ODAとは? ODA改革

関係各省庁との意見交換

2003年1月31日
於:外務省

 以下は、「ODA総合戦略会議」の議論を踏まえ、外務省がベトナム国別援助計画の見直しを行うに当たり1月31日に実施した関係各省庁との意見交換の概要をまとめたものである(順不同)。

1.本日は10省庁(関係団体を含む)、計21名の出席があった。

2.冒頭、河野外務省国別計画策定室長及び大野政策研究大学院大学教授より、本会合の目的、本件見直し作業において関係省庁に対して期待している点(政府全体としての対ベトナムODAの現状把握、各省庁の有する専門的知見に照らして、対ベトナムODAの重要性・留意点の把握)等につき簡潔に説明した。

3.その後、以下の通り、各省庁よりベトナムに対して行っている協力に係る方針等につき説明があり、こうした説明を踏まえ適宜意見交換を行ったところ、概略は以下の通り。

(総務省)

 総務省として、通信分野での協力について、ベトナムは東南アジア地域における重点国の一つとして位置づけている。情報通信分野のODA供与対象国・案件は、各国の民営化を背景に減少傾向にある中、ベトナムの固定通信網については、国営の郵電公社他政府系2社が事業を運営しており、また、農村地域も電話が未整備の状況であることもあり、情報通信インフラの整備及び関係人材の開発ニーズは大きい。また、情報通信は、貧困削減、教育普及、保健医療拡充、環境保護、村落開発等といった経済成長、社会問題の解決のための有効な手段。今後は、援助協力対象主要国として、「e-Japan重点計画2002」及び「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を受けて開催される「アジア・ブロードバンド戦略会議」及び同会議の提言を受けて政府により策定予定のアクションプランを踏まえると共に、九州・沖縄サミット時に表明した5年間で150億ドル程度の公的資金によるデジタル・ディバイド解消のためのIT包括的協力策も念頭に置きつつ、二国間協力、ITU、APT(アジア太平洋電気通信共同体)、ESCAP等のマルチ協力も積極的に活用していく必要がある。

(外務省)

 具体的にどういった協力を行っていく考えか?また、これまでの協力を評価したことがあるか?

(総務省)

 人材育成、農村分野における通信インフラ整備を優先的に検討したい。また、具体的に評価ということは行っていないが、ベトナム政府とは機会ある毎にレヴューを行ってきている。

(財務省)

(1) わが国にとってのベトナムの位置づけは、ASEAN後発国としてのASEAN内格差是正といった観点からの支援であり、諸課題は多い。
(2) また、何がベトナムにとって大切かといった観点からは、ベトナムにとっては、ドイモイ政策であり、わが国にとっては、ベトナムの構造改革(国営企業、国営銀行)、投資・貿易政策であり、市場経済化への円滑な移行と考える。税制・財政、債務管理といった公的部門のガバナンスも国内的な状況も踏まえ推進していくことが重要。ベトナムはわが国を含め多大な借款をしており、債務管理に係るキャパシティー・ビルディングが重要。
(3) 財務省として対ベトナム協力については、JICAを通じた支援、財務省固有の技術協力、国際機関を通じた支援の3つがある。財務省固有の支援については、税制、関税分野に対する支援を長年に亘り実施してきているが、今般、ベトナム政府より(わが国)財務省の資金的・人的キャパシティーを越える要請がなされてきており、同分野において協力してきているスウェーデンの動向も踏まえ部内で検討しているところである。更に、世銀、ADBといった国際機関を通じた支援については、有用な支援ツールであり、世銀やADBの政策に対しても意見を述べてきている。また、構造改革、国営企業改革、債務状況といった、二国間協力よりマルチ協力に馴染むものものある。
(4) 中期的な課題については、公的ガバナンス、また、投資、経費予算の並行的実施といった問題がある。こうした問題は、日本の円借款にも係る問題であり、出来る限り対応していく必要がある。


(外務省)

 財務省独自の協力は如何に実施されているのか?JICAを通じた協力との利点・欠点如何?

