2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

3.地球規模課題への取組

(1)環境・気候変動問題

環境問題についての国際的な議論は1970年代に始まりました。1992年の国連環境開発会議(UNCED、地球サミット)、2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)、そして2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)での議論を経て、国際的にその重要性がより一層認識されてきています。リオ+20を受け、持続可能な開発目標(SDGsの議論等が進められたほか、G8、G20サミットにおいても、環境・気候変動は繰り返し主要テーマの一つとして取り上げられており、首脳間で率直かつ建設的な議論が行われています。環境問題は、未来の人類の繁栄のためにも、国際社会全体として取り組んでいくべき課題です。地球規模の課題に取り組み、持続可能な社会を構築するため、UNESCO(ユネスコ)が主導機関 となり、「持続可能な開発のための教育(ESD」を推進しています。

< 日本の取組 >

環境汚染対策
インドネシアのロンボク島の村の子どもと若者たちが環境保全のため、高倉式コンポスト講習を実施している(写真:辰巳素子/JICA)

インドネシアのロンボク島の村の子どもと若者たちが環境保全のため、高倉式コンポスト講習を実施している(写真:辰巳素子/JICA)

日本は環境汚染対策に関する多くの知識・経験や技術を蓄積しており、それらを開発途上国の公害問題等を解決するために活用しています。特に、急速な経済成長を遂げつつあるアジア諸国を中心に、都市部での公害対策や生活環境改善への支援を進めています。2013年10月9~11日には、熊本県熊本市、水俣市において、「水銀に関する水俣条約」の採択・署名のための外交会議が開催されました。この条約は、水銀が人の健康および環境に及ぼすリスクを低減するため、産出から廃棄まで水銀のライフサイクル全般を包括的に規制するものです。日本は、水俣病の教訓を踏まえ、同様の健康被害や環境汚染が繰り返されてはならないとの強い決意の下、条約交渉に積極的に参加し、また、外交会議のホスト国を務めました。そのほか、途上国における大気汚染対策、水質汚濁対策、廃棄物処理分野に対する3年間で20億ドルのODA支援や、水俣から水銀技術や環境再生を世界に発信する「MOYAIイニシアティブ」(注11)を表明しました。

気候変動問題

気候変動問題は、国境を越えて取り組むべき差し迫った課題です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年10月に公表した最新の第5次統合評価報告書によると、1880~2012年において世界の平均気温は0.85度上昇しているとされています。このような中、先進国のみならず、開発途上国も含めた国際社会の一致団結した取組の強化が求められています。

2013年11月にポーランド・ワルシャワで開催された国連気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)では、2020年以降の枠組みについて、すべての国に対し、自主的に決定する約束草案のための国内準備を開始し、COP21に十分先立ち、準備のできる国は2015年第1四半期までに約束草案を示すことを招請(しょうせい)しました。また、ADP(強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会)に対し、約束草案を示す際に提供する情報をCOP20で特定することを求めることを決定するなど、議論の前進につながる成果が得られ、COP21におけるすべての国が参加する将来枠組みの合意に向けた準備を整えるという日本の目標を達成することができました。

また、日本は、2013年11月に技術で世界に貢献していく「攻めの地球温暖化外交戦略-Actions for Cool Earth、エース(ACE)」を策定し、積極的に地球温暖化対策に取り組んでいます。この戦略は、日本として、温室効果ガスの排出量を2050年までに世界全体で半減、先進国全体で80%削減を目指すという目標を掲げ、イノベーション(技術革新)、アプリケーション(技術展開)、パートナーシップ(国際的連携)の3本柱をもって、技術で世界に貢献する、攻めの地球温暖化外交を推進するものです。その一つとして、日本の優れた低炭素技術などを世界に展開していく二国間オフセット・クレジット制度(JCMを推進しています。これは、クリーン開発メカニズムを補完するものとして、低炭素技術の提供などによって相手国の温室効果ガス削減に貢献し、日本の削減目標の達成に活用する制度です。日本は2013年度末時点で、10か国(モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、およびパラオ)とJCMにかかわる二国間文書に署名し、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、インドネシアとの間で合同委員会を開催しました。2013年度末までに、延べ244件の実現可能性調査、6件の実証事業を実施しています。また、日本はACEの一環として、途上国の緩和・適応対策(注12)に対し、ODA、OOF(その他の政府資金)、民間資金を総動員しました。2013年~2015年の3年間で公的資金1兆3,000億円(約130億ドル相当)、官民合わせて1兆6,000億円(約160億ドル相当)の支援を表明しました。

