(5)防災協力と災害時の緊急援助
世界各国で頻繁に発生している地震や津波、台風、洪水、土石流などによる災害は、単に多くの人命や財産を奪うばかりではありません。災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、災害難民となることが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が途上国の経済や社会の仕組み全体に深刻な影響を与えています。
こうしたことから、開発のあらゆる分野のあらゆる段階において、様々な規模の災害を想定したリスク削減策を盛り込むことによって、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組である「防災の主流化」を進める必要があります。
< 日本の取組 >
●防災協力

イランのテヘランで、災害図上訓練を行っている様子(写真:加藤勝/(株)オリエンタルコンサルタンツグローバル)。案件紹介をご覧ください

トルコ・サカルヤ市において、民間保険会社所有の起震車を利用し、イベント型防災教育を実施。数千人の県内の児童を集めた(写真:南谷太一/JICAトルコ事務所)
日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培われた自らの優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで災害予防および災害復旧分野において積極的な支援を行っています。2005年には、神戸で開催された第2回国連防災世界会議において、国際社会における防災活動の基本的な指針となる「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、持続可能な開発の取組に防災の観点を効果的に取り入れることの重要性が確認されました。日本は国連などと協力してその世界的な実施を推進しています。
また、この会議において、日本はODAによる防災協力の基本方針などを「防災協力イニシアティブ」として発表しました。そこで日本は、制度の構築、人づくり、経済社会基盤の整備などを通じて、開発途上国における「災害に強い社会づくり」を自らの努力で成し遂げることができるよう積極的に支援していくことを表明しました。
2012年の7月3、4日、東日本大震災の被災地である東北3県で「世界防災閣僚会議in東北」を開催し、防災の主流化・強靱(きょうじん)な社会の構築の必要性、人間の安全保障の重要性、ハード・ソフトを組み合わせた防災力最大化の必要性、幅広い関係者の垣根を越えた連携の必要性、気候変動・都市化などの新たな災害リスクへの対処の重要性などを確認し、これらを総合的に推進していく「21世紀型の防災」の必要性を世界に向けて発信しました。また、「21世紀型の防災」を実際に推進していくために、ポスト2015年開発アジェンダにおける防災の位置付け、および本会議の成果を踏まえたポスト兵庫行動枠組の策定の必要性を各国と確認しました。また、2013年~2015年の3年間で防災分野に30億ドルの資金提供を行うことを表明しました。
2015年3月には、仙台市で第3回国連防災世界会議が開催される予定です。同会議においては、兵庫行動枠組2005-2015の後継枠組みが策定される予定であり、その議論を通じて、防災の主流化に貢献していく考えです。
●国際緊急・人道支援

2013 年11 月にフィリピンで発生した台風30号(「ヨランダ」)被害に対して、セブ島ダアン・バンタヤンで、医療活動を行う自衛隊・医療チーム(写真:防衛省)

フィリピン・レイテ州タクロバンの仮設住宅の敷地内にある共同水道で水を汲む少女(写真:谷本美加/JICA)
日本は、海外で大規模な災害が発生した場合、被災国政府、または国際機関の要請に応じ、直ちに緊急援助を行える体制を整えています。人的援助としては、国際緊急援助隊の①救助チーム(被災者の捜索・救助活動を行う)、②医療チーム(医療活動を行う)、③専門家チーム(災害の応急対策と復旧活動について専門的な助言・指導などを行う)、④自衛隊部隊(大規模災害など、特に必要があると認められる場合に、医療活動等の緊急援助活動や輸送を行う)の4つがあります。
また、物的援助としては、緊急援助物資の供与があります。日本は海外5か所の倉庫に、被災者の当面の生活に必要なテント、毛布などを常に備蓄しており、災害が発生したときにはすぐに被災国に物資を供与できる体制にあります。
さらに、日本は、海外における自然災害や紛争の被災者や避難民を救援することを目的として、被災国の政府や被災地で緊急援助を行う国際機関・赤十字に対し、援助活動のための緊急無償資金協力を行っています。
2013年度においては、フィリピン、ミャンマー、南スーダン、ボリビアなど15か国に対して計16件の緊急援助物資の供与を行いました。
また緊急無償資金協力については、2013年度に災害緊急援助として、インド、フィリピン等における自然災害の被災者や、シリア難民・国内避難民への支援を目的として、計8か国に対し約79億円を供与しました。たとえば、シリア難民・国内避難民に対しては、国際機関を通じ計3,500万ドルを拠出し、食料や救援物資、水・衛生等の分野の支援を実施しました。
2013年11月にフィリピン中部で発生した台風被害に対し、約6,000万円相当の緊急援助物資(プラスチックシート等)、3,000万ドル(約30億円)の緊急無償資金協力等の支援を実施しました。加えて、国際緊急援助隊医療チーム、同専門家チーム(早期復旧専門家、油防除専門家)、同自衛隊部隊を派遣しました。自衛隊部隊は、約1,100人から成る過去最大規模の派遣となり、医療・防疫活動、被災民や救援物資の輸送等を実施しました。
また、2014年3月に消息不明となったマレーシア航空旅客機の捜索救助活動では、海上保安庁の捜索機1機と自衛隊機4機をそれぞれ派遣し、国際的な捜索救助活動に参加しました。
●国際機関等との連携
日本は、2006年に設立された「世界銀行防災グローバル・ファシリティ」への協力を行っています。このファシリティ(基金)は、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な低・中所得国を対象に、災害予防の計画策定のための能力向上および災害復興の支援を目的としています。
防災の重要性への認識の高まりを背景に、2006年の国連総会においては、各国と世界銀行など防災にかかわる国連機関が一堂に会しました。この総会で、防災への取組を議論する場として、「防災グローバル・プラットフォーム」の設置が決定され、2007年6月に第1回会合が開催されました。日本は、この組織の事務局である国連国際防災戦略(UNISDR)事務局の活動を積極的に支援しています。2007年10月には、UNISDRの兵庫事務所が設置されました。
2013年5月には、スイスのジュネーブにて防災グローバル・プラットフォームの第4回会合が開催され、172か国から政府関係者、民間団体・NGO等から3,500名以上が参加しました。日本は第3回国連防災世界会議を日本の仙台市で開催することを表明しました。
神戸での第2回国連防災世界会議から8年が経過していることから、日本は、防災グローバル・プラットフォーム会合の場も活用しながら、国際社会における防災活動の基本的な指針となる兵庫行動枠組のフォローアップに積極的に取り組んでいます。
また、ASEAN(アセアン)防災人道支援調整センター(AHA(アハ)センター)に対して、通信設備の支援や人材の派遣等を行うとともに、緊急備蓄物資の提供と物資の管理・輸送体制の構築支援を行っています。
●フィリピン
台風ヨランダ災害緊急復旧復興支援プロジェクト
開発調査型技術協力(2014年1月~実施中)
台風ヨランダ災害復旧・復興計画
無償資金協力(2014年5月~実施中)