(財務省)

 財務総合研究所とベトナム財務省の協議の下、例えば、ベトナムにおいて付加価値税を導入した際の技術協力が挙げられる。ベトナムとしても税・財政改革は3大改革の一つであり、その支援ニーズは高い。
 JICAによる協力との相違点は、税表の策定といった純粋な技術面での協力については、迅速な対応、適切な人材の確保といった観点から、財務省独自の支援の方が良い。他方、一般的な税制についての支援であれば、JICAによるものが馴染むと思う。

(大野教授)

 日本側におけるコーディネーションが必要。付加価値税のあり方についての協力など国際機関、南々協力といった方が馴染むものもある。

(文科省)

(1) 文科省が直接関わるわが国ODAの対ベトナム協力の大きな柱としては、留学生の受け入れがあり、平成10年度との比較では、受け入れ人数が倍以上となっている。その他、JICA、外務省の無償資金協力を通じた支援を行ってきている。
(2) ベトナムの位置づけについては、カナナスキス・サミットで発表した今後5年間で2,500億円以上の教育ODAを行う対象国(低所得国)に含まれ、昨年世銀が発表したFTIの対象18カ国の中に含まれていることが挙げられる。
(3) ベトナムの就学率は、初等教育(小学校5年生・義務教育)で95%、中等教育(4年制)で74%となっており、その指標自体は高いものの、教育の質や地域間、民族間の格差の問題が顕著である。高等教育に関しては、新しい形態の高等教育機関が設立(198校)され、90年代半ばから、修学者が急増(約97万人)しているが、教育の質はついていっていない状況。
(4) 当面の協力の重点課題としては
1) 初等教育分野におけるEFA達成のための支援
2) 初等教育から高等教育に向けた専門能力の基盤を醸成する中等教育の量的、質的改善に対する協力。
3) 産業の発展に必要な人材育成と、研究能力の向上に不可欠な専門高等教育分野への支援。
4) 初等教育から高等教育までを通じた教育統計システムの強化とこれを用いた教育行政官の政策立案能力の向上が挙げられるが、
5) 上記以外に、日本語教育の戦略的重要性につき指摘したい。


(外務省)

 一般的に途上国での教育の重要性は理解されると思うが、ベトナム固有の問題としての教育の重要性・位置づけをどう考えるか?

(文科省)

 ベトナムは教育基礎インフラが整備されていることもあり、協力の成果を得やすく、パイロット国などとして成功例を築くことができる国と考える。

(外務省)

 教育は如何なる国においても重要であり、国別援助計画については、戦略的、重点的、国益を踏まえたものといった要請がある中、例えば、FTIに沿った初等教育分野、また、進出日本企業を下支えする産業発展のための人材育成といった分野を重視するといった考え方もある。特にどこに重点を置くべきと考えるか。

(文科省)

 95年のデータでは、ベトナム人の留学先として、わが国は7位であった。経済交流に比して、こうした面での教育面での交流を活性化することも重要と考える。

(大野教授)

 現在は援助協調の枠組みの中で、わが国が独自で支援するといった環境にはなく、他ドナーとの協調が必要。わが国は、教育のマスタープランを作成しているが、こうしたことを踏まえ教育分野のリード・ドナーとなるのか、それとも他ドナーがその中心となり意見を述べるといった位置づけとするか決まっていない。また、初等教育についてもどこまで協力するのか、経済・経営運営面での技術協力についてもどうしていくのか検討する必要がある。更に、ベトナムは所得に比して、識字率が低いことは事実であるが、最近ではdrop outする児童等もあり、こうした傾向への対応についての支援も必要となっている。

(文科省)

 現在実施中の初等教育セクタープログラム開発調査の第2フェーズでは、地域の住民参加型教育といったもモデルケースの形成も視野に入れている。

(大野教授)

 こうしたマスタープランを作成しても、他ドナーとの協調が必要であり、問題はこうした協調に如何に対応していくかということである。

(厚生労働省)

