ODAとは? ODA改革

「ODA総合戦略会議」第4回会合・議事録

1.日時

 平成14年11月1日(金)8:00~9:40

2.場所

 外務省飯倉公館

3.出席者

 ODA総合戦略会議委員(ただし、川口外務大臣(議長)、荒木委員は欠席)。外務省(事務局)より古田経済協力局長他が出席。関係府省、JICA(国際協力事業団)及びJBIC(国際協力銀行)がオブザーバー参加。

4.議論の経過

 矢野外務副大臣及び新藤外務大臣政務官の就任挨拶に続き、対ベトナム国別援助計画の見直しについて、大野委員より今後の作業方針が報告された。議論の結果、大野委員と現地を中心とするオープンネットワーク方式での作業を進め、来年3月に中間報告、来年9月に最終報告を「ODA総合戦略会議」に提出するとの方針が確認された。
 続いて、ODA基本政策(ODA大綱・ODA中期政策)について、草野委員の報告に続いて自由討議が行われ、草野委員を主査とするタスクフォースにおいて、年明け頃にODA大綱見直しに係る論点を整理することとなった。また、対スリランカ国別援助計画の新規策定について、絵所秀紀法政大学経済学部教授を主査とするタスクフォースを立ち上げることが合意された。なお、ベトナム、スリランカ以外の国別援助計画の策定・見直しの候補国について、次回会合で事務局より案を提示することとなった。
 最後に、古田経済協力局長より、自民党・ODA改革に関するワーキングチーム「ODA改革の方向性(中間取りまとめ)」及び国際協力事業団(JICA)の独立行政法人化について概要の説明が行われた。
 今後、ODA総合戦略会議は原則として毎月最終週に開催することとなり、第5回会合は11月20日(火)、第6回会合は12月20日(金)に開催予定。

(1)矢野外務副大臣及び新藤外務大臣政務官の就任挨拶

(渡辺議長代理) ただいまから第4回ODA総合戦略会議を開催致します。本日、川口議長は国会出席のため急遽欠席となりましたので、私が代わりに進行を務めさせて頂きます。
 本日は主たる議題が2つあります。1つ目が、対ベトナム国別援助計画について、大野委員よりのペーパーについてご報告をして頂き、議論したいと思います。2つ目が、ODA大綱・ODA中期政策等のODA基本政策について議論したいと思います。
 会議を始めるのに先立ち、先般の内閣改造に伴い、矢野副大臣、新藤政務官が「ODA総合戦略会議」委員に加わって頂くことになりました。大変嬉しいことです。最初に簡単にご挨拶をお願い致します。

(矢野委員) おはようございます。ただいまご紹介を頂きました、今回の第2次小泉内閣で副大臣を拝命致しました矢野でございます。もともと不慣れですので、先生方のお知恵、ご協力を拝借しながら、構造改革の標的にされましたけれども、我が国唯一の外交手段であるODAをより有効かつ的確に実施することができましたら、国家の基本政策になり得るのではないかという思いで、この会議の重要性を私の立場としても広く訴えていきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

(新藤委員) おはようございます。大臣政務官を拝命致しました新藤でございます。ただいま矢野副大臣からお話がありましたように、ODAは日本外交の最大の柱ですから、そのより一層の充実と将来に向けての様々なご提言を賜ればありがたいと思っています。私も国政にてほんの少しですが活動をさせて頂いています。特に、コソボの頃から、「顔の見える国際貢献」を私のキーワードにして今まで活動してきました。ODAについては、非常に関心を持っていますので、ご指導のほどよろしくお願い致します

(2)対ベトナム国別援助計画の見直し

(渡辺議長代理) 対ベトナム国別援助計画の見直しについて、大野委員から、今後の具体的な作業方針や作業日程等について簡単にご報告を頂いて、皆さんからコメントを頂きたいと思います。

(大野委員) 資料2に基づき、簡単にご説明致します。ベトナムについては、前回会合時から現地と東京で実際に作業を行っていますが、その方針について、ご提案及び報告申し上げます。
 最初のページのポイントは、委員会方式で、委員や期間、権限を決めて行うのではなく、ここに書いてあるように、オープンネットワーク方式で行うということです。作業についてのイメージはこの図のとおりですが、追加修正等があれば、後からいくらでも変えていきます。根本的には、現在は現地では北野公使に責任者をして頂いていますが、現地の大使館の方と私がベトナムと日本の間で、メールや相互訪問その他の方法によって連絡を取りながら進めていき、我々二人がその取りまとめの責任を取るという方法です。後は非常にフレキシブルに、必要であれば、コアパーソンが責任を持って形式を変えていきます。これは最初からやり方を決めずにできるだけ広い分野の方々から意見を聞く、状況が変わった場合もすぐ対応できるという趣旨です。
 2ページ目のポイントは、作業予定についてです。10月からすでに、どのようなことを始めなければいけないかというサブスタンスについて議論を始めています。まだ完成していませんが、形になってきましたので、この場でこのやり方で良いということになりましたら、今月から各方面に打診、意見聴取及び議論を始めたいと思います。12月におそらくハノイでCGがあると思いますが、そこで日本側の方針をベトナム政府や他のドナー、国際機関に提示します。その後、正確なタイミングはわかりませんが、年度末に原案を箇条書き形式のいくらでも書き直せる形のショートドラフトで提示したいと思います。その原案に対する意見聴取を通じて、9月末に最終案を提示致します。
 「ODA総合戦略会議」との関係では、節目節目、すなわち3月、9月に案を提示するということと、まだ良くわかりませんが、おそらく3ヶ月に一度程度、ベトナムについて時間を使う機会がある時にもその時点での状況を説明させて頂きます。今申し上げた活動に必要な予算、人員については外務省の担当の方と詰めているところです。

(渡辺議長代理) 大野委員ありがとうございました。非常にユニークな新しい見直し方法をご提案頂いております。本日委員のご承認を得られれば、この形でスタートしていきたいと思います。それに先立ちまして、ご議論頂きたいと思います。

(浅沼委員) プロセスについて意見を述べさせて頂きたいと思います。私はベトナム国別援助計画の見直しについては、非常に幸運なことに大野委員がいらっしゃったので、このような形で見直すことができるのだと思います。先程渡辺議長代理が「ユニークというか、新しいというか」とおっしゃいましたが、ユニークであるならばこれで良いと思います。
 しかし、新しいプロセスの一つの例として作り上げるとすると多少不安があるのです。その不安は次のようなものです。国別援助計画は、援助方針ではなく、計画作りです。方針と計画の間にはずいぶん大きな差があるような気が致します。計画までいきますと、例えば、ある程度の量的な枠の設定やそれだけの量を目指す際に当事国が果たさなければいけない条件、一種の総合的なカントリー・コンディショナリティーのようなものがおそらく出てきます。
 しかも、同時に、計画の中にはある程度、援助の内容をどこのセクターにどのような重点を置いてどのようなプロジェクトあるのかというプログラミングの要素がなければ、それは方針であって計画ではないと思います。
 そうであれば、これは相当の専門的な知識の蓄積がないと到底できません。例えば、ベトナムの例を拝見しますと、エネルギー分野への援助が非常に大きくなっています。ところが、そのエネルギー分野の開発に関して、政府がどれだけの計画を持ち、どのような政策を採り、どのような機構があり、それがどのような運営をされているかまで知っていないとプロジェクトが重要だと思っても、それを実施するわけにはいかないのです。国のセクターレベル、かつサブセクターレベル、プログラム・レベル、さらに可能であればプロジェクト・レベルまでの知識がなければ計画など到底作れません。
 はたしてこの会議が主体、執行部として、そのような計画を作り上げ、役割を果たすことができるのでしょうか。もちろん全員ではなく、分科会を作り、その中の適当な人が策定するわけですが、ベトナムの場合には大野委員がいらっしゃったから良いのですが、その他の国についていくつもやる時には同様の方式はおそらく使えないと思います。それを私の不安として、皆さんに考えて頂きたいと思います。この会議の役割は、どこかで作って頂いたものを検討、審議することであって、作ることにあるのではないのではないかと思います。
 そうであれば、大野委員がベトナムで果たして頂けるような役割は、屋上屋を重ねることになるかとも思いますが、別レベルで国別委員会のようなものを作り、専門的に行わざるを得ないのではないかという気がします。

