(6)雇用、社会保障
「労働」、すなわち「働く」ということは、社会を形成している人間の根本的な営みであり、職業に就くことによる所得の向上は、貧困層の人々の生活水準を高めるための重要な手段となります。しかし、2013年、世界の失業者は約2億人に達しており(注7)、厳しい雇用情勢が続いています。こうした状況の中で安定した雇用を生み出し、貧困削減につなげていくためには、社会的なセーフティー・ネットを構築してリスクに備えるとともに、一つの国を越えて地域レベルで、「ディーセント・ワーク(Decent Work、働きがいのある人間らしい仕事)」(注8)を実現することが急務です。
また、若者や女性など、社会において弱い立場にある人々、特に障害のある人たちが、社会に参加し、包容されるように、能力強化とコミュニティづくりを促進していくことも重要です。
●雇用
日本は、開発協力において重要課題としている貧困削減に対するアプローチの一つとして、雇用創出を挙げています。日本は、この考えに基づき、職業訓練を通じて求職者の生計能力の向上を図るための支援を行うとともに、「ディーセント・ワーク」の実現に向け、雇用保険制度の構築支援や労働安全衛生の取組支援など社会的保護の拡充等についての支援を行っています。
また、フィリピンにおける台風被害のような自然災害に対応するための雇用創出事業や、アフリカにおける紛争地域への人道支援の実施のため、日本は、国際労働機関(ILO)に対して任意の資金拠出を行うなど、国際機関を通じた活動にも積極的に関与しており、世界の労働問題の解決のために大きな役割を果たしています。
●障害者支援

エルサルバドル東部に位置するサンミゲル県の東部統合リハビリテーションセンターで脳性まひの子どもにセラピーを実施する西田尚シニア海外ボランティア(写真:エルネスト・マンサノ/JICA)
日本は開発協力において、ODA政策の立案および実施に当たり、障害のある人を含めた社会的弱者の状況に配慮することとしています。障害者施策は福祉、保健・医療、教育、雇用等の多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術・経験などをODAやNGOの活動などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています。たとえば、鉄道建設、空港建設においてバリアフリー化を図った設計を行ったり、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行ったりするなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています。
また、開発途上国の障害者支援に携わる組織や人材の能力向上を図るために、JICAを通じて、開発途上国からの研修員の受入れや、理学・作業療法士やソーシャルワーカーをはじめとした専門家、青年海外協力隊の派遣などの幅広い技術協力も行っているところです。
2014年1月には、日本は障害者権利条約を批准しました。同条約は、独立した条項を設けて、締約国は国際協力およびその促進のための措置をとることとしています(第32条)。日本は、今後もODA等を通じて、途上国における障害者の権利の向上に貢献していきます。
- 注7 : (出典) ILO “Global Employment Trends 2014”
- 注8 : 「ディーセント・ワーク」という言葉は、1999年にILO総会において初めて用いられたもの。
●リビア
リハビリテーション技術研修等
国別研修(本邦研修)(2012年9月~実施中)

義肢装具の製作技術を学ぶ研修生(写真:JICA)
リビアでは、大規模な民主化運動、武力闘争を経て、2011年に新政権が樹立しました。それから約3年が経ち、国の復興が進められる中、内戦で負傷した多くのリビア人に対し治療やリハビリを行い、彼らが早期に社会復帰できるよう後押しすることが差し迫った課題となっています。しかしながら、理学療法や義肢装具製作に携わる人材が少なく、その知識や技術レベルも数十年前に国外で研修を受けただけ、というように医療・社会保障分野の人材が「量」と「質」の両面で不足しています。まず、この状況を改善する必要がありました。
日本は、2012年からリビアの医療・社会保障分野の人材育成を支援するため、リビア社会省、保健省やリハビリテーションセンターの職員たちを招聘(しょうへい)し、日本のリハビリテーション分野での取組や義肢製作技術を学ぶ研修を実施しています。義肢とは、外傷や疾病等で、手や足を失った人が装着する人工の手足(義手・義足)のことです。採寸・採型から利用者一人ひとりに合った義肢を製作、調整するには専門的な知識・技能が求められます。
2012年9月には、義肢リハビリテーション・マネジメント研修が行われ、社会大臣を含む13名の参加者は義肢に関する法律・政策、構造、人材育成システム、サービス提供などに対する理解を深めました。また、2013年10月および2014年1月に、計12名の医療従事者を招聘し、リハビリテーション技術(医師・理学療法士)研修を実施しました。2013年11月には、リビア人義肢装具士4名に対し、義肢や装具の製作技術の研修を実施するとともに、義肢装具の技術をリビア国内で普及させるために必要な研修機材を供与しました。(2014年8月時点)

キルギスの小児科リハビリ室で、歩行訓練を行う青年海外協力隊(理学療法士・作業療法士)の野口俊一さん(小児リハビリ専門)(写真:鈴木革/JICA)