ODAとは? ODA改革

「ODA総合戦略会議」第23回会合・議事録

1.日時

 平成17年8月3日(水)9:30~11:30

2.場所

 外務省南庁舎6階 国際会議室666号室

3 出席者

 ODA総合戦略会議委員が出席(青山、磯田、大野、小島、米山委員は欠席)。外務省(事務局)より佐藤経済協力局長他が出席。関係府省、JICA(国際協力機構)及びJBIC(国際協力銀行)がオブザーバー参加。

4.議事の経過

(1)ODAの点検と改善(「骨太の方針2005」を受けた取組)
 「骨太の方針2005」を受けてのODAの点検と改善に向けた取組について、兒玉経済協力局審議官より説明があった。これを受け、委員の間で種々の意見交換が行われた。
(2)国別援助計画
 対タイ国別援助計画について、末廣 昭(すえひろ・あきら)主査(東京大学社会科学研究所教授)より最終案の報告が行われた。
(3)保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム、及びグレンイーグルス・サミットについて、事務局からの報告があった。


(渡辺議長代理) おはようございます。それでは総合戦略会議の議論を始めてまいります。
 本日の議題の主立ったものは、次の3点です。
 第1は「ODAの点検と改善」についてです。これは「骨太の方針2005」を受けた外務省側の取組です。第2は「対タイ国別援助計画」です。末廣昭先生に主査をお願いしているものですけれども、その最終報告についての議論です。第3に事務局からの報告です。
 早速ですが、その3つの議論に入りたいと思います。まず、「骨太の方針2005」受けまして、外務省として、どのような方針で取り組んでいったらいいか、この点について、兒玉さんからご説明をいただきたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。
(兒玉経済協力局審議官) おはようございます。本来、こちらに出席していなければならない佐藤経協局長ですが、本日、外務委員会の国会答弁で出席を求められておりまして、1時間ほど、どうしてもこの場を中座せざるを得ません。大変申し訳なく思っておりますけれども、終わり次第、こちらに馳せ参じますので、ご了承願いたいと思います。
 それでは、私から、議長代理からご紹介があった点につきまして、ご説明をさせていただきます。
 まず、「骨太の方針2005」ですけれども、資料1-1に抜粋をお配りしております。この中では、ODAの事業量の戦略的拡充とあわせてODA改革についても記述がなされております。すなわち、この2つの点が柱になっているということでございます。
 まず、ODAの量については、本年4月、インドネシアのバンドンで行われましたバンドン会議50周年のアジア・アフリカ首脳会議での小泉総理のスピーチに沿いまして、この「骨太」の中で、ODAの対GNI比(国民総所得比)0.7%目標の達成に向けて引き続き努力することが改めて確認されました。併せまして、ODA事業量の戦略的拡充を図っていくという方針が明記されております。
 こうした骨太の方針を踏まえまして、先月の6日から8日に、英国のスコットランドのグレンイーグルズで開かれたG8サミットにおいて、小泉総理から、今後5年間のODAの事業量について、2004年実績をベースとする額と比較して、2005年から2009年までのODAの実績増分として100億ドルの積み増しを目指す旨を表明したところです。
 この趣旨は、2004年のODAの実績値はDAC統計で88.6億ドルになっておりまして、その内訳は、円借款等で10億ドル、無償資金のいわゆる贈与を中心としたもので77億ドル、債務救済分として1.6億ドルという構成になっております。そうしたODA実績に、今後5ヵ年で100億ドルを積み増すことをG8サミットで総理が明言したということでございます。
 それでは、今後、積み増し分の内訳がどうなるかということですが、これはまさにODAの事業予算の内容にかかわってくる話で、今後、毎年の予算編成過程の中で具体的に検討していくことになります。外務省としましては、ミレニアム開発目標達成への貢献を念頭に置いてODA事業量の拡充を図っていく考えでございます。
 次に、もう一つの大きな柱であるODAの改革についてです。配付資料1-1にありますとおり、「骨太の方針2005」の中では、別表の1、(6)のところですけれども、ODAプロジェクトの成果について評価を行い、それをODA政策の企画・実施に反映させるサイクルを確立させることなどが盛り込まれております。
 お手元の資料1-2をご覧いただきたいと思います。ここには、今後、外務省経済協力局として、「ODAの点検と改善」の名の下に、具体的にこの点検・改善をいかに進めていくかについて、とりあえずの基本的な考え方をお示ししたものです。外務省としては、成果を重視するODAを大きなテーマとして掲げた上で、いわゆるPDCA(Plan Do Check Actionの)サイクルを確立させるべく、企画、実施、チェックの3つの段階において取組を進めていくことを考えております。
 具体的には、最初の企画の段階につきましては、国別アプローチの一層の強化を図ることがポイントかと思っております。2点目の実施の段階では、コストの縮減などを通じた事業の効率化を図りたいと思っております。3番目のチェックの段階では、監査・評価の充実、モニタリングの強化、不正行為への対応の強化といったことを実現しながら、チェックをした結果の企画・実施への着実な反映、そうした仕組みを整えていくことを考えております。例えば、無償資金協力のより効果的な実施のため、プロジェクト・レベルの事後評価を今年度より試行的に実施していきたいと考えております。ちなみに、こうした考え方につきましては、先月、7月14日に開催しました政府内のODA関係省庁連絡協議会幹事会の場で、外務省より関係省庁にも説明をしております。
 今後は、これらの課題の実現に向けて、具体的にどのような施策を講じていくのかがポイントになります。それを検討していくことになります。今後の取組みとしては、ODA総合戦略会議における議論も踏まえながら、また、ODA関係省庁連絡協議会などを通じて、関係省庁との連携を図りながら外務省のほうで検討を進め、その上で、平成17年末を目途にODAの点検と改善の進め方について取りまとめの上公表することとしたいと考えております。
 特に、このODA総合戦略会議は、ODA大綱の改定をはじめとするこれまでのODA改革の流れの中で大きな役割を担っていただいてきております。今回の「ODAの点検と改善」に向けた検討を行うに当たりましても、ぜひとも各委員の皆様のご見識を賜りたいと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。
(渡辺議長代理) ありがとうございました。
 ただいま兒玉さんからご説明があった件について、どうかご自由な議論をお願いいたします。
 こういう基本的な方向でよろしいのかどうか。よろしいと考えた場合、これを、そうのんびりともやっていられない、今年末までに何とかこちらの成案をつくって上に上げていきたいと考えております。この点についてどのように進めていったらいいか、問題点があれば指摘しいただきたいと思います。
(草野委員) 一つだけ確認といいますか、若干の疑問がありますので申し上げます。
 それは、PDCAのDoのところでご説明がありました、効率的、効果的なODAの実施、コストの縮減というご説明ですけれども、私は、ここの部分に関して関心を持っております。ここでコストを縮減することは極めて重要ですけれども、ここだけにポイントを当てると全体の事業量が減ってしまう可能性がないわけではない。ですから、コストを縮減して、その浮いた分を新たな事業につなげることができる、保証とは言いませんけれども、そういう工夫が必要ではないかと思います。要するに、全体のお話を聞いていると、アクセルとブレーキを踏んでいるような気がしないでもありません。そういう疑問は単純でしょうか。
(渡辺議長代理) もっともな疑問だと思います。いかがでしょうか。
(荒木委員) 私も、今、草野さんが話したことに追加したいと思います。
 コストの縮減というのは、まず、ODAとしての質を担保しながらコスト縮減をしなければならないので、どういうコストを縮減するかは、実行するときにかなり細部にわたって点検する必要がある。それから、システムを組み上げないとコストの縮減もできないわけで、単に効果的なODAの実施というときには、今やってきた調達を含めたシステムの再構築というか再点検を行うことが前提になると思います。そういうことで、なるべくODAを、コストだけを縮減するというよりも、質を高めながら縮減するという前提があるように思います。
(兒玉経済協力局審議官) 草野先生のコメントに一言だけ、事務局の考えを申し述べます。コストの縮減ということがそういうブレーキになって、ODAの事業量全体にマイナスの影響があり得るのではないかという御指摘を頂きました。この「骨太の方針」を議論していく中で、資料1-1にあるように、「6.グローバル戦略の強化」の中で、MDGsの0.7%目標との関係で、日本にふさわしい十分なODAの水準を確保するという一つの大きな方針が述べられております。その上で、別表1の(6)の中で、事業量の戦略的拡充を図るということです。昨年の骨太の方針には、効率化を進めるという表現だったのですが、今回の「骨太の方針」の重要なポイントは、効率化を進めつつ事業量の戦略的拡充を図ることがここで打ち出されているということです。私どもはそれを大前提として確認をした上で、プロジェクトの成果重視の考え方の下での費用対効果を含めた客観的評価、あるいは、調達コストの縮減を含め、より効率的な執行に改善すると考えております。そういう大きなフレームワークの中で、この「点検・改善」を進めていくということか思っております。
(渡辺議長代理) 牟田さん、浅沼さんの順序でお願いします。
