(渡辺議長代理) | おはようございます。ただいまから「ODA総合戦略会議」第21回会合を開催します。 本日の予定されている議題は、次の3つです。 第1は「対インド国別援助計画」についてです。主査の絵所先生から中間報告を行っていただきます。報告に基づきましてディスカッションをしていただきたい。 第2は「対中国ODA」について議論します。事務局から対中ODAの現状についてご説明を受けた後で、それに基づいて、これも自由な意見交換をしていただきたい。 第3は、今後の審議事項をどうするかについてのご意見をいただきたいと思います。前回の1月の会合で中期政策に関する審議が終了いたしました。一山越えたという感じですが、今後は、我々の戦略会議のメインテーマである国別援助計画の策定に関する議論と並行しまして、新しいテーマも手がけていきたい。そのようなことを前回の終わりにも私は申し上げました。今後、この戦略会議においてどのようなテーマを取り扱っていったらいいのかという点についても、自由に開陳していただければと思っております。 本日予定されている議論は、以上の3つです。この議事次第に従って今日の会議を運営してまいります。 1番目の「対インド国別援助計画」について、絵所秀紀主査より中間報告をお願いします。報告のポイントについては、お手元にレジュメが回っているはずであります。それをご覧になりながらお聞きいただきたい。 先生、お願いいたします。 |
(絵所主査) | おはようございます。 インドの国別援助計画は昨年2月に立ち上がりまして、非常に長い時間かかってようやく中間報告ということになりました。4月、5月にインドで総選挙がありまして、大方の予想を裏切って政権が交代しました。その結果、インドの援助受け入れ態勢がなかなか固まらないということになって、昨年の10月末にインドに行くことができまして、向こうの財務省他と議論を重ねてきて、今日、中間報告という状態になりました。 時間もありませんので、お手元にあります4枚紙の資料1の「対インド国別援助計画(中間報告)」を逐次読み上げていくのが最も時間が節約できるかなと思っておりますので、読ませていたただきます。 「1.対インド支援の理念と目的」ですが、これは「(日印グローバル・パートナーシップの構築に向けて)」ということを最も大きなタイトルとして掲げてあります。 (1)戦後の冷戦構造の中で非同盟主義を掲げていたインド外交は、1990年代初めの冷戦の終焉とともに西側諸国及びアジアを重視した積極的な外交へと変化するとともに、経済面では自由化政策に移行した結果、順調な経済成長を維持しています。インドは、近年の政治・経済的安定により、国際社会における存在感を急速に高めています。 (2)広くアジアを眺めてみると、インドは、近い将来、外交・政治・経済面で日本及び中国と並ぶアジアのスーパー・パワーとなる可能性が高く、日本、中国、インドの相互の関係を一層強化しつつ、「新しいアジア」を展望する協力関係を構築する必要があります。また、我が国を含む国際社会は、世界最大の民主主義国家インドを市場経済を指向するアジア地域の建設的なパートナーとして発展するよう支援していく必要があります。 (3)インドは、今後の有望な投資先・市場としての潜在性を有しておりまして、日印二国間関係緊密化の必要性は極めて高い。また、インド沿岸域は我が国シーレーンを確保する上で重要な地域であり、我が国の安全保障環境を改善する観点から見ても、親日的な国であるインドが南アジアで安定的な発展を継続することが重要であります。加えて、人口の約3割を貧困層が占めていることから、インドにおける貧困削減はミレニアム開発目標(MDGs)を達成する上でも極めて重要であります。 経済協力を通じてインドとの間に安定した二国間関係を築き、中国に次ぐアジア経済発展のもう一つの成長軸となる可能性を持ったインドを支援することは、南アジアのみならずアジア全体の平和と安定に寄与するものであり、ひいては我が国にとっても望ましい選択であると考えております。 (4)我が国はインドの重要性を認識し、2000年8月に両国間で合意された「日印グローバル・パートナーシップ」を構築・具現化するために、