国際協力の現場から 02
安定的に水を供給する住民参加のダム造り
〜ケニア・マクエニ郡の砂ダム建設を草の根支援〜

砂ダムの前に集まった住民たち(写真:カロリーヌ・ヴィゴ/在ケニア日本大使館)
国土の約80%が乾燥地・半乾燥地域であるケニア。首都ナイロビの南東に位置する半乾燥地域のマクエニ郡では、雨季に現れる季節河川のみに水源を頼っており、慢性的な水不足に陥っています。中でも深刻なのが、ンジウとエマリという二つの地域です。ここでは、過去50年間で次第に干ばつの頻度が高くなっていることもあり、主要な河川は雨季以外のほとんどの期間干上がってしまいます。住民の過半数が農業を生業にしているにもかかわらず、水不足による農作物の収穫量の減少が原因で、まとまった収入が得られずに、食料配給や出稼ぎをしている家族からの仕送りに頼って生活している者も多いといいます。
乾季に、住民が水を手に入れるためには、女性たちが、水を汲(く)みに遠方まで出向き、一日の大半をそのために費やさなければなりません。5㎞ほど離れた場所まで徒歩で行き、水を満たした大きな容器を頭の上に載せて帰ってくるという重労働が、乾季には毎日続くのです。小さな子どもたちも重要な水汲み要員です。
こうした状況を改善するため、2013年2月から2014年7月にかけて、ンジウとエマリ地域で実施されたプロジェクトに対して、日本の草の根・人間の安全保障無償資金協力※1による支援が行われました。これは、同地域に「砂ダム」5基を建設し、地域住民に対して安定的に水を供給するもので、住民の生活の向上や貧困の削減を図ることを目的にしています。プロジェクトを実施したウトオニ開発機構代表のケビン・ムネーネさんは、「砂ダム」についてこう説明します。
「砂ダムとは、雨季にのみ大量の水流を持つ河川に建設するコンクリートの堰(せき)のこと。激しい水流によって運ばれた水と砂をコンクリート堰でせき止め、堰の上流側に砂と水の堆積層を作ります。この堆積層は乾季になっても水が蒸発するのを防ぎながら維持され、大量の水(堆積層の4割)を貯めることができます。砂を30〜50cm搔(か)くだけで水がしみ出てくるので、砂でろ過された清潔な水が容易に得られます。砂ダムは、低コストで造れ、メンテナンスもほとんど必要としません。乾燥・半乾燥地の水不足を解消する有力な手段の一つです。」
まず、どこに砂ダムを建設すべきか、住民の意見を聞きながら場所の選定が行われました。砂ダム造りは、ウトオニ開発機構が技術的な指導や現場監督を行い、地域住民が建設のための労働力を提供します。作業日には、ウトオニ職員が住民に対して作業工程やコンクリートの配合比率などについて指導します。一つの砂ダムを造るのに参加するのは50~60人程度、女性や定年退職した男性、学生など、幅広い層が熱心に作業を担いました。

汲んだ水をタンクに入れる住民たち(写真:在ケニア日本大使館)
こうして、住民参加によるダムとその水を汲むための浅井戸造りが進められました。しかし、作業中には困難もあったといいます。「砂ダムを造るためには6Mの深さまで掘削して水を搔き出す必要があります。雨季は建築資材の搬入が難しく、作業工程も遅れました。」とムネーネさん。ようやく砂ダムが完成し、浅井戸の手押しポンプのハンドルを押し下げて初めて水を汲んだ瞬間には、参加者は全員で喜びを分かち合ったそうです。
完成した砂ダムの水は、飲料水や生活用水に利用されるほか、家畜の飼育や農業用水としても活用されています。住民からは、「水の供給が安定したおかげで、私たちだけでなく、飼っている牛なども体重が増え、健康状態が良くなった。」と喜ぶ声が聞かれるといいます。これまで一日の多くを水汲みに費やしていた女性たちは、空いた時間を休息や子どもの世話、食料源・収入源である果樹の生育や栽培に充てられるようになるなど、生活環境は格段に良くなりました。
ムネーネさんはいいます。「住民全体の利益のために地域の人々が一体となって取り組んだことが良かった。男も、女も、若者たちも、一つの目標に向かって力を合わせたのです。みんなが『自分は何をしたらいいのか』を十分に理解して行動してくれたおかげで、比較的短期間で完了することができたと思います。特に若者にとっては、良い学びの機会になったのではないでしょうか。今回、日本の支援によって、私たちの地域が抱える水問題を持続可能な方法で解決する、価値のあるプロジェクトを実施することができました。将来、プロジェクトを通じて知識と経験を培った住民が、他の地域の砂ダム建設や維持管理に協力することがあるかもしれません。今回のプロジェクトの成功は、この地域全体がこれから発展していく上でたいへん有意義なものです。」
※1 開発途上国の地方公共団体,教育・医療機関,並びに途上国において活動している国際およびローカルNGO(非政府団体)などが現地において実施する比較的小規模なプロジェクト(原則1,000万円以下の案件)に対し,当該国の諸事情に精通している日本の在外公館が中心となって資金協力を行うもの。