2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

(6)国境を越える犯罪・テロ

グローバル化やハイテク機器の進歩と普及、人々の移動の拡大などに伴い、国際的な組織犯罪やテロ行為は、国際社会全体を脅かすものとなっています。薬物や銃器の不正な取引、人身取引、サイバー犯罪、資金洗浄(マネーロンダリング)などの国際的な組織犯罪は、近年、その手口が一層多様化して、巧妙に行われています。国際テロ組織アル・カーイダ等の影響を受けた各地の関連組織等はアフリカや中東において活動を活発化させているほか、暴力的過激主義の思想に感化された個人によるテロや外国人テロ戦闘員の問題も深刻な脅威をもたらしています。また、アフリカ東部のソマリア沖・アデン湾の海賊も依然として懸念されます。

国境を越える国際組織犯罪、テロ行為や海賊行為に効果的に対処するには、1か国のみの努力では限りがあります。そのため各国による対策強化に加え、開発途上国の司法・法執行分野における対処能力向上支援などを通じて、国際社会全体で法の抜け穴をなくす努力が必要です。

< 日本の取組 >

薬物対策
日本のUNODCへの拠出金により購入された麻薬探知犬(イラン・アフガニスタン国境)

日本のUNODCへの拠出金により購入された麻薬探知犬(イラン・アフガニスタン国境)

イラン・アフガニスタン国境にてイラン政府が押収したヘロイン(写真:2点とも麓博史/在イラン日本大使館)

イラン・アフガニスタン国境にてイラン政府が押収したヘロイン(写真:2点とも麓博史/在イラン日本大使館)

日本は国連の麻薬委員会などの国際会議に積極的に参加するとともに、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の国連薬物統制計画(UNDCP)基金への拠出などを行い、東南アジア諸国やアフガニスタンを中心に薬物対策を支援しています。2013年度には、約50万ドルをUNDCP基金に拠出して、ミャンマーにおける「けし(麻薬の一種であるアヘンの材料になる植物)」の不正栽培状況のモニタリング、東南アジア地域等における合成薬物の動向調査の分析、あるいは近年西アフリカ地域で覚せい剤が製造され、その多くが日本国内に流入している事態を踏まえ、同地域における薬物取引対策のためのキャパシティー・ビルディング(途上国の能力強化)事業などを実施しました。さらに、世界最大規模でけしの違法栽培が行われ、国際社会の深刻な課題となっているアフガニスタンについては、同国とその周辺諸国の薬物対策(国境管理支援、代替作物開発、薬物乱用防止など)のため、500万ドルの拠出を行いました。

人身取引対策

日本は、人身取引対策について、被害の予防、被害者への支援、法執行機関の能力構築に役立つ支援に加え、日本において認知された外国人被害者の帰国や社会復帰のための支援などに取り組んでいます。

日本で保護された人身取引被害者については、国際移住機関(IOM)への拠出金の支出を通じて被害者の安全な帰国と本国での社会復帰を支援しています。さらに日本は、人の密輸・人身取引および国境を越える犯罪に関するアジア太平洋地域の枠組みである「バリ・プロセス」への支援も行っています。

また、これまでに草の根・人間の安全保障無償資金協力(タイ、ミャンマー)や技術協力(タイ、ミャンマー、ベトナム)を通じた人身取引対策に役立つ支援を行ってきました。

腐敗対策

腐敗対策については、2013年度に20万ドルを犯罪防止刑事司法基金(CPCJF)に拠出し、東南アジア諸国政府関係者を対象とする腐敗対策の取組強化に貢献したほか、中東民主化移行国における財産回復の促進のための支援も行いました。

また、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を通じて、アジア・太平洋地域を中心とした開発途上国の刑事司法実務家を対象に、「汚職事件の効果的な予防・摘発と官民の協力」をテーマとした汚職防止刑事司法支援研修を実施しました。汚職防止刑事司法支援研修は、国際組織犯罪防止条約および国連腐敗防止条約上の重要論点からテーマを選出しており、各国における刑事司法の健全な発展と協力関係の強化に貢献しています。また、東南アジア諸国の「法の支配」と「良い統治(グッドガバナンス)」の確立に向けた取組を支援するとともに、刑事司法・腐敗対策分野の人材育成に貢献することを目的として、2007年から「東南アジア諸国のためのグッドガバナンスに関する地域セミナー」を毎年1回開催しています。2013年はマレーシアのクアラルンプールで「汚職事件の捜査能力の向上」をテーマに開催しました。

サイバー対策

日本は、増大するサイバー犯罪に対処するための国際協調を推進し、特に、アジア・太平洋地域における司法・法執行機関の能力構築支援に取り組んでいます。2013年度には15万ドルをCPCJFに拠出し、米国と協調して東南アジア諸国のサイバー犯罪対処能力向上に向けた取組を支援しました。

テロ対策

国際社会は、テロリストにテロの手段や安住の地を与えないようにし、テロに対する弱点を克服するように努めなければなりません。日本は、テロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国に、テロ対策能力向上のための支援をしています。特に、テロ対策等治安無償資金協力が創設された2006年以降、日本は開発途上国でのテロ対策の支援を強化しています。

