2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

5.サブサハラ・アフリカ地域

アフリカ、特に、サハラ砂漠より南に位置するサブサハラと呼ばれる地域は、依然として深刻な貧困問題に直面しています。サブサハラ・アフリカ諸国の大半(49か国中34か国)は後発開発途上国(LDCs)であり、人口の約半分が貧困の境界線である「1日約1.25ドル」未満の生活を送っています。また、この地域には、内戦や紛争、難民、干ばつによる飢餓、HIV/エイズをはじめとする感染症の蔓延(まんえん)など、発展を阻害する深刻な問題を抱える国も多く、国際社会からの多大な援助を必要としています。アフリカのこうした問題は国連安全保障理事会(安保理)などにおいて議論され国際社会の重大な関心事となっています。

一方、アフリカは豊富な天然資源と増加する人口を背景に、近年は目覚ましい経済成長を遂げており、国際社会の期待と注目を集め、「将来の世界の成長センター」として存在感を増しています。日本は、20年以上にわたり日本が主導するアフリカ開発会議(TICAD(ティカッド))のプロセスを通じて、 アフリカの主体的な取組(オーナーシップ)を国際社会が後押しする(パートナーシップ)という基本原則の下に、アフリカ自身による開発課題への取組を積極的に支援しています。

< 日本の取組 >

2013年6月、TICAD Vの閉会式の様子

2013年6月、TICAD Vの閉会式の様子

エチオピアの主食であるテフという穀物を手作業で選り分ける女性たち(写真:久野武志/JICA)

エチオピアの主食であるテフという穀物を手作業で選り分ける女性たち(写真:久野武志/JICA)

コートジボワール・アビジャン中心のプラトー地区は各省庁や大使館、ホテルに銀行が立ち並ぶビジネス街(写真:大塚雅貴/JICA)

コートジボワール・アビジャン中心のプラトー地区は各省庁や大使館、ホテルに銀行が立ち並ぶビジネス街(写真:大塚雅貴/JICA)

リベリアのゴム農園の中を学校に向かう子どもたち(写真:小辻洋介)

リベリアのゴム農園の中を学校に向かう子どもたち(写真:小辻洋介)

1993年に開始したTICADの20周年に当たる2013年6月、横浜において第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が開催されました。39人の国家元首・首脳級を含むアフリカ51か国、31か国の開発パートナー諸国およびアジア諸国、72の国際機関および地域機関の代表、ならびに民間セクターやNGO等市民社会の代表など、約4,500人以上が参加し、TICAD Vは前回の規模を上回り、日本が主催する最大規模の国際会議となりました。

TICAD Vは、「躍動するアフリカと手を携えて」を基本メッセージとし、「強固で持続可能な経済」、「包摂(ほうせつ)的で強靱(きょうじん)な社会」、「平和と安定」の主要テーマに沿って活発な議論が行われ、今後のアフリカ開発の方向性を示す「横浜宣言2013」と今後5年間の具体的な取組を示す「横浜行動計画2013-2017」が採択されました。また、民間セクター主導による成長の重要性を反映し、アフリカ首脳と日本の民間企業の代表が直接対話を行う「民間との対話」セッションが、今回のTICAD全体会合で初めて実施されました。

本会議の中で、日本はインフラ整備と人材育成に重点を置き、ODA約1.4兆円を含む官民による最大約3.2兆円の取組や、「ABEイニシアティブ(注6)」を含む産業人材育成およびサヘル地域への開発・人道支援等を内容とする、対アフリカ支援を打ち出しました。

TICAD Vでの約束どおり、2014年1月、安倍総理大臣は、アフリカ3か国(コートジボワール、モザンビーク、エチオピア)を訪問しました。コートジボワールでは西アフリカから集まった10か国の首脳と会合、モザンビークでは今後5年間で300人以上の人材育成やナカラ回廊地域を中心とした総合的開発のための約700億円の支援を柱とする「日モザンビーク相互成長支援パッケージ」を表明し、エチオピアにおける政策スピーチでは、アフリカの個人「一人ひとり」に焦点を当て、特に成長における女性と若者の重要性を訴えました。安倍総理大臣のアフリカ訪問には、延べ33の日本の民間企業・団体・大学の代表が同行し、アフリカとのビジネス関係強化に向けたトップセールスを推進しました。

2014年5月にカメルーンで開催された第1回TICAD V閣僚会合では、日本はTICAD Vで約束した支援を着実に実施していることを報告し、アフリカの多くの国から日本のこれまでの支援に対する感謝の言葉が表明されました。このほかにも、2014年8月には、今年で8回目となるアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションをエチオピア、ルワンダおよびタンザニアに派遣し、同年9月には、ニューヨークにてインフラ開発をテーマにアフリカの地域経済共同体(RECs)議長国との首脳会合を開催するなど、様々な取組で日・アフリカ間の関係を強化しました。