(牟田委員) 私も審議官が言われたとおりだと思いますが、コストを削減して、その浮いたお金をどこかに使うというような言い方ではなくて、わが国として、これだけのODAを供与すべき義務と責任があり、それにはお金がかかるので新たにお金も必要だと主張すべきだと思います。もちろん、もっと効率化して絞り出したお金も使うということでないと国民の理解は得られないでしょう。まず需要が先にあって、我が国としてこれだけすべきで、従来のものを見直して縮減もします。しかし、それだけでは足りないから、やはり新しいお金も加えて、我が国ふさわしい事業量としてこれだけ必要ですという言い方が適切だと思います。
(浅沼委員) 「戦略的なODA自身のための援助政策の計画」のところで、「国別アプローチの一層の強化」ということがあります。さて、その強化の方向ですけれども、多分、あるとしたら、国別援助計画と言っているわけですから、今後、今あるものを進化していくこと、すなわちプログラミングまで含めることだと考えられます。それが、日本のように多数の省庁が参加しているODA体制の中で、本当に1本の計画の中でプログラミングまでできるかどうかは、一つしっかり検討していただいた上で、その可能性を探っていただかなければいけないのではないかという気がいたします。それが第1点に対するコメントです。
 第2点に対するコメントは、この援助活動の拡充の中には、アフリカに対する援助額の増額が含まれています。アフリカだけに限らず、その他でも、援助自体についてどんどん現地での活動が盛んになり、他のドナーとのコーディネーションが盛んになっていく中で、現地化というのは、どう考えても非常に高いものですよね。経費的には非常に高くつく。ましてや、現地と中央の関係をよくするために、現地が孤立しないためには相当の経費を投入していかないと本当に効果的な現地化はなかなかできない。これは人材面でも、経費面でもそうです。
 そうした状況にあるときに、効率的、効果的というのは、これはまさにマザーフッドですから反対できないのですけれども、「コストの縮減等を通じた」という言葉を書いておいて、それが一律カット的な動きになってくると、まさに効果的かつ効率的な援助に逆行するようなことになるのではないかというところが大変心配です。ですから、この柱の立てかたですが、この柱を立てられて、柱を立てたのだから成果を見せろと言われて、どうしようもないから一律に運営経費などを削減しますという方向に行かれるのでしたら、これは困ったことだなという気がします。それが第2点に対するコメントです。
(渡辺議長代理) 砂川さん、どうぞ。
(砂川委員) 効率について2点申し上げます。1点は、効率をどこで見るかということです。国レベルで見るのか、個別のプロジェクトで見るのか、あるいは、プログラムで見るのかということが重要です。国レベルで見る場合、上流で、国レベルでの援助政策、国別援助計画が立てられるわけですが、実際に現場で行われているのは、受入国の開発という、いわば中流の議論がある。さらに個別のプロジェクトについては、その実施機関は恐らく、日本の援助計画とか、その国の開発政策とは別に、そのプロジェクト自体の議論、即ち下流の議論からかなりの部分が始まっているように見うけられる。そうすると、そもそも国レベルでの援助の効率はどう具体化されているかを見るのは非常に難しい問題があると思います。すなわち、上流、中流、下流の一体化というか、一貫性というか、その点をいかに担保していくかという問題だろうと思います。それが第1点です。
 第2点は、個別のプロジェクトを見た場合、今までのODAは、基本的には、施設をつくって、それを引き渡して終わりということが多かった。そして、その運営についてはホストカントリーの責任でやることになっていて直接関与してこなかった。ところが、そのプロジェクトの効率は、運営されてみなければわからない。例えばダムを建設したとします。建設して終わりでは、その効率は何かというと、ダムの効率ではなく建設の効率であるわけです。そのダム自体の効率は、実際にダムをつくって運営してみて初めてわかるわけです。だから、運営をするところまでカバーすることが、効率を図る上で大事な問題だろうと思います。この点が軽視されていたことを認めざるを得ないと思います。
(渡辺議長代理) 効率・効果的なODAの実施という面について、何人かの委員の方々からいろいろなコメントが出ております。効果的・効率的といった場合、ミクロ単位の効率性とマクロ的効率性は違うだろうという議論、あるいは、短期的にこれを見るのと、長期的にこれを評価するのではまた違いが出てくるだろうと思います。どういうところで切って効率性というものを考えたらいいのか、これはなかなか深遠なテーマで、ODAの議論が始まってから終わるまで、この議論にはずっと悩まされ続けるに違いありません。
 政府としては、ODAを短期間で拡大していこうということですが、量の拡大要求には正当性があるから量の拡大を実現すべしということです。ですから、量と関係する議論としては、私は、チェックポイント1、2、3、それをせいぜい(1)、(2)、(3)ぐらいの置き方のほうがいいのかなと思います。つまり、黒丸のところになると、既に各論に入って議論が分かれるものの一方だけを置いているという感じがしないではないからです。ですから、Plan、Do、Check、Actionにかかわるキーワードだけでいいかなと思っています。ただ、今の段階でそういうコメントでは遅すぎるという兒玉さんのほうの議論もあるかもしれません。
 これから、この総合戦略会議全体でこのことを議論していくのは、それこそ効率的ではありませんので、様々な分野の方から数名出ていただき、ワーキンググループをつくって、そこで練ってもらった素案を総合戦略会議に出していただいてみんなで議論するという方向をとりたいと考えています。
(兒玉経済協力局審議官) 今の議長代理のコメントについて、私ども、そういう方向で全く異存ございません。
 それとあわせて、浅沼委員と砂川委員がおっしゃられたことについて、大変参考になることですが、今はもう、私どもとして、ぜひこの場でご議論していただきたいことがありますので答えさせていただきます。
 最初の国別アプローチをどのように進化させていくかについては、先生がおっしゃるとおり、一つのプログラミング策定に向けて、日本の今の援助実施体制が相当重いものになっていて、それで対応できるのかという重要なポイントだと思っております。これについては、現地機能強化の一貫として現地ODAタスクフォースが組織化される中で、例えばローリングプラン化ということも相当進めておりますので、その端緒は我々は開いたと思っています。既に国別援助計画も相当できてきておりますので、その実施状況も見ながら検討していきたいと思っております。
 それから、コストの縮減を通じた事業の効率化の一つの意味は、現地調達の一層推進ということが念頭にあります。ですから、先生が言われたような他ドナーとのコーディネーションとか、現地化自体の人材の確保、経費面で高くつくということは、それはそれで別の論点としてあると思いますけれども、今、私どもが考えておりますのは、いわゆる現地調達の見直しを一層推進するということです。その中における、よく言われる単価の問題についても考える必要があるのではないかと思います。
 それから、最後に、砂川先生が言われた点につきましては、まさにアフリカにおいて3年倍増を行う中で、財政支援をどう考えるのかという点に関係してくると思います。我々がこれから一番問われると思うのは、財政支援の中に、上流段階からその国の開発予算の策定と、その優先順位をどうするかというところに参加していくことが、今の援助潮流の中で欧米が行っていることです。我々としては、例えば財政支援にコミットするような形で上流から中流、下流へ参加することができないかどうか真剣に検討しております。それをやる結果として、効率・効果をどう判断するかという点で申しますと、最近はアウトプットとアウトカムの使い分けをする中で、個別プロジェクトのアウトプット、それがアウトカムという形でその国の経済全体にどういうインパクトを見せるのかといった議論も、これから、その手法を含めて考えていかなければいけないのではないかということも、今考えているところでございます。
(渡辺議長代理) ありがとうございました。そのほかに何かございますか。
(荒木委員) この骨太の方針をよく読んでみると、確かに、ODAの事業量の戦略的拡充ということがありますが、兒玉さんにお聞きしたいことが2点あります。まず、前段に「東アジア重視」ということで、東アジア経済連携の話があります。その流れの中で、戦略的にODAを使えという話があるわけですが、そのジャンルというか、それは、戦略的なODA自身のための援助政策の企画の範ちゅうには入ってこないテーマなのでしょうか。
 2番目に、「国別アプローチの一層の強化」といった場合に、国別援助計画の策定をやっている中で、基本は、上流と下流の一致強化、これをもっと徹底的にやっていくことが、今やっているとはいうものの、まだ過渡期で見えない面があるので、そこのところはかなり気を使ってやっていくということではないか思います。
 上のほうの1の「戦略的なODA自身のため」の話のところでちょっとお聞きしたいのはその2点です。お願いします。
(兒玉経済協力局審議官) まず重点地域の話ですけれども、荒木さんのご指摘どおり、振り返れば、大綱の中に、アジア重視ということが入っております。併せて、各地域について簡単な言及が大綱の中には整理されていたということではあります。他方、「骨太の方針」の中では、重点地域、選択と集中という考え方でそこをはっきりさせようということであって、この中に、当然に東アジアが入っているということでは必ずしもないのではないかと考えております。
 ただ、今の時点において、当然今年はアフリカの年だということで、アフリカは3年で倍増ということが政府方針として打ち出されております。あわせて、アジア重視という大綱の仕切りがあるわけで、それは当然、おっしゃったように、PPPとか経済連携に留意していくべきことと思っております。
(渡辺議長代理) 草野さん、伊藤さんの順でどうぞ。
