ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

第2回ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会
議事要旨

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organization

【日時】2013年3月5日(火曜日)17時00分~18時15分
【場所】外務省 南893国際会議室
【参加者】リストは別添資料参照

【配布資料】
外務省/JICA配布資料:
(1)議事次第(PDF:0.1MB
(2)参加者一覧(PDF:0.1MB
(3)NGO側からの事前「再質問」へのJICA回答文(PDF:0.2MB
(4)パシェコ農業大臣が出した声明報道記事コピー(英文)(2012年12月26日)(PDF:0.1MB
NGO配布資料:
(5)モザンビーク市民社会来日時のセミナー(2月29日,於東京大学)配布資料(PDF:1.3MB
  (その1):座長報告(食料安全保障と食料主権の違いについて)
  (その2):UNAC(団体紹介,セラード開発問題,公式声明,食料主権について)
  (その3):Justiça Ambietal(JA!)(プロサバンナにおける森林問題について)
  (その4):OXFAM(土地争奪問題について)
(6)ブラジル連邦議員ルイス・ニシモリ議員の議会TVでのプロサバンナに関するインタビュー(2012年6月27日)の全訳(日本語)(PDF:0.1MB
(7)日伯モザンビークの官民合同ミッションに関するJICAの広報記事(2012年5月14日)(PDF:0.1MB
(8)伯アグリビジネス訪問に関するモザンビークの新聞記事(葡語)(2013年2月22日)(PDF:0.2MB
(9)プロサバンナとブラジル・アグリビジネスに関する記事(英語)(PDF:0.2MB
(10)田中理事長のモザンビーク訪問に関する広報記事(2013年2月26日閲覧)(PDF:0.1MB
(※この他,NGO側より「第1回ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会(2013年1月25日)NGO側議事録」の配布があった。)

1. はじめに

(1) 議論の内容・流れの確認(司会:JVC 高橋清貴)

今意見交換会のテーマの中心は農民主権。事業対象者である農民の主権を確保するための議論をする。外務省から,次の3つに関し意見が求められた。1)対象者である小農民に対してどのように対応すべきか,2)ODAとして責任ある農業の支援のあり方とは,3)モザンビーク政府がとるべき施策。本意見交換会では,1)に関し議論する。まず,NGOから次の2点の問題提起が行われる。1.モザンビーク農民組織来日(2月末)に当たっての経験と問題点,2.現地農民と向き合うことの提案。その上で議論する。

(2) 議事録・要旨についての確認(JVC高橋・外務省貴島善子国別開発協力第三課課長)

議事要旨を双方で確認して公開する。

2. NGOによる問題提起(農民主権に関して)

NGOを代表し,AJF 吉田昌夫元代表より,プロサバンナ事業において「農民主権」が侵害されている可能性についての危惧が表明され,以下の3点を中心に「権利」の整理が行われ,問題提起がなされた。

  1. 計画に当事者が参加する権利,当事者の権利:モザンビークの重要な農民組織UNACが,内容を知り態度を表明する機会が不十分なままに,マスタープラン作成終了時点が近づいている点。これへの強い不満表明がモザンビークからある。
  2. 同意なく住居を動かされることのない権利:人権の観点,土地の権利とも関係する。
  3. 同意なく特定の農産物の栽培を強制されない権利:モザンビーク農民組織から「食料主権の侵害」として表明された。「食料主権」とは「農民が自身の食料を作る権利」である。農民主権と食料主権はセットとなる主権。

3. 問題提起に基づく整理と応答

以上の問題提起を受け,司会から議論の進め方とその内容について整理があり,次の3点についての外務省・JICAからの回答が要請された。

  1. モザンビークの農民から同意(土地・住居・栽培する作物の選定)をどう取るのかの方法論
  2. モザンビーク農民の意味ある参加をどう確保するのかの問題:来日農民組織に対する日本側事業関係者の向き合い方の問題から,モザンビーク人らが非常に落胆し帰国した点についての見解。
  3. モザンビークの農民たちの不安をどう払拭するのか:UNACらは不安と危惧を持って訪日。これを外務省・JICAはどう払拭するかの考え。

外務省からの応答(貴島課長)

  • NGO側の問題提起の「農民主権3点」を日本政府としてエンドースするわけではないが,考え方について大方納得。
  • 議論が必要な点は「同意なく」という点。日本政府が何かを強制したいわけではない。本大事業の議論の中で,日本から学ぶことがあれば学んでほしいだけ。モザンビークの農民が豊かになるため,技術や方法論のオプションを示している。農業を巡る農民の意思決定プロセスも知恵を出す。
  • 意見交換会での議論も一つの知恵として提供することを期待。日本政府,JICAとして,精一杯のことをやらせていただきたい。

