2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

4.中東・北アフリカ地域

中東・北アフリカ地域は、石油と天然ガスの埋蔵量が共に世界の約5割を占めており、世界のエネルギーの一大供給地です。日本は原油輸入の8割強を中東・北アフリカ地域に依存している上、日本と欧州とを結ぶ貿易の中心となる航路は中東地域を経由しており、日本の経済とエネルギーの安全保障という意味からも極めて重要な地域となっています。

中東・北アフリカ地域は2011年以降、大きな政治的変動を経験しました。長期政権が崩壊した国では民主化プロセスが進められています。しかし、経済的・社会的な状況は依然として改善したとはいえず、改革はこれからが正念場です。そうした国の改革努力を、経済的支援を通じて後押しし、地域の安定に貢献していくことは、その国自身や周辺諸国だけでなく、世界全体の平和と安定にもつながります。

これらの地域の中には未だに情勢が不安定な国もあります。シリアでは、2011年3月から、3年以上経過した現在も弾圧と暴力が継続し、多数の難民や避難民が発生していることに加え、2013年8月には国内で化学兵器が使用され、多くの市民が死亡するなど、大きな人道問題となりました。2014年には、イラクおよびシリアにおいて国境をまたぎ、「国家」の樹立を宣言するISIL(「イラクとレバントのイスラム国」)(注5)による活動が国際秩序にとって重大な脅威となっています。

さらに人口に占める若者の割合が高く、高い経済成長を続ける国が多いことも中東・北アフリカ地域の特徴であり、そうした伸び盛りの国が今後も安定した成長を実現できるよう援助していくことは重要です。

< 日本の取組 >

2014年1月、スイス・モントルーにおいて開催された、シリアに関する国際会議(いわゆる「ジュネーブ2」会議)に出席する岸田文雄外務大臣

2014年1月、スイス・モントルーにおいて開催された、シリアに関する国際会議(いわゆる「ジュネーブ2」会議)に出席する岸田文雄外務大臣

中東・北アフリカ地域には、パレスチナ問題に加え、アフガニスタンやイラクなど、生活や社会基盤の荒廃や治安の問題を抱える国や地域が多く存在します。これらの国や地域の平和と安定は、地域全体、さらには国際社会全体の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼしかねないことから、これらの国・地域に対しては、持続的な平和と安定の実現、国づくりや国家の再建のために国際社会が一致団結して支援していくことがとても重要です。このような中東・北アフリカ地域の位置付けから、日本として積極的に支援を行う大きな意義があります。

2011年以降、中東・北アフリカ地域は、大きな政治的変動を経験しています。2011年5月に開催されたG8ドーヴィル・サミット(フランス)において、各国首脳はこの地域で起こっている変革の動きを「アラブの春」と呼んだ上で、この歴史的な変革を歓迎し、G8としてその努力を支援していくことを互いに確認しました。

2013年5月、サウジアラビアを訪問した安倍総理大臣は、日本と中東地域の関係を「安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ」に向けて抜本的に強化していくことを宣言するとともに、地域安定化や民主化支援として、今後総額22億ドル規模の支援を行うことや、コストシェア技術協力の新スキームを立ち上げることを発表し、産業人材育成を強化することで一致しました。

国際社会の懸案事項であるシリア問題について、日本は、2014年1月、クウェートで開催された第2回シリア人道支援会合(「クウェート2」会合)、およびスイスで開催されたシリアに関する国際会議(「ジュネーブ2」)会議において、総額約1.2億ドルの追加的な人道支援を表明しました。これにより、日本のシリアおよび周辺国に対する人道支援の総額は約4億ドルとなりました。

また同年9月、中東地域の人道危機へ迅速に対応するとともに、ISILなど中東地域で活発化している過激主義の定着を阻止する一助として、約5,000万ドルの緊急支援を実施することを表明しました。

2014年6月、イラン・イスラム共和国を訪問し、ザリーフ外務大臣との会談においてザリーフ大臣の名前入りW杯日本代表ユニフォームを贈る岸信夫外務副大臣(前)

2014年6月、イラン・イスラム共和国を訪問し、ザリーフ外務大臣との会談においてザリーフ大臣の名前入りW杯日本代表ユニフォームを贈る岸信夫外務副大臣(前)

2014年12月、シリア・ダマスカスの食料配給テントで、食用油などが入った段ボール箱とコメの袋を受け取る住民たち(写真:共同通信社)

2014年12月、シリア・ダマスカスの食料配給テントで、食用油などが入った段ボール箱とコメの袋を受け取る住民たち(写真:共同通信社)

ヨルダン北部のイルビッド県にあるパレスチナ難民キャンプでの「Forsati (フルサティ)キャンペーン」。ForsatiとはMy Chanceの意味。ポスターやパンフレットを配布し、キャンプ住民が持つ女性の就労に対する否定的な意識の変革を目指す取組(写真:新岡真紀/JICA)

ヨルダン北部のイルビッド県にあるパレスチナ難民キャンプでの「Forsati (フルサティ)キャンペーン」。ForsatiとはMy Chanceの意味。ポスターやパンフレットを配布し、キャンプ住民が持つ女性の就労に対する否定的な意識の変革を目指す取組(写真:新岡真紀/JICA)