(草野委員) 素朴な質問で、兒玉さんに確認させていただきたいのですが、この「骨太」の記述ぶりは、二国間援助を前提にしているんですね。いわゆるODA事業予算には国際機関への拠出があるわけですけれども、これは全く念頭に置かないのでしょうか。
 実は、PDCAで、この国際機関への拠出は本当は精査したいと思うのですが、これはグレーの部分があるのではないでしょうか。
(兒玉経済協力局審議官) 「骨太」で議論しているのはODA事業量ですから、それは日本のODA全体を含むことは当然のことと思っております。
(草野委員) 先ほど来の発言だと、二国間援助を前提にしているような感じがしますが。
(兒玉経済協力局審議官) そこは、最終的には外務省経済協力局の文書という形で、12月に向けて、総合戦略会議のご意見を賜りながら持っていこうと思っておりますので、我々が一応有権的に判断し得るところを中心にということになろうかと思います。
(草野委員) 頭の片隅に、それ以外も念頭に置いてよろしいと。荒木さん、違いますか。
(荒木委員) この文脈からすると、企画書に「外務省経済協力局」と書いていますから、外務省が所管しているというか、外務省が仕切っている仕事の中心は技術協力であり、無償資金協力であり、円借款です。その範囲においてしっかりと効率的・効果的にやっていくことを検討してくれということです。こういうことで、国際機関のところまで触れているようには思えないので、本当は残念です。だから、これはトータルとしてのODAの仕組みの中で節約していくという議論ではなくて、何か知らないけど、外務省だけにらまれたというか、外務省に焦点が合って議論が集中してきたので、それに対する改善方法をやらなければいけない、そういう流れになっているのではないでしょうか。
(渡辺議長代理) 伊藤さん、どうぞ。
(伊藤委員) 遅れてきて済みませんでした。他の方が既に質問されたかもしれませんが、主要課題にある「効率的・効果的なODAの実施」についてですが、「効率的」であることと、「効果的」であることとは、必ずしも両立するものではないような気がします。私の解釈では、効果的な援助とは、援助を受けた相手国が、援助完了後、主体性を持って当該事業を持続的に発展させていく状態に持って行くことだと思います。そうしますと、効率的に実施された援助事業が必ずしも効果を発揮するか否かは別問題だと思います。例えばNGOの活動では、事業を組み立てていくとき、相手側住民と話し合いながら進めていきますから、効率が悪い。また、事業を実施する段階でも内容やスケジュールに変更が出て、実施期間が延長されることがあります。そうしますと、投入した人材、資金の観点からは、必ずしも効率的な事業運営とは言えない。しかし、例え時間がかかっても、相手側の人たちが、事業は自分たちのものだと考えるようになれば、事業は自発的に参加する住民たちによって継続的に運営されていく。ODAの場合、事業を実施するとき、どのような形で「効率的」であることと「効果的」であることが確保できるのか、この点について質問したいと思います。
(渡辺議長代理) 当然、おっしゃるような疑問が出てくると思いますが、非常に深遠な問いかけです。今の時点で、これはこうだという答えが用意されるようなテーマではなく、むしろ、作業を通じてそういう議論が、そういう観点も必要だという文言が出されることが必要ではないかと思います。先ほども言いましたけれども、効率的・効果的ということをミクロ次元で見るのか、セクター次元で見るのか、あるいは、マクロで見るのか、ミクロで見るのか、短期で見るのか、長期で見るのか。そうすると全部が幸せに一致するという保証はないわけです。この辺は議論の過程で、どういう評価が必要だ、こういうアングルが必要だということをきちんと整理することが必要だろうと思います。
(関山委員) 民間の立場から、いわゆる効率的・効果的なODAの実施という点を見てみますと、先ほど砂川さんも言いましたけれども、ODAを実施するということは、それなりのFSをベースに、また、政策対話なり国との協議を通してそういうプロジェクトをやっていくのであって、私などは特にインフラをやっていますから、そうしたFSに基づいて、ちゃんとしたプラントなりインフラがおさめられれば、それはそれで大きな効果が、地方なりその国にあるんですよね。
 しかし、どうして効果が出ない場合があるかというと、私の経験では、砂川さんがおっしゃったように、完工した後のテイクケアです。私は電力を長い間やっていますが、例えばフィリピンに非常に難しいコンバインドサイクルというプラントを入れました。これはサプライしたのですが、フィリピンの電力公社でこれをメンテナンスするのは非常に難しいというわけです。したがって、別途、O&M契約を結びました。ですから、発電所プラスO&M契約を結んだわけです。結果的には、そのO&M契約というのは、メーカーを含む形で、きちんと動いています。これは非常に成功した例ですが、そちらの部分は、ODAではカバーされません。この辺をずっと見ていって、ある程度技術が移転されるまでは、そうした形で見ていくことによって、先ほどから言っているようにトランスファーしていけば向こうの人材も育って、結局、いい案件に育つわけです。
 したがって、そうしたソフト面をこれからのODAで充実させていくことが、効率的で効果があるということにつながると思いますので、その辺を今後はディスカッションしていくことが重要だと思います。これも国によって本当に違います。これが徹底すればすばらしい援助になると思っています。
(渡辺議長代理) ありがとうございました。千野さん、いかがですか。
(千野委員) ちょっと話を前に戻すような形になるのですけれども、草野委員と荒木委員が指摘されたことは大事な点だと思います。もちろん、このODA戦略会議も外務省のものであるし、今回やろうとしている「点検と改善」も経済協力局が行うものではあるのですけれども、国民がODAに感じている効率的なものとか改善要求は、単に外務省ということではないと思います。もちろん、外務省が管轄しているものに限るにしても、意識としては、この「点検と改善」を、ODA全体をリードしていくのだという意識が前提として必要ではないかと思います。縦割り行政とか省の壁があるにしても、外務省が管轄しているODAがかなりの部分を占めている以上、そういう意識があってもいいのではないかと思います。
(渡辺議長代理) 大変重要なポイントだろうと思います。我々が今度やる仕事の上位文書としては中期政策があるわけですし、そのまた上にはODA大綱があり、その枠から出てしまうことはできない。その枠というのは、オールジャパンということを常に言っているわけで、今、千野さんがおっしゃった理屈は十分に合理性がある主張だと思います。
(砂川委員) 今、千野さんがおっしゃったことには全く賛成です。ただ、国際機関に拠出した資金と、二国間でやっているODAとは基本的に違う面があると思います。これは上流の議論ですが、二国間のものは日本の国益があり、日本の外交政策が基本になっています。その場合に、国際機関に出したもので日本の国益を直接気に図ることは基本的にはできないと思います。やはり国際機関の方針なり政策なりがあって、これは日本の外交政策を直接反映するものではないはずです。そこでどのように調整するかはあると思いますけれども、その上流の部分まで手を延ばしていかなければならないというのは、ちょっと行き過ぎの議論があるのではないかと思います。
(渡辺議長代理) 上流といいますと。
(砂川委員) 日本の援助政策、援助方針です。世界銀行は、その融資方針を決めるとき、その国の開発政策ということが念頭にあるわけであって、日本の国益は考えていない。ところが、日本のODAはそれを基本的に考えるべきで、そこに違いがあると思います。
(千野委員) 砂川委員がおっしゃることはわかるのですけれども、1点気になるのは、国際機関は国益とは関係ないというのは、これは違うのではないかと思います。
(渡辺議長代理) 本日出されたものが最終的な改革に関する報告書のイメージをあらわしているかどうかは、まだわからない。例えばこういう形でスタートしてワーキンググループで徹底的に議論して、それをまた素案にして総合戦略会議で議論して最終的な方向を打ち出す。それを年末までにやろうということです。本日の議論自体は大変建設的なものではありましたが、あまりこれに強くこだわりすぎるとどうかなと思います。それにしても様々な意見が短い時間で出たことは大変幸せでございました。
 ここでひとまず打ち切って、これをどのように具体的な形にしていくかという議論に移りたいと思います。私としては、やはりワーキンググループを立ち上げ、外務省と継続的に議論しながら、これをいいものにつくり上げていくことが、まさに効率的・効果的なペーパーのつくり方だろうと思います。この改革案をつくり出すためにここでお会いする頻度を上げるのもなかなか大変なことだろうと思います。今までのODA大綱から中期政策がすべてそうであったように、ワーキンググループ方式で行こうと思いますが、同意いただけないでしょうか。もし、ご反対がなければ、そのような方向で参ります。
 それでは、どなたにお願いするかということですが、今までとの継続性という意味で、大綱、中期政策にかかわってきた人を主とし、その他のバランス、特に出身母体等も勘案しまして、誠に勝手ながら私の案を言わせてもらいます。
 荒木委員、磯田委員、草野委員、関山委員、牟田委員の5名にお願いするのが適当ではないかと考えております。実は既にご意向を伺ったところ、皆さんやってくださるという大変うれしいご返事をいただいております。
 ご異論がなければ、その5名にお願いしたいのですが、いかがでしょうか。
  (異議なし)
(渡辺議長代理) ありがとうございました。
 もちろん、成果を、中間であれ何であれここに出してもらって議論を行います。そう何度もできないでしょうけれども、戦略会議の全体会議は、年内にあと3~4回あると思いますが、その間に1~2回ぐらい出してもらえればと思います。可能であれば、事前に紙を流してもらって、コメントを想定し、その上でこの会議に出席してもらえれば、なお効率的だと思います。