4. 意見交換 (NGO・外務省・JICA) 

(1)来日農民組織の外務省表敬訪問の問題についてのNGO側の問題提起と議論

NGO側(吉田)から,プロサバンナ事業に関する情報不足や不透明性について抗議文を出したUNACが,訪日時に外務省に渡す意向であったが,貴島課長は出席せず事務官が対応し,来日者らが落胆した問題について言及があった。外務省がモザンビーク農民を本当に重要に思っているのか疑問に思う対応につき,日本NGOとして抗議が表明された。

外務省側からの応答(貴島課長)

  • 意見の違うモザンビークの農民間の対立を,日本政府が煽りたくないと考え対応に悩んだ結果この形式に決着。特定の意見を持つ団体とだけ会う,物理的に来られる立場の人とだけ面会するのでは不公平だと考えた。
  • UNACの考えを伝えたいという強い要請に動かされ,一般に外務省が陳情を受ける際の方法論を採用。セミナーも,相談した上で出席し,内容のシェアをした。

NGO側「再質問書」についての外務省/JICA回答のタイミング問題に関する議論

  • NGO側(吉田)からは,再質問書に対する返答【資料(3)】が,UNAC帰国直前に届き,彼らの意見を反映した議論ができなかった点が問題とされた。農民の人たちの声を聞こうという態度が不足しているのではとの疑義が出された。
  • 外務省側からは,回答をNGO側から訪日にあわせて提出を依頼されたが,とりまとめ・現地からの情報収集,省内での確認に時間がかかり,提出日の確認をNGO側に行い,了解が得られたので,結局26日に提出したと説明。
  • JICAより,資料提出についてぎりぎりを狙ったわけではないと表明。

(2)JICAが「UNACは『プロサバンナに反対の立場ではない』」と書いた問題と議論

  • NGO側(吉田)から,【資料(3)】再質問に対するJICAの回答の中に(p.5),UNACは「プロサバンナに対して反対の立場ではない」とUNACが述べたとの記述が問題にされ,事実確認が要請された。補足として,UNACの言及としては推論としても奇妙であり,かつこの記述のある書類がUNAC帰国直前に出され,反論の機会を持てないまま帰国せねばならなかったことにUNACが不快を示したことが紹介。
  • JICA倉科アフリカ3課課長並びに坂口幸太同課調査役より,12月のUNACとの面談について説明。モザンビークの農業省担当者も出席。その席で,「プロサバンナに対して決して反対の立場ではない」と数回述べたと説明。ポルトガル語による会議で,JICA側もポルトガル語のわかる者が同席したと説明。
  • NGO側から,UNACがこれについては事実ではないため,この記録についてJICAモザンビーク事務所と話し合いたいと要請しており,今後,JICAモザンビーク事務所にコンタクトがあるので対応願いたいと要望。坂口JICA調査役は合意。
  • NGO側から補足として,本件をUNACに確認したところ,「反対の立場でなければ日本まで来ない」と述べ,彼らが述べたのは「開発に対しては反対ではない」であると紹介。UNACのプロサバンナに関する抗議文の立場は明確で,面談記録として「プロサバンナに反対ではない」と冒頭にまとめることに問題があり,この訳文を持参しUNACに行くことを重ねて要請。またUNACから,この面談でJICAは記録を取っていただけで一言も述べておらず,同面談を「JICAとの話し合い」と考えていないとの言及があったことが紹介。
  • 司会より,UNAC自身がこのような発言はなかったと述べている以上,誤った発言の記述を削除するよう要請。JICAとしてこの記述を残すことを希望するのであれば,どの事実に基づいているのか示す必要ありと指摘。
  • JICA(倉科)は,JICAモザンビーク事務所にも確認したうえで提出しており,我々の認識としては(同回答での)記述の通りであり,これを事実として受け止めてほしいと要請。
  • 外務省(貴島)は,この事実確認をすることは建設的でないと考えると意見表明。
  • NGO側から,UNACが違うと言っている以上,JICAとしての確認を再度要請。また,UNACによると,JICA出席者はポルトガル語を理解せず通訳が必要だったこと,通訳の際に齟齬があったのではないかとの認識が示されている点が紹介。

(3)NGO側よりモザンビーク農民組織のプロサバンナに関する懸念点の紹介と議論

NGO側(AJF舩田クラーセンさやか会員)より,来日時のUNACのプレゼン資料(資料(6))を踏まえ,UNACが帰国時にも払拭できなかった4つの懸念点について紹介し,議論が提案された。以下,4点の懸念に関する議論。