日本はアフリカ地域における平和と安定の実現に向けた取組にも貢献しています。2014年1月の安倍総理大臣のアフリカ訪問時には、南スーダン、サヘル地域、中央アフリカの情勢改善への貢献を含む3.2億ドルの紛争・災害支援の用意があることを表明しました。また、同年3月には、ハッサン・ソマリア大統領を招聘(しょうへい)し、日ソマリア首脳会談を行いました。ハッサン大統領の訪日を機に、新たに約4,000万ドルのソマリア支援パッケージおよび二国間の草の根・人間の安全保障無償資金協力の再開を決定したほか、人材育成支援の強化を含め、ソマリア国民一人ひとりに役に立つ支援を着実に実施していくことを安倍総理大臣からハッサン大統領に伝達しました。両首脳は、海賊対策を含めたソマリア情勢の安定、ひいては東アフリカ地域の平和と繁栄に向けて協力することで一致しました。ソマリアの安定は、東アフリカの安定と繁栄にとって重要であり、また、ソマリア海賊問題を根本的に解決し、インド洋から紅海、地中海に抜ける世界でも有数の海の大動脈の安全を確保する上で欠かせません。

また、2014年2月には、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を通じて、仏語圏アフリカ諸国の刑事司法実務家を対象に、効果的な犯罪捜査およびテロ対策捜査のあり方、ならびに刑事司法関係者の能力向上等をテーマとした研修を実施しました。本研修は、仏語圏アフリカ諸国における刑事司法を充実・発展させることで、これら地域において世界的な課題ともなっている治安の悪化や深刻な汚職問題の解決に寄与しています。


  1. 注6 : ABEイニシアティブ :African Business Education Initiative for the Youth

●セネガル

環境と経済が調和した村落開発推進計画(エコビレッジ推進計画) 
開発調査型技術協力(2012年10月~実施中)

地下水位が非常に浅い(10m程度)というニャイ地区の地理的条件を活かし、太陽光を動力源とした揚水ポンプを設置することで効率的で経済的な農業の確立・普及を目指す(写真:JICA)

地下水位が非常に浅い(10m程度)というニャイ地区の地理的条件を活かし、太陽光を動力源とした揚水ポンプを設置することで効率的で経済的な農業の確立・普及を目指す(写真:JICA)

全人口の6割が農村に暮らすセネガルでは、多くの人々が農業や牧畜業に従事しています。しかし、その多くが周囲の自然に依存して生活しているため、人口増加により、限りある森林資源や水資源が再生能力以上に利用される傾向にあります。その結果、環境劣化※1が引き起こされ、農業などの生産性が低下し、さらなる貧困の拡大を生む、という悪循環が問題となっています。このため、2008年、政府は、環境と経済が両立する持続可能な村落開発と農村部での雇用拡大を目的とした「エコビレッジ※2計画」を打ち出しました。しかし、実施機関のエコビレッジ庁は、活動の実態が伴っていませんでした。

そこで日本は、エコビレッジ庁と連携し、エコビレッジ計画を推進するため、セネガルの州レベルでの開発計画の策定や実施体制の構築を支援しています。具体的には、農業省など中央省庁とエコロジー・自然保護局などの各州関係機関との調整を行う「エコ・プラットフォーム」を構築し、パイロット事業として、異なる生態系を有するルーガ州、ファティック州、ティエス州の3州で、それぞれの地域の資源と開発ニーズに基づいた開発事業計画の策定と実施を試験的に行っています。ファティック州海岸部のマングローブ林は、近年外部からの侵入者による伐採圧力などにより存続の危機にありましたが、住民が植林による再生に取り組んでおり、マングローブ林には魚やエビが戻ってきています。また、遊牧民の多い北部ルーガ州では、家畜の糞を利用して燃料に使うバイオガスを発生させる装置(バイオダイジェスター)の普及が進められています。

エコビレッジ計画を将来的に全国展開するためには、中央政府だけでなく州レベル政府が自発的に関与することが不可欠です。これからも各州レベルでエコ・プラットフォームを構築して連携強化を図るとともに、地元の意向を反映させたエコビレッジ化を推進していきます。(2014年8月時点)


※1 可耕地の65%(250万ヘクタール)が土壌劣化の影響下にあるとされる(劣化土壌地域における土壌劣化抑制・有効利用促進のための能力強化プロジェクト(CODEVAL)第1年次業務完了報告書より)。
※2 環境、経済、社会の3つの側面で高い持続可能性を有するようなコミュニティ。エコビレッジ化を目指す村落開発事業として、自然エネルギーを活用した生計向上活動などが挙げられる。

