国際協力の現場から 05
アフリカの湿地を甦らせる日本の挑戦
~ウガンダで住民が期待する湿地管理プロジェクト~

養殖ケージの中のティラピアを見るオコチェさん(写真:村松康彦)
「日本のプロジェクトが始まったころから、湿地の環境は着実に改善されています。そのおかげで、対象の地域は天然のティラピアにとって良い産卵地となり、養殖用ケージの周りでは天然の魚の数も増えました。」
東アフリカのウガンダ東部ブケデア県に住むジョーゼフ・オコチェさんは、NGO「ティラピア・パパ」の仲間とともに、近くの湖でティラピアの養殖を行い、環境改善と住民の生計向上に取り組んでいます。ティラピアとは白身の淡水魚、美味で食感も良くウガンダでは人気の魚です。オコチェさんたちは、ティラピアが入ったケージを湖に浮かべるケージ養殖を行っています。
ウガンダでは10年ほど前まで北部を中心とする反政府勢力が侵攻してくるため、隣接地域では多くの住民が避難生活を強いられ、経済は疲弊しました。ブケデア県もそうした地域の一つです。内戦が一段落した後も洪水や干ばつにより、地元住民にとっては困難が続きました。オコチェさんは、奨学金を得て大学で水産学を学びましたが、故郷の惨状を目の当たりにして、自分の学んだ水産を通して再び村をもり立てようと「ティラピア・パパ」の活動に取り組んでいます。湖と隣接する湿地は、多種多様な生物を育み、様々な恩恵をもたらします。地元民にとり、また、外から来る人にとっても、重要な収入源となるのです。
「ブケデア県では、内戦後、湖周辺の耕作や狩猟が増え、湖の環境が大きく変わってしまい、かつては見られなかった植物が繁茂し、魚も捕れないような状況でした。故郷の再生のために何かしなければとの思いから、私たちは環境を保全しながら水産養殖を通じた地域振興を目指しています。」とオコチェさん。
ウガンダは、国土の約13%がこのような湿地に覆われ、およそ7,000もの湿地があるといわれています。ところが近年、無計画な開墾などから、ここ15年の間に国土の約25%の湿地が減少したといわれています。ウガンダ政府は、湿地の保全と持続可能な管理を国の重要課題と位置付けているものの、明確な管理計画が策定されておらず、そのため必要なデータも十分に整備されていませんでした。その結果、土壌や水の環境が乱され、湿地に生息する鳥類や魚類などの生育環境が悪化してしまいました。水位の低下や土壌侵食が原因で米の収穫量が減少しているとの報告もあります。
こうした中、科学的に湿地の状態を調査し、湿地に関するデータの整備や管理計画を作成して、湿地の保全と持続可能な利用を推進する目的で、ウガンダ政府は日本に技術協力プロジェクトを要請。これに基づき、JICAは2012年2月からウガンダ東部のナマタラ湿地とブケデア県を含むアウォジャ湿地において湿地管理プロジェクトを実施することになりました。

村人に説明する村松専門家(左)(写真:村松康彦)
「初めに、二つの大きな湿地群を対象とした基礎情報の調査・整理を行い、それらを湿地情報データベースの整備に役立てました。さらに調査結果を参考にして、二つの湿地群全体の管理計画の策定を支援しました。現在は、引き続き、地域レベルの湿地管理計画の策定を手伝っており、今後は、選定された地域で保全活動の手助けをしていく予定です。」と湿地管理プロジェクト専門家の村松康彦(むらまつやすひこ)さん((株)建設技研インターナショナル)。湿地に頼って生きてきたウガンダの人たちは、その保全の重要性を心の底ではよく理解しているといいます。問題は無計画な利用の仕方でした。日本のプロジェクトはそうした状況を改善する重要な一歩になります。
湿地を計画的に保全するとともに、湿地に生息する魚類などの生態系を甦(よみがえ)らせることで地域住民の生計手段も確保する。こうした日本の考え方にオコチェさんは共感を寄せています。オコチェさんは、また、日本のプロジェクトにより湿地管理に携わる人材が育つことについても期待しています。「このプロジェクトが終わるころには、湿地に関する知識を持つ人材が育ち、湖をウガンダ人自らの手で管理することができるようになるはずです。地域住民も、湖とそこに生息する天然資源の保全のために活動していることでしょう。私たちの地域が自然との調和を築けるように、日本が協力してくれていることにとても感謝しています。」
湿地の管理には地元住民の協力が不可欠です。多くの恵みをもたらすウガンダの湿地を住民たちの力を借りて甦らせることができるのか、自然環境と人間の共生を図ってきた日本の知恵と経験もまた試されています。