1.モザンビーク農業大臣の「プロサバンナはセラード開発の『レプリカ』」との談話について

  • NGO側(舩田)から【資料(4)】のモザンビーク農業大臣談話記事に基づき問題提起。
    • UNACの外務省表敬訪問時,外務省からこの記事の大臣談話を日本政府もエンドースしていると表明された。しかし,同談話で,大臣は「プロサバンナ事業は30年前に行われたブラジルでの開発プロジェクトの〖レプリカ(複製)〛」と述べている。この点に関する見解を外務省に要望。
  • 外務省側(貴島)より以下の考えが示された。
    • 同大臣は,ブラジルで起こった小農からの土地収奪や移民的農業をそのままモザンビークに移すつもりでレプリカと言っているのではない。「成功を我々の国にももって来よう」という政治的なメッセージとして言ったと認識。「成功をモザンビークに」との意味だったと理解。
    • 外務省が同記事全体に賛同しているとはいえ,「レプリカ」が意味しているものは必ずしも同じといえない。政治的なメッセージのエンドースであり,大臣の発言もむしろ外交的な発言として理解されるべき。

2.プロサバンナの目的に関する日本側とブラジル側の主張のギャップについて

  • NGO側(舩田)より,前回意見交換会でプロサバンナ事業の目的が「小農支援」と明らかにできたことは大きな前進であり,大臣談話で「小農の土地は取り上げられない」と述べられ,日本政府も了解している点は重要との確認がなされた。
  • 続いて,しかし,ブラジルの関与について以下の問題提起が行われた。
    • 【資料(7)】のJICA記事で,「(2012年4月の合同ミッション後)日伯モの関係者が同じ意識を持っており意識は共有されている」と掲載。しかし,伯国議会TV番組で,ブラジルのニシモリ議員の発言概要は次の通り。全文は【資料(6)】を参照。
      「ブラジル国内の土地不足により,ブラジルの若い農業労働者が失業に陥っている。プロサバンナによって,ブラジルの若者がモザンビークで土地を獲得し,近代農業を営むことで彼らの雇用をつくることができる。」
    • この点を表敬訪問時にUNACが指摘した際,JICA本郷豊専門家から,「ニシモリ議員は一議員にすぎず,ブラジル政府を代表せず。」との返答あり。しかし,JICA記事にある通り,ニシモリ議員はプロサバンナ事業合同ミッションの「ブラジル側団長」である。見解を求める。
  • この点について,JICA倉科より,ニシモリ議員は事業の関係者ではあるが,政府としての発言ではない,との考えが述べられた。
  • JICA(坂口)より,西森議員については2012年4月の官民合同ミッション時には紛争リスクのある地域では海外からの投資は難しいとしており,現在は引用されたビデオ当時の見解とは異なるものと理解。
  • NGO側から,同議員が公にこう発言した理由と,この発言内容をどう理解すべきかについて,「三角協力のパートナー」としての外務省の見解を要請。
  • 外務省側(貴島)より,ブラジルは民主主義国で,様々な意見を持つ議員がおり,同国外交当局もその発言をコントロールし辛い点が指摘。ブラジル政府の発言でないため抗議できず,ブラジル当局に任せる。一方,日伯政府間で,「プロサバンナはモザンビークの人々のための開発」と認識していることを強調。目的の認識に関する話し合いは外交努力として今後も継続。情報提供に感謝。現地農民が不安を抱いておりそれを払拭する必要があるということであれば当方から本人に確認を行う。

3.プロサバンナを通じたブラジル・アグリビジネスの野心への疑念について

  • NGO側(舩田)は,UNAC提供【資料(8)】を基に,現地でブラジルのアグリビジネスの野心とプロサバンナ事業は連結したものだと理解されていると指摘。この三角協力という手法が,JICAの手におえる範囲のものかの見解を要望。記事要旨は次の通り。
    • 2月末ブラジルから約20名のアグリビジネス投資家がモザンビーク首都に来訪し北部のプロサバンナ対象州(ニアッサ,ナンプラ州)を訪問。
    • 同投資家らは,先述ニシモリ議員の選出州であるパラナ州の派遣団。
    • 「人口2300万人の大市場であるモ国への(農業)投資は魅力的」と表明。
  • 外務省側(貴島)から,日伯個人が投資目的のためモザンビークに赴くことを止めることはできないことと指摘。ブラジル政府に外交的な確認の作業から始めると表明。
  • NGO側から,ブラジルの議員が目的を先述のように公言し,同議員に関係するアグリビジネスがプロサバンナ事業地に現れる。これによってモザンビークの人々が不安を覚えている点についての,外務省側の理解について確認。
  • 外務省側(貴島)から,認識がある点が示される一方,ブラジルしか持っていない知見を日本がどのようにうまく使っていくかについて今後も考えると言及。