復興計画策定ワークショップで、日本からの調査団が作成したハザードマップを用いて、土地利用の考え方を市職員に説明している(写真:JICA)
2013年11月8日に発生した台風30号(フィリピン名:ヨランダ)はフィリピンを直撃し、36州に大きな被害を与えました。中部のビサヤ地方を中心にフィリピンを横断したこの台風は、最大風速が87.5m/s、瞬間最大風速が105m/sと、観測史上例を見ない大きな勢力であり、死者6,000人以上、被災家屋100万戸以上、避難民400万人以上の被害を及ぼしました。多くの都市や街を含む広い範囲が被害を受け、特にレイテ島北部東岸およびサマール島南岸などの貧困層の人々が多く住む地域は甚大な被害を受けました。主要な産業であるココナッツ栽培や漁業などが大きな打撃を受け、今後数年間にわたる生計手段の確保すら危ぶまれる事態となりました。
このような事態を受け、日本は、被災直後の国際緊急援助隊の派遣などの緊急援助に続き、復旧段階の支援として、被災した小学校や病院の再建、被災者の生計を確立するための方策、空港や地方自治体庁舎等の公共施設のインフラの復旧を無償資金協力により支援しています。
また、中長期の復興支援の観点から、切れ目のない協力として、開発調査型技術協力も実施することになりました。これは、日本が持つ災害の経験と防災・復旧の教訓を参考にしつつ、被災地域の早期復旧・復興、そしてより災害に強い社会およびコミュニティを形成することを目的とし、一連のプロセスを包括的に支援するものです。復旧・復興計画策定の支援のほかにも、この調査の中間成果をそれに続く無償資金協力や有償資金協力につなげていくことを想定し、フィリピン政府による復旧・復興の取組を支援していきます。(2014年8月時点)
●イラン
テヘラン地震災害軽減プロジェクト
技術協力プロジェクト(2012年4月~実施中)

災害時の人命救助訓練の様子(写真:高橋亮司/(株)オリエンタルコンサルタンツグローバル)
イランの首都テヘラン市は地震の多発地帯に位置しています。これまで1665年、1830年と、約150年周期で大地震が発生しています。しかし、過去185年間テヘラン市では大規模地震が発生していないため、人々の防災に対する意識が薄れつつあります。そして、適切な防災対策が行われないまま急激な都市化が進んでおり、ひとたび大きな地震が発生すれば未曾有(みぞう)の大惨事になることが心配されています。
このような中、日本は地震の被害想定やマスタープランの策定、災害発生後の初動体制の整備などの協力を行ってきました。このプロジェクトでは、道路における防災計画、コミュニティでの防災計画、早期警報システムの確立や運営などに関するテヘラン市総合防災管理局の能力向上を支援しています。これにより、道路防災、市民啓発(防災教育)、早期警報の3つの分野においてテヘラン市の地震災害に対応する能力が向上することが期待されています。
特に、防災に関する技術のみならず、これまでに日本が経験した阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)といった、これまでの大規模地震から得られた日本の教訓や経験をテヘラン市総合防災管理局やその関係者と共有しました。これらを通じて、行政と市民の防災意識が高まり、災害被害をできる限り小さく抑え、発災後も政府や地方自治体が速やかに応急対応できる、災害に強いまちづくりを目指します。(2014年8月時点)