 ワーキンググループのメンバーの方には、この暑い夏にまたお時間をとらせますけれども、よろしくお願いしたいと思います。
 以上をもちまして、「ODAの点検と改善」についての本日の議論はひとまぎ切らせていただいて、次のメインテーマに入りたいと思います。
 末廣昭先生から、事前に配付されている最終案についてご報告いただきたいと思います。早速お願いいたします。
(末廣主査) 対タイ経済協力計画案の委員会の主査を務めております末廣です。できるだけ簡潔に最終案についてご説明させていただいて、皆さんのご意見を伺いたいと思います。
 最初に、この計画案の私どもの基本的姿勢を4点述べさせていただきます。
 まず第1点目は、タイの経済社会が急速に変わっており、具体的には、経済的にも、社会的にも中進国化の可能性が非常に高いことと、タイ政府みずからが、自分たちを、援助受入れ国ではなく、既に援助国に位置づけ始めているという現状を重視しました。
 同時に、アジア地域において、不確実性とか不安定性が高まっており、津波もその代表だと思いますが、地域レベルでの協力の要請がますます高まっていること、これが基本的な現状認識であります。そのために、本日のこの総合戦略会議の議題では、「対タイ国別援助計画」となっておりますが、こういう従来型の国別援助計画の策定ではなくて、タイトルにもありますように、経済協力のための新しいパートナーシップの構築を目的といたしました。
 ただし、この計画案では、より具体的な実行案を入れるよりは、むしろ、状況もかなり急速に変わりつつありますので、今後5年間の基本的な方向性をタイと日本で相互に確認するという点を重視したいと思います。
 3番目には、この新しいパートナーシップを構築するに当たっての方向性について、その内容を、「対話重視」、「相互利益」の尊重、「共に考え、共に取り組む」という基本方針を設定いたしまして、さらに、この点については、二国間の協力だけではなくて、タイと日本が相互に協力して第三国に共同支援をするという新しい側面を全面に出すことにしております。
 最後に第4番目の点としまして、こうした新しい協力関係については、タイのような中進国になりそうな国が今後出てきますので、そうした中進国向けの協力関係の一つのモデルにもなるように考慮しております。
 この方針に基づきまして、1月24日にこのODA総合戦略会議の場で中間報告をさせていただきまして、いろいろご意見を伺いました。その後、省庁、関係機関からいろいろなご意見を伺い、さらに、4月6日には公聴会を行いました。さらに、5月3日から6日間、私を含めて現地に参りまして、12か所で説明をし、協議を行って、そこでも話を受けながら、修正なり加筆を加えてきました。援助ではなくて新しい協力関係をつくろうという点と、二国間関係だけではなくて両国が協力する新しい共同支援を考えようという点については、公聴会の席でも、タイとの協議でも非常に強く支持されたことをご報告したいと思います。
 次に、計画案の組立てあるいは構成ですが、本日の資料「対タイ経済協力計画(案)」の一番後ろに添付しておきました。これは、ここに提出する経済協力計画案の中に入っているものではなく、本日のために前回配った中間報告とほとんど変わらない我々の考え方を示した概念図です。この計画案の構成は5つから成っておりまして、一番後ろの概念図でも示しましたように、最初に、日本とタイがお互いの国を、あるいは、アジア、世界をどのように認識しているかの現状認識を相互に確認することから出発し、日本及びタイにおいても従来型の援助とかODAについての見直しが起こっている背景を考え、さらに、それに基づいて、今後、日本とタイはどのような新しい方向の協力関係を考えたらよいのかの基本姿勢を確認し、それに基づいて具体的にどのような形で協力分野を考えたらよいか、そういう仕組みになっております。
 先ほど申しましたように、新しい方向性については、一つ前のページの目標体系図に書いておきましたが、キーワードは「経済協力のための新しいパートナーシップ」で、「対話重視」、「相互利益」、「共に考え、共に取り組む」ことを基本に据える。同時に、活動につきましては、二国間協力と、第三国に対する共同支援という2つの大きな枠を設定し、二国間協力につきましては、技術協力、円借款、草の根・人間安全保障の無償の3つのスキームを念頭に置きつつ、どういう分野で具体的にできるのかを考えております。
 この二国間協力につきましては、物ではなくて、制度の整備とか人材育成をより重視する形を前面に示して、環境とか、ある特定の分野を前面に出すのではなくて、環境であれ、教育であれ、産業競争力の強化であれ、制度整備、人材育成を強化する点を念頭に置きたいと思っております。
 5番目は留意点ですが、この5つを念頭に置きながら組み立てたのですが、先ほど申しました1月の総合戦略会議での中間報告以降のいろいろな協議を経て、この1月に報告して以後に変えた点を整理させていただきます。
 まず第1点目は、スマトラ沖で地震・津波が起きまして、こういう広域被害が起きたときは、97年の通貨危機と同様に、相手が中進国であるかどうかをではなく、やはり迅速かつ積極的に日本はODAを使って取り組むべきであると。これは要旨のところでも含めて入れるようにしました。
 2番目には、この総合戦略会議の場で、過去の日本のタイ向け経済援助、経済協力の内容についてもう少し書き込んでほしいということです。それで評価すべきところは評価するという点がありましたので、これも書き込みました。これが8ページであります。
 それから、同じ総合戦略会議や公聴会でFTAや二国間経済連携、東アジア経済連携を含めて、そういうFTAや経済連携との関係がもっと明確にできないかということがありましたので、この点も5ページ、12ページ以降に書き加えております。
 4番目に、円借款については、かなりいろいろとご意見がありましたが、この報告案では、何年にゼロにするということではなくて、まず収束の方向を示すということで、収束する方向を明示すると同時に、仮に財政状況等によってタイ側から申請があっても、日本側の固有の技術等が使えるものという形で、条件を付するような形でおります。
 5番目に、草の根・人間の安全保障に関しましては、前から我々は拡充したいという点を強調していたのですが、同時に、それを背後でサポートする体制、モニタリングの体制についても明記しております。
 最後に、第6番目として、日本とタイとの第三国への共同支援につきましては、従来型の南南協力だけではなくて、それを超えた新しい形の共同支援を考えたいということで、メコン地域開発基金というアイデアも出しましたが、これは日本とタイ、さらにそれの裨益を受ける第三国のオーナーシップも含めて新しい協力形態を考えなければいけないという提案になっております。
 本日提示しました最終案で若干の修正があります。これは後で外務省のほうで直していただきたいと思いますが、それは2点あります。
 一つは、5ページの第2パラグラフのところですが、実は、昨日の朝、タイから戻ってまいりましたが、一昨日にタイとの経済連携のEPAがようやく基本合意に達しました。予定では3日前でしたが、5時間の協議の後、さらにもつれて、ようやく2日前に基本合意に達しましたので、ここのところはそのように書き直させていただきます。
 それから、6ページ目の円借款に関する記述、真ん中の2の(1)の(イ)以降と注の7です。実は、タイ政府は、今年に入ってから、総額2兆バーツ、6兆円のメガプロジェクトを前面に出してきております。これは、輸入原油価格が急速に上がってインフレが起きて、かつ国内消費が低下し始めた中で、タイ政府が今後の経済成長率維持のために公共投資をより重視するようになりました。その結果、このメガプロジェクトの資金配分については、できるだけ国内で調達することが原則でしたが、我々が5月に訪問したときにも、この調達先の一部に海外の対外借款を期待しているという点が出ております。
 この点については、同時にタイ政府は、とはいえ、総額が対外債務の残高が名目GDPの50%を超える。これは国際基準の60%よりもはるかに厳しい縛りですが、その50%を超えないようにするという形で言っておりますが、今後、この点について日本側に協力を求めてくる可能性があるけれども、この点については、全体的な、先ほど言いました収束の方向に円借款を持っていくことと特定の条件の下で考えていく。先ほど言いました制度整備とか人材育成を重視しながら、日本が固有に持っている技術を生かせるような分野で協力していくという全体の枠については変わらないけれども、ややこの注記のところも表現を変える必要が出てきているかもしれない。この2点が訂正点であります。
 最後に、仮に中進国向けのタイとの協力で、今後どのような問題が考えられるか。特にタイ固有の問題について申し上げたいと思います。
 その前に、中進国向け協力というのは、ここでもご議論いただきましたが、例えば10年先に援助をやめるという卒業論には余り持っていきたくなくて、先ほど言いました、津波とか経済危機とか、いろいろな形の状況が設定できますので、削減の方向を確認しつつも、場合によっては増減があるというフレキシブルな対応ということを強調しておきたいというのが基本的な思想です。むしろ、そういう中で、どういう形で新しい協力関係をつくるかという制度構築のほうがより重要になってくると考えております。
 さらにそれと直接かかわるわけですが、実は、今後タイとの5か年計画に向けての協議で大変問題になることは3点あります。その第1点は、制度構築の、我々が第1に掲げた「対話の重視」という、対話の相手をどうするかです。タイは、2002年10月に歴史的な60年ぶりの省庁再編を行いました。私が今回タイに行っている間に、まだ余りマスコミなど表には出ていませんが、2週間前から、第2次省庁再編と公務員の抜本的な改革をやるという話を聞きました。そうしますと、今年の10月に向けて、タイの省庁再編は今以上にまた進んでいく。そうすると、政策の対話の相手の省庁レベルでの相手、それ以外にNGO、NPOとの対話を一体どのように構築するのかということが、今はまだ流動的です。今、試験的に、環境分野とか幾つかの分野では、この政策対話のためのトライアルをJICAとか現地の大使館は試みておりますが、このまま省庁再編が進みますと、予算の組み方を含めて抜本的に変わる可能性がありますので、むしろ、この計画案の中で余り細かく規定しないで、方向性だけ確認したら、現場が判断しながら、より実りがある政策対話のための制度づくりをしていただきたいというのが第1点目の留保条件です。