そのほか、日本は、世界での低炭素成長実現に向けて、次のような様々な地域協力を実施しています。2013年5月には、最大の温室効果ガス排出地域である東アジア首脳会議地域での低炭素成長モデルの構築を推進するために、各国の政府・国際機関関係者を集めた「第2回東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」を実施し、活発な議論が行われました。この対話では、低炭素成長に貢献する技術に焦点を当てて議論し、①政府と自治体、民間セクターの連携強化、②低炭素成長実現のための適正技術の普及、および③市場メカニズムを含むあらゆる政策ツールを総動員することの重要性について各国は認識を共有しました。また、アフリカとの間では、「TICAD(ティカッド)横浜宣言2013」の中で低炭素成長・気候変動に強靱(きょうじん)な開発に関する戦略について言及され、横浜行動計画では本戦略に基づいた支援やJCMの普及・促進を行っていくことが決定されました。

持続可能な開発のための教育(ESD)の推進
名古屋市で開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」における閣僚級会合の様子(写真:文部科学省)

名古屋市で開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」における閣僚級会合の様子(写真:文部科学省)

日本は、持続可能な開発を実現するための教育を重視しており、我が国の提唱により始まった「国連ESDの10年(DESD)」の最終年である2014年11月に「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」を岡山市および愛知県名古屋市において開催しました。また、DESDの始まった2005年からUNESCO(ユネスコ)に信託基金を拠出し、全世界を対象として気候変動教育、防災教育、生物多様性教育に関するプロジェクトを実施するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。

用語解説
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
リオ+20で議論され、政府間での交渉プロセスの立ち上げが合意された開発目標。国ごとの能力等を考慮しつつ、すべての国に適用されるもの。2015年より先の国連の開発アジェンダ(ポスト2015年開発アジェンダ)に統合されることとされている。2014年7月にSDGSオープン作業部会が報告書を提出した。
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
持続可能な社会の担い手を育む教育。「持続可能な開発」とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現在の世代のニーズを満たす」ような社会づくりのことを意味しており、これは私たち一人ひとりが、日常生活や経済活動の場で意識し、行動を変革することが必要であり、このための教育を「持続可能な開発のための教育」という。
攻めの地球温暖化外交戦略(ACE)
2013年1月の日本経済再生本部における安倍総理大臣の指示に基づき、岸田外務大臣が「攻めの地球温暖化外交戦略 - Actions for Cool Earth、 エース(ACE)」の策定を同年11月の地球温暖化対策推進本部にて報告した。この戦略は、①気候変動対策への取組を加速化させる革新的技術の開発、②日本の技術の海外展開、③2013年より3年間で官民合わせて合計1兆6,000億円(約160億ドル)の途上国支援の資金コミットメントの3本柱から成る。
低炭素技術
二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出が少ない環境技術。日本はこの分野で優れた技術を有しており、これを活用し、高効率な発電所、持続可能な森林経営、省エネ・再生可能エネルギーの促進・制度整備、廃棄物管理の支援を通じて、温室効果ガスの排出量を削減する取組を行っている。
二国間オフセット・クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)
温室効果ガス削減につながる技術・製品・システム・サービス・インフラ等の途上国への提供等を通じた、途上国での温室効果ガスの排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標達成に活用する仕組み。
クリーン開発メカニズム
京都議定書によって導入された、各国の温室効果ガス排出削減目標を達成するための手段。途上国での温室効果ガス排出削減量等を、自国の排出削減目標を達成するために利用することのできる制度。

  1. 注11 : 環境省による資金・技術支援。「もやい」とは、船と船をつなぎとめるもやい網や農村での共同作業のこと。「もやい直し」は、対話や共同による水俣の地域再生の取組。
  2. 注12 : 緩和・適応対策とは、温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑制する(緩和)ための対策と既に起こりつつある、あるいは起こり得る影響に対して、自然や人間社会のあり方を調整する(適応)ための対策。

●ベトナム

国家温室効果ガスインベントリー策定能力向上プロジェクト
技術協力プロジェクト(2010年9月~実施中)

プロジェクトの合同調整会議にて、進捗状況を報告するベトナム側の担当者(写真:JICA)

