に技術指導を行ってきた、ゴマ生産地3県に分校を持つ国立アスンシオン大学の技術指導能力や種子管理能力の向上などの技術支援を行っています。また、2012年から開始したフェーズIIでは白ゴマに加えて、黒ゴマも対象とした優良な種子の生産、ゴマ栽培技術の向上や産・学・官連携を促進させるための協力を継続しています。
この協力は、ゴマ生産において高い技術を持つメキシコと日本メキシコ・パートナーシップ・プログラム※2(JMPP※3)の枠組みの下で協力し実施しています。日本、パラグアイ、メキシコ3か国の協力関係に基づいた日本の支援が、大きな実を結ぶことが期待されています。(2014年8月時点)
※1 純化栽培とは、様々な品種が混ざり合った既存の種子から1品種の種子を選抜→播種→発芽→育成する。発芽してからさらに交じっている別品種の苗だけを取り除き、収穫時には1品種のみを残す栽培方法。
※2 パートナーシップ・プログラムは、かつて援助を受けていた開発途上国が、援助する側へ移行し、日本と対等の立場で協力して他の途上国を援助する事業。日本はメキシコはじめ12か国とパートナーシップ・プログラム、あるいはそれに類する文書を締結している。
※3 JMPP:Japan and Mexico Partnership Program
●ペルー
電力フロンティア拡張計画III
有償資金協力(2009年3月~実施中)

電力フロンティア拡張事業で設置された街灯兼用の電信柱。電気が引かれ、各家庭で電化製品を利用できるようになった(写真:岡原功祐/JICA)

今まで真っ暗だった夜道も街灯がともって夜でも往来がしやすくなった(写真:岡原功祐/JICA)
ペルーでは、都市部において90%以上の電化率を達成しているものの、農村地域では未だ32%程度と、中南米でも低い水準にとどまっています。ペルー政府は1993年以降、農村電化事業を積極的に進め、2003年までの10年間で農村地域の平均電化率を5%から32%まで引き上げましたが、山岳地域など過疎地における電化のニーズは引き続き高い状況にあります。
この計画は、ペルー全国で最も電化率の低い3州(カハマルカ州、ワヌコ州、ロレト州)のうち、カハマルカ州において送配電網の整備を行うことにより、対象地域の電化率を向上させ、それにより地域住民の生活水準の向上を図るものです。
計画対象地域はカハマルカ州の12地域であり、円借款による資金(供与限度額:41億7,100万円)は、これら地域の送配電網整備に必要な資機材や土木工事、コンサルティング・サービスなどの費用に充てられました。現在は、12地域のすべての工事が完了し、事業実施機関であるカハマルカ州政府から、配電網設備の維持管理を担う地域の配電会社に設備の引き渡しを順次行っている状況です。
本計画により、カハマルカ州の12地域の950村落の電化を実現し、45,000世帯の約20万人が新たに電気を利用することができるようになる見込みです。これにより、計画実施開始前は40%だったカハマルカ州の電化率が73%にまで引き上げられることが期待されています。(2014年8月時点)

![]() エクアドル内陸部のボリバル県エチェアンディア市における平成24 年度「プルウアイ地区上水道改善計画」の竣工式の様子(写真:園田豊/在エクアドル日本大使館) |
![]() メキシコ中西部ハリスコ州に位置する国立遺伝資源センター(National Genetic Resources Centre)で開催された国際シンポジウム。米州各国参加者に超低温保存を実演する日本人研究者(写真:町田僚子) |
