2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

(2)感染症
ニカラグアで、「シャーガス病の日」啓発活動のため、子どもたちにシャーガス病予防講座を行っている青 年海外協力隊の四宮愛子さん(写真:四宮愛子)

ニカラグアで、「シャーガス病の日」啓発活動のため、子どもたちにシャーガス病予防講座を行っている青 年海外協力隊の四宮愛子さん(写真:四宮愛子)

HIV/エイズ、結核、マラリアなどの感染症は、個人の健康のみならず、開発途上国の経済社会発展に影響を与える深刻な問題です。HIV/エイズと結核に同時に感染する重複感染や、従来の薬が治療効果を持たない多剤耐性・超多剤耐性の結核などの発生で、より深刻さを増していることも大きな問題です。また、新型インフルエンザや結核、マラリアなどの新興・再興感染症への対策や最終段階にあるポリオ根絶に向けた取組を強化することも引き続き国際的な課題です。さらに、シャーガス病、フィラリア症、住血吸虫症などの「顧みられない熱帯病」には、世界全体で約10億人が感染しており(注13)、開発途上国に多大な社会的・経済的損失を与えています。感染症は国境を越えて影響を与えることから、国際社会が一丸となって対応する必要があり、日本も関係国や国際機関と密接に連携して対策に取り組んでいます。

< 日本の取組 >

三大感染症(HIV/エイズ、結核、マラリア)

日本は「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」を通じた支援に力を入れています。グローバルファンドは2000年G8九州・沖縄サミットで、感染症の対策を初めて議論したのをきっかけに設立された、三大感染症対策の資金を提供する機関です。日本は同ファンドの生みの親として、2002年の設立時から資金支援を行ってきており、設立から2014年3月末までに約21.6億ドルを拠出しました。同ファンドによる支援により、これまでに救われた命は870万人以上と推計されています。また、支援を受けている開発途上国において、三大感染症への対策が効果的に実施されるよう、日本の二国間支援でも補完できるようにしています。保健システムの強化、コミュニティ能力強化や母子保健のための施策とも相互に連携を強めるよう努力しています。

二国間支援を通じたHIV/エイズ対策として、日本は新規感染予防のための知識を広め、啓発・検査・カウンセリングを普及し、HIV/エイズ治療薬の配布システムを強化する支援などを行っています。特に予防についてより多くの人に知識や理解を広めることや、感染者・患者のケア・サポートなどには、アフリカを中心に「エイズ対策隊員」と呼ばれる青年海外協力隊が精力的に取り組んでいます。

結核に関しては、「ストップ結核世界計画2006-2015年」に基づき、世界保健機関(WHO)が指定する結核対策を重点的に進める国や、蔓延(まんえん)状況が深刻な国に対して、感染の予防、早期の発見、診断と治療の継続といった一連の結核対策、さらにHIV/エイズと結核の重複感染への対策を促進してきました。2008年7月に外務省と厚生労働省は、JICA、財団法人結核予防会、ストップ結核パートナーシップ日本と共に「ストップ結核ジャパンアクションプラン」を発表し、日本が自国の結核対策で培った経験や技術を活かし、官民が連携して、世界の年間結核死者数の1割(2006年の基準で16万人)を救済することを目標に、開発途上国、特にアジアおよびアフリカに対する年間結核死者数の削減に取り組んできました。2010年にWHOが「ストップ結核世界計画2011-2015年」として改訂したことに合わせ、2011年に「ストップ結核ジャパンアクションプラン」を改訂し、新たな国際保健政策の下で、引き続き国際的な結核対策に取り組んでいくことを確認しました。

乳幼児が死亡する主な原因の一つであるマラリアについては、地域コミュニティの強化を通じたマラリア対策への取組を支援したり、国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))との協力による支援を行っています。