 第2番目に、この戦略会議の場で、第三国支援と言うけれども、タイ側は本当にそれができるのか、逆に、受入れ側のカンボジア、ミャンマー、ラオスは、それを本当に喜んでやるのかという疑念が出されました。
 第1点目のタイ側の能力ですが、予算はついておりますけれども、今回、関係するところを私どもはすべて5月に回りまして、金額はついているけれども、例えばNEDAと呼ばれる、近隣諸国に資金協力を行う機関、日本で言うとJBICのタイ版を尋ねたところ、スタッフは所長を含めて5人しかいないということで、実はまだまだ共同支援を行う場合のタイ側の受け皿に人が育っていないということで、だからもう少しトーンダウンするのではなくて、共同支援というのは、結局、日本はタイの援助国側についても制度、人材育成で協力することが必要ではないかということを強く感じました。
 同時に、受入れ国側のミャンマーとかカンボジア、ラオスについては、私もその関連の委員会に入っておりまして、これについては、日本とタイだけで議論していてもしようがないので、日本とラオス、日本とカンボジア等と連携しながら、より実りある形にしないと実現しないだろうなという印象を持っております。
 最後に、3番目のメガプロジェクトについては、向こう5年間でタイはパーキャピタ・インカムで間違いなく中進国に入りますし、5月に現地へ行ったときに、閣議に出すための資料として、高齢化社会と少子化社会の枠組みに関する報告書をもらいました。非常なスピードで高齢化も少子化も進むことがわかったわけですが、このメガプロジェクトについては、今後、タイ側からいろいろな形で要請が来るかもしれないので、それについては、ここで十分に議論して、中進国向け協力のあり方として議論した基本線を維持することについては、むしろここで確認していったほうがいいのではないかと思います。特に、無原則に、また要請があったから受けるというような要請主義に基づく受入れはやめて、日本とタイが相互に話し合いながら、日本は日本の方針を示すことが大事だろうと思います。
(渡辺議長代理) どうもありがとうございました。全体がみごとにまとまっているという印象を私は強めております。特に、東アジア地域では、これから中進国化するパートナーが幾つかあらわれてくるはずでありまして、こういう国々と日本がどういうパートナーシップを築いていくか、そういうことを考えるモデル的な報告に仕上げてくださったと思い、感銘を持って伺いました。
 しばらくの間、皆様のご議論を伺いたいと思います。これは最終案ですので、そのことも考慮の上でご議論をしていただければありがたいと思います。
(草野委員) 今、渡辺議長代理がおっしゃったことと同じ感想を持ちますが、一つだけ、コメントと同時に注文をさらにさせていただければと思います。
 末廣先生、最初に私が、前回申し上げたことを取り込んでいただいて、タイに対する日本の援助のこれまでの評価についてもお触れいただいて、その点は大変結構ですが、その書きぶりについて、ファクトだけではなくて、もう少し具体的な評価、どのようにタイ側が受けてとめているのかという点について書き込んでいただけないかと思います。全体として、特に円借款は、タクシン政権後の対外借入れの抑制政策を強調されている感じがします。しかしながら、私も何度もタイにはお邪魔させていただきましたけれども、タイの工業化に当たっては、レムチャバンとか、工業化に日本が相当な支援をして、いろいろ問題はあれここまでやってきました。通貨危機を乗り切った一つの理由も、そういう日本の円借款の効果があったと私は認識しているので、そのような点ももう少し書き込んでいただければいいのかなと思います。
 と申しますのも、この議論のある一つの大きな流れとして、日本のアジアでの援助が大変成功してきたという前提があるわけですね。その意味でも、タイというのは、まさにそういう一つの重要な例だと思いますので、単にファクトだけではなくて、先方がどう評価しているのかと。評価というのは、8ページのところで探したのですけれども、「貢献したと評価されている」というぐらいの、若干引いた感じがしますので、ちょっと注文させていただきます。
(浅沼委員) 私は、形式化されたといいますか、書かれているフェーズアウトモード、フレキシブルで、かつ、円借に関してはスタンドバイという姿勢を伴うフレキシブルなフェーズアウトをやるのだというこのメッセージは非常に明確で、大変すばらしいと思います。それから、もう一つの、だから新しい関係をつくっていかなければいけないということも大変賛成です。
 ただ、1点、その新しい関係に言及している中で、ODAに関して、新しい関係というのは、たぶん、ODAという政策手段以外のものを多用してつくっていかなければいけないわけですね。EPAというのはまさにその一つのポリシーインスツルメントですが、ODA政策に関して、相互利益という日本の利益が出てくる、日本のプレゼンスという言葉が出てくる、そういうところは、ODAという政策手段にはなじまない政策目標ではないかという気がします。
 もっと具体的に言います。1ページの(2)の(イ)に、「対話重視」とともに「相互利益」という言葉が出てきます。
 第2に、10ページの3の(1)の第1パラグラフのところに、「タイにおける我が国のプレゼンスを維持、拡大していくために」とあって、そのためにODAを補完的もしくは後押しする政策として使うという、ODAの政策としての仕様が言及されています。
 もう一つ。11ページの(b)に「相互利益」という大きな題目があって、この中で、相互利益が当然重視されていて、特に具体的なところは、(1)から(5)ですが、その中で、(5)に我が国プレゼンスの向上ということがまた言われています。私は、それに対しては、ODAの使い方として、多少疑問を持っております。したがって、疑義を呈したいと思います。
 それから、最後から2ページ目の目標体系図の中にも「相互利益」が出てきますね。ODA大綱では、途上国の安定と発展、即我が国の利益になるのだという間接的な表現を使っているわけで、直接的にODAという政策手段を、相互利益とか日本のプレゼンスとかにつなげることを想定していませんよね。それは言わずもがなというところもありますけれども、余りにも露骨に、日本の狭い意味での利益が前面に出すぎる可能性があるから、もしくは、疑われるから、誤解される可能性があるからということが出ているのではないかという意味で、その辺はもう少し抑えていただいたほうがいいのではないかと思います。
(荒木委員) 浅沼さんはそうおっしゃったのですが、これは英語で相手に出すわけですから、確かにプレゼンスというのは問題かもしれないけれども、この文体そのものについての意味は、別に全然問題ないという感じを持っています。ちょっと書きぶりを変えればいいのであって、プレゼンスを狙わないというのは、我が国の外交政策として国民の支持が得られないと思います。二国間は国際機関ではないということです。そこのところは、本音のところにおいては、賛成かどうか知りませんけど、そこはちゃんと整理する。二枚舌はいけないので、外にも通じるような内容にしてやっていく必要があると思います。ここは非常に重要なポイントで、これを除いたら、二国間計画をやるときのベースがなくなってしまうような気がします。
(渡辺議長代理) 本質的な対立点が出てきたようです。伊藤さん、どうぞ。
(伊藤委員) 私の質問も浅沼先生のご発言に関連するかもしれません。第三国に対する共同支援が謳われている箇所で、タイは中進国になりつつあるとの判断に基づき、今後はメコン流域地域開発に対して日タイ共同で推進するという姿勢が打ち出されています。しかし一方で、日本はカンボジア、ミャンマー、ラオス等に対しては二国間援助を行っています。このようにすでに二国間援助が進んでいる国や地域に対して、新しくタイとの共同支援を打ち出そうとするなら、この二つの援助の流れの間で調整が必要ではないかということです。
 もうひとつは、カンボジア、ミャンマー、ラオス等の国は、タイが隣国であるがゆえにタイに対して強い警戒心を持っていることはよく聞くことです。この地域のこうした国際関係を念頭に、日本がタイを窓口にしてメコン流域の開発を行うことに対するこれらの国の反応はいかなるものか、この点についてのお考えをお聞かせ願いたいと思います。
(渡辺議長代理) それでは、砂川さん、続いてお願いします。
(砂川委員) 今までの点そのものですが、私も、相互利益のとき、日本側にとっての利益を、先生がどのようにお考えになってこれを書いておられるのかということを質問したかった。私なりに、それをもう少しご説明の中で発展させますと、次のようなことが言えるのではないかと感じます。それは、第三国支援という問題と、もう一つは、地域協力というものがどのように関係づけられるのか。すなわち、第三国支援というときに、ラオス、カンボジア、ミャンマーを挙げられましたが、これはいずれもメコン地域で、メコン地域に対する協力を一緒にやっていこうという視点と、タイと日本が、いわゆる第三国に対して支援をしていくこととは、やはりそこには違いがあると思います。
 そこで私は、どちらかというと、地域に対する協力ということに意義を認めていくと、浅沼先生がおっしゃった、いわゆるプレゼンスというものが、タイの中におけるプレゼンスではなくて地域におけるプレゼンスをより高めていくことになると、もう少し国際的にも認められるようになってくるのではないかと思います。