(磯田委員) 共通の点もありましたので、続けて質問させて頂きます。オープンにやるという基本的なコンセプトは、私も歓迎したいとは思っていますが、2点申し上げたいと思います。
 一つは作業予定の最後に、「最終案をODA総合戦略会議に提出」とありますが、この後はどのようになるのでしょうか。すなわち、この会議で決めるということがどのようなことなのでしょうか。浅沼委員のおっしゃったポイント、理由とは多少違いますが、この会議に提出し、この会議で議論し、会議としてのある種の合意がされた後が、どのように位置づけられているのか少しわかりづらい点がありました。
 それと関連するかもしれませんが、もう一点は、作業体制のイメージに書かれてある案は、きれいな案にも見受けられますが、具体的にこれで機能するのかということが若干不安です。相当オープンに広げるとはいいつつも、ネットワークのコアパーソンが関係省庁等すべてと話し合うことになっており、例えば他省庁との調整等に「ODA総合戦略会議」がどのように絡むのかとことが多少わかりづらいので、このような形でどの段階のものが決まるのかということをご説明頂けたらと思います。

(青山委員) 大変おもしろいネットワーク図がですが、2点コメントを申し上げたいと思います。1点目は、図に「関連各省」が入っていますが、東京や各省レベルで考えるだけではなく、ODAの現場で働いてきた専門家等の意見を拾い上げられる仕組みを考慮した方が良いということです。もう1点は、「研究者・研究機関」とありますが、浅沼委員もおっしゃいましたけれども、対象とする国の専門家だけではなく、様々なセクターの専門家も入れるべきであるということです。その場合、理論と現場の両方を理解しているセクター専門家を加えるよう配慮していくべきではないかと思います。

(小島委員) 「ODA総合戦略会議」の課題の一つに国別援助計画の策定と見直しがあります。計画の策定は計画を作ることであると思いますが、計画の見直しの場合、新たな計画を作るのでしょうか、それとも様々な問題点を指摘していくことまでが見直しの内容なのでしょうか。大野委員も再計画策定までは考えていないのでしょうか。

(大野委員) 現状では良くないので、まったく新しく策定します。

(伊藤委員) 作業予定の中で、11月以降NGOとの関係において、「メールを通じて意見収集」という表現になっていますが、NGOについては、できれば私たちの間で取りまとめながら、大野委員に協力していきたいと思います。

(大野委員) 浅沼委員の御意見について、計画に何を書き込むかということは、現在現地からの案について検討しています。上げる、下げる、一定にするといった具体的な量の表現を入れてはどうかという案も出ています。また、政策条件が良くなるというようなコンディショナリティーのようなものも入れた方が良いのではないかという案も出ています。ただ、これは全部案ですので、我々が提案したものをいくらでも叩いて頂ければと思います。おっしゃったようなことをできるだけ多く具体的に入れようという意見が出ています。
 プログラミング的要素、セクター案件を知らないといけないということについては、ベトナムでは十分可能であると思います。事務体制の問題、時間の問題はありますが、専門家、現地にいる方、NGOについても前回リストを頂きましたので、誰に聞けばいいかということは、現地の担当者と私が知っていますのでできると思います。ただ、前回も申し上げましたが、ベトナムのようには情報がない他の国の場合は、もう少し時間がかかりますし、方法についても他の方法も十分考えられると思います。まったく同じようなモデルをスリランカ等に使うことはありません。
 最終案を決めた後どのようにするかということですが、まだ例がありませんので、この会議で、最終案をそのままどこかへ持っていき、さらに議論するのか、その案をどのように使うかを議論して頂きたいと思います。
 作業をこの体制でできるのかというのは私も不安がなきにしもあらずですが、新しい方法ですのでがんばるというしかないのですが、現地のコアパーソンである北野公使はパートナーとしてやる気も能力もある方ですので、何とかがんばってできるのではないかと思います。
 NGOについては、伊藤委員よろしくお願いします。
 小島委員のおっしゃった点については、現状のままではとても政策になっていないので、現在どのようなものを盛り込むべきか皆さんに提示して議論して頂く最初のリストのようなものを作っています。現在の計画にコメントするだけでは良くないので、まったく違う新しい計画を作るつもりです。

(渡辺議長代理) 新規計画をどう策定するのか、どう見直すのかといった場合、少々概念的な議論が必要かもしれません。大野委員にとっては見直しというのはまったく新たに直すべきだということでしょうか。

(大野委員) 現在の計画については、国益が何であるかとか、社会的・経済的・外交的国益は何であるかということはあまり書いていません。ODA大綱に合致した国であるといった表現はありますが、社会セクターの開発分析、経済分析は何もないといって良い状態ですので、そこにコメントするだけでは新しいものはできないと思います。

(渡辺議長代理) 見直しという入り口から入って、出口は新規計画になっているということでしょうか。

(大野委員) 現在の文体を使えということでは、ほとんど新しいものはできないと思います。私は最初から、章立てその他をまったく変えるつもりで臨んでいます。

(渡辺議長代理) 9月に出して頂く最終案の取り扱い方についてですが、この会議は議長が外務大臣であり、我々の意見は議長である外務大臣を通じて外務省のODA政策に影響を与え、最大限取り込んでもらうということで発足しましたので、あとは外務大臣、外務省の問題であると理解してよいと思います。

(古田経協局長) 最後の点ですが、この「ODA総合戦略会議」の位置づけに関わる話ですので、一言発言させて頂きます。国別援助計画は、あとでご議論頂きますODA大綱、ODA中期政策の下に位置づけられ、政府全体としてこの計画に沿って援助を推進していくという骨格、土台となるものです。それを今回、大野委員がおっしゃったように全面的、抜本的に書き直して頂けることは、私どもも大変ありがたいと思っています。
 その案をこの会議でご議論頂き、政府部内でも良く相談をして、最終的には政府全体としての国別援助計画として仕上げるというプロセスになります。その過程で、各省庁の意見もありましょうし、変更が絶対にないということはありませんが、基本的にはこの会議で頂いたものを最大限尊重して、政府の国別援助計画にしていきたいと思っています。
 また、後程ご説明致しますけれども、各方面でODA実施体制の見直しに関する議論があり、その中では、ODA大綱から国別援助計画、役所の役割や国全体として意思決定のあり方といった議論が行われています。それらの体制が変わっていけば、国別援助計画の議論も新しいシステムに乗って進められていくことになると思います。