ポリオ

日本は、根絶に向けて最終段階を迎えているポリオについて、ポリオ常在国(ポリオが過去に一度も撲滅されたことのない国で、かつ感染が継続している国)であるナイジェリア、アフガニスタン、パキスタンの3か国を中心に、主にUNICEFと連携してポリオ撲滅を支援しています。パキスタンでは、1996年以降UNICEFと連携した累計100億円を超える支援を行っているほか、2011年8月にはビル&メリンダ・ゲイツ財団と連携して、約50億円の円借款を供与しました。この円借款については、新しい方法(ローン・コンバージョン)が採用されました。一定の目標が達成されるとパキスタン政府の返済すべき債務をゲイツ財団が肩代わりするのです。2014年4月には、高いワクチン接種率などの事業成果が確認されたことから、ゲイツ財団がパキスタン政府に代わって、返済を開始しました。さらに、2013年度には、ポリオ常在国のアフガニスタンに対する約11.9億円の支援、パキスタンに対する約3.9億円の支援を行ったほか、非常在国のザンビアについても約2.2億円の支援を行いました。また、ソマリアには2013年度に緊急対策として1.1億円の支援を行いました。

顧みられない熱帯病(NTDs:Neglected Tropical Diseases)

日本は、1991年から、世界に先駆けて「貧困の病」ともいわれる中米諸国のシャーガス病対策に本格的に取り組み、媒介虫対策の体制を確立する支援を行い、感染リスクを減少することに貢献しました。フィラリア症についても、駆虫剤を供与し、多くの人に知識・理解を持ってもらうための啓発教材を供与しています。また、青年海外協力隊による啓発予防活動などを行い、新規患者数の減少や病気の流行が止まった状態の維持を目指しています。

さらに2013年4月、NTDsを含む開発途上国の感染症に対する新薬創出を促進するための日本初の官民パートナーシップ、一般社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund(ジーヒット ファンド) : Global Health Innovative Technology Fund)を立ち上げました。日本国内外の研究開発機関とのグローバルな連携を推進しながら、低価格で効果の高い、治療薬・ワクチン・診断薬等の研究開発を通じて開発途上国における感染症の制圧を目指します。

予防接種

予防接種は感染症疾患に対して、安価で効果的な手段であることが証明されており、毎年200万~300万人の命を予防接種によって救うことができると見積もられています。(注14)開発途上国の予防接種率を向上させることを目的として2000年に設立されたGaviワクチンアライアンスに対して、日本は2011年に拠出を開始して以来、累計約3,617万ドルの支援を行いました。Gaviは2000年の設立以来の10年間で、2億9,600万人の子どもたちが予防接種を受け、400万人の命が救われたと推計しており、2011年からMDGs達成期限である2015年までにさらに2億4,300万人の子どもたちに予防接種を行い、390万人の命を救うことを目標にしています。

用語解説
新興・再興感染症
新興感染症:SARS(サーズ)(重症急性呼吸器症候群)・鳥インフルエンザ・エボラ出血熱など、かつては知られていなかったが、近年新しく認識された感染症。
再興感染症:コレラ、結核などのかつて猛威をふるったが、患者数が減少し、収束したと見られていた感染症で、近年再び増加してきたもの。
顧みられない熱帯病
シャーガス病、デング熱、フィラリア症などの寄生虫、細菌感染症等を指す。感染者は世界で約10億人に上り、その多くが予防、撲滅可能であるにもかかわらず、死亡に至るケースがある。また感染者が貧困層に多いなどの理由で社会的関心が低いため、診断法、治療法、新薬の開発や普及が遅れている。
Gaviワクチンアライアンス(Gavi, the Vaccine Alliance)
開発途上国の予防接種率を向上させることにより子どもたちの命と人々の健康を守ることを目的として設立された官民パートナーシップ。ドナー(援助国)および開発途上国政府、関連国際機関に加え、製薬業界、民間財団、市民社会が参画している。
旧称は、GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟 GAVI Alliance:the Global Alliance for Vaccines and Immunisation)

  1. 注13 : (出典)WHO "Working to overcome the global impact of neglected tropical diseases" http://whqlibdoc.who.int/publications/2010/9789241564090_eng.pdf
  2. 注14 : (出典)WHO “Health topics, Immunization”  http://www.who.int/topics/immunization/en

●タイ

デング感染症等治療製剤研究開発プロジェクト
科学技術協力(SATREPS)(2009年7月~2013年7月)

研究を指導する日本人研究者(写真:プロジェクトチーム)