 その次に、もう一つは、今、伊藤さんがおっしゃったのですけれども、特にラオス、カンボジア、ミャンマーは後進国ですので、タイあるいはベトナム等に対する恐怖感が一方ではあると思います。そこに対して、むしろ日本が弱いほうの立場に立った協力をしていくことによって、より地域の協力という視点が明確化されていくのではないだろうかと思います。第三国支援ということに、もう少し地域協力という視点を強めて書いていただけると、いわゆる相互利益という点とも関連して明確になり、納得できる形になるのではないかと思います。
 最後に、先ほど、制度構築というか、日本側の制度改革も必要だねということをおっしゃっておりましたけれども、最後の5の「新しい協力を行うにあたっての留意点」のところで4つ挙げられておりまして、(1)と(4)がどちらかというと制度構築のほうだろうと思います。(1)に挙げられておられるのが「意思決定の迅速化」ですけれども、これだけでは(1)に挙げるには適当ではないのではないか。もっと制度構築というものをきちんと前に出していかれたほうがいいのではないかと思います。相手国のことを慮るのであれば、(2)、(3)を前に出して、(1)と(4)をまとめて制度構築の留意としていただいたほうがいいのではないかと思います。
(渡辺議長代理) 荒木さん、どうぞ。
(荒木委員) 別の観点ですけれども、今、末廣先生は、円借款は収束の方向という表現をされて、卒業論にはしたくないという話であって、基本的にそれは賛成ですけれども、円借款が収束の方向ということもさることながら、円借款そのものが、今、事業量の拡大等の中において、円借款のあり方を今後は検討していかなければいけない、従来型の円借款でいいのかということを考えると、やはりこれは古いパターンで、新しい対応の円借款はどうあるべきかということを議論しなければならないことが指摘されています。
 そういう中で、新しい対応を検討していくという流れではないだろうかと。これは、今後、ODA、特に円借款はPPPの中で触媒効果を果たしていくという点で重要な役割を持っているので、全部を円借款でやるのではなくて、ほかの民間活力を引っ張りだす一つの触媒としての力を持っているので、そういう意味での円借款の検討は今後続けなければならないし、総量においても、円借款を抜きに日本のODAがある程度国際的な責任を果たせるというわけにはいかないと思います。一気に真水の部分を増やすというわけにはいかないでしょうし、円借款は収束ではなくて、新しい対応を求めて検討していくという程度のところをお願いしたいという感じを持っています。
 それから、連携型のところで、インドシナ半島の4か国に対する協力は、日本の戦略的にも重要な地域ですので、やはり日本が相当リーダーシップをとっていく。その連携協力も、リーダーシップをとることによって、例えばタイに対して警戒心を持っているラオスとかカンボジア、ベトナムも、ある程度それが緩和される。日本がリーダーシップをとっていくことが重要なポイントではないかと考えております。
(渡辺議長代理) 関山さん、どうぞ。
(関山委員) 今、荒木さんがおっしゃった新しいタイプの円借款ということが大きなポイントだと思います。昨日タイから戻ってきたのですが、大きな発電所の契約調印をしてきました。タイは産業集積が進んでいて、ご存じのように、電気のリザーブも15%ぐらいまでになっています。今後数年間で1万3,000メガワットぐらいの発電所を準備しないと間に合わないという段階に来ていて、タイの電力庁の総裁とも話しましたが、水力発電は基本的には開発できないわけです。やはりラオス、ミャンマーの発電所を開発してタイに持ってくるということですが、例えば水源を開発するにしても、ラオスもミャンマーもそれほど開発能力がありません。
 そこで、例えば日本のODAを使ってほしいと。電気はタイに持ってくるのですが、そのときに大量に持ってくるので、それこそ直流送電という送電の方式があって、これは送電ロスが非常に少ないものですが、そういうことは日本が一番エクスパティーズを持っているわけです。そこは収益性が低いわけですから、そういう水源開発や送電線、こういうものにODAをつけてもらって、それ以外は民間のPPPでやる、という話がありまして、周辺国も含めて、ODAのリクワイアメントはまだあるのかなと感じています。
 それから、先ほど、メガプロジェクトの話が先生から出ましたが、具体的なプロジェクトは全部リストに出てきているわけですか。
(末廣主査) それはもうリストになっています。
(関山委員) それは、やはり都市交通とかそういうものですか。
(末廣主査) 7つぐらいで、日本側に協力を求めているのは、主として交通関係です。しかも、システムです。
(関山委員) 大都市型の都市交通というのは日本が最も得意な分野で、タイというのはご存じのように、交通が非常に渋滞しています。例えば、日本が政策対話をして、いろいろな協議をして、有効な議論を実施して、日本からそうしたシステムを入れていくやり方も援助の一つの方法なのかと思っています。
 タイは地政学的に重要な位置にあります。例えば、シンガポールからマレーシアを通って、タイを通って中国に鉄道を走らせる、南のほうにも連携させるということで、交通のネットワーク上重要なポジションにありまして、ここで日本なりタイなりがリーダーシップをとって、そうしたプランニングを早い段階からやっていくことによって、日本のプレゼンスが出ることも考えられます。
 メコンの開発資金のアイデアですか、ああいうアイデアでは、例えば呼び水的にお金を入れてもらえれば民間もそれについていくということで、あの辺一帯のいろいろな開発もしくは地域格差是正に協力できるということでプレゼンスを発揮できるかと思っています。
(渡辺議長代理) 千野さん、どうぞ。
(千野委員) これに関してはとてもよくできていて、特に言うことはないのですが、関連して教えていただきたいと思うのは、タイに対する位置づけはそのとおりだと思います。他の国は、タイへの援助を一体どのように位置づけているのかということの事例を教えていただければ参考になると思います。
 もう1点は、日・タイがFTAを、苦労の末に一応合意したということですが、それに先立って、中国と進めていますが、タイは、この辺のFTAをどう差別化というか、見ているのかということも教えていただければありがたいです。
(渡辺議長代理) 砂川さん、よろしいですか。
(砂川委員) 地域協力向けの円借款の弾力的な運営、あるいはもう少しレベルを上げて円借款の制度改善という観点から2点申し上げます。
 今までは、当該国に対する円借款だったわけですけれども、物理的に地域にまたがるプロジェクトにどう対応するか。レベルの違う2つの国に対応するのは難しい。何とか簡素化できないか。次にラオスのような非円借款供与国に対する円借款供与についてですが、ラオスの場合、電力はタイに輸出されます。その発電所に対する円借款の適用ということも考える必要がある。債務の問題とか信用力の問題から、ラオスは円借款が受けられないわけですが、タイに対する輸出が前提に対するプロジェクトであれば、それはできるという議論があろうかと思います。今申し上げた、二国間、三国間にまたがる地域に対する円借款の問題。そして、ラオスのような問題は弾力的な運営で対処される問題と思います。
 さらに、先ほど、プロジェクトの運営面、即ちソフト面が重要であるということを申し上げたのですけれども、グラントと円借款の連携を考える必要があるのではないか。今まで、これはグラントのプロジェクト、これは円借款のプロジェクトだということで分けられたわけですけれども、それを併用していくことによって、そのプロジェクトの運営コストが明確に把握され、プロジェクト運営の効率性が非常に高まると思います。こうしたことを具体的に制度改善として、ぜひ、メコン地域に適用されることを提案したいと思います。
(渡辺議長代理) たくさんのご意見、ありがとうございました。
 最終段階でこれだけのコメントすべてに答えるのは大変だと思いますが、できるだけテクニカルな形ででも取り入れられるものは取り入れていっていただきたいと思います。
 末廣さん、お願いします。
(末廣主査) まず、「相互利益」の「利益」をどう考えるかという点からですが、私がタイ側に説明をしたり、日本の公聴会でも説明した「相互利益」は、一つの典型でわかりやすい例で言いますと、フードセーフティシステム、つまり、食品安全を構築するときの技術協力です。日本はいろいろな形で産業協力をやるけれども、それは日本の企業利益のためにやっているのではないかという非難が、国際機関を前にして私が報告するとすぐに来ますが、日本のODAを使う場合、そういうことは考えていませんと。
 例として、フードセーフティシステムの場合は、まず輸出するタイの、現在の農産物や水産物その他については、国際基準に見合ったフードセーフティがなければいけないので、それはタイの輸出産業の競争力強化に貢献するけれども、同時に、日本の消費者にとっては、そういう構築をしないことには消費者も困るのであって、そういう意味での2つの利益が合致する場合フードセーフティになると。自動車は特定の企業を支援することはしない。むしろ、部品の標準化政策を進めたりとかいうことをやります。
 これが草野先生に対する回答になると思うのですが、前に渡辺先生等も一緒になってJBICで、政策の一貫性で、過去に日本がやったODAをどう評価するか。特にインフラについてどう評価するかで、もうそろそろ要請主義で、相手の要請に応じてやったということを根拠にするのはやめたほうがいいと。私個人の意見は、これはタイとの委員会で十分に議論したわけではないのですが、恐らく了解が得られるのは、日本がやってきたODAのインフラ整備は、日本のためにインフラをやったわけでもないし、タイだけのためにやったのではなくて、第三国の、例えばアメリカがこようが、イギリスがこようが、ほかが来ても同じように等しく利益を受けられる、そういう外部効果性を持った、そういう排除しないものをやってきたのだと。
