2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

(4)サヘル地域

「サヘル(注24)諸国」に厳密な定義はありませんが、主に、モーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、チャドの8か国を指します。

サヘル地域は、干ばつ等の自然災害に加え、貧困、国家機能の脆弱さなどにより、政情不安の問題、テロや武器・不法薬物等の不法取引、誘拐等組織犯罪の脅威が深刻になっています。さらに、リビアの国境管理の甘さがテロリストの出入りを助長し、武器密輸の温床となっています。こうした中、この地域全体が無法地帯とならないようにするための治安能力・ガバナンスの強化や、難民等の人道危機への対処および開発が地域および国際社会の課題となっています。

< 日本の取組 >

2014年3月、日本が支援を行っているケニア国際平和維持訓練センターを視察する石原宏高外務大臣政務官(前)

2014年3月、日本が支援を行っているケニア国際平和維持訓練センターを視察する石原宏高外務大臣政務官(前)

日本は、2013年1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件(注25)を受けて、1月29日に岸田外務大臣が外交の3本柱(注26)を発表しました。また、2013年6月に開催されたTICAD Vにおいて、1,000億円の開発・人道支援をはじめとする平和の定着支援の継続を表明し、サヘル地域の平和と安定に向けた取組を加速させています。

2013年にはマリ難民支援として約1.2億ドルの拠出を表明し、マリから周辺国に流出した難民向けに食料や居住用テントの提供や、西アフリカ諸国の軍・警察能力向上のため、平和維持活動(PKO)訓練のためのセンターへの支援などを実施しました。また、マリ・サヘル地域の和解・政治プロセス促進に取り組む「マリ及びサヘル地域のためのAUミッション(MISAHEL)」の活動を支援しています。

また、サヘル地域におけるテロ対策支援として、①サヘル地域刑事司法・法執行能力向上計画(約681万ドル)、②ブルキナファソ・法の支配の強化と貧困層の司法へのアクセス支援計画(約300万ドル)、③モーリタニア・イスラム共和国平和構築、治安維持および司法強化計画(約300万ドル)を実施しています。

これらの支援を通じて、小型武器の流入増大・拡散に対応する能力が強化され、司法サービスが改善されます。その結果、サヘル各国における治安状況が改善して、テロなど潜在的脅威が低減し、ひいては地域全体としての対処能力が向上することが期待されます。

サヘル諸国の平和と安定が達成されるよう、日本は、サヘル諸国および国際機関、そしてほかの支援機関と一層密接な連携を図り、支援を着実に実施していきます。


  1. 注24 : 「サヘル(Sahel)」とはサハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域。主に西アフリカについて用いられるが、場合によりスーダンやアフリカの角の諸地域を含めることもある。語源はアラビア語の「岸辺」という意味。サヘル諸国のことをサハラ南縁諸国ともいう。
  2. 注25 : 武装集団が、アルジェリア東部のティガントゥリン地区にある天然ガス関連施設を襲撃し、作業員などを人質にして立て籠もった。アルジェリア軍部隊が1月19日までに制圧したが、邦人10人を含む40人が死亡した事件。
  3. 注26 : ①国際テロ対策の強化、②サハラ砂漠の南のサヘル・北アフリカ・中東地域の安定化支援、③イスラム・アラブ諸国との対話の推進の3本柱。

●サヘル地域(セネガル、ナイジェリア、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド)

平成25年度対サヘル地域 紛争予防・平和構築無償資金協力
「サヘル地域刑事司法・法執行能力向上計画(UN連携、実施機関(UNODC))」
無償資金協力(2013年~実施中)

港湾管理ユニットが、海外の関係機関からの情報をもとに標的とされたコンテナの検査を実施しているところ(写真:UNODC)

港湾管理ユニットが、海外の関係機関からの情報をもとに標的とされたコンテナの検査を実施しているところ(写真:UNODC)

サヘル地域は、貧困問題が深刻で、また、国家機能が脆弱なため、武器・不法薬物などの不法取引、誘拐などの組織犯罪の温床となることが多く、テロリストが武器を入手しやすい状況にあります。

そこで日本は、こうした状況に対処するためサヘル地域にあるセネガル、ナイジェリア、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェールおよびチャドの7か国を対象に、刑事司法・法執行能力向上のための支援を行っています。具体的には、国連薬物犯罪事務所(UNODC)※1を通じて、テロ対策法の整備や司法面での地域協力促進、銃器の不法取引予防、捜査・訴追等の法執行・司法機関の能力向上、海上貨物管理の能力向上を目的として、ワークショップの開催、調査団の派遣、関連機材の供与等を実施しています。

これまでに、テロ対策のワークショップがブルキナファソ、チャド、モーリタニア、セネガルで開催され、それぞれのワークショップに10~20名の司法関係者が参加しました。また、銃器対策、サヘル地域における銃器不法取引への立法および捜査能力の強化についての地域会議が開催され、サヘル地域の専門家が参加しました。国境管理については、セネガルの合同港湾管理ユニットに対して専門家による助言等を実施しました。

このような協力は、テロや銃器の不法取引などに対する各国の法執行能力・司法機関の対処能力を向上させます。これがサヘル地域各国の治安状況の改善やテロ等の潜在的脅威の低減につながり、ひいては、地域全体としてテロや銃器取引等への対処能力が向上することが期待されています。(2014年8月時点)


※1 UNODC:United Nations Office on Drugs and Crime

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