プロジェクトの合同調整会議にて、進捗状況を報告するベトナム側の担当者(写真:JICA)

ベトナムは、約3,400kmに及ぶ長い海岸線と広大なデルタ地帯※1を有し、その地理的な特徴から世界の中でも気候変動の影響を受けやすい国の一つとされています。

一方、急速な経済成長により、ベトナムのエネルギー消費は増え続け、温室効果ガス(GHG)※2排出量が増大しています。GHG排出量の増加率は年に11.5% とアジア主要諸国の中でも最上位であり、効果のあるGHG排出削減策の実行が求められます。このような状況に対し、ベトナム政府は経済開発と環境保全の両立、低炭素社会※3の構築を目指して、自らGHGの排出削減に取り組む方針を掲げました。

気候変動対応政策を策定するには、ある一定期間内にGHGがどこからどれくらい排出されたかの基礎データとなる「国家温室効果ガス(GHG)インベントリー」※4の作成が重要です。しかし、ベトナムには一貫して連続的に比較できるデータがないことが課題でした。このプロジェクトでは、このようなデータを正確かつ継続的に収集する手順や、収集したデータの分析管理の能力向上を専門家派遣や研修員受入れなどを通じ支援しています。これらの能力向上がベトナムにおける気候変動対策の政策立案に活用されることを目指しています。

2010年のベトナムの国家GHGインベントリーは、日本から派遣された専門家の支援を得ながらベトナムの天然資源環境省が主体的に作成し、早速、2014年末に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)※5に提出する第1回隔年報告書において報告される予定となっています。(2014年8月時点)


※1 三角州のこと。河口付近で、枝分かれした2本以上の河川と海で囲まれた三角形に近い形をしている地形。
※2 Greenhouse gas
※3 CO2などの温室効果ガスの排出を抑える社会。
※4 ある期間内に特定の物質(大気汚染物質や有害化学物質など)がどこからどれくらい排出されたかということを示す一覧表を、排出インベントリという。温室効果ガスインベントリはその一種で、二酸化炭素(CO2)など地球温暖化の原因となるガス(温室効果ガス)の排出量や吸収量を、排出源・吸収源ごとに示すもの(温室効果ガスインベントリオフィスHPより http://www-gio.nies.go.jp/faq/ans/outfaq1a-j.html)。
※5 United Nations Framework Convention on Climate Change

生物多様性
西表石垣国立公園(写真:環境省)

西表石垣国立公園(写真:環境省)

近年、人間の活動の範囲・規模・種類の拡大により、生物多様性の喪失が問題になっており、日本は、2010年10月に生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を愛知県名古屋市で開催するなど生物多様性の分野を重視しています。たとえば、OECD-DAC(ダック)の統計サイトによると、生物多様性分野に関する日本の国際支援額は2010年が10億8,000万ドル余り、2011年が14億7,600万ドル余りであり、2年連続で世界第1位の座を占めました。2014年10月には、平昌(ピョンチャン)(韓国)にて第12回締約国会議(COP12)が開催され、COP10で採択された愛知目標の中間評価を行い、愛知目標達成に向けた機運を維持すべく、積極的に貢献しました。

COP12では、途上国向けの生物多様性に関連する国際資金フローを2015年までに(世界全体で、2006-2010の年間資金の平均から)倍増させ、その水準を2020年まで維持することなどが決定されました。

食物多様性

生物に国境はなく、世界全体で生物多様性の問題に取り組むことが必要なことから、「生物多様性条約」がつくられました。その目的:①生物多様性の保全、②生物資源の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公平な配分です。先進国から途上国への経済的・技術的な支援により、生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組を行っています。

用語解説
愛知目標(戦略計画2011-2020)
中長期目標として「2050年までに人と自然の共生の実現」を、短期目標として2020年までに生物多様性の損失を止めるための行動を実施することを掲げ、「少なくとも陸域17%、海域10%が管理され、かつ保全される」など20の個別目標を採択。

●ニカラグア/ コスタリカ

持続可能な電化及び再生可能エネルギー促進計画(2013年~実施中)
グアナカステ地熱開発セクターローン(2013年~実施中)
有償資金協力

コスタリカの「グアナカステ地熱開発セクターローン-ラス・パイラスII」で噴気試験の様子(写真:JICA)

コスタリカの「グアナカステ地熱開発セクターローン-ラス・パイラスII」で噴気試験の様子(写真:JICA)