円借款により2013年10月に開通したボスポラス海峡横断地下鉄(マルマライ)事業。トルコ・イスタンブールのアイリリックチェシュメ駅で日曜午前に利用する乗客たち(写真:澤田聡恵/JICAトルコ事務所)

円借款により2013年10月に開通したボスポラス海峡横断地下鉄(マルマライ)事業。トルコ・イスタンブールのアイリリックチェシュメ駅で日曜午前に利用する乗客たち(写真:澤田聡恵/JICAトルコ事務所)

用語解説
コストシェア技術協力
ODA卒業国のうち、引き続き日本の支援を必要とする開発課題を有する経済・社会状況が認められる国を対象に行う技術協力。これまでJICAを通じた経済協力によって日本が蓄積してきた経験も活用しながら、日本の質の高い技術・知識・経験を提供し、相手国政府に必要な経費を原則負担させる形で実施することにより、相手国の経済社会開発に寄与し、それらの国と日本との良好な二国間関係の維持および増進を図ることを目的としている。

  1. 注5 : Islamic State in Iraq and the Levant

●モロッコ

投資促進政策アドバイザー
専門家派遣(2013年8月~実施中)

住友電装工場

Renault-Nissan工場

モロッコのタンジェ・フリーゾーンの日本企業の工場を訪問(上:住友電装工場 下:Renault-Nissan工場)(写真:円福静雄専門家/JICA)

北アフリカに位置するモロッコは、経済成長・競争力の強化、雇用促進の観点から、海外からの直接投資の受入れを積極的に進めています。また輸出税などを含む税制を優遇する「フリーゾーン」の設置による輸出力強化を推進しています。ほかにも、ビジネス環境委員会や投資促進庁(AMDI※1)を設立するなど、投資環境の改善に向けた取組を行ってきています。

一方で、世界銀行の「Doing Business 2013」※2によると、モロッコはビジネスのしやすい国のランキングで185か国中97位となっており、ビジネス環境にはまだ改善の余地があります。特に、国内では、若い人たちの失業率が30%に近く、社会的不安定の大きな要因となっています。モロッコにとって、雇用の受け皿を拡大する意味でも、製造業の誘致は雇用確保への貢献が大きいことから、極めて重要な課題です。

そのような中、モロッコに進出している日本企業は自動車関連を中心に約35社に上り、欧州向け輸出のための工場を設置し、現地の人たちの雇用改善にも大いに寄与しています。モロッコ政府としてもさらに多くの日本企業による投資の拡大を期待しています。これを受け、日本は、2013年8月から投資促進政策アドバイザーを派遣して、AMDIの日本企業誘致活動を支援しています。また、アドバイザーは、AMDIがモロッコへの投資を検討中、または既に進出している日本企業に対してAMDIから適切な情報提供や相談が行われるよう、AMDIの組織としての能力を強化することに貢献しています。このアドバイザー派遣は、2013年のTICAD(ティカッド) Vで掲げられた支援策の一つである、産業政策アドバイザーをアフリカの10か国に派遣する「経済成長の促進」に基づき実施されているものです。(2014年8月時点)


※1 AMDI:Agence Marocainede de Développement des Investissements(仏語) MIDA:Moroccan Investment Development Agency(英語)
※2 世界銀行 “Doing Business 2013“ TABLE 1.1 Rankings on the ease of doing business

●イエメン

選挙運営管理
国別研修(2013年4月~実施中)

岡山市長・市議補欠選挙の開票状況を視察している研修員(写真:日本政治総合研究所)

岡山市長・市議補欠選挙の開票状況を視察している研修員(写真:日本政治総合研究所)

いわゆる「アラブの春※1」の影響を受けて、2011年2月以降イエメンにおいても政治が混乱し、武力衝突が発生しました。その結果、2012年2月、30年以上も続いたサーレハ政権は崩壊し、新たな大統領が選出されました。2013年3月から新大統領の下で、国民各層からの幅広い参加による国民対話が行われ、2014年1月、その対話における意見を集約した成果文書がまとめられました。その成果文書に沿って、新憲法制定および大統領・国会議員選挙を行う政権移行プロセスが進められていくことになります。このプロセスは、政変が起こった後のイエメンにおける民主化にとってたいへん重要なものであり、今後のイエメンの安定と発展を左右することになることから、日本は積極的に支援しています。

選挙運営管理研修は、イエメンの選挙管理委員会等に属する研修員に対して、民主的な国家に必要とされる、①国民に開かれた、健全に機能する議会、②自由で民主的な選挙の運営方法、③公平で中立的なメディアを確立するための知識等の習得を目指して実施しています。初年度は12名に対して研修を行い、カリキュラムには、岡山市長・市議補欠選挙における投票前日の準備作業から投票および開票状況の視察や研修員による模擬投票の体験が組み込まれました。それにより講義で学んだことがどのように実施されているかを、研修員たちは身をもって体験することができました。

帰国後には、研修員をはじめとするイエメンの関係者間で、本研修で得られた知見などを活かした民主的な国会運営や選挙制度の整備に向けての議論や取組が一層進むことが期待されます。(2014年8月時点)


※1 2010年末から2011年にかけてアラブ諸国で起きた民主化運動の総称。


中東・北アフリカ地域における日本の国際協力の方針 図表 II-11 中東・北アフリカ地域における日本の援助実績
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