(渡辺議長代理) 大野委員もおっしゃったように、これは一つの見直しの手順であって、次の見直しの方法を拘束するものではもちろんありません。特定の方法を厳格に考えるよりは、主査が一番やりやすい、比較優位を活かした方法で柔軟にこれを行っていくことがよいと思います。前回申し上げたように、我々はしばらく歩きながら考えなければならないということです。
 折に触れて、大野委員に報告頂き、また大野委員に対しても個人的にも様々なコメントを差し上げたり、同意を求めたりしながら続けていきたいと思います。是非来年の9月末までには、報告書を出して頂きたいと思います。ただし、私自身の好みかもしれませんが、多く方の合意を得、読んで頂くためにも報告書はできるだけ薄いものにして頂きたいと思います。「第2次ODA改革懇談会」の中間報告は、10ページにも満たないものでした。

(浅沼委員) 今回はユニークなケースとして、その他の一般的な見直しや策定プロセスについてはもう一度考え直すということでしょうか。
 私が大変不安なのは、ベトナムの場合には先程述べたように、今までベトナムをよく見てこられて、人的な関係もある大野委員がいらっしゃるから良いけれども、その他の国で個々の委員がこのような形で扱える国は、おそらく多くても1、2だと思います。従って、どこかで真剣に戦略や方針ではない国別の援助計画の策定方法を考えなければならないと思います。この場が常に事務局となる、あるいはこの会議が主体となって行うことは不可能だと思います。

(渡辺議長代理) そのとおりです。今まで国別援助計画を作る際も、その地域について深い知識を持ち、かつODAについても長く関心を持ってきた人はなかなか稀有です。そのような人を求めるのに最大限の努力をしてまいりたいと思います。
 ご懸念はよくわかりますが、それにも関わらず、策定していかなければなりません。得られる人材の中で最良の主査を選び、その主査に私どもが協力しながらタスクフォースのメンバーを選んで頂く、主査の比較優位にできる限り任せるしか方法はないのではないかと思います。今年はテストケースとして非常に少ない国しか選んでいませんが、来年から多くの見直しと新規策定が始まります。

(磯田委員) 私も浅沼委員のおっしゃることに賛同致します。見直しということでベトナムを選び、今回は非常に特殊な例と考えるのであれば、もう一国、別の国を選び、他にも波及できるような議論を早速にも開始した方が良いと私は思います。
 なぜなら、戦略会議にとっては、大野委員から案が出されるのは3月であり、それまで他のメンバーいますので、もう少し違うものを同時に走らせるということをしてもいいと思います。

(渡辺議長代理) はい。そのことは後で議論するつもりです。

(伊藤委員) 浅沼委員のご質問の前の渡辺議長代理のご発言が多少あいまいに聞こえたのですが、私は、大野委員がどれだけのフリーハンドを持って、走り出せるのか不安です。大野委員が提案された方向で走り出していいということをここで決定し、はっきりした方がいいと思います。

(渡辺議長代理) 私はそのつもりで発言したのですが、この場は公式の会議ですので、伊藤委員がおっしゃった形をとりたいと思います。大野先生を主査として対ベトナム国別援助計画の見直しを始めるということでご了解を頂けますでしょうか(全委員賛成)。ありがとうございました。

(3)ODA基本政策(ODA大綱・ODA中期政策)についてのフリー・ディスカッション

(渡辺議長代理) ODA大綱、ODA中期政策について、ある種のブレインストーミングというか、考えているキーワードを各委員が出して議論して、論点整理をし、中間報告を出すという形を採りたいと思います。本日はその意味での皮切りですが、草野委員から提案が出ていますので、草野委員お願い致します。