(1) 厚生労働省としては、以下2点を基本方針としている。
(a) 貧困、生活基盤の未整備、低い健康水準が、途上国の経済社会開発の阻害要因であるため、保健医療、水道、社会福祉等に対する協力。 
(b) 途上国の経済社会開発のための人材育成の協力が不可欠であり、能力開発、労働条件・雇用の改善の分野における制度作り、人造りを中心とする協力。
(2) 分野毎の具体的な開発ニーズ、取り組むべき課題は以下の通り。
(a) 保健医療分野
(イ) 地域間、民族間、貧富などの格差は、保健医療サービス供給の観点から顕著な問題。特に、北部山岳地帯、中央高原地域及びハノイ、ホーチミンなどの都市貧困層に対しては、保健医療サービスへのアクセスが保証されていない状態。こうした保健医療サービスの格差是正は、今後のベトナムの重要課題。
(ロ) ベトナムでは、MDGs(国連のミレニアム開発目標)で挙げられている8つのゴールに対し、保健医療に関する5つの目標項目(貧困と飢餓の削減、男女間の平等、小児死亡の減少、Maternal Healthの改善、HIV/AIDSをはじめとする感染症対策)関連分野は、今後の重点分野。
(ハ) 顕著な経済成長に拘わらず、未だ5歳以下の子供の33%が栄養失調状態にあり(UNICEF、世界子供白書2001)、経済状態の改善のみでは必ずしも栄養状態の改善に繋がらない点が今後の課題。
(ニ) なお、保健省の計画としては、CPRGSとMDGsで述べられているような目標を達成することが優先課題であり、基本的保健サービスの供給に重点が置かれている。
(ホ) 今後、わが国が取り組むべき援助課題に関して、上記の開発ニーズを踏まえ、以下の分野が重要と考えられる。
保健医療サービスのアクセスが困難な地域、対象者への重点支援
特に貧困者・社会的弱者に対する社会保障システムの充実
MDGs、CPRGSの達成に資する、「貧困と飢餓の削減(栄養改善含む)」、「男女間の平等達成」、「小児死亡の減少達成」、「Maternal Healthの改善」、「HIV/AIDSをはじめとする感染症対策の推進」
 また、他ドナーとのオーバーラップ、我が国がこれまで行ってきた協力実績(大都市の基幹病院整備と省病院への技術移転を通した地方の医療サービス改善等)と国家戦略である「格差の是正」、「基本的保健サービスの拡充」という観点からの協力を、考慮に入れるべきである。
 協力手法として、既存の臨床技術中心の技術協力の地方展開、地域間格差の是正を目指した地方の人材育成を、わが国として中心に行うべきである。
(b) 飲料水供給分野
(イ) ベトナムでの安全な飲料水へのアクセス状況は36%(外務省ホームページより)と非常に低い。また、技術面、経営面も含めた水道事業体職員能力の不足、量・質ともに十分な施設の不足等により、供給される水質が悪い、漏水も含め無収水量が多い、経営状況が悪いなど種々の問題が依然として続いている。
(ロ) 今後、わが国として取り組むべき援助課題は、専門家派遣を含めた技術協力プロジェクトにより維持管理技術、経営面等の技術移転を行い、より効果的、効率的な施設運営ができる体制を作りつつ、資金協力による施設整備により、安全で豊富な水の供給への協力を行うことが有効。北部地域ではハノイ市、南部地域では建設省の建設第二大学校(水道技術訓練センター)への技術協力を行い、都市部及び地方部への施設整備を進めることが適当。
(c) 人材育成分野
(イ) 近年の工業化に即した職業能力開発分野における技能者養成の拡充
 いわゆる生涯学習が欠かせず、国家として社会人の教育訓練も視野に入れた体系的な教育訓練システムを構築することが必要。現在のベトナムにおいては、学校教育と職業訓練の連携、人材育成における政府と企業との連携が十分ではなく、人材育成のための体系的な教育訓練システムの構築が必要。
 また、ベトナムの多くの職業訓練施設では、いまだに旧ソ連製の機材を用いた前近代的な訓練が中心であり、今後、工業化に即したカリキュラム・教材の開発、指導員のレベルアップ、施設の充実等が不可欠である。
(ロ) 労働環境・労働条件の整備
 工業化の進展と併せて労働環境・労働条件についても必要な施策を行っていくことが、経済発展を目指す援助においては重要。
 ベトナムにおける労働者の安全衛生等の労働条件を向上し、健全な産業発展を達成することが重要。
(3) これまでの厚生労働省が関係する協力については、JICA、外務省のスキームを通じたもの、厚生労働省固有のもの(JICWELS)及びILO等国際機関を通じたものがある。


(外務省)

 基本方針は、ベトナムを対象とした協力の基本方針か、あるいは開発途上国全般に対する基本方針か?また、こういった詳細な分析をどうやって行ったのか?

