ODAとは? ODA改革

ベトナムで活動するNGOとの意見交換(第3回)

平成15年4月22日
於:JICA国際協力総合研修所

 以下は、ODA総合戦略会議でのベトナム国別援助計画改定作業の一環としての、上記会合の議論の概要をまとめたものである(順不同)。

1. 本日は14団体(ICA文化事業協会、ジョイセフ、JAPA VIETNAM、国境なき子どもたち、開発技術学会、オイスカ、ケア・ジャパン、ベトナムの「子どもの家」を支える会、メコン・ウォッチ、国際開発救援財団、JVC、日本国際ボランティア協会、ユネスコ協会、ブリッジ・エーシア・ジャパン(順不同))計23名のNGO代表者・関係者等の出席を得た。

2. 冒頭、松澤外務省国別開発協力課首席事務官より、現在外務省改革の議論が活発に行われている中で、援助実施体制の現地化を進めていく方向性が打ち出されていることを踏まえ、今般のベトナム国別援助計画の作業についても在外公館が中心となって検討を進めており、北野在ベトナム日本国大使館公使より現地での検討状況等を紹介した後、意見交換を行いたい旨説明した。続いて、北野公使より、別添のショートドラフトにつき、概要以下の通り説明を行った。

(1) 全体の流れと構成

国益・戦略性を検討し、どうして我々はベトナムに援助するのか?という根本的な考え方から出発して、ベトナムの開発課題に関する分析を経て、重点分野の考え方につながっていくような構成としている。
また、ベトナム側が、どのような開発についてのビジョンを持っているか?という点も、重点分野を考える上で重要である。結果的に、日本側のベトナムの開発課題に関する分析は、ベトナム側の開発課題についての考え方と合致することとなった。
また、援助の基本的方針として、外交上の観点・経済的相互依存の観点(経済成長促進)と、人道的・社会的関心(貧困削減を含む生活・社会面での改善)の双方に立脚した援助を目指す。両者は相互に関連し合っており、例えば後者は成長の基礎的条件を作るのみならず、成長によって取り残されたり悪化したりする問題(貧富の格差、環境破壊)に対処する意義を持っている。


(2) 7つの特徴

援助規模を考える際に、ベトナムの「制度・政策環境」の状況も考慮に入れていること。
セクター別の援助方針を練り上げ、要請主義を超えた対話型案件形成を目指すこと。
個別案件、セクター別戦略の次元で、NGO等の開発パートナーとの協調・連携を図ること。
国益・戦略性の考え方から、援助方針を導き出すこと。
ベトナム側の開発ビジョンとの整合性を確保しながら、援助方針を決定すること。
経済成長促進の観点を重視し、これを重点分野の一つとして掲げていること。
他方、生活・社会面の観点をも重視し、同国が国内目標としてCPRGS等に落とし込んでいるMDG(ミレニアム開発目標)に留意し、その実現を支援すること。


(3) これまでにNGOから出された意見との関係

国益・戦略性に関して幅広い意見があったが、外交・経済面と人道面の双方を国益・戦略性の中に取り込む形とした。
経済成長と貧困削減との関係をどのように捉えるか、という点についても様々な意見があったが、両者は相互に関連し合っており、片方だけでは問題を解決できないとの立場を明確にした。
大規模インフラ案件を始めとして、環境配慮の必要性を指摘する意見が出たが、援助実施機関による環境配慮ガイドライン遵守等を念頭において環境配慮の徹底を明記した。
他ドナーとの対話と協調の重要性を指摘した意見については、一つの項目として盛り込んだ。
評価及びフィードバックの重要性を指摘する意見については、個別案件のみならず、国別援助計画の実施・改定のサイクルにも評価を組み込むことを明記した。
要請主義を超えた取組の必要性に関する指摘についても、前述の通り文書に盛り込んだ。