(草野委員) 確か2回前の会合で、「ODA総合戦略会議」は、その名に相応しく、国別援助計画とともにもう少し大きな上流の話をしたらどうかということを申し上げた責任から、本日若干時間を頂き、ODA大綱の見直しについて私見を述べさせて頂きたいと思います。もちろん具体的な中身に入ることは必要ですけれども、その前になぜODA大綱の見直しが現時点で必要なのかについて若干整理をしたいと思います。
 一言でいえば、よく言われますように、海部内閣がODA四原則を発表した後、1992年に宮澤内閣で閣議決定されてから10年経ったからです。具体的にどこがどのように具合が悪いのかということをお話したいと思います。
 2枚レジュメを用意していますが、それほど時間は取りません。まず一つは、「なぜ今、大綱の見直しか」というところをご覧頂ければわかりますように、2つのパートに分かれています。1番目は、この10年間の「国際的援助論議の重点の変化」です。2番目は、「国内的援助論議の重点の変化」です。これは、政策と政策過程、決定と実施のプロセスを含む2つの異なったレベルの話が混在しています。
 1つ目は、国際的には「貧困削減の強調」です。例えば、1996年の新開発戦略の中には数値目標が入っています。「人間の安全保障」という考え方も大変ポピュラーになりました。ご案内のとおり、日本政府は、このキーワードを使って様々な政策を打ち出しています。それから「平和構築」という考え方です。冷戦が終わり、平和の配当(Peace Dividend)として、経済に話がシフトするのかと思いましたら、また紛争が多発しています。それに対してどのようにしたらいいのかという議論の流れの中で出てきた考え方であるということはご存知のとおりです。
 2つ目は、世界の潮流にようやく日本が追いついたという言い方ができるのでしょうか。「国民参加」が非常に強調され、この10年間日本政府が、行政手続法以下、情報公開法を含め様々な制度を構築してきたことと関係がありますが、ODAだけでなく、あらゆる公共政策について、透明性の確保と説明責任が求められるようになりました。もう一つは、これは10年前と一字一句違いますが、ODA政策の中に国益あるいは戦略的視点が欠けているではないかという点が強調されてきました。さらには、財政逼迫と不況によるODAの量的削減論が出てきました。
 次に、2番目の表についてです。一番左が政策前提です。先程局長からお話がありましたように、ODA大綱が前提となって様々な下流の政策があります。そして、99年8月に作成されたODA中期政策がその次の柱になっています。右側に先程申し上げた変化について書いてあります。その幾つかは、国際社会で発表されたイニシアチブやそのレポートの中で打ち出された概念、考え方です。また、国内的には、渡辺議長代理の「第2次ODA改革懇談会」を含め、戦略性、国益あるいは国民参加等の論点に関する様々な提案、提言、指摘が書かれている報告書があります。
 2ページ目にまいります。2の表から明らかな結論3点です。この・、・、・が結論で、その結論を説明する意味で、ナカグロでいくつか書きました。1番目は、大綱は、内外の変化に対して明らかに記述の中身が時代遅れになっています。2番目は、大綱に基づいて策定された99年8月のODA中期政策は、内外の変化を取り込み、大変良くできているように思えますが、中身は不十分です。また大綱との整合性が十分に取れていません。3番目は、新たな政策の前提となるODA大綱の見直しの必要性です。この結論は、私の個人的見解です。
 結論を補強する意味で、若干詳しく述べますと、改革論議の論点のうち、国民参加、透明性の確保と説明責任については、第1次ODA改革懇談会の指摘もあって、中期政策にかなり反映されていますが、「第2次ODA改革懇談会」で指摘がありましたようにまだまだ不十分です。より具体的な提案がなされ、現在逐次実施に移されつつあります。
 当事者の方々も良くおっしゃいますが、政策過程の透明性あるいはNGOを含めた国民参加は10年前と比べると、大きな変化があったと言えると思います。ところが、大綱ではこれらの点について、実施過程に関わる部分については、最後の内外の理解と支持を得る方法というところで、情報公開について言及があるだけです。
 2番目に、改革論議の論点のうち、国際社会の流れとなっている紛争予防や平和構築面での支援については、中期政策では短く軽く触れられていますが、あまり体系的ではありません。他方、同様に重要な論点である人間の安全保障については、飢餓、薬物、組織犯罪、人権侵害、地域紛争、対人地雷等の例を挙げて言及しています。この表には書きませんでしたが、この直後98年12月頃から様々な国際的な場で議論されており、日本政府はアクション・フロム・ジャパンという形で、この人間の安全保障を強調し、具体的な提言をしています。大綱では残念ながら以上の点をカバーするような記述は十分には見当たりません。
 3番目に、改革論議の論点のうち、日本国際フォーラム、官邸、自民党では、国益の確保、戦略性の必要性を強調しています。具体的には、このメンバーとは重なっていませんが、7月25日に岡本行夫さんが責任者となっています官邸の「対外関係タスクフォース」が出しました「我が国のODA戦略について」というペーパーがあります。また、2、3日前に出されたものですが、自民党の「ODA改革の方向性」というペーパーもあります。
 そこではいずれも国益の確保や戦略の必要性を強調しています。例えば官邸のレポートでは、ODAは単なる人助けではなく、我が国にとって安定した国際環境を確保するために採り得る最も重要な政策手段であるという明快な記述で、日本の利益に直接資する援助を示唆しています。他方、中期政策でも似たようなことが述べられていますが、非常にあいまいです。国益という言葉を用いてはいますが、開発途上国支援に引き続き積極的な貢献を行っていくことは、我が国自身の安全と繁栄の安定確保に重要な意義を有し、平和の維持を含む、広い意味での国益の増進に資するという控えめな表現になっています。大綱ではどうかというと、国益・戦略性という観点からは、これらの2つのキーワードを含めてまったく言及がありません。
 従って、先程申し上げました結論を繰り返しますと、内外の変化に対して大綱は十分中身を反映したものとなっていません。
 最後に、「4.ODA大綱を見直すに当たっての特に重要な論点」として、いくつか挙げておきました。本日ご紹介致しました、なぜ見直しが必要なのかという「そもそも論」は主として理念に関わる部分です。2番目は、よく議論されているところですが、これからこの議論を続けると、大変クリティカルな、どうしたらいいかと議論が別れるところですが、開発と援助の両立あるいは大量破壊兵器の開発・製造の動向に注意を払う等を含めた4原則の運用方法についてということがおそらく重要な論点になるであろうということです。それからもう一つは、先程述べた比較的最近様々なところで強調されている戦略性です。これは重点地域と重点領域ということですが、この点をどうするのかという点が一つポイントになると思っています。以上です。

(渡辺議長代理) ありがとうございました。本日は多くの意見をやりとりできればありがたいと思います。

(牟田委員) 草野委員の発言と重なるかもしれませんが、別の視点で述べさせて頂きます。ODAについては、評価は非常に大切であり、しかも単にプロジェクト・レベルではなくて、もっと上位のプログラム、政策レベルでも必要であるということについては、特に議論する必要はないと思います。
 その政策レベルの評価をどうするかという時に、政策レベルの評価は、ODAでは様々なことを行っているけれども、ODA全体として本当に役に立っているのか、どういうことになっているのかということにどのようにして簡単に答えるかということであると思います。そのためには、政策目標があって、その政策目標がどの程度達成されているか、あるいは改善されているかということを分析する必要があります。そのためには政策目標が明確でなくてはいけないと思います。
 今の大綱や中期政策は、様々な良いことが多く書かれていますが、草野委員もおっしゃったように、漠としていて、メッセージがよくわかりません。しかも様々なことが羅列してあり、メリハリがありません。従って、政策レベルでODAの評価をしようということであれば、その目標にメリハリがあって、しかもメッセージが明確であるということが必要であろうと思います。これは一体何を言っているのか、言わなくてもいいことが多く書いてあるのですが、一言でいうと良くわからない、何でもやりますと書いてあるところがあると思います。従って、見直しをするのであれば、そのようなところは注意すべきであろうと思います。
 また、予算が減り、潤沢にいくらでも使ってもよいということにはならない中で、政策レベルの評価を高める、すなわちODA全体の成果を高めようということであれば、どうしても分野や地域を限定することになります。目標として、様々なことを挙げるのは決して悪いとは思いませんが、限られた資源を有効に活用するのであれば、それが戦略性であると思いますが、日本として行うべきODAは何かということに限るのが一番いいと私は思います。少なくとも順位付け程度はして、最も重要な分野・地域、余裕があればやるべき分野・地域というように行うべき内容や地域にメリハリを付けるのであれば、政策レベルでのODA全体としてどのような効果があったかをきちんと示すことも可能であろうと思います。
 現状の大綱や中期政策では、個々の事業が成功したか失敗したということはもちろん言えますが、全体としてどうなのであろうということは国民にも、国際的にもなかなかわかってもらえません。他のドナーや国際機関から様々な場面で、日本のポリシーは何だと聞かれても、「いや何でもやります」ということになってしまいますので、見直すとなれば、どのように見直すかはこれからの議論であると思いますが、分野・地域についてメリハリを付けるべきです。私の立場、評価の立場からいえば、効率的に資源を運営するという立場でいくつかの順位付けをすることを考えて頂ければと思います。

