2.持続的成長
(1)経済社会基盤
開発途上国における貧困の削減のためには、貧困層の人々に直接役に立つ貧困対策や社会開発分野の支援のみならず、経済の持続的な成長が不可欠です。そのためには、開発途上国の発展の基盤となるインフラ(経済社会基盤)の整備が重要となります。
< 日本の取組 >

タンザニアのニューバガモヨ道路拡幅工事で、地元労働者を指導する日本人技師(写真:久野武志/JICA)
日本は、開発途上国の開発政策に基づいて、インフラ整備の支援とこれらインフラを整備、管理、運営するための人材を育成しています。具体的なインフラ整備として挙げられるのは、都市と農村との交流拡大や災害からの安全確保、および海外との貿易・投資を促進できるよう道路、港湾、空港、情報通信技術(ICT)などを整備することです。また、教育、保健、安全な水・衛生環境、住居を確保し、病院や学校などへのアクセスを改善するための社会インフラ整備や、地域経済を活性化させるため農水産物市場や漁港などの整備を行っています。

モンゴルの首都ウランバートルにおいて実施されている新国際空港の滑走路建設現場(写真:脇坂豊/JICAモンゴル事務所)

タイ・バンコク中心部のチットロム変電所とバンカピ変電所をつなぐ地中送電ケーブル。既存のケーブルは損傷や老朽化が著しく、維持管理が困難となったため、日本の支援により両変電所間に地中送電用トンネルの建設と、新規送電ケーブル2回線の敷設をしている(写真:久野真一/JICA)
●モンゴル
都市開発実施能力向上プロジェクト
技術協力プロジェクト(2010年6月~2013年5月)

無秩序に広がるゲル地区(写真:JICA)

近代的な街並みと斜面沿いに広がるゲル地区(写真:JICA)
モンゴルの首都ウランバートル市では、地方から遊牧民が流入し、1998年に65万人だった人口は、2007年に100万人を突破し、2012年には131万人まで増加。全人口の約40%が集中しています。同市は盆地状の形状をしており、流入した遊牧民は都市のインフラが整備されていない山の斜面に、「ゲル」と呼ばれる移動式住居を建てて生活をするため、都市が無秩序に拡大しつつあります。同市の人口の6割が居住しているといわれる、「ゲル地区」には、集合的な暖房設備であるセントラルヒーティング※1がなく、暖炉用に石炭を使うため、大気汚染などの環境問題も深刻になっています。
ウランバートル市が持続的に発展していくためには、人口増加を踏まえた都市計画の策定とインフラの整備が急がれます。こうした背景から、日本は2007年からウランバートルの都市開発マスタープランの策定に協力しました。そして、このマスタープランの実施を支援するため、引き続き、2010年から2013年まで都市開発実施能力向上プロジェクトを実施しました。
このプロジェクトでは、合計14名の専門家を派遣し、土地利用の規制など都市計画に関連する法制度の整備を支援しています。その成果の一つである都市再開発法案はモンゴル国会において法制化に向けた審議が行われています。ほかにも、都市整備・開発事業の実施に必要な行政能力の強化を支援しています。
また、モンゴルでは、気候が似ている北海道の寒冷地技術※2への関心が高いことから、旭川市の協力を得て専門家を派遣したほか、モンゴル人専門家が日本における研修で北海道を視察しました。近年では、札幌市との間でも寒冷地都市開発分野での技術交流が行われています。
このようにモンゴルでは、都市開発マスタープランに基づくインフラ整備が進められており、都市交通システム、都市基礎インフラの整備などに日本の技術や知見が活用されています。
※1 火力発電所からの温水を供給する暖房システム。ウランバートル市内では一般的。
※2 高気密・高断熱の建物建築や道路の凍結防止など寒冷地特有の技術。
●ガーナ
クマシ都市圏総合開発計画プロジェクト
開発計画調査型技術協力(2011年12月~2013年9月)