 日本が言うときの「相互利益」の日本の利益は、特定の排除的な企業の利益でもないし、特定集団のためではなくて、開かれたものを利益にしているけれども、その場合に、今後、タイとやる場合には、日本の国民は、日本にとって利益がない限りは、それはやはりおかしいというのが私の意見です。だから、排除性がないということをもっと重視して、そのことがひいては相手にとって、例えばほかの国の投資を呼び込むにしてもプラスになるわけです。
 砂川委員が言われてた第三国支援と地域協力は区別したほうがいいというのは、おっしゃるとおりだと思います。むしろ、本日意見が出るのではと考えましたのは、今年になって、ODAについて昨年の中期政策と大きく変わってきた点です。アジアではなくてアフリカが入ってきたわけですよね。多くの省庁の計画では、アフリカを加えなければいけなくなっているのですが、私どもの案では、当初から、アジアだけではなくて、日本とタイが組んでアフリカに協力したり、あるいは、アフガニスタンとかティモールなどの紛争国に対する支援を想定しています。これが第三国支援であって、もう一つの、インドシナを中心とする、地域協力とはアプローチも対象も違います。
 地域協力につきましては、日本のリーダーシップを前面に出すことも大事ですが、日本とタイでは地域協力の相手が違うことを認識する必要があります。先ほどの千野さんのご質問で言いますと、タイは、日本だけと組んでいるわけではない。恐らく、インドとか南アジアとのFTAの交渉に最も熱心な国です。それから、中国とも自由化の交渉をしました。オーストラリア、ニュージランドとは基本的な合意が終わっています。今は中南米にも声をかけています。そういう意味からすれば、タイ側は地域分散型のFTAを考え、日本側は「ASEAN+3」で地域協力を考えている。やや慎重に考えなければいけないのは、タイが、インドシナでの地域協力を進めるにあたってCLM、つまりVを外すという枠組みと、CLM+Vで中国に対抗する枠の二つを同時に考えている点です。
 日本側がそれに対してどういう協力なり対応を考えるか。申し訳ありませんが、これはやはり外務省に考えていただきたいことであり、我々の委員会ではそこまで踏み込むことはしておりません。
 それから、伊藤委員から出されました調整については、「留意点」のほうで書いておきました。もっとバンコクに地域協力を推進するための権限を移してほしいという点ですが、これにつきましては、権限ではなくて、function(機能)という表現になっています。ただし、その場合には、「イニシアチブ・フォー・ASEANインテグレーション」というIAIの枠を使ったり、様々なツールを使いながらやっていく。
 それから、タイ側に確認したところ、1年目にタイでやったACMECSに関する会議については、ミャンマーとかカンボジアから反発があったけれども、今、3年目に入って、カンボジアとかラオスにも会議の場を移してやっており、時間はかかるけれどもコンセンサスができつつあるとのことでした。あまりバンコクだけに地域調整の場を置かないほうがいいというのが、タイ側の意見です。
 その点からいえば、「留意点」にあります、メコン地域共同開発基金みたいな構想とか、先ほど言ったIAIを、利用しながら、時間をかけて地域協力なり調整を図るというのが、一つの方向ではないかと思います。
 それから、エネルギーの問題につきましては、関山委員がおっしゃるとおりであります。これについても日本の高い技術を使うことになりますが、微妙な点は、円借款を今後どうするかということです。つまり、日本側から新たに円借款をやりたいという姿勢を示すのか、そうではなくて、基本的には、中進国向けの円借款は収束させていくのか、仮に、中進国向けの従来とは違う円借款を新たに考えるとしますと、今までの議論の流れからいえば、当然また援助を増やすのかという批判につながりかねませんので、我々の議論の中では、それについては余り前面に出しませんでした。
 それから、砂川委員が御指摘された点については非常に重要な点だと思います。つまり、リスクシェアリングを地域で考えるということです。当初、タイ側に我々が打診した提案は、日本とタイが第三国、例えばインドシナ諸国に対して融資する場合、日本だけではなくてタイにも応分のリスクを負ってもらうという考え方でした。そうでないとお互いにオーナーシップを認めたことにならないからです。同時に、リスクシェアリングについては、日本やタイだけではなくて、利益を明らかに受けるカンボジアやラオスにも、一定程度のリスクなり費用は負ってほしいという気持ちがあります。これを前提にしないと、地域協力はサステーナブルではないという印象を持っております。
(渡辺議長代理) いろいろとありがとうございました。
 今、お答えいただいたようなコメントを、そのような形で最終報告書の中に書き込んでいただくということで、このことを含めて最終案として本日ご承認いただきたいと思います。
 もちろん、議長代理並びに事務局と末廣先生との往復で、本日の意見を最大限盛る努力をしようと思います。
(異議なし)
(渡辺議長代理) ありがとうございました。
 タイが、今後立派なドナーとして育っていくのに日本が協力するという意味もあるのだろうと思いますし、第三国を対象にして日タイが協力することによって、本当にいい関係が日タイの間に生まれるというもう一つの効果も生まれてくることでしょう。私ども、かねてより、連携型委譲と言ってきたものが、いよいよ国別計画の中でもこういう形でもこれが具体的な姿を見せてきたことは、本当にうれしいことです。冒頭に末廣さん自身もおっしゃっていましたように、今後、こういうケースが東アジアの別の国と組んで、第三国へ、アフリカへというケースがいろいろ出てくるだろうと思います。そういう意味では、新しい日本のフロンティアであろうと思いますので、今日の議論はそういう意味では画期的なものになるという予感を持っております。
 いずれにしても、長い間チームを引っ張ってみごとな報告書に仕上げてくださった末廣昭先生に対しては、心から感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。
 それでは、最後のテーマに移ります。
岡庭開発計画課長より、「保健関連MDGsに関するアジア大洋州ハイレベル・フォーラム」が過日開かれたこと、それから、過日のG8サミットの2点について報告がございます。お願いします。
(岡庭開発計画課長) 岡庭でございます。
 まず、資料3で「保健関連MDGsに関するアジア大洋州ハイレベル・フォーラム」についてご説明をいたします。これは、外務省がイニシアチブをとって、アジア開発銀行(ADB)、世銀、世界保健機構(WHO)と協力して開催した会合です。この会合は日本のイニシアチブで開催したもので、フォローアップ等はWHOや国連で行うことになりますけれども、どうしてこういう会合を開いたかについて、まず説明させていただきます。
 このハイレベル・フォーラムというのは、保健MDGsについて、2004年に2回開催されております。これは、世銀とWHOが中心になって開催したのですけれども、この2回の会合はアフリカに関する議論がほとんどを占めていて、開発途上国からの参加も、閣僚レベルはアフリカが中心でした。したがって、アフリカ中心の議論が行われて、もっぱらどうやって保健MDGs達成のためにODAを増額すべきか、あるいは、援助のやり方として、財政支援をどう強化していくかという議論が中心になっていました。ただ、世界を見ると、それがすべての地域での解決策ではないわけですし、さらに言えば、アジア太平洋地域は、世界で最も人口が多い地域で、依然として国内格差の問題、最も多い貧困人口を抱えていますので、そうしたアジア太平洋の視点を発信すると同時に、グッドプラクティスを共有して、アジア太平洋地域において取組の強化を図る、さらには地域協力を促進する、そういうことを目指してこの会議を主催することにいたしました。
 参加国は、アジア太平洋地域の開発途上国24か国から、11名の閣僚を含む保健担当大臣あるいは財務省、開発省の担当大臣等が出席しました。この会合は、逢沢外務副大臣がオープニングのステートメントを行って、西厚生労働副大臣からも挨拶をして、尾身WHO西太平洋事務局長が挨拶をした後、佐藤経済協力局長が議長を務めました。
 この会合の意義につきまして、2枚目を中心にご説明したいと思います。この会合の結果は、議長サマリーという形で共催者間でまとめまして、国連の文書あるいはWHOの正式文書として登録することを予定しております。
 意義として、(1)に書いてありますが、まず、保健MDGs達成のために、例えば国内格差にどう対応すべきかということを議論しました。これに対しては、貧困層のための特別な補助制度を設けたり、貧困層のための保健制度を設けている国がありまして、そういう取組がほかの国にとって参考になるということで、出席をした参加国の閣僚からも、これは非常にいい会合であったという評価がありました。
 もう一つは、日本が重視しているアプローチがアジア太平洋諸国との間で共有されたということで、具体的には、ここに書いてある5点ほどでございます。一つは、成長を通じた貧困削減、2番目にインフラも含めた分野横断的な取組が保健MDGs達成のためには必要であるということ。3番目には南南協力が非常に重要な役割を果たすようになっていて、促進すべきであること。4番目には、人間の安全保障の視点が、格差是正といった問題に対処する上で重要な視点であるということ。5番目に、女性のエンパワメントとリプロダクティブ・ヘルス・サービスの普及が、格差是正に対処する上でも重要であるということで、こういう点が議長サマリーに盛り込まれました。
 この会議におきまして、冒頭の挨拶で逢沢副大臣が、「『保健と開発』に関するイニシアチブ」というものを発表しております。これは、2000年の九州沖縄サミットで日本が発表した「沖縄感染症対策イニシアチブ(IDI)」に続くイニシアチブとして新たに発表したものです。このイニシアチブに基づいて、日本が、この保健MDGs達成のためのODAを一層強化していくことを表明しております。これは各国からも高い期待をもって歓迎され、さらに、この会合の場においては、各国から日本のこれまでの取組に対する感謝が表明されました。