(新藤委員) 私も委員の立場として意見を述べさせて頂きたいと思います。2人の委員のお話を伺って本当に嬉しくなりました。私どもが問題意識を持っている部分を率直に指摘して頂いたと思っています。私も、昨年総務省の大臣政務官をやっていまして、その時に策定したのが政策評価法です。政策評価を法律に致しましたのは、世界でも最初がアメリカで2番目が日本なのです。
 そこでは、政策評価をどのようにするかという研究をしました。かつ同法の中では、ODAや公共事業等事業の長期的継続性があるもの、戦略性があるものについては、国として政策評価を行うと法律が決まっています。その際に困ったのは、牟田委員がおっしゃったように、何に基づいて評価するのかということです。
 私も様々な現場へ行きましたが、2通りあります。一つは、予算の編成書に応じて、各自が持っている仕事全てが、前年度に対してどれだけ進捗があったかといったことやどれだけ整備率が上がったといったことを評価する方法です。しかし、これは膨大な量ですし、予算編成や予算査定とほとんど同じ作業になってしまいます。
 もう一つは、それを行うことによって何が達成できるかということから評価をする方法です。ODA中期政策の骨子には様々な課題があります。この課題を行うことで何が達成できるのかということが、行政政策には全く設定されてないということに気がつきました。
 アメリカの運輸省では、政策には膨大なものがありますが、政策目標は5つなのです。安全や早さ、建設といったものがあります。日本のODAで一体何が目標なのだというと、このような事業を行います、このように行いましたとは言うのですが、例えば、繁栄や交流、知らせるとか、資源の確保といった、そのことによって何を達成するかという目標を設定しなければなりません。事業が進捗したことが評価なのではなく、日本にとって資源を確保する前提で、そのために必要な国はどこなのか、物資、資源をこれだけ確保することに成功したといった視点が戦略性であると私は思っています。
 ODA大綱にも、まずそのことを入れていかなければならないと思います。そして、牟田委員がおっしゃったように、今行わなければなりません。日本の行政政策には目標設定が一つもないのです。自分の省の仕事を3つで述べろといった時や我が国の政府の目標は何かといった時に、わかりやすい言葉でいうとなると、それが豊かな高齢化ということでよいかどうかなのです。ITを進めるといっても、ITを進めること自体が目標ではなく、ITによってどのような社会を作るかということが目標であり、そこがないのが行政の一番の弱みになっています。
 それからもう一つは、人間の安全保障に触れて頂きましたけれども、私が、顔が見える、見えないという中で最も困っているのは、日本のODAはDAC基準を前提にして、まさに名のとおり経済協力援助になっています。しかし、今世界が求めているのは経済協力に加えて国際平和協力であると思います。この部分も行ってはいますが、非常に細々としてであり、柱としてではありません。これも経済協力のみでいいのでしょうか。また、DAC基準でないと基本的に支援を行わないということでいいのでしょうか。このような部分を大元で是非ご検討頂きたいと思います。
 それから最後にもう一つ、実際に仕事をする上で最も困っているのが、援助はするけれども、その先でどのように使うかは相手に任せるということになっています。私が最も欠けていると思っているのが広報です。ODA全体のPRをしましょうといいますが、一つ一つの事業が現場でどのように広報されているかという時に、広報予算がありません。相手国が気を利かせてパンフレットを作成したり、様々な式典を行ったりして頂ければありがたいけれども、その国にどれだけの広報が流れたかというのは本来事業ごとに日本のODAの広報予算として持つべきではないでしょうか。
 また、事務費がありません。従って、現地に行ったり、調整事務所を置いたりする事務費がないのです。私は、このような部分を是非ご検討頂きたいと思っていますし、私自身も取り組もうと思っています。

(砂川委員) 草野レポートをご説明頂いて、ご意見に賛成なのですが、2点コメントさせて頂きたいと思います。一つはいわゆる一貫性の話ですが、上流・中流・下流という一つの流れをきちんと見る必要があります。すなわち、下流まで見直しながら、上流から決めていくことが必要であると思います。なぜなら、上流では外交上の観点から、2つの大きな国際的な援助論議あるいは国内的な援助論議を踏まえていますが、それが当該国の開発政策とどのように結びついているのかというのは、いわゆる上流と中流との関係です。また、中流と下流の関係は、開発政策に基づいた特定のプロジェクトをどのように選んでいるのかということであろうと思います。
 先程新藤委員がおっしゃったいわゆる公共政策とODAは、相性がインフラという点で共通するが、ODAは外国である日本が、当該国の公共投資を支援するということで大きな違いであろうと思います。すなわち、開発政策の中で、例えば、インフラをどのようにタイで実施していくかというのは、タイの公共政策になるわけです。それをどこまでODA大綱で意識して述べるかというところが一つの大きなポイントであろうと思います。
 2点目は、ODAは途上国という相手のある話です。だから、我々が一方的に決めていく話ではなく、途上国の意見をどのように入れていくかということが非常に大きな問題であろうと思います。よく聞かれる途上国側の問題としては、例えば、オーナーシップやガバナンスといった言葉が向こう側の責任という形で出てくるわけですが、それを上流の段階ではどのように入れるのか、中流の段階ではどのように入れるのか、下流の段階ではどうなのかというように流れに従って上手に取り入れていくことが大事であろうと思います。そして、それをどのようにODA大綱に反映させるかという問題が非常に大きいと思います。以上です。

(大野委員) 何故現在の大綱がいけないのかということを述べようと思っていたのですが、皆さんがおっしゃったとおりですのでもう申しません。決めていく際に一つ申し上げたいことは、基本理念の何故行うのかという部分とどのような分野を行うのかということについては、砂川委員がおっしゃったように上流・中流・下流といってもいいのですが、様々な階層がありますので、それをあまり混ぜないようにしないといけません。現在のODA大綱のように最初の方は理念になっていますが、最後の方は様々な項目を羅列しているということにならないようにしなければならないというのが一つです。最初は理念から入るべきで、実際にどの分野を行うかというのは、理念がある程度固まらないと一緒に議論できないということです。
 もう一つは、草野委員のお話を伺って、大綱を変える必要があるのはわかります。しかし、具体的に何故変えなければならないのかということについては、私は草野さんとかなり異なる意見がある感じがします。人間の安全保障やグローバルな貢献はもちろん必要であり、新藤委員がおっしゃったようにどんどん入れていかなければいけませんが、同時に、ODAは、地域的、すなわち東アジアにある日本の安全保障や経済にも関係があるわけです。そのような国益についても入れなければならず、特に財政を考慮した場合、両者は矛盾します。それに対しても、矛盾しても構わないから入れて、ケース・バイ・ケースで両方を見ながら行っていくといった経済協力二分論を、グローバルな貢献と国益の追求をバランスの取れた形で入れなければなりません。
 3番目に、言葉で言い放しになると、いつまでも同じことをブレイン・ストームすることになり、意見の交換会になりますので、ある程度どなたかたたき台リストを出して頂く作業も必要であると思います。