(厚生労働省)

 基本方針は、途上国全体を対象としたものである。分析は、国立医療センターやこれまでにベトナムに派遣された専門家を通じて纏めたものである。

(外務省)

 JICAによる協力と厚生労働省独自で行う協力の住み分け如何?

(厚生労働省)

 労働分野については、JICAでは行政官、国立研究機関の人材育成を行い、厚生労働省固有のプログラムでは、労働組合や経営者団体、基幹産業などの人材育成を行っている。他方、厚生分野では、厚生労働省固有のプログラムでは行政官育成を、JICAスキームではより専門的な技術移転を行ってきている。

(大野教授)

 厚生・労働分野についても、他ドナーとの協調にどう関っていくかについて検討して頂きたい。

(厚生労働省)

 インドネシア、タイといった多数の日系企業がある国では、厚生労働セクターのリードドナーとなる利点はあるが、ベトナムについて今後検討する必要がある。

(国土交通省:運輸分野)

(1) 運輸分野については、99年1月から00年6月に実施した、運輸交通部門全体の開発戦略・マスタープランとなるJICA開発調査「ベトナム国運輸交通戦略調査(VIRTANSS)」を基本方針としている。
 (参考:VIRTANSSの概要)   全国及び全交通モード(鉄道、港湾、内陸水運、航空分野等)を対象として
長期的:2020年を目標とした運輸セクターの長期開発戦略策定
中期的:2010年を目標とした全国交通開発マスタープランの策定
短期的:マスタープランに基づく05年を目標とした優先度の高いプランの投資プログラムの策定
調査計画過程に関する技術移転を実施、について調査を実施した。
(2) 同調査を踏まえ、以下の諸点を重点として位置づけている。
(a) 輸送費用の最小化の観点から、沿岸海運、鉄道、内陸水運への投資がより経済的。
(b) マスタープラン支援のために必要な政策・制度改革について検討し、社会規制枠組みの確立・計画能力の強化等について提言。また、各サブセクターの強化も必要。
(3) 国土交通省固有の予算では、適切な技術協力を行うための情報収集等を行っており、JICAを通じた協力では、研修・専門家派遣等を通じて制度改革支援等を行っている。


(外務省)

 日本の運輸分野との関連でのメリットといった観点から、ベトナムは特段の位置づけを有するか?

(国土交通省)

 具体的なわが国としての利益といった観点からは少ないが、ベトナムのインフラ整備をすることによりベトナムに進出した日本企業やベトナムと貿易を行う日本企業を利するということができる。

(外務省)

 例えば、港湾施設もしくは道路運輸セクターといった場合、どちらが優先セクターかといった発想は可能か?

(国土交通省)

 港湾・空港施設が貿易上重要であることは当然だが、それが機能を発揮するには内陸部とリンクさせるための幹線交通網(鉄道・道路等)の整備が必要であり、どちらかのみに協力するということは現実的ではない。

(大野教授)

 ベトナムはわが国の投資先としては有望であるが、ベトナム政府による投資環境整備やインフラ整備は不十分といわざるを得ず、わが国としてベトナムを産業拠点国とするならば、その戦略的観点からインフラ整備を位置づけることも可能と考える。

(国土交通省:建設分野)