3. 主な意見交換

経済成長によって悪化する可能性のある生活・社会面への配慮を払うと書いてあるが、まず経済成長ありきで、その次に生活・社会面での悪影響を軽減する、と読めてしまう。初めから後者を悪化させないようにする姿勢が重要。
環境配慮の観点で、実施機関のガイドラインが重要なのは言うまでもないが、それを後押しする外務省としての環境配慮戦略を、もう少し具体的に書くべし。
大規模インフラ整備のマイナス面に係る明確な見解を示さないまま、大規模インフラ整備を援助方針の中に盛り込むのは妥当ではない。
人道面・社会面での援助を行っていく上でベトナムの市民社会(人権)の状況を日本政府としてどのように認識しているのかを明らかにしておくべき。環境配慮だけでなく、社会配慮の視点を盛り込むべき。
普段は地域開発・流域開発の視点を打ち出しているのに、今回の素案ではカンボジア等周辺国との関係について言及がないのは不自然。
 (こうした議論に対し、北野公使より、日本のイニシアティブにより、大規模インフラについて、その意義をCPRGSに盛り込む方向性が昨年の支援国会合で確認されたが、従来の援助方針を変更して、従来以上に大規模インフラ整備をやっていく、ということを意図したものではない。従来の同分野への援助は、電力・交通を初めとする基礎的なインフラが、絶対的に不足していた状況に対する支援として重要な意義があったと認識しており、経済成長と貧困削減の観点から、今後も重要と考える旨述べた。
 次に大野教授より、経済成長を実現するためにはインフラ整備だけでなく、人材育成や産業育成、制度整備等への支援も必要であるが、CG会合で成長の観点からの議論を始める際に、インフラ整備を提示すれば世銀やADBがついてきてくれる、という事情があってインフラ整備が全面に出ており、むしろソフト面・政策面での支援の強化が今後は必要である。また、環境配慮に関する記述については、JICA・JBICの方針の上位方針として、最低4~5行は書きたいと考えているので、この場で具体的な文言案についてご提案を頂きたい。さらに、周辺国との関係を考慮すべき事案について、十分考慮する旨を盛り込むことは賛成である。最後に、市民社会の在り方について分析して書くという点については、相手を刺激するような書きぶりにしないよう注意する必要がある旨述べた。)

決してベトナム政府を非難する必要はないが、民主的ガバナンスが不十分な国に対して大規模インフラ整備や投資を行うと、不平等拡大や環境悪化を招きやすいという点は指摘しておくべき。
経済インフラと社会インフラの分け方がよく分からない。保健・医療分野のプロジェクトを実施しているが、例えば国道1号線は両方の性格をもっており、地方部へは道路がないと助けに行くこともできない。
 (これに対し、北野公使より、インフラの分類については現地でも議論されたが、どのインフラも、経済(産業)インフラと社会(生活)インフラの両方の性格を持っているのが常であり、両方の側面からインフラ整備の意義を捉えることが重要である旨述べた。)

地方部の保健医療分野では、人員等が配置され一見すると機能しているように見えても、必要な機材が不足しているなど「質」が十分でない事例が見受けられるので、「量」から「質」への転換が必要。また、同国は母子保健が特に弱いので、重点的に支援していくべき。
(これに対し、北野公使より、MDG及びベトナムの保健セクター戦略の中で、母子保健は重点課題として掲げられており、今後保健セクターを検討していく際にそうした点も踏まえつつ議論していきたい旨述べた。)

ベトナムの貧困問題は、元来勤勉な国民性を反映して、物質的な貧困よりも、むしろ情報とか技術習得の機会の不足といった、より高度な内容の貧困の側面が強い。
開発の際に、少数民族の文化を失わせないよう配慮する点を盛り込むべき。
(これに対し、大野教授より、少数民族問題とか市民社会の問題は、他のアジア諸国でも抱えている機微な問題であり、相手国政府を非難して「だから援助できない」と書くのではなく、そうした問題を踏まえて「どのように援助していくか」を書くことが重要である(例えば、「ベトナム政府による少数民族支援を評価し、我が国としてもこれを支援する」等の書き方が望ましい)旨述べた。)

ベトナムへの援助を考える際に、ASEANとの関係も考慮する必要がある。域内格差が拡大しつつある中で、「バランスある発展」にどこまでの意味を持たせるのか、明確にすべき。
援助の「量」から「質」への転換を実現するためには、先方の援助吸収能力のみならず、我が方の援助実施能力の向上も必要。
金融機関へのアクセスが困難な農村部に対するマイクロファイナンスを検討してはどうか。
保健分野では、栄養改善のニーズも大きいため、考慮すべし。
ベトナムは、子どもの権利条約を世界で2番目(アジアで最初)に批准した国であり、関連分野への協力を行っていくことは大きな意義がある。
 (これに対し、北野公使より、各セクターにおける具体的な援助項目については、これから現地で詳細を詰めていきたい旨述べた。)