2013年6月、開発計画の内容を国のハイレベルの要人にまで説明するために開催した国家ハイレベル会合の様子(写真:JICA)
ガーナ第二の都市で、約191万人が居住するクマシ市は、農業や農産物加工業、木材、鉱物資源等の集積地として地域経済を支えるとともに、周辺の内陸国であるブルキナファソやマリ、ニジェールへつながる国際物流網の経由地として重要な機能を果たしています。ところが、近年、周辺都市を含むクマシ都市圏では、急速に人口が増加したため、中心市街地での交通渋滞が著しく、市街地がほぼ無計画に拡大してしまい、公共サービスが行き届かないなど、都市環境が悪化しつつあります。増加する人口に道路ネットワーク、上下水道システム、廃棄物処理等の都市インフラの整備が追いつかないのです。
問題は、同地域に市レベルより一段階上の地域レベルでの行政的枠組みや広域の都市計画が存在しないことです。クマシ都市圏には、ガーナおよび地域全体の物流の要衝として持続的な成長と開発を目指す上で、必要な、中長期的かつ包括的な戦略計画が求められていました。
このような状況を受け、日本は、都市計画、交通、上下水道、電力、経済開発等、幅広い分野の専門家16名を派遣し、社会開発と経済開発との調和のとれたクマシ都市圏整備、総合都市開発マスタープランの策定と、技術移転を通じた環境・科学・技術省都市計画局の計画推進能力の向上を支援しました。
●カンボジア
プノンペン都総合交通計画プロジェクト
開発計画調査型技術協力(2012年3月1日~実施中)

2013年8月に開催したステークホルダー会合での関係機関、市民、有識者らとの議論(写真:JICAカンボジア事務所)

2014年2月に実施した公共バス社会実験。プノンペン初の公共交通導入の試みについて地元・国外からも関心を集めた(写真:JICA調査団)
人口約135万人を抱えるカンボジアの首都プノンペンでは、近年の経済発展を背景に登録車両台数が増加し続けています。プノンペンの主要な通路の一つである環状271号線の2011年の交通量は2000年に比べて9.1倍となるなど、交通渋滞と交通事故発生率は悪化の一途をたどっています。
2000年代から日本はカンボジアに対し、市街地の道路整備や公共交通(バス)導入計画などを骨子とする総合都市交通マスタープランの策定や、市内の道路・橋梁(きょうりょう)整備、信号設置などを含む交差点改良に関する支援を行ってきました。しかし、公共バスの導入は未だ実現しておらず、拡大した都市圏からの車両の流入が増える中、有効な手立てを打つことができていません。
このような背景から、日本は、プノンペンの新たな交通事情に基づく需要予測を盛り込んだ総合都市交通マスタープランの更新と優先プロジェクトの提案のための技術協力を行っています。このマスタープランの策定に当たっては、4.3万人を対象とした大がかりな交通調査を実施し、交通需要モデルを検討しました。また、初の公共交通導入の試みとして公共バスを1か月間運行する社会実験を実施し、地元関係者や国外からも高い関心を集めました。さらに、プノンペンが主体的に取り組めるよう、都市交通政策担当者への技術移転や能力向上も図りました。
更新される総合都市交通マスタープランは、安全性や快適性に加え、都市における環境の調和といった視点も取り入れています。それには、都市鉄道やLRT(Light Rail Transit)※1による公共交通インフラの整備などの中長期的な方策から、市内の駐車管理、信号交差点の交通管理の強化など、近い将来に取り組むべき行動計画(アクションプラン)も盛り込まれています。(2014年8月時点)
※1 低床式車両の活用や軌道・電停の改良により乗降が容易で、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を持つ次世代の軌道系交通システム。
(国土交通省HPより http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html#2)
●ケニア
ナイロビ都市開発マスタープラン策定プロジェクト
技術協力プロジェクト(2012年11月~2014年8月)

ナイロビ市役所から市内のビジネス街を望む(写真:JICAプロジェクトチーム)
2030年までに中所得国になることを目指すケニアの首都ナイロビ市は、経済規模のみならず、政治的、社会的にも非常に重要な位置を占めています。しかし、ナイロビ市では、包括的な都市計画が1973年からおよそ40年間も更新されておらず、都市開発の方向性が定まっていませんでした。
1980年には80万人であったナイロビ市首都圏の人口は、その30年後の2009年には310万人となり、さらに2030年には520万人にまで増加すると見込まれています。こうした人口の急増に伴う交通渋滞やスラムの拡大、環境悪化などの問題は長年放置され、経済活動や住民生活に著しく支障を来すほど深刻になっています。今後の発展には、交通網、居住環境、廃棄物処理、そして給水などの整備を含む様々なセクターにまたがる整合性のある都市計画を策定することが必要となります。
このプロジェクトでは、同市における2030年を目標とした都市開発マスタープランの策定を支援しました。総勢18名のコンサルタントを派遣して、都市計画、土地利用計画、道路・都市交通、環境管理、産業振興、電力計画、上下水道排水計画、人材育成など多岐にわたる分野で、日本の技術と経験を活かした支援を実施しました。たとえば、交通実態調査を行い、その結果をもとに将来の交通需要予測を行い、ナイロビ市の都市計画に反映しています。日本が支援して策定されたマスタープランが、2030年を目標としたナイロビ市の開発に役立つものとなり、第4次ナイロビ市都市開発計画として政府により承認されることが期待されます。