 もう一つ、ここには書いてない意義として、日本が、貧困削減のためには成長が重要だということを言っているのですけれども、同時に、成長だけではなくて、人間の安全保障の視点が重要であることをアピールする上で、こういう保健MDGsに関する会合を開いたことは、バランスをとる上でも意味があったのだろうと思います。実際、参加した閣僚の方からは、日本がこういう会合を開くというのは、これまでの日本のODAのイメージとは若干違う印象を受けたという感想も述べていたということです。
 したがって、この会合の成果である議長サマリーについては、今後、WHOの総会あるいは秋に開かれる国連のミレニアム宣言中間レビューの首脳会合においてもアピールをしていきたいと思っております。
 次に、G8のグレンイーグルズ・サミットについて、簡単にご説明したいと思います。
 資料4-1と資料4-2ですけれども、7月6日から8日まで開催されたグレンイーグルズ・サミットでは、イギリスの首相のイニシアチブで2つの主要テーマが設定されています。アフリカ、気候変動です。今年はイギリスで総選挙が初夏に行われた関係もあって、イギリス側は、この2つの議題について具体的な成果を出すことを重視していたということが言えると思います。それのみならず、アフリカについては、MDGsの進捗が最も遅れているということで、秋の国連の首脳会合に向けて非常に重要なサミットであったと思います。
 成果文書は12本あるのですけれども、この機会では、アフリカに関する成果文書に関して説明したいと思います。アフリカの成果文書については、2枚目に簡単な紹介がしてありますけれども、第1に、今回のアフリカに関する成果文書の特徴は何かというと、過去にもカナダで行われたカナナスキス・サミットで、アフリカ行動計画がつくられたりしていますけれども、今回のアフリカに関する成果文書の特徴は、平和構築からガバナンス、経済成長といった包括的な行動を盛り込んだという点にあると思います。
 平和と安定については、従来のPKO支援、紛争処理能力向上への支援に加えて、平和構築、平和の定着のための取組の強化も盛り込まれましたし、人材育成について言えば、初等教育の普及というMDGsの目標達成に加えて、高等教育、研究者の育成という要素を盛り込まれております。
 それから、保健分野においてはHIV/エイズ対策の強化。そのために、世界エイズ・結核マラリア対策基金への資金を手当てしていこうということが盛り込まれていますし、さらには、HIV/エイズやマラリア等のワクチン開発を促進するために一層努力しましょうということが盛り込まれています。そのほか、マラリア対策の強化、ポリオ撲滅のために資金を手当てするということが盛り込まれております。
 今回の文書の一つの特徴は、経済成長が重要であることが盛り込まれたことです。この点は、特に日本が強く主張して盛り込んだのですけれども、成長のために、ODAのみならず貿易・投資の促進を後押しすべきだということで、具体的な行動としては、インフラ関連分野への資金投入を増やすべく、世銀、アフリカ開発銀行、AU、日本を含む主要ドナーが今後協議していくことになっております。さらには、中小企業の育成、貿易・投資環境の整備。そういう貿易・投資を促進するような支援を強化していくことが盛り込まれております。
 それから、アフリカの開発の一つの問題は、1人当たりの農業生産が唯一減っていることが非常に大きな問題となっているわけですけれども、結局、貧困層の7割が農村地域に住んでいるので農業開発が重要である。この点は、日本が強く主張して、農業開発への支援を強化していこうということが盛り込まれております。
 さらには、WTOのドーハラウンドで開発途上国に配慮した結果が出せるように努力しようということ、対外債務については、世銀、アフリカ開銀やIMFの持っている債権についても債務帳消しをHIPCsについては検討していこうということが盛り込まれておりますし、ナイジェリアの対外債務については、原則これを削減することで合意しました。
 今回、イギリスが強く固執した部分ですけれども、ODA追加額というものを盛り込むことを強く主張した結果、これはコミットメントというわけではないのですけれども、2010年までに、ODAを倍増しようということで、アフリカ向けについては年間250億ドルの増加、世界全体では500億ドル増加させようということが盛り込まれたということで、これは決してコミットメントではないのですけれども、大体それぐらいの額が念頭にあるという主旨で記述が盛り込まれております。
 日本の貢献は何かということですけれども、小泉総理が記者会見でも言っておられるように、アフリカの問題解決なくして世界の安定・発展はないということで、日本もできるだけの支援をすると。まず、今後3年間でアフリカ向けのODAを倍増し、さらには世界全体については、今後5年間で100億ドル積み増すことを表明しております。さらに、「『保健と開発』イニシアチブ」に基づいて、今後5年間で50億ドルを目途とする支援を行うということ。さらには、民間企業育成・農村振興を通じて、アフリカの自助努力を支援していくことを表明しております。
 日本の貢献策については資料の2で詳細に書いておりますので、今回は割愛させていただきます。
(渡辺議長代理) 岡庭さん、どうもありがとうございました。
 ただいまの岡庭さんのご報告について、コメントや質問がございますか。
 もしよろしければ、今の報告は承ったという形にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 ちょうど予定の時間ですが、次回会合の具体的な日程は事務局が別途調整し、追ってご連絡いたします。
 佐藤さん、何かありますか。
(佐藤経済協力局長) 最初の部分を、国会で失礼いたしました。
 いろいろとご議論をいただいてありがとうございます。今回議題となりました中では、今、岡庭課長から報告申し上げた保健の話、サミットの話、これはいずれも私ども外務省が、特に経済協力局の中で、これは日程がわかっている話ですので、1年ぐらい前から準備を始めまして、保健の話はこれからまだ9月のミレニアム・サミットにもつながっていく話ですけれども、こういう新しいイニシアチブを出そうと。そして、それをまた、こういうアジアの会議を開催して、そこで打ち出そうということで、保健関係の専門家の方にもお集まりいただいてご意見をいただきながら、こういう中身をつくって額を積み上げてきました。先ほど課長からも申し上げたとおり、日本の援助は、国際的には経済インフラ中心というようなイメージがありますが、保健関係でイニシアチブをこれだけ明確にとったことについては、それなりに評価されていると思います。国内的には、保健というと派手な感じではないかもしれませんが、国際的には、保健分野は、ミレニアム目標の中では中心分野で、その中で日本として何とかイニシアチブを取ろうということで、1年近くにわたって準備を進めてきたものがそれなりにできたかなという気がいたします。
 それから、サミットについても1年ぐらい前から、とにかく日本としては、農業と貿易・投資、平和の構築、この3本柱を重点的に打ち出していこうということで準備を進めました。これはイギリスの議長国の采配の下ですから、なかなか我々の思うとおりにならない部分がかなりありますし、十分に反映されたかどうかということがありますけれども、ある程度は反映されただろうと思います。
 それから、先ほどご説明申し上げましたとおり、イギリスは全体のODAの増額を打ち出したいということで、そういう意味でリーダーシップを発揮しました。日本やアメリカは、ODAの額ばかりを言うのはどうですかねということでかなり議論を展開したのですが、最終的には、我が国も、ある程度、議長国のそういう立場を尊重しつつ、かつ、日本だけがODAについて中期的な目標をG7の中で提示できていないという状況があったわけで、そうしたことを背景に、これから5年間で100億ドルを積み増すことを新たにアナウンスしたということでございます。
 これもご説明申し上げているかと思いますけれども、また、この中身をどうやっていくはこれからの話でございまして、私どもとしては、サミットという一区切りがついたということで、これからはこの中身を、第一義的に重要なのは予算ですので、これからの予算のプロセスに反映していきたいと考えております。これは、ODAをこれだけいろいろな形で打ち上げて、全体の方向性ということが出ていると思いますが、実体として、一般会計の予算でどうなのかというところはこれからの議論に残された部分が多いということですので、我々としては、できるだけ実体的に国際的にもいい形になる予算をつくりたいということで、町村大臣も非常に熱心ですので、そういう方向で努力をしたいと考えております。
 それから、タイについてはいろいろなご議論をありがとうございました。渡辺先生からもお話がありましたように、これはある意味では新しいケースということで、フロンティアとも言えるケースで、我々も若干試行錯誤している部分もありますが、方向性を示していただいたということで大変ありがたく思っております。
 それから、冒頭の議題で「ODAの点検と改善」ということで、この戦略会議でもご議論いただきたいということでお願いをしました。これも、ある意味で「点検と改善」は不断のプロセスですが、一応タイミングも切って、短い期間ではございますが、その間にできるものはまた改めて打ち出したいということで、ぜひ、先生方にご議論をいただいて、ご意見を賜った上で、我々としてそこに出せるものを、とりあえず今年じゅうにということで考えております。短期間でご無理をお願いするかもしれませんが、ぜひよろしくお願いしたいと思います。
(渡辺議長代理) どうもありがとうございました。
 しばらく猛暑が続くと思いますのでご自愛ください。涼風が立ち始めたころにまた次回の会合があると思いますので、お目にかかることを楽しみにしております。本日は、長い時間、ご協力ありがとうございました。
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