(浅沼委員) 私も草野委員の大綱は時代遅れであるという判断に賛同致します。なぜ時代遅れかということを詳しく考えなければならないと思います。
 一般的にいえば、アジア地域の地政学的な変動であり、世界経済における日本の地位の変動、よりはっきりいえば、中国問題をどうするかというところに結びついていくことであると思います。そのような情勢を踏まえて、新しい大綱を作らなければいけないと思います。
 そこで、2点ほど申し上げさせて頂きますと、新大綱を策定する際には、国益や戦略という言葉が大変重要になるとは思いますが、今までの議論ではその国益は何であるかという一層レベルが深まるような議論があまりないような気がします。同時に、日本の国益観点からあまりに議論するとODA自体の価値を低めてしまうのではないかという懸念もあり、はっきりした、深めた議論ができないと思います。
 私は、それに対して提案が一つあります。それは国益と言わずに、どのような形容詞を使ってもいいのですが、ただ単に日本とODA受益国との友好的、互恵的、調和的、いずれにしても良好な政治・社会・経済的関係を発展維持すると言っておけば、今議論されている国益は十分カバーできるのではないかという気が致します。今まで、外交のツールと言われた時に、ツールは結構であるけれども、外交的な目的は何かということはどうもはっきりしません。それをこのような形で一般的に規定して、それに国際社会に対する貢献を付け加えればよいのではないかと思います。
 第2にODAの目標ですが、今の大綱を読んで得る印象は、確かに貧困撲滅等様々なことが書いてありますが、私は、最も重要なのはODA受益国の社会的・経済的発展であるという気が致します。目標についてもそのように一般的に規定して、そのプロセスの中で貧困も削減しなければならないし、平和的な状況も維持しなければならないということになるわけです。貧困撲滅と比較することによっておそらく当該国の第一義的な国家目的に合致するのではないかと思います。ODA受益国が必ずしも貧困撲滅を第一義的な政治的目的にしているとは私は思いません。
 従って、政治という文言を入れるかわかりませんが、民主化という言葉が入っていますので政治を入れてもいいと思いますが、その国の政治・社会・経済的な発展と規定した上で、大綱を書き直す必要があるという気がします。今の大綱には、経済的発展や経済的成長がどこにも出てこないのです。部分的に、貧困撲滅やインフラといった話で出てきているだけで、前面に出ていません。私はODAの上位目標として、そのような目標を入れる必要があるという気が致します。

(千野委員) 私も大体皆さんの意見と同じです。見直す時期に来ているのであろうという感じを強く持ちました。その理由はすでに多くの委員から出されているので省略致します。
 どのように見直すかという時に、大野委員がおっしゃったようにたたき台を早く作成した方がいい意見についても賛成です。現在の大綱を読んでみますと、様々なことが書いてありますけれども、具体的なメッセージ性が薄いと思いました。特に世界の状況あるいは日本の状況が変わってきた中でのメッセージ性が足りないのではないでしょうか。「第2次ODA改革懇談会」の時にも出た言葉ですけれども、メリハリを付ける必要があると思います。
 それからもう一つ、国益の話が出ましたが、これについては、「第2次ODA改革懇談会」の時にもなかなか深まりませんでした。浅沼先生がおっしゃいましたが、国益という言葉は使わない方がいいということが、議論が深まらない理由になっているのではないかと私自身は思います。会議で改めて感じたのですが、国益や戦略性、最近はそれに加えて外交という言葉に対して、アレルギーがあるということです。しかし、どのような国益を追求するのか、どのような外交を行うのかということに対して、国民は不満を感じているのであって、国益や戦略性という言葉自体には何もネガティブな意味はない。従って、ODA大綱を新しく策定する場合には、国益というものを真剣に考えるべきであろうというのが私の立場です。

(伊藤委員) 浅沼委員のご発言にコメントをさせて頂きます。国益という言葉を巡って表現上のご提案がありました。また、大綱の中で、ODAの目標は、貧困撲滅という言葉ではなくて、むしろ受益国の政治的、経済的、社会的発展であるというご意見が出されましたけれども、このような考え方は、むしろ大綱が作られる以前の日本の援助の考え方であったのではないかと思います。すなわち、日本のODAは、相手国の経済発展に寄与するためのインフラ作りを支援するというアプローチで進んできたと思います。
 このような考え方の中で進めてきた日本の結果、受け取り側である途上国の政府が最貧困層の人々のニーズを無視してきたという反省がありました。そして、世界の援助活動の変化の中で貧困撲滅、ジェンダーの問題、そして人間の安全保障という概念が出てきて、日本のODAもそのような方向に向いてきたと思います。それをもう一度、元の考え方に向けるということには、私は異議を感じます。日本のODA大綱には、はっきりと貧困撲滅にODAを向けるということを明らかにする必要があると思います。

(磯田委員) 伊藤委員と連名でペーパーを出させて頂きましたが、皆様方のご意見も拝聴した上で若干追加説明させて頂きたいと思います。一つの論点は、ODAの戦略の話とODA以外の国際協力・経済協力の戦略の話とはきちんと分けて議論すべきではないかと感じています。先程大野委員がグローバルな貢献と日本にとっての国益とのバランスとおっしゃいましたが、ODAという限りは、私は基本的にはグローバルな貢献を第一義にすべきであるということをはっきりすべきであると思います。それを混同するので批判があると私は思います。もちろん、もう一方を全く無視していいということではありませんが、第一義的にはどちらかということであると思います。
 その論点で見た場合、現在の大綱について、大野委員は不十分あるいは時代遅れという表現をされましたが、時代遅れと不十分との間には若干違いがあります。私も確かに不十分さはあると思っていますが、私が申し上げたようなODAの観点でいえば、方向性は良いと思います。
 ただ、先程もご指摘があったように、単に理解を得るという書き方をしておりますので、国民参加について、数値目標は大綱で出すものではないと思いますけれども、もう少し具体的な、補強するなり、踏み込んだものにすることは必要であると思っていますが、これではいけないとか、違っているとは私は正直申し上げて感じていません。もう少し整備する必要があると感じています。
 その意味で、一番目に書きました「ODAの基本政策とは何か」というか基本理念については今申し上げたことを確認するべきではないかということが一点です。
 また、千野委員からもお話がありました国益については、どうしても広範な部分が絡んでくると思いますが、ODAにおいては広い意味での国益をきちんと謳い、その意味での国益論を展開すれば国民の理解は得られるのではないかと私は思っています。それが何となく中途半端であることによって、狭い意味の、例えばどこかの企業が特をしようとしているのではないかというようなおかしな反発を買っていると思います。従って、そのような意味できちんとした議論が必要であると思います。その時の大きなポイントは、広い意味での国益を念頭に置いたODAのあり方を考えていくということです。広い意味での国益を目指すための日本のODA戦略はこういうものであるというように戦略を出していけばよいのではないかと考えています。
 そのように見た場合、上流の一番大きな政策として大綱がありますが、ここであえて提案させて頂きますが、本当の上流かということを考えますと、基本法のような法的根拠がないため、現在国民の中でODAに対する無理解や批判などあります。これは行政府がある程度決定し、実施しているということに由来していると私は思います。
 また、複数の省庁が行っている中にあって、ODAの一貫性を保証するためにも、この際きちんとODA基本法についての議論をすることも必要であると思います。この会議は外務省の中にあるものですので、基本法そのものの中味について議論するのは、この会議の役割ではないかもしれませんが、そのようなことを提言していく役割は持ってよいのではないかと考えています。
 従って、その中に盛り込むものとしては基本原則等いくつかのことがありますし、紛争予防や平和構築といった面に関することも入れていったらいいのではないかと思います。あるいは、各種の実施の際のガイドラインや評価についてもある程度触れるという形にしていけばいいのではないかと考えています。また、その策定のプロセスにあたっては、広く意見を聴取するというプロセスをとるべきであると考えています。以上です。