4.土地に留まらないブラジル・アグリビジネスの野心について

  • NGO側(舩田)から,土地以外の野心について問題提起【資料(9)】。記事には,遺伝子組み換え品種の持ち込みが指摘。日本政府がブラジルの動きを抑えるかどうかだけでなく,プロサバンナのような事業を立ち上げたために,このような様々なことを誘引し,モザンビーク社会に危惧を与えているということを理解すべきと注意提起。
  • 外務省側(貴島)より,注意喚起に感謝。この事業が立ち上がったがゆえに,様々な思惑を持った人物が現れ,一般の農民の不安が掻き立てられる図があると承知。これへの対応やブラジルとの連携の仕方,理解を得る手法は課題と認識。
  • 司会から,「三角協力をなしにゼロから始める」可能性も前提にしないと小農民支援とならないとの意見表明。次回の意見交換会で外務省からの見解提示を要請。

(4)農民主権と食料主権に関する議論

  • NGO側(舩田)より,UNACは,「生産総量を増やすという『食料安全保障』」と,「農民自身が自身で食料を自給する権利という『食料主権』」が異なり,「食料主権」を目的にすべきで,この点勉強してほしいとの強い要請があった点について紹介。専門家を招き共同勉強会を提案。
  • NGO側(AJF津山直子理事)が,農民主権に関して,UNAC代表が「40年間農業をやっており,何を栽培できるかは自身がよくわかっている。それを尊重してほしい。それが農民主権だ」と述べたことを補足。
  • 外務省側(貴島)より,食料安全保障の議論は日本と開発途上国とでは意味が違うと指摘。栄養不足の人々に対して,最低限どう栄養を満たすかを第一に議論。アフリカでは,一国内に数種類の作物生産しかない時,一定の食料と栄養を確保するため,彼らがアクセスできる市場を通じこれをどう確保するか議論中。また,息の長い農村支援,例えば気候変動に強い作物を研究する現地農業研究所に専門家を派遣し教えていると指摘。住民やモザンビーク研究者も歓迎。希望しない作物を無理矢理栽培させない。日本政府が提供するのは,アドバイスに過ぎない。JICA(坂口)から,農民自身がどのような作物を栽培するかを決めるように出来ることが重要であるとプログラム立ち上げ当初より考えており,事業の中で「Decision Making Support Model」確立に向けた取り組みを行っている旨言及。
  • NGO側(吉田)より,先月末モザンビークを訪問したJICA田中明彦理事長が,プロサバンナの目的は小農の生計向上で,これを加速するため民間投資が重要と述べたが【資料(10)】,これは問題と指摘。日本政府は輸出向けの生産を増加させることで,世界全体という広い範囲での食料安全保障への貢献を考えているが,モザンビークの人々自身の食料の確保への懸念がある。「輸出向けの栽培をするのではない」とはっきりすべきと要請。。
  • NGO側(米川正子ヒューマンライツウォッチ)より,テレビ東京の番組で,1.プロサバンナは輸出のための大豆生産を奨励すること,2.モザンビークを「世界の食糧倉庫」にすると紹介されていたと指摘。番組視聴者は,プロサバンナは日本のための事業であり現地小農のための事業ではないと受け取る。誤解があるなら解くべきと要請。
  • 司会より,時間の関係上,次回の協議とされる。ODAとしてなされるのであれば説明責任が伴うと指摘。

5. まとめと今後

  • NGO側(吉田)から,外務省側から小農の考えを尊重する意志を聞けたことが収穫として表明。JICA理事長は「地元の人に情報共有する,モザンビーク政府に期待する」と述べたことに反論。日本関係者もきちんと意見を聞き,反映させることを要望。
  • 司会(高橋)は,今意見交換会で,モザンビークの人たちがプロサバンナに対する不安の中にいること,不安払拭のためにすべきことが多いこと,三角協力が喧伝されていることが不安要因の一つであることも確認できた,と総括。
  • 同司会は,次回について,具体的な農民支援について議論を提案。また,次を確認した。1)再質問表への今回提出の返答は不安払拭に不十分のため再提出,2)現地でのステークホルダー会合詳細の開示,3)事前に依頼したJICA(過去セミナーでの全配布)資料は出来次第送ること。


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