(1) ベトナムに対する建設分野における基本的位置づけは以下の通り。
(a) ベトナムの国際競争力の向上のための支援
 06年に予定されるASEAN自由貿易協定(AFTA)の発効を踏まえ、工業団地及び港湾・空港・道路などの経済基盤が整いつつあるハノイとホーチミン及びそれら周辺に位置する中核都市における産業活性化と国際競争力強化のための基盤整備が不可欠。特にインフラ分野では、
1) ハノイ、ホーチミンの都市内及び両市の周辺の中核都市とを有機的に結合する道路交通網及び都市公共交通の整備
2) 治水・排水対策の推進
3) 産業立地に必要な水資源の確保
4) ベトナム南北を貫く国土軸の強化
 また、インフラ整備の維持管理・運営が効率的・効果的に行われるように、必要な政策支援、制度面の環境整備、人材育成、情報管理等も全国的な視野で行うことが重要。
 更に、わが国ODAを効率的に実施するという観点からも、政府内の手続き等の効率性、公正性、透明性の向上や実施体制の強化を図る必要がある。
(b) ベトナム国内の地域バランスをとるための支援
(イ) ハノイ、ホーチミン以外の北部、中部、南部メコンデルタにおける均衡ある経済発展を考慮する必要がある。
(ロ) インフラ分野については、北部、中部、南部メコンデルタでの域内幹線道路整備、水資源開発・管理、治水対策、都市施設整備など都市環境の改善、衛生状態の改善が必要。
(ハ) 橋梁整備を要する道路整備やわが国の国土条件と類似している中部地域における道路整備、水資源開発・管理及び治水対策は、わが国の知見・経験を活かすことができる。
(c) 貧困削減のための支援
(イ) インフラ分野については、貧困層向けの住宅供給促進等、貧困層に配慮したインフラ整備が必要。
(ロ) 貧困地区においてインフラ整備を行う場合、関係現地住民の参加を促しながら、貧困層が移転・再定住し、生活環境を維持・向上させるための適切な対策が必要。
(ハ) 地方の山間部では、土砂災害が頻発し、人的被害や基幹的な交通網の分断が発生するなどにより貧困を助長するため対策が必要。
(d) 国際的な経済連携の強化のための支援
(イ) ハノイ、ホーチミンからの空路、海路を通じた国際貿易の他、中国等との陸路、水路を通じた国際的な経済連携の強化とベトナム国内の南北間の連携強化を図る施策に対するニーズが高い。
(ロ) 国際的な経済連携については、大メコン圏構想、アジアハイウェイ、東西回廊、第二東西経済回廊等多くの構想がある。
(ハ) インフラ分野については、整備手法の確立、関係国間の政策対話のための枠組みに対する支援が重要。
(ニ) ASEAN新旧加盟国間の格差是正の観点からもメコン地域開発が重要。その観点からメコン委員会への支援が必要。
(e) その他の支援
 インフラ整備及び維持管理・運営について
1) 財源制度、土地収用制度、住民参加・住民移転対策等に関する政策支援
2) 入札・契約、税制等制度面の環境整備
3) 建設や維持管理等に関する人材育成や関連産業育成
4) 効率的な施設整備及び維持管理に必要なGISの整備
5) IT技術の活用
6) 交通安全対策やダムの安全管理等安全対策
(2) 重点分野・重点地域及び具体的援助内容
(a) 道路
 ハノイ及びその周辺、ホーチミン及びその周辺と国土を縦貫する南北軸(国道1号線)を中心に道路整備は進捗。しかし、交通量増大への対応、整備・維持の財源・人材不足、低い舗装率(7%)、老朽化、関連法整備等諸課題多い。近年の交通事故による損失はGDPの1-2%に及ぶ。バイク事情も踏まえた道路安全プログラムによる安全性の改善が必要。
(b) 都市部の治水対策と下水道整備
 下水道普及率は35%と低いため毎年のように浸水被害があり、水環境も急速に悪化。 そのため、河川改修や内水対策等による治水対策、高人口密度地区での雨水排水・汚水処理を含む下水道の整備等が必要。
(c) 流域管理(治水対策、水資源開発・管理)
 99年、水資源法を施行。我が国における流域管理の知見・経験を活かした効果的な支援が可能。また、これまで500基以上のダムが整備されたが、老朽化の観点から世銀資金により04年にダム安全委員会を発足予定。わが国の知見を踏まえ、基準策定や放流警報システム構築等に関する支援が重要。また、地方の山間地帯では、土砂災害の被害を軽減するため、土砂災害危険箇所の評価や砂防設備の整備など、総合的な対策の支援が行う必要がある。
(d) 都市交通
 ハノイ、ホーチミンは公共交通機関も未整備なことから、こうした公共交通に関する計画が必要。フエ、ダナンなど中核都市でも都市環境の維持・改善といった観点から、都市交通計画への支援が必要。
(e) 住宅・建築
 集合住宅の基準や技術・人材不足から適切な住宅供給がなされていない。特にこの問題は、低所得者・貧困者層を直撃している。そのため、02年3月、全国住宅会議では「2010年までの住宅開発の方向性」、「2005年までの都市住宅開発プロジェクト」でも緊急の課題となっている。今後、技術協力を通じた人材育成、住宅金融、財政支援、コスト縮減策についての政策支援、更には、高層建築に関する技術や関係基準、設計に関する能力開発等の技術協力を行う必要がある。
(f) ベトナムでも進められている国土空間データ基盤(NSDI)についてタイミングを得た協力が必要。更に、国土情報システムやハノイ、ホーチミンに代表される都市インフラ・地下施設の適正な管理・運営のための地理情報システム(GIS)があり、その構築にあたりわが国の支援が求められる。
(g) IT
 ベトナム政府は、各事業で行う入札について、経費削減や入札の透明性を確保するため、わが国の公共事業支援統合情報システム(CALS/EC)に関心を示しており、こうした点について技術協力を行う必要がある。
(3) 対ベトナム援助の実施にあたって、我が国の知見・ノウハウの活用の重視、適切な環境社会配慮、実施・運営能力強化や諸手続の簡素化などに配慮する必要がある。


