2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

(2)情報通信技術(ICT)

情報通信技術(ICT)の普及は、産業を高度化し、生産性を向上させることで、持続的な経済成長の実現に役立ちます。また、開発途上国が抱える医療、教育、エネルギー、環境、防災などの社会的課題の解決にも貢献します。ICTの活用は、政府による情報公開を促進し、放送メディアを整備し、民主化の土台となる仕組みを改善します。このように、便利さとサービスの向上を通じた市民社会の強化にとってICTは非常に重要です。

< 日本の取組 >

マレーシア・マラッカにあるモンフォート青少年センターでコンピュータの基礎やインターネットの接続などを指導する青年海外協力隊員の中山天志さん(写真:安田菜津紀(スタディオアフタモード)/JICA)

マレーシア・マラッカにあるモンフォート青少年センターでコンピュータの基礎やインターネットの接続などを指導する青年海外協力隊員の中山天志さん(写真:安田菜津紀(スタディオアフタモード)/JICA)

2014年9月、中米での本格放送開始後、初となる「地デジ(ISDB-T)フォーラムin Costa Rica」を開催(写真:総務省)

2014年9月、中米での本格放送開始後、初となる「地デジ(ISDB-T)フォーラムin Costa Rica」を開催(写真:総務省)

日本は、地域・国家間に存在するICTの格差を解消し、すべての人々の生活の質を向上させるために、開発途上国における通信・放送設備や施設の構築、およびそのための技術や制度整備、人材育成といった分野を中心に積極的に支援しています。

具体的には、電気通信に関する国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)と協力して、日本は開発途上国に対して電気通信分野における様々な開発支援を行っています。2013年2月には、世界共通の課題である医療分野の課題解決に役立てるため、ICTを活用したe-Healthを開発途上国に普及していくためのワークショップ(参加型の講習会)等を国内の情報通信企業との連携の下、日本(東京)で開催しました。また、2014年10月から11月に韓国の釜山で開催されたITU全権委員会において、エボラ出血熱の撲滅のためのICT利用について、新たな決議が採択されました。日本はこれに賛同し、ITUが実施する取組を支援することを表明しました。

アジア・太平洋地域では、情報通信分野の国際機関であるアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia Pacific Telecommunity)が、2014年9月にブルネイで開催されたAPT大臣級会合において、アジア・太平洋地域における「スマートデジタルエコノミー」の創造に向けて今後加盟国およびAPTが協力して取り組んでいくための共同声明を採択するなど、地域的政策調整役として、アジア・太平洋地域における電気通信および情報基盤の均衡した発展に寄与しています。日本は ICTの格差解消や開発途上国が抱える防災・医療等の社会的課題を解決するため、APTを通じたICT分野の研修やICT技術者/研究者交流等の人材育成支援を行っています。

2014年6月には、防災と通信に関し、緊急通信や警報システムの有効性や活用等について知識や経験を共有し、今後の課題や取組について意見交換などを行うワークショップを東京で開催しました。

また、2015年のASEAN共同体実現に向けて、ASEAN各国の連結性強化が求められており、ICTは連結性強化の重要な柱の一つとして位置付けられています。ASEANにおいては、2011年1月に「ASEAN ICTマスタープラン」が策定され、同年11月には日・ASEAN首脳会議で採択された共同宣言(バリ宣言)に「ASEANスマートネットワーク構想」等のICT分野における協力の強化が盛り込まれました。日本はODAも活用してミャンマーのICTインフラ整備を支援するなど、情報通信分野における協力を進めているところです。

さらにASEANとは、特に近年各国の関心が高まっているサイバー攻撃を取り巻く問題について、2013年9月に、日・ASEANサイバーセキュリティ協力に関する閣僚政策会議が日本(東京)で開催されました。

あわせて、日本の経済成長に結びつける上でも有効な、地上デジタル放送日本方式(ISDB-Tの海外普及活動に、整備面、人材面、制度面の総合的な支援を目指して積極的に取り組んでいます。ISDB-Tは、2014年5月現在、中南米、アジア、アフリカ各地域において普及が進み、計16か国で採用されるに至っており、ISDB-T採用国(注9)への支援の一環として、2009年度から現在までフィリピン、エクアドル、コスタリカなど8か国に専門家を派遣し、技術移転を実施しています。さらに、ISDB-T採用国および検討国を対象としたJICA研修を毎年実施し、ISDB-Tの海外普及・導入促進を行っています。

用語解説
情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)
コンピュータなどの情報技術とデジタル通信技術を融合した技術で、インターネットや携帯電話がその代表。
国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)
電気通信・放送分野を担当する国連の専門機関(本部:スイス・ジュネーブ。193か国が加盟)。世界中の人が電気通信技術を使えるように、①携帯電話、衛星放送等で使用する電波の国際的な割当、②電話、インターネット等の電気通信技術の国際的な標準化、③開発途上国の電気通信分野における開発の支援等を実施。
アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)
1979年に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関。同地域の38か国が加盟。同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的政策調整等を実施。
地上デジタル放送日本方式(ISDB-T:Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial)
日本で開発された地上デジタルテレビ放送方式。緊急警報放送の実施、携帯端末でのテレビ受信およびデータ放送等の機能により、災害対策面および多様なサービス実現といった優位性を持つ。

  1. 注9 : ブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エクアドル、コスタリカ、パラグアイ、フィリピン、ボリビア、ウルグアイ、モルディブ、ボツワナ、グアテマラ、ホンジュラス、スリランカの16か国(2014年5月時点)
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