(小島委員) ODA見直しの必要性について、理由は既に皆さんがおっしゃっていることと、私はまったく一緒ですので申し上げませんが、1点だけ付け加えさせて頂きたいと思います。それは、国益の問題です。磯田委員からもありましたけれども、狭い意味あるいは短期的な意味での国益はよくないと思います。しかし、広い意味の国益については、私は当然のことであろうと思っています。
 問題は、国益を国家益と考えるのか、国民益と考えるのかということであろうと思います。そのような観点から議論を詰めていかなければいけないと思います。2点目は、ここで今議論されているのはODA大綱の見直しですが、日本語訳は「政府開発援助大綱」です。「政府開発援助大綱」の見直しをするのか、あるいは、政府ではなく、「公的な開発支援の大綱」を作るのかについては、少し考えてみてもいいのではないかと思います。ODA(Official Development Assistance)は、政府なのか、政府だけではないということは可能なのかという観点を少し考えて頂ければと思います。

(草野委員) 新藤委員からお話がありました緊急援助等を念頭に置いた平和構築については、この10年間、国際社会においても要請が強く、また日本に対する要請も強いものがあります。ここで議論しているのは、「政府開発援助大綱」ということで、名称からすると、平和構築の部分、国際協力、平和協力はなかなかなじまない感じがします。しかし、それをどのように取り込んでいけばいいのか。私は是非取り込みたいと思います。「政府開発援助大綱」というと、どちらかというと平時の協力を前提にしている感じがしますが、これからは、国際平和協力についても重要であると思います。これについては、是非別途機会を設けて議論して頂ければと思っています。

(磯田委員) 先程申し上げた国益の話の補足ですが、環境問題の解決なくして国益なしということは当然あるわけですので、広い意味での国益の中には、地球益といいますか、グローバルな益という視点も含んでいるということを追加させて頂ければと思います。抽象的なNGO語のようになってしまいますが。その観点からODA大綱を見ますと、項目の一番目にきちんとそのことを挙げています。分野に関しても優先度順に書かれているものではないかと思います。

(渡辺議長代理) 「第2次ODA改革懇談会」のキーワードの一つが戦略を持った重点的・効果的ODAということでした。戦略を持ち、かつ重点的、効果的という概念をできる限り国ベースの援助計画の中に生かしたい。これが同懇談会の大きな柱の一つでした。もっとも、国によって重点や戦略に多少ずれがあるので、それを包括した中期計画、ましてや大綱となるとある程度の幅をもった様々なコンセプトが入らざるを得ないという要求もあります。論理的に言えば、整理しすぎですけれども、姿としては国別援助計画の総合的な積み上げが中期計画であり、そのまた積み上げが大綱であるというような形でできればいいと思っています。
 従って、繰り返しますように、大綱はある程度包括的である必要があります。そうしなければ非常に動きづらいという側面もあろうと思いますので、そのような要素も組み込んで頂きたいと思います。
 これについては別途議論して頂くことにしまして、本日はフリーディスカッションです。草野委員、伊藤委員、磯田委員のペーパー等もあり、活字を追いながら議論ができて大変良いことと存じます。この問題は、さらに論点を整理したペーパーを基にディスカッションを続けていけば良いのではないかと私は思います。
 一つの提案ですが、ODAの基本政策のあり方につきましては、草野委員を中心に分科会を立ち上げ、議論すべき論点を整理して頂けばよいのではないかと思っています。もちろん大変重要なことですので、この会議からも何名かの委員に分科会に入って頂き、一緒に議論して頂きたい。分科会の構成をどのようにするかという問題がありますが、草野委員に中心になって頂けるということであれば、草野委員と私が話し合いながら、他の何人かの方に加わって頂き、次回は時間的に難しいでしょうから、次々回くらいにペーパーを書いて頂き、年明け頃に「ODA総合戦略会議」としての意見をまとめたいと思います。先程どなたかもおっしゃっていましたが、これについては皆さん様々なお考えであると思います。時間をかければかけたにこしたことはありませんが、そうは言っても国内で議論が高まっている折でもありますから、それほど時間をかけずにやっていきたいと思います。

(草野委員) 素案を作るということではなく、どのような点を議論すればよいのかということを抽出する程度でしたらできると思います。本日お話を伺っていても様々な意見がありますので、これでどうですかというものを出すわけにはなかなかいかないと思います。

(伊藤委員) 第1次ODA改革懇談会でも、「第2次ODA改革懇談会」でもキーワードとして挙げられたのは国民参加です。渡辺議長代理もその考えを非常に強調されていらっしゃいました。国民にとってODA大綱は非常に重要なものだと思います。我々委員の間で議論することも重要ですが、これこそ国民参加の形をとって進める必要があると私は思います。
 もちろん、2年も3年もかけて議論することは不可能なので、今から始めるとすると、来年3月まで、あるいは年内なのかもしれませんが、「開かれた参加」という形をとり、我々委員が、それぞれ核となり、できるだけ広くアイデアを集める努力をするべきであると思います。是非そのようなプロセスを踏むことを提案したいと思います。

(浅沼委員) 分科会を作る時に草野委員に考えて頂きたいことですが、私が先程提案しました政治・社会・経済的関係を発展維持する、しかもそれが調和的、互恵的であるという中に含まれる問題として、現在考えていますことには、ODA政策がどの分野にリンケージするかというリンケージ効果があります。また、よくいわれるブーメラン効果に対する考慮も必要です。第3に覇権国との関係です。地域的な覇権国との関係をどうするのか。ある国の第一義的な国家目的が単なる社会経済的な発展ではなく、他の目標を含んでいるという意味で覇権国との関係をどうするのか。この点は、是非中に含めて考えて頂きたいと思います。

(渡辺議長代理) この点の議論は、本日は終わらせて頂きますが、他にも申し上げたいことがあります。この会議が、今年度中ないし、できる限り早く立ち上げなければならない作業として、先程の対ベトナム国別援助計画の見直しと並び、対スリランカ国別援助計画の策定があります。時間がありませんので、議長代理として提案します。
 これについては、タスクフォースといいますか、分科会を作っていかなければなりませんが、この場合先程も申し上げたように主査をどなたにお願いするかということが大変重要なことです。私は、事務局とも相談しながら検討したのですが、南西アジア、特にインド研究で大変な業績を上げてきたエコノミストで、経済学の分野以外にも非常に深い学識を持っておられる絵所秀紀法政大学経済学部教授を中心にタスクフォースを作るということを認めて頂ければありがたいと思っています。この分科会にはこの会議の委員からもどなたか最低一人は入って頂こうとも考えています。絵所秀紀教授に私と事務局がコンタクトを取って、タスクフォースを組成してよいかということをまずここで決めて頂きたいと思います。時間もないので、突然推薦も得ずにこちらから提案してしまいましたが、ご了承頂けますでしょうか。

(磯田委員) この中の委員のどなたかも入るということでしょうか?