研究を指導する日本人研究者(写真:プロジェクトチーム)

抗体研究を行うタイ人研究者(写真:プロジェクトチーム)

抗体研究を行うタイ人研究者(写真:プロジェクトチーム)

デング熱、インフルエンザ、ボツリヌス中毒症などの再興感染症※1は、人口規模が大きい東南アジア地域に発症が多く見られ、国境を越えて感染が拡大することが心配されています。特に、デング熱(デングウイルス感染症)は蚊が媒介する感染病で、熱帯地域で年間5,000万人が感染し25万人の患者が重症となっています。タイでは重症患者が2013年で13万人以上と深刻です。しかし、その治療は感染後の安静などの対症療法のみであり、治療薬は未だ実用化されていません。

このプロジェクトは、疫学(えきがく)的研究※2を通じてタイで重要と考えられる感染症を引き起こす病原体※3に対するヒト由来の抗体を作製し、対象となる感染症の治療製剤開発に役立てることを目的としています。大阪大学微生物病研究所から専門家が派遣され、タイ人および日本人研究者が協働して、研究を進めてきました。

その結果、ヒト由来の抗体の作製に多数成功し、プロジェクト終了時には、その成果に関する学術論文が17本発表され、知的財産の出願も国内で1件、海外で5件を数えます。この成果をもとに新たな治療薬の開発が求められており、既に関心を示したインドの製薬企業と大阪大学との間で今後の研究開発について交渉が始まっています。治療薬実用化の可能性も高まり、大きな期待が集まっています。


※1 「用語解説」を参照。
※2 疾病にかかっていることや健康に関する事象の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする科学研究。
※3 デングウイルス、鳥インフルエンザを含むインフルエンザウイルス、ボツリヌス菌。

●アフガニスタン

結核対策プロジェクトフェーズ2 技術協力プロジェクト(2009年10月~実施中)
感染症病院建設計画 無償資金協力(2011年2月~2013年10月)

2014年1月、アフガン・日本感染症病院の開院式でテープカットする牧野たかお外務大臣政務官(前)(前列右から2人目)

2014年1月、アフガン・日本感染症病院の開院式でテープカットする牧野たかお外務大臣政務官(前)(前列右から2人目)

世界的に流行し、命を落とす人が多い結核、HIV/エイズ、マラリアは「三大感染症」と呼ばれています。アフガニスタンでは、その中でも結核が大きな問題となっており、世界で結核患者数の多い22の「高負担国」(High-burden Countries)の一つに数えられています。このため、同国政府は結核対策の取組を進めています。

日本は2004年から、「アフガニスタン結核対策プロジェクト フェーズ1」を実施し、専門家を派遣しています。結核対策を実施する公衆衛生省の政策や計画の立案能力の強化を支援し、結核菌検査体制を整備しました。また、引き続き質の高い結核対策をアフガニスタン全国で実施するため、2009年には「結核対策プロジェクト フェーズ2」を開始しました。このプロジェクトでは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の資金を活用して結核対策事業(結核検査、啓発活動、投薬治療)に係る研修や調査、機材・医薬品の購入が行われています。また、他国に避難しアフガニスタンに帰国した人々を対象とした結核対策なども開始され、アフガニスタンに住む誰もが質の高い検査・治療が受けられるよう、支援が行われています。

アフガニスタンにおける死亡要因の上位を占める感染症の適切な治療のためには、専用病棟への入院治療が必要な場合もあります。ところが、アフガニスタンでは病院などの治療施設が十分ではないので、やむを得ず外来での治療を行う場合が多く、感染の拡大や通常の結核薬が効かない「薬剤耐性結核」の蔓延(まんえん)が心配されています。このため、日本はアフガニスタン政府からの要請を受け、結核、HIV/エイズおよびマラリアといった感染症治療のための専用病院建設を無償資金協力により支援し、2013年8月に、80床のアフガン・日本感染症病院が首都カブールに完成しました。

アフガン・日本感染症病院は、結核の中でも入院治療を行う必要性が高い薬剤耐性結核、重症エイズ患者、重症マラリア患者の入院治療に使用されており、アフガニスタン初の本格的な感染症対策の病院として大きな期待を集めています。

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