(5)ジェンダー
開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多いため、女性は様々な面で脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい状況にあります。政府による高度な意思決定など公の場に限らず、家庭など私的な場面でも、自分たちの生活に影響を及ぼす意思決定に参加する機会を、女性が男性と同じように持っているとはいえない状況が続いています。(注6)一方で、女性は開発の重要な担い手でもあり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。
持続的な開発を実現するためには、ジェンダー平等の推進と女性の地位向上の推進が不可欠であり、そのためには男女が等しく開発へ参加し、等しくその恩恵を受けることが重要となります。
< 日本の取組 >
日本は、これまで開発協力において、開発途上国の女性の地位向上に取り組むことを明確にしています。
1995年に、女性を重要な開発の担い手であると認識し、開発のすべての段階(開発政策、事業の計画、実施、モニタリング、評価)に女性が参加できるよう配慮していく考え方である「開発と女性(WID)イニシアティブ」を策定しました。2005年には、WIDイニシアティブを抜本的に見直し、援助対象社会の男女の役割やジェンダーに基づく開発課題やニーズを分析し、持続的で公平な社会を目指そうとするアプローチ「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」を新たに策定しています。

ケニア西部ホマ・ベイ郡ビタに建設中の漁村の女性のための作業所建設プロジェクト。センターの完成を心待ちにしている地域の女性たち(写真:柏原ルミコ/在ケニア日本大使館)

2014年9月に開催された、WAW! Tokyo 2014の分科会2(グローバルな課題と女性のイニシアティブ)において発言するバングーラ紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表
従来のWIDイニシアティブは、女性の教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの重点分野に焦点を当てていました。GADイニシアティブは、これに加え、男女間の不平等な関係や、女性の置かれた不利な経済社会状況、固定的な男女間の性別役割・分業の改善などを含む、あらゆる分野においてジェンダーの視点を反映することを重視して策定されています。また、開発におけるジェンダー主流化*を推進するため、政策立案、計画、実施、評価のすべての段階にジェンダーの視点を取り入れるための方策を示しています。さらに、開発協力の重点課題である貧困削減、持続的成長、地球的規模問題への取組、平和の構築、それぞれについてのジェンダーとの関連、そして、これらに対する日本の取組のあり方を具体的に例示しています。
日本は、2011年に国連システムの中の4つの部門を統合し設立された、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(自らの力で問題を解決することのできる技術や能力を身に付けること)のための国連機関(UN Women(ウィメン))を通じた支援も実施しており、2013年度には約645万ドルの拠出を行い、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する暴力撤廃、平和・安全分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化等の取組に貢献しています。
2013年6月の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)では、女性と若者のエンパワーメントを基本原則の一つに掲げ、女性の権利確立や雇用・教育機会の拡大のため、アフリカ諸国、開発パートナーなどと共に取り組んでいくことを表明しました。また、2013年9月、第68回国連総会における一般討論演説において、安倍総理大臣は、「女性が輝く社会」の実現に向けた支援の強化を打ち出しました。具体的には、UN Women、国連開発計画(UNDP)、 国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))、国連人口基金(UNFPA)、国連世界食糧計画(WFP)など関連国際機関との連携を通じた支援の強化のほか、「女性の社会進出推進と能力強化」、「国際保健外交戦略の推進の一環としての女性の保健医療分野の取組強化」、「平和と安全保障分野における女性の参画・保護」を3つの柱として、2013~2015年の3年間で30億ドルを超えるODAを実施することを表明し、着実に実施しています。
2014年9月には、「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」(WAW! Tokyo 2014)を開催し、国内外から参加した約100人の女性分野におけるリーダーがグローバルな課題についても議論し、「WAW! To Do」という12の提言が発信されました。
- *ジェンダー主流化
- あらゆる分野での社会的性別(ジェンダー)平等を達成するための手段。GADイニシアティブでは、開発におけるジェンダー主流化を「すべての開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、影響を明確にしていくプロセス」と定義している。
- 注6 : (出典)The Millennium Development Goals Report 2013
●ナイジェリア
女性の生活向上のための女性センター活性化支援プロジェクトフェーズ2
技術協力プロジェクト(2011年2月7日~実施中)

縫製技術の習得を目指す女性(写真:JICA)
ナイジェリアでは、成人識字率や所得などにおいて、男女の差が大きく、ジェンダー格差が明白に存在します。コミュニティや世帯レベルの女性の役割も男性に比べ限られています。こうした状況に対し、同国政府は連邦女性省を設立し、国家ジェンダー政策を策定するなど、ジェンダー平等を推進するための政策・制度的枠組みを整備してきました。また、1980年代後半から、主に村落部の女性を対象に識字教育・職業訓練を行う女性開発センター(WDC)※1を全国に700か所以上設置しました。
そうした取組にもかかわらず、多くのWDCでは女性に対する十分なサービスを提供できていませんでした。そのため、日本は同国政府の要請に基づきWDCが貧困層女性の生活向上に貢献する「学びとエンパワーメントの場」として活用されるよう、 北部のカノ州で2007年から3年間、「女性センター活性化支援プロジェクト」のフェーズ1を実施しました。
このプロジェクトでは、WDCで提供される識字、裁縫、料理、染色、石けんづくりなどの教育・技術訓練コースにおいて講師に対する研修を行ったり、教育・コースの実施に必要な機材を供与したりするなど、質の向上に寄与しました。その結果、そうした技術や能力を身に付けた女性は経済的な利益を得られるようになりました。ほかにも、行動範囲が広がったり、自身の発言や決断に自信を持つことができるようになり、女性のエンパワーメントにつながりました。また、プロジェクトでは、女性がWDCへ通うことについて周囲の理解が得られるよう、男性や宗教指導者、村落の長など地域社会の有力者を含めた関係者へ働きかけました。その結果、女性がWDCへ通うことを応援する例も多く見られるようになりました。
2011年から始まったフェーズ2ではカノ州の経験を踏まえ、その他の州においてもWDC活性化を全国で推進しています。また、そのために必要な4つの条件といえる、①サービスの質の向上、②女性が経済活動に携わることに対するコミュニティの理解の促進、③マネージメントの向上、④関係機関との連携強化を、「WDC活性化モデル」として整理しました。ナイジェリアは宗教や文化の多様な国ですが、このモデルが他州でも機能し、全国レベルで普及・定着が進むことを目指します。(2014年8月時点)
※1 WDC:Women Development Centre