●モザンビーク

ナカラ回廊開発・整備プログラム 
無償資金協力、円借款、技術協力プロジェクト等(2010年3月~実施中)

ほかのドナーにより建設された施設の維持管理状況を確認する小島寛明専門家。本プロジェクトでも類似のハンドポンプ付き深井戸給水施設約30基の建設が予定されている(写真:JICA)

ほかのドナーにより建設された施設の維持管理状況を確認する小島寛明専門家。本プロジェクトでも類似のハンドポンプ付き深井戸給水施設約30基の建設が予定されている(写真:JICA)

ナカラ回廊とは、インド洋に面するモザンビーク北部のナカラ港を玄関口とし、モザンビーク北部と、マラウイ、ザンビアといった近隣の内陸国を結ぶ地域の大動脈です。これは、モザンビークが有する豊富な鉱物・エネルギー資源の輸送路としても、また、農業開発が進めばその潜在的な可能性が大きい農産品の輸送ルートとしても重要です。 日本は、ナカラ回廊開発の推進のため、回廊と周辺地域を結ぶ道路・橋梁改修やナカラ港の整備・電力等のインフラ整備を支援するとともに、農業開発、教育、給水支援などにも積極的に取り組み、包括的な回廊開発支援を行っています。これらを総合して「ナカラ回廊開発・整備プログラム」といいます。

インフラ整備では、国道上の350kmの改修事業である円借款「ナンプラ-クアンバ間道路改善計画」や国道上に13ある橋梁の新設・架け替えを行う協力である無償資金協力「イレ-クアンバ間道路橋梁整備計画」などを実施中です。また、教育関連支援では、無償資金協力「ナンプラ州中学校改善計画」を実施しています。この協力は、モザンビーク国内で中等教育への就学率が低い北部ナンプラ州において、中学校4校(合計教室数49教室)を新設し、事務機器、教育用機材など必要な機材を供与するものです。

ほかにも、給水関連支援としては、「ニアッサ州持続的地方給水・衛生改善プロジェクト」があります。この協力は、これまで大規模な支援が行われていなかったニアッサ州を対象に給水・衛生改善を図るとともに、ニアッサ州公共事業局をはじめとするモザンビーク側関係機関の計画・実施管理・モニタリングの能力強化を目指すものです。日本は、様々な分野の支援を通じて、ナカラ回廊の総合開発を目指しています。(2014年8月時点)

●スーダン

フロントライン母子保健強化プロジェクトフェーズ2 
技術協力プロジェクト(2011年9月~2014年9月)

必要な検診用具の具合をチェックする中村安秀専門家(医師)と村落助産師(写真:JICA)

必要な検診用具の具合をチェックする中村安秀専門家(医師)と村落助産師(写真:JICA)

スーダンでは、2013年に妊産婦死亡率が10万人の出生に対して360人、1歳未満児死亡率が1,000人の出生に対して51人など、世界の平均(前者が210人、後者が34人)と比べて大きく上回っています。その原因として地方の妊産婦や母親、新生児などが利用できる医療施設やサービスが限られていること、必要な保健医療を担う人材が不足していることなどが挙げられ、母子保健の改善が急務となっています※1。

このプロジェクトは、スーダンにおいて、より多くの女性が妊娠・出産に関する質の高い保健医療サービスを受けることができるようになることを目標に掲げています。そして、スーダン全域における村落助産師(VMW※2)の能力向上と、セナール州における妊産婦や新生児の健康を改善するための包括的なモデルの確立に向けた支援を実施しています。

この取組により、セナール州においては、2011年から2013年にかけて、医療施設における産前検診受診数が、10,333件から14,376件に、分娩数が9,421件から14,227件に、VMWによる産前検診数が1か月当たり平均7.9件から11.94件に増加しました。

また、連邦保健省や州保健省の行政能力が強化されるとともに、VMWを支援する制度設計も進みました。それは数字にも表れ、全国のVMWのうち政府に雇用される割合は、2010年の3%から2012年の23%へ増加しました。保健人材の育成に関しても、このプロジェクト(フェーズ2)および前身のフェーズ1を通して、163名の現任研修講師・準講師が養成され、全国の21%に相当する2,735名のVMWが現任研修を受講し、能力向上が図られています。今後も継続的にVMWを支援することにより、母子保健が改善されることが期待されます。


※1 (出典) 国連死亡率推定に関する機関間グループ。
※2 VMW:Village Midwife

サブサハラ・アフリカ地域における日本の国際協力の方針 図表 II-12 サブサハラ・アフリカ地域における日本の援助実績
このページのトップへ戻る
ODA白書等報告書へ戻る