ベトナムには日本と異なる様々な制度や文化があり、少数民族問題を始めとする難しい問題を抱えている。そのような、我が国ODAが苦手とする領域については、NGOが補完する役割を担っており、現地で活動するNGOへの支援を日本政府としてもっと考えるべき。
 (これに対し、北野公使より、この文書は個別スキームの予算額の増減等について説明する文書ではなく、全体的な援助方針として、案件形成段階からNGOとの連携を積極的に進めていくことを明記したものである旨述べた。)

ベトナムに対する援助の中で日本の新しい援助戦略を実践し、国際社会に向けて発信していく旨の記述があるが、世界的なトレンドとなった開発戦略が、必ずしも途上国に良い結果ばかりをもたらしたわけではないし、あたかも実験場として活用するかのようにも受け取れ、不適切では?
 (これに対し、北野公使より、ベトナムはパイロット的な取組が行われることが多い国であり、我が国の考え方を主張し援助の世界の「業界標準」作りに参画していく意義は大きい。その際、あくまでもベトナムの実情を踏まえた援助をすることが前提である旨述べた。)

援助方針の箇所では、人道的関心に立った援助が謳われているのに、その後の援助規模の検討メカニズムや、考慮すべき事項の箇所では人道的観点が消えてしまっている。後者の部分でも明示すべき。
 (これに対し北野公使より、後者の部分は、従来から状況が大きく変化し、対越援助を実施する上でこうした変化を考慮しなければならないものを列挙しており、社会的・人道的観点から見てかかる状況変化が確認されれば、後者の部分に記述することになる旨述べた。)

政府とNGOとでは、上からの視点と下からの視点という違いがあり、両者で表現振りが違ってくるのは仕方が無いが、両方とも必要。
 (これに対し、大野教授より、例えばNGO的アプローチにより、HIV患者を救うための取組をやれば、その患者を助けることができるかもしれないが、制度としての救済を実現するためには結局国を動かす必要があり、政府とNGOが連携する意義はまさにこのような点にある旨述べた。続いて北野公使より、政府とNGOで視点が異なるからこそ、お互いの活動に付加価値がある。「相違」自体は議論の出発点であって、そこからどのような関係を構築するかが重要である旨述べた。)

政府とNGOとで異なるのは、どのような情報に基づいて評価するかという点ではないか?評価が自己目的化しないよう、如何にしてフィードバックするかを整理する必要あり。
 (これに対し、北野公使より、評価にはマクロ(政策レベル)とミクロ(プロジェクトレベル)の2つの次元があり、後者に係る評価のフィードバックは、主に各実施機関がプロジェクト実施に際しての教訓などの形で蓄積していくものである。他方、前者に係る評価は、例えば、ベトナムに対する援助を全体としてどのように評価するか、という場合がこれに当てはまるものであり、様々な観点から評価して次回の援助計画改定に反映させることを想定している旨述べた。)

教育分野に関して、「識字率が高い」と書いているが、右指標は条件付きの数字に過ぎず、ベトナム政府も依然として重要課題と認識しており、引き続き援助していくことが必要。
オーナーシップの観点から、我が方の戦略だけでなく、ベトナム側の開発計画も尊重した形で援助していく旨を明記してほしい。
環境社会配慮については、代替案の検討、十分な情報が提供されることの重要性、ベトナム側の体制支援などの事項を具体的に書き込むべき。
今回の素案はまだ、各重点分野の中にどのサブセクターに重点を置くかが明らかになっていないが、今後方向性を明確にするように議論していかないと、総花的な文書になる恐れがある。
 (これに対し、北野公使より、あらゆる項目が残るような最終成果物にするつもりはなく、今後何をやって何をやらないのかという議論をサブセクター・レベルまで行っていきたい。今回はあくまでも、9月の取りまとめに向けた中間報告として理解して頂きたい旨述べた。)
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