(外務省)

 インフラ整備のニーズは高くやるべきか課題はたくさんあるが、何を優先すべきか?

(国土交通省)

 本日ご説明したのは、日本が貢献できる分野でベトナム側のニーズがあるところであり、何を優先すべきかについては、わが国援助リソースも限られており、他ドナーとの関係で決めていくべきもの。

(大野教授)

 インフラ整備の位置づけについては、インフラ整備による経済成長を通じた貧困削減というアプローチか貧困削減に直接アプローチするかといった問題がある。インフラ整備は、産業振興、貿易・投資といったことと密接にリンクしており、こうした視点を踏まえた対応が必要。

(農林水産省)

(基本的位置づけ)
 農業は、ベトナム社会経済10ヵ年開発戦略でも重点分野でもあるが、農業セクターの開発は遅れている。また、森林の減少も顕著で、近年、土壌浸食、塩害等の環境悪化も進んでおり、総合的な環境保全対策が重要。こうした中、2010年までに500万haの森林回復を目指す「500万ha国家造林計画」を現在策定中。特に、北部山岳地域及び中部高原地域では、少数民族の農業に対する影響が大きく、森林保全・造成及び適切な管理による持続可能な森林経営を推進することが重要。
 その他、とうもろこし等については需要が拡大する中自給を達成しておらず、国内自給の達成に向けた努力を支援する必要がある。また、適正な漁業資源管理やわが国の漁獲の確保の観点から、ASEAN-SEAFDECの枠組みで決定された「決議」及び「行動計画」を尊重して行う協力が重要。他方、米等の輸出品については、わが国農林水産業へ悪影響を及ぼさないような重点分野、重点地域の選定が必要。

(協力の重点分野及び地域)
(1) ハノイ、ホーチミン等の大都市周辺以外の開発が遅れており、栄養不足・貧困問題を抱える地域を中心に、住民参加にも留意した、生産基盤整備等の持続可能な農業・農村開発に対する協力
(2) 荒廃森林の復旧、土壌侵食・劣化防止対策、水質汚濁防止対策等の国土保全や沿岸域保全に資する環境対策への協力
(3) 海洋生物資源の持続的利用の観点から、適正な漁業管理等の東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の政策に沿った水産業協力
(4) なお、協力を行うべきではない分野及び地域としては、
1) 農林水産物の輸出を通じ、わが国農林水産業への悪影響を及ぼす恐れがある協力全般
2) 海洋生物資源の持続的利用に悪影響を及ぼす恐れがある水産業協力


(その他)

 ベトナム国別援助計画の見直しに当たっては、農林水産資源の状況等について十分に検討されたい。

(外務省)

 ベトナムの開発課題として北部山岳地域といった貧困地域への協力といったことは理解するが、日本の農林水産業との関連におけるベトナムの位置づけ如何?

(農林水産省)

 日本の農産物に対するブーメラン効果といったことが問題となる。日本は自給率の向上を国内政策としており、日本への輸出が増える農産品に係る協力はこれと矛盾することとなり、国民に対しても説明することは困難。また、漁業では世界の水産資源は悪化傾向にあることから、協力を行うにあたっても、ベトナムによる乱獲につながらないよう注意することが重要。

(外務省)

 農水省としてブーメラン問題について先方に伝えることについてはどう考えるのか。

(農林水産省)

 当省は先方に伝わるべく常にはっきり言っているし、先方にきちんと伝えるべきと考えている。

(大野教授)

 日本の産業の空洞化といったことが問われている中、こうした問題への対応は難しい問題。

(経済産業省)