(渡辺議長代理) もちろんそうです。ご希望があったり、こちらでお願いしたりということになると思いますが、最低一人は入って頂きます。複数入って頂ければ、なおありがたいと思います。対ベトナム国別援助計画の見直しのための分科会の場合は大野委員ご自身がメンバーですからよろしいわけです。

(浅沼委員) スリランカに関し、絵所教授を中心に分科会を作ることには賛同致します。ただ、会議の冒頭で申し上げましたように、一つのプロセスを作っているわけです。主査を決めるのは良いけれど、どこにどのような委員会を作るかということはもう少し議論する必要があるのではないでしょうか。これは計画作りですので、1人ではできない作業です。
 従って、例えば、JICAに依頼する等して、セクターの専門家も入れた形で、単にこの会議のタスクフォースというのではなく、国別援助計画を策定する作業を行う、一つのポジションを持った執行部隊をどこかに作らざるを得ないと思います。

(渡辺議長代理) 大野委員のペーパーの最後にも、事務局体制をどのように充実していくかということが問題であると書かれていました。承りました。どのような形になるか、今結論は出ませんが、事務局と詰めて話しておきます。

(伊藤委員) 絵所教授のお名前が出ましたけれど、私はまったく存じ上げない方です。議長代理からそのようなご提案があるということであれば、判断するためにも、プロフィールをお配り頂いた方が良いと思います。大野委員の場合は、事前に著書を読ませて頂く機会がありましたし、お話も伺っていましたので賛同致しましたが、その意味でも事前に情報を頂ければありがたいと思います。

(矢野委員) 国会に出かけなければなりませんので、最後に一言お願いを申し上げて行きたいと思います。大変熱心な議論ありがとうございます。このような議論がさらにオープンにならなければならないという感じも致しました。
 財政状況逼迫の中で、ODAは5年間で20%も削減された現実があります。来年度予算編成過程でも、大臣もODAの重要性等を訴えていくつもりでありますが、お話がでましたように大綱等を今年度または来年早々に見直すことができれば、ODAの骨格として、国民に広く理解して頂くために必要な手段であるということで、是非とも取りまとめをある程度早急にやって頂ければありがたいと思います。よろしくお願い申し上げます。お先に失礼致します。

(渡辺議長代理) 伊藤委員のご意見に対してですが、本日はプロフィールを用意してきていませんので、事後的になるかもしれませんが、用意します。そして、スリランカについては、できれば次回主査のお考えをまず出して頂こうと考えています。その次からはおっしゃるようにしていこうと思いますので、今回はお許し頂きたいと思います。
 さらに、先程磯田委員より、ベトナム、スリランカ以外にも、いくつか同時に立ち上げていくという話がありました。国別援助計画の策定ならびに見直しの報告については、初回に若干の議論がありましたけれども、その後議論が途絶えております。この点も次回までに詰めて、事務局の案を提示致しますので、コメントを頂ければありがたいと思います。


(4)その他(ODAに関する最近の状況についての説明他)

(古田経済協力局長) 資料5と資料6がお配りしていますので、ご覧頂きたいと思います。資料5については、先程少し話題になりました自民党対外経済協力特別委員会のODA改革ワーキングチームの中間取りまとめです。年末に最終取りまとめという方向になっています。高村正彦元外務大臣が委員長、武見敬三参議院議員が事務局長ですが、ODA大綱につきましては、第1に掲げており、先程から議論のありました戦略性や新しい概念、要請主義に留まらない、体制強化といったことまで見直すべきではないかという指摘がなされています。
 次に、ODA戦略の立案機能、政策決定組織・プロセス、実施体制・機関、5番目に評価・監査・情報公開というように幅広くご議論頂いています。一言でいいますと、最後から2枚目に図がありますが、そもそもODAの前提となる対外戦略が、総理官邸を中心に構築されていくべきではないかということです。その下で、ODAについては、一つのキーワードは連携でして、関係省庁間の連携を有機的に高めていくための現在ある様々な組織の繋がりをきちんつけるべきであるということです。もう一つのキーワードは、国民参加のあり方についても具体的にご提言を頂いています。それから3番目のキーワードは、現地化でして、最後の図のようなイメージで現地の役割体制の強化についてご提言頂いています。
 詳細はご覧頂きたいと思いますが、そのようにかなり包括的にご議論頂いていますので、ご参考にして頂ければと思います。
 資料6については、JICAの独立行政法人化です。特殊法人等整理合理化計画に則り、今回49の特殊法人が一斉に独立行政法人化ないし民営化をするということで法案が出ています。JICAにつきましては、横文字では相変わらずJICAですが、国際協力事業団から独立行政法人国際協力機構となる法案を出していまして、国会を通れば、来年10月1日に新法人となります。
 中身については、特殊法人から独立行政法人ということで、より自主性を尊重する体系になります。例えば、主務大臣による一般的監督規定を削除するということもありますし、それから「2.(5)」ですが、現在の毎年のチェックから中期目標、中期計画という3年ないし5年ごとという大きなところでの役所の関与、役員数の削減といったことを挙げています。また、法改正の機会に「2.(2)、(3)」ですが、平和構築への役割として、目的規定に「復興」を追加し、青年海外協力隊についてはすでに規定がありますが、この他にシニア・ボランティアや草の根技術協力についての支援を織り込み、「国民等の協力活動」という概念を新たに法律に入れさせて頂いています。他方、整理・合理化として、開発投融資や移住事業に関わるものはこの際廃止するというのが主な内容です。

(浅沼委員) 3点申し上げます。第1は、自民党の「ODA改革の方向性(中間取りまとめ)」の中で、ODA実施体制の新たなイメージを頂いておりますが、その中でこの「ODA総合戦略会議」はどのように位置づけられているのか。また、次の表の政策決定過程における現地の役割体制のところで実施機関と現地援助コミュニティの間に線が引いていないのはなぜか。第3に、JICAの独立行政法人化の中で、JICAの無償事業はどのようにするのでしょうか。

(古田経済協力局長) この会議は、外務省が政策を遂行していく上で、重要なご指導、助言を頂く会議ですので、ODAの実施体制の新たなイメージという図の中の外務省の裏側に存在するということです。
 また、現地のところで実施機関と現地援助コミュニティの線がないという点ですが、線は事実上つながりを絶つという意味ではありません。当然つながりはありますが、基本的には大使館を中心として、実施機関、NGO、現地コミュニティを束ねていくという意味で、連携の束ね役を大使館としていますので、このようなまとめ方になっているのではないかと思います。これは自民党の報告ですが、実施機関と現地援助コミュニティとのコミュニケーションがあってはならないという意味ではないと私は理解しています。
 それから無償につきましては、今般のJICAの独立行政法人化は基本的には、特殊法人から独立行政法人へという位置づけの変化ですので、従来の事業については特に変化はありません。

(渡辺議長代理) ありがとうございました。浅沼委員の最初の質問についてですが、組織図の中に外務省と書かれているものの裏には、この「ODA総合戦略会議」が透けているという位置づけです。「ODA総合戦略会議」がこの図の中に活字で入っていますと、かえって役割が限定されるという危惧もあり、そのような意味ではこの組織図は、よい組織図ではないかと思います。
 また、日本総合研究所環太平洋研究センターの三浦主任研究員が「ODAの新機軸を確立せよ」というペーパーを出しています。この戦略会議のメンバーに配って頂きたい、機会があれば目を通して頂きたい。私、目を通してみて、非常に良く考えられたものだと思いましたので、ご参考のためにお渡し致しました。
 最後に、今後の「ODA総合戦略会議」の日程ですが、原則として毎月最終週に開催しようと思っています。11月は26日、12月は20日に開催致します。次第に曜日も固めていきたいと考えています。
 以上を持ちまして本日の会合終了致します。

このページのトップへ戻る
目次へ戻る