2012年3月、ウルグアイのモンテビデオで行われた米州開発銀行(IDB)※1年次総会にて、「中米・カリブ地域における再生可能エネルギー及び省エネルギー分野向け協調融資(CORE※2スキーム)」の実施枠組みが締結されました。これは、中米・カリブ地域の8か国を対象として、IDBとの協調融資により5年間で3億ドル相当の円借款を供与する枠組みです。

その実施枠組みでの第1号案件として、日本政府がIDBとの協調融資により実施するのが、ニカラグアの「持続可能な電化及び再生可能エネルギー促進計画」(供与限度額:14億9,600万円)です。ニカラグアは、火力発電への依存度が約77%と高く、地方農村部の電化率が約30%と極めて低い水準にあります。小水力発電所※3建設などの再生可能エネルギーの開発を通じて、電源を多様化したり、地方の電化を進めることなどは、電力分野での課題であり、この計画がその解決に貢献するものと期待されています。

コスタリカの「グアナカステ地熱開発セクターローン」は、COREスキーム実施枠組みに基づく第2号案件です。2013年11月、日本政府とコスタリカ政府との間で560億8,600万円を限度額とする円借款の交換公文(国と国との約束)が締結されました。これを受け、コスタリカ北西部に位置するグアナカステ県に複数の地熱発電所を建設し、再生可能エネルギーによる電力供給を増強します。この事業を通じて気候変動による影響の緩和を図り、コスタリカの持続的な発展に貢献することができます。

ニカラグアとコスタリカの2案件に加え、さらに多くの支援ができるよう、2014年3月に、ブラジルのコスタ・ド・サウイペで開催されたIDB年次総会にて、日本はIDBと「COREスキーム」を改訂する覚書および実施合意書に署名しました。この新たな合意により、円借款の供与目標額は10億ドルに増額され、対象国も19か国となり、IDBとの協調融資の枠組みが拡大しました。日本は、この枠組みも活用し、中米・カリブ地域における環境に配慮した電力事情改善を、引き続き、支援していきます。


※1 IDB:Inter-American Development Bank
※2 CORE:Cofinancing for Renewable Energy and Energy Efficiency
※3 一般的な水力発電は、発電所から比較的遠方にダムを建設して、その間の水位差による水圧と流れで、水車(タービン)を回転して発電する。小水力発電も水の流れで水車を回して発電する原理は同じものの、ダムのような大規模な構造物を必要としない点が特長(構造物を作る場合でも規模は小さい)。 (小水力発電情報サイト(環境省)より http://www.env.go.jp/earth/ondanka/shg/page02.html)

●コートジボワール

コミュニティ参加型森林回復計画(国際熱帯木材機関(ITTO)連携)
無償資金協力(2013年6月~実施中)

荒廃した森林の様子(住民による現地確認)(写真:ITTO)

荒廃した森林の様子(住民による現地確認)(写真:ITTO)

西アフリカのコートジボワールでは、かつて国土の6割を占めていた森林が、開発や過剰な商業伐採、違法伐採などにより急速に減少し、2010年には、国土の約3割までに減少しました。その上、2002年、内戦が国家を二分する状況の下で、多数の国内避難民が森林地域へ侵入し、燃料用等に多くの木々を伐採したことから、森林の荒廃がさらに進みました。
 このため日本は、コートジボワールにおいて活動実績のある国際熱帯木材機関(ITTO)※1と協力して、森林の再生に取り組んでいます。この事業には、樹木と農作物を同時に植栽するアグロフォレストリー方式を導入しています。伐採後の荒廃した土地に苗木とともに芋や野菜などを植え、樹木を育成している間も農作物の収穫を通じて地域住民の生計向上を図るというものです。同時に住民参加の苗木生産を行うことで技術の向上を図り、持続可能な森林経営に関して能力強化を支援します。
 この事業の実施により、東京ドーム430個分に当たる約2,000ヘクタールの荒廃した森林の修復と再生を目指します。また、同国内の約14万ヘクタールの森林の保全に努め、これ以上の荒廃を抑制します。ほかにも、森林修復、再生のための技術や経験が同国の環境・水・森林省や森林開発庁に蓄積されるので、荒廃した森林対策と持続可能な森林経営が全国的に展開されることが期待されています。(2014年8月時点)


※1 ITTO:International Tropical Timber Organization

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