 我が国経済・産業にとってのベトナムの重要性については以下の通り。
1) 我が国企業にとってのASEAN市場・中国市場向け製造・輸出拠点
2) 潜在的に有望な輸出市場(人口80百万人)
3) エネルギー供給拠点(重要な非中東石油輸入相手国)
4) 特に地域の製造・輸出拠点としての側面から以下の諸点はベトナムにとっての強みと考える。
豊富・安価・優秀な労働力
中国及びASEAN諸国への地理的な近接性(両市場へのアクセス、華南の工業集積からの部品供給の容易さ)
潜在的には巨大な国内市場
地域有数のエネルギー資源の存在等

(2) 経済・産業の観点からのわが国としての援助戦略については以下の通り。
 開発の基本的な考え方については、地域の製造・輸出拠点としての魅力を高め、外国からの直接投資を促進し、工業化を進めて経済成長を達成し、このプロセスを通じて貧困削減を図ることが重要。具体的な戦略としては、1)運輸・エネルギー等のインフラの集中的な整備、2)キャパシティビルディング支援、3)ODA供与に際する政策対話の強化を通じたガバナンスの向上、4)ASEAN統合を見据えた協力等が考えられる。
(3) 上記を踏まえると、わが国の対ベトナム資金協力の今後の重点となる分野としては、1)電力部門、2)運輸部門、3)IT部門等が考えられる。
(4) また、わが国の対ベトナム技術協力の重点となる分野としては、ベトナムの市場経済への対応力を高めつつ、持続可能な発展を図るための、1)貿易投資環境の整備、2)産業人材・裾野産業育成支援、3)インフラ整備、4)環境・省エネルギー対策等が考えられる。


(環境省)

(1) ベトナムにおける環境問題の概要は以下の通り。
1) 水質汚濁
 河川や湖沼の水質汚濁が進んでおり、特に都市内の排水路などの汚濁が著しい。行政の排水規制実施能力が不十分。排水路、下水道等のインフラが未整備。
2) 大気汚染
 今後の石炭等によるエネルギー開発に伴う大気汚染が懸念される。ハノイ市やホーチミン市において、道路交通に起因する排気ガスと粉塵による大気汚染が顕在化。特に極めて普及しているオートバイの問題と共に、今後自動車の増加による交通渋滞の激化、大気汚染の悪化が懸念される。
3) 廃棄物
 廃棄物の収集率は40~50%と低い。その他は下水、池等に投棄されている。処分場には浸出液収集処理設備や汚染処理設備が設置されていないため、浸出水が汚染を引き起こす原因となっている。99年に有害廃棄物の定義、運搬・処理・処分の方法が規定されたが、現在、国内には有害廃棄物の処理施設や最終処分場はなく、生活廃棄物とまとめて収集され、処分されている。
4) 自然環境
 戦後の無計画な森林伐採、地域住民による薪炭材採取、移動焼畑農業、人口増加による農耕地の拡大、ベトナム戦争時の枯れ葉剤使用等により森林が急速に減少。マングローブ林の減少も著しい。ベトナムは豊かな生物多様性を有しているが、森林減少等による生息地の著しい減少、森林資源・動植物の違法な採取や取引等により、ほ乳類の28%、鳥類の10%など多くの種の絶滅の危機に瀕しており、生物多様性の減少は深刻な課題である。
(2) 環境分野に対する支援の位置づけ・方針については以下の通り。
 ベトナムにおいては、今後、本格的な経済開発が見込まれるところであり、開発の早期段階から環境保全を組み込んで、環境保全と開発の統合を目指すことが持続可能な開発を達成する上で極めて重要。
1) 基本的考え方
環境行政能力強化のための技術協力
環境保全プロジェクトの実施
開発プロジェクトへの環境保全の取り込み
開発プロジェクトにおける環境配慮
2) 重点課題
環境汚染対策
 公害問題への環境行政の対処能力の向上。ベトナムも参加する東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)に係るモニタリング能力の向上への支援が重要。
廃棄物・リサイクル対策
 総合的な廃棄物処理計画の策定やそれに基づくシステムの確立のための支援。
自然環境保全
 生物多様性保全施策のベースとなる自然環境情報の収集・整備のための調査・モニタリング。環境教育、エコツーリズムの利用を含めた自然保護地域の持続可能な管理・利用の強化。渡り鳥の生息地や重要生態系(ホットスポット)、珊瑚礁などの浅海生態系の保全ネットワークの構築。
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