日本と密接な関係にある東南アジア地域、在アルジェリア邦人に対するテロ事件が発生したアルジェリア周辺の北アフリカ・サヘル地域におけるテロを防止し、安全を確保することは、日本にとってとりわけ重要であり、より一層力を入れて支援を実施しています。具体的には、出入国管理、航空の保安、港湾・海上の保安、税関での協力、輸出の管理、法執行のための協力、テロ資金対策(テロリストやテロ組織への資金の流れを断つための対策)、テロ防止に関連する諸条約の締結を促進するなど各分野において、機材の供与、専門家の派遣、セミナーの開催、研修員の受入れなどを実施しています。

さらに、2013年1月のアルジェリアにおけるテロ事件を受け国際テロ対策協力を強化する中で、同年6月に開催されたTICAD Vにおいて日本は北アフリカやサヘル地域におけるテロ対処能力向上のために、2,000人の人材育成および機材供与等の支援、サヘル地域向け開発・人道支援1,000億円による地域の安定化への貢献を表明しました。その具体策として、UNODC、国連開発計画(UNDP)等の国際機関の協力の下、北アフリカ・サヘル地域各国向けに警察、国境管理能力向上訓練・研修、PKO訓練センターを通じた治安能力強化、司法制度強化のための支援を実施しています。(注17)また、2013年10月にはアフリカ連合テロ調査・研究センターによる調査ミッション派遣を支援したほか、2014年2月にはUNODCを通じたエジプト、イラクのテロ対策法制度強化支援を行うことを決定しました。

海賊行為への対策

日本は、海洋国家としてエネルギー資源や食料の多くを海上輸送に依存しています。船舶の航行を安全に保つための海賊対策は、日本にとって国家の存立・繁栄に直接結び付く課題です。加えて、海上の安全は、地域の経済発展を図る上でも極めて重要なものです。

近年、アフリカ東部のソマリア沖・アデン湾では、海賊事案(注18)が多発していましたが、国際社会の取組により、2011年に237件あった海賊事案の発生件数は2012年には75件、2013年には15件と激減しました。しかし、海賊事案は減少したものの、海賊を生み出す根本的な原因となるソマリア国内の貧困や若者の就職難等の問題は解決していません。また、ソマリアは、2012年8月に暫定連邦政府から連邦政府に移行したばかりであり、ソマリア自身で海賊を取り締まる能力は未だ十分な水準に達していない状況です。そして、海賊行為を行う犯罪組織が壊滅していない状況を踏まえれば、依然として状況は予断を許さず、国際社会がこれまでの取組を弱めれば、状況は容易に逆転するおそれがあります。

ソマリア沖・アデン湾を航行する船舶の護衛活動に従事する護衛艦(写真:防衛省)

ソマリア沖・アデン湾を航行する船舶の護衛活動に従事する護衛艦(写真:防衛省)

ソマリア海賊問題への取組として、2009年6月に成立した「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(海賊対処法)に基づき、日本は海賊対処行動として海上自衛隊の護衛艦2隻とP-3C哨戒機2機を派遣し、民間商船の護衛や海賊の警戒監視を実施しています。また、海賊行為があった場合の逮捕、取調べ等の司法警察活動を行うため、海上保安官が護衛艦に同乗しています。

ソマリア海賊の問題を解決するには、こうした海上での活動に加え、沿岸国の海上取締り能力の向上や、海賊活動拡大の背景にあるソマリア情勢の安定化に向けた多層的な取組が必要です。これらの取組の一環として日本は、国際海事機関(IMO)(注19)が推進しているジブチ行動指針(ソマリアとその周辺国の海上保安能力を強化するための地域枠組み)の実施のためにIMOが設立したジブチ行動指針信託基金に1,460万ドルを拠出しました。この基金により、イエメン、ケニアおよびタンザニアの海賊対策のための情報共有センターの整備・運営支援を行うとともに、ジブチに訓練センターを建設中です。現在IMOにより、ソマリア周辺国の海上保安能力を向上させるための訓練プログラムが実施されています。

また、日本はソマリアおよびその周辺国における、海賊容疑者の訴追とその取締り能力向上支援のための国際信託基金に対し累計350万ドルを拠出し、海賊の訴追・取締り強化・再発防止に努める国際社会を支援しています。ほかにも海上保安庁の協力の下で、ソマリア周辺国の海上保安機関職員を招き、「海上犯罪取締り研修」を実施しています。さらに、ソマリアにおいて和平が実現するように2007年以降、ソマリア国内の治安の強化、および人道支援・インフラ整備のために約3億2,310万ドルの支援も実施しています。

用語解説
資金洗浄(マネーロンダリング)
犯罪行為によって得た資金をあたかも合法な資産であるかのように装ったり、資金を隠したりすること。例)麻薬の密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した銀行口座に隠す行為。
財産回復(アセット・リカバリー)
財産回復(アセット・リカバリー)とは、旧独裁者等の不正行為によって海外に流出した腐敗収益を各国が凍結・没収し、これを元の国に返還する措置で、腐敗対策分野における国際協力の一環。

  1. 注17 : 「サヘル地域刑事司法・法執行能力向上計画」を参照
  2. 注18 : ソマリア沖・アデン湾の海賊は、航行中の船舶に対して自動小銃やロケット・ランチャーを使って襲撃し、船舶そのものを支配しつつ、乗組員を人質として身代金を要求することが一般的。
  3. 注19 : 国際海事機関 IMO:International Maritime Organization
    2012年1月1日より、IMO事務局長に関水康司前IMO海上安全部長が就任した。
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