1.東アジア地域
東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ、既に開発途上国から援助供与国へ移行した国、カンボジアやラオスなどの後発開発途上国(LDCs)、インドネシアやフィリピンのように著しい経済成長を成し遂げつつも国内に格差を抱えている国、そしてベトナムのように中央計画経済体制から市場経済体制への移行の途上にある国など様々な国が存在します。日本は、これらの国々と政治・経済・文化のあらゆる面において密接な関係にあり、この地域の安定と発展は、日本の安全と繁栄にも大きな影響を及ぼします。こうした考え方に立って、日本は、東アジア諸国の多様な経済社会の状況や、必要とされる開発協力の内容が変化していくことに対応しながら、開発協力活動を行っています。
< 日本の取組 >
日本は、インフラ(経済社会基盤)整備、制度や人づくりへの支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた開発協力を進めることで、この地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。現在は、基本的な価値を共有しながら開かれた域内の協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し地域の安定を確かなものとして維持していくことを目標としています。そのために、これまでのインフラ整備と並行して、自然災害、環境・気候変動、感染症、テロ・海賊などの国境を越える様々な問題に積極的に対応するとともに、大規模な青少年交流、文化交流、日本語普及事業などを通じた相互理解の促進に努めています。
日本と東アジア地域諸国がより一層繁栄を遂げていくためには、アジアを「開かれた成長センター」とすることが重要です。そのため、日本は、この地域の成長力を強化し、それぞれの国内需要を拡大するための支援を行っています。
●東南アジアへの支援
東南アジア諸国連合(ASEAN(アセアン))諸国(注1)は2015年の共同体構築を最大の目標としており、日本はこの目標達成のため、ASEAN域内の連結性を強め、格差を是正するための支援を実施しています。特に、ASEAN諸国の中でも低所得国が多いメコン諸国(注2)を支援することは、域内の格差を是正する点からも重要です。

カンボジアの国道1号線上のメコン川渡河地点に架かるつばさ橋(ネアックルン橋)。国道1号線は南部経済回廊として、タイ(バンコク)、カンボジア(プノンペン)、ベトナム(ホーチミン)を結ぶ。つばさ橋の完成によりメコン川渡河時間が、現行のフェリー利用による渡河時間(閑散期約1時間~繁忙期7時間程度:待ち時間を含む)が5分程度に短縮され、また、24時間の渡河通行が可能になる(写真:JICA)
メコン地域に対する支援に関しては、2012年4月の第4回日本・メコン地域諸国首脳会議で、①メコン連結性の強化、②貿易・投資の促進、③人間の安全保障および環境の持続可能性の確保の3つを柱とする「日メコン協力のための東京戦略2012」が採択されています。翌2013年12月に開催された第5回日本・メコン地域諸国首脳会議において、日本はこれまで行ってきた支援に続き、メコン地域の発展に貢献し、メコン地域内の格差是正に向けて支援を行う考えを表明しました。また、「東京戦略2012」に基づく日メコン協力のこれまでの進展について中間評価を行い、第4回会議で表明した2013年度以降3年間で約6,000億円のODAによる支援が着実に実施されていることを確認しました。2014年8月には、第7回日メコン外相会議を開催し、日メコン協力の進展と今後の方向性について議論が行われました。
メコン地域の中では、特に民主化を進めるミャンマーに対して、2012年4月、日本は経済協力の方針を見直し、急速に進むミャンマーの改革努力を後押しするため幅広い支援を実施していくこととしました。具体的には、少数民族に対する支援を含む、国民の生活向上、法整備支援や人材育成、ヤンゴン・ティラワ地区を中心とするインフラ整備など、日本はミャンマーに対して様々な支援を積極的に行っています。
日本はこのような取組を進めるとともに、貧困の削減を図り、ASEAN域内の格差を是正することにより、域内統合を支援しています。
ASEANは、2010年10月のASEAN首脳会議において、ASEAN域内におけるインフラ、制度、人の交流の3つの分野での連結性強化を目指した「ASEAN連結性マスタープラン」*を採択しました。日本はこのマスタープランの具体化に向けてもODAの活用や官民連携を通じて積極的に支援を行っています。
日・ASEAN友好協力40周年であった2013年には、12月に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議において「日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメント」が採択され、日・ASEAN関係の強化に向けた中長期ビジョンが打ち出されました。これにより、ASEAN連結性強化に向けた日・ASEAN協力が一層促進することが期待されます。また、日本は、2015年の共同体構築を目指すASEANが掲げる「連結性の強化」、「格差是正」を柱に、5年間で2兆円規模のODAによる支援を行うことを表明しました。
加えて防災分野では、2013年11月に発生したフィリピン中部における台風30号「ヨランダ」による甚大な被害を受け、防災ネットワークの拡充や、災害に対して強靱(きょうじん)な社会の実現に向けた支援などを内容とする日・ASEAN防災協力強化パッケージを発表し、この中で、災害対処能力向上、高品質な防災インフラ整備(注3) を柱として5年間で3,000億円規模の支援と1,000人規模の人材育成を実施することを表明しました。

2014年6月、トンシン・ラオス首相(右)と会談する三ツ矢憲生外務副大臣(前)
ASEAN諸国に対しては、これらの意図表明を踏まえ、連結性強化を含むハード・ソフト両面でのインフラ整備、域内および国内格差の是正(人材育成や貧困削減、保健・女性分野の取組など)のほか、防災協力や環境・気候変動分野の支援、海上の安全、法の支配の促進などを重視しつつ、着実に支援を実施しています。そのほかにも、フィリピン・ミンダナオの元紛争地域への集中的な支援や東ティモールの国づくり支援など、平和構築のための取組も行っています。
防災面では、二国間での協力を行うとともに、ASEANに対し、日本が2011年7月に提唱した「ASEAN防災ネットワーク構築構想」に基づく支援を行っています。ASEANの災害対応・防災機関であるAHA(アハ)センター(ASEAN防災人道支援調整センター)を中心に能力の向上支援を実施しています。
食料安全保障面では、ASEAN+3の枠組みで、大規模災害等の緊急時に備えるための取組として、2012年7月にASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)協定が発効しました。この枠組みを通じて、2013年に発生したラオスにおける洪水被害やフィリピンにおける台風被害に対し、米支援を実施し、東南アジア地域の連携を強化しています。
日本は、アジア地域において様々な地域協力に取り組んでいるアジア開発銀行(ADB)との連携を強化しています。たとえば、ADBと共に、5年間で最大2,500万ドル規模の資金を用いて、アジアにおける貿易円滑化のための支援を実施します。また、東アジア地域の国際的な研究機関である東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)とも、「アジア総合開発計画」や「ASEAN連結性マスタープラン」の具体化に向けて協力しています。
- *ASEAN連結性マスタープラン
- 2010年10月のASEAN首脳会議で採択された2015年のASEAN共同体実現に向けた連結性強化のためのプラン。ASEANの連結性強化とは、運輸、情報通信、エネルギー網などの「物理的連結性」、貿易、投資、サービスの自由化・円滑化などの「制度的連結性」、観光・教育・文化などにおける「人と人との連結性」の3つから成る。
- 注1: ASEAN諸国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム
- 注2: メコン諸国:カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス
- 注3: インフラ整備は特に重要との観点から、2014年11月の日・ASEAN首脳会議においても、持続可能で質の高い成長のための「人間中心の投資」を通じたインフラ整備支援の方針を提示するとともに、「人間中心の投資」を推進する4つのアプローチとして①効果的な資金動員、②被援助国や国際機関等とのパートナーシップの強化、③ライフサイクルコストや環境社会面への配慮、④包括的かつきめ細かい支援を紹介した。「人間中心の投資」については、こちらを参照。
●ベトナム
第一次経済運営・競争力強化借款
有償資金協力(2012年1月~2013年1月)

この案件と連携して実施している技術協力「国家銀行改革支援プロジェクト」におけるベトナム国家銀行との協議(写真:JICA)

連携して実施している技術協力「国家銀行改革支援」「国営企業改革実施に向けた企業金融管理能力向上」両プロジェクトのキックオフセミナーの様子(写真:JICA)
ベトナムは、2010年に1人当たりGDPが1,005ドルを超えて低中所得国※1入りを果たし、貧困層の割合も過去20年間で約6割から1割に低下するなど、近年大きな経済発展を遂げています。しかし、これまで成長を支えてきた安価な労働力に依存する組立・加工産業などは、他国との競争に晒されており、ベトナムの国際競争力を高めるために、産業に高い付加価値※2をつけることが急がれています。また、ベトナムは短期的に見ると経済的に安定していますが、インフレ、財政赤字など経済面で構造的な課題も抱えています。
日本は、世界銀行などと協調し、ベトナムが持続的な成長を実現できるよう支援しています。具体的には、財政支援と政策対話を通じ、公共財政管理の強化、脆弱(ぜいじゃく)な金融システムの改善、国営企業における経営効率の向上などに向けた各種政策制度改革について、着実な実行を後押しする協力を進めています。このプロジェクトはその第一段階として実施したもので、ベトナム政府と対話を重ねながら、改革計画の策定、実施状況の確認作業を協働して行います。それを通じて適切な取組を促し、税務管理法の改正、銀行セクター改革と国営企業改革の中期計画策定などの成果を得ました。
また、日本の企業再生、銀行監督、税務などの分野で高い知識と経験を持つ専門家をベトナムに派遣しています。改革計画や実行手法について助言する技術協力や、ビジネス環境の改善に役立つ電子通関システムの導入を支援する無償資金協力を実施するなど、支援をより効果的なものとするための取組を行っています。
※1 参照1、参照2。
※2 価格による競争ではなく、製品やサービスに取引先や顧客が求める価値、満足できる価値を高めて、収益を上げること。
●中国との関係
1979年以降、中国に対するODAは、中国の改革・開放政策の維持・促進に貢献すると同時に、日中関係の主要な柱の一つとしてこれを下支えする強固な基盤を形成してきました。経済インフラ整備支援等を通じて中国経済が安定的に発展してきたことは、アジア太平洋地域の安定にも貢献し、ひいては日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与しました。2008年5月の日中首脳会談において、胡錦濤(こきんとう)中国国家主席(当時)が感謝を表明するなど、中国側も様々な機会に日本の対中国ODAに対して評価と感謝の意を表明してきました。
一方、経済・技術も含め、様々な面で大きく変化を遂げた中国に対するODAによる開発支援は、既に一定の役割を果たしました。中国に対するODAの大部分を占めていた円借款および一般無償資金協力は新規供与を既に終了しました。
現在の中国に対するODAは、日本国民の生活に直接影響する越境公害、感染症、食品の安全等協力の必要性が真に認められる分野における技術協力、草の根・人間の安全保障無償資金協力などのごく限られたものを実施することとしています。
また、そうした対中ODAの大部分を占める技術協力については、日中の新たな協力のあり方として、日中双方が適切に費用を負担する方法を導入することについて両国間で合意しており、今後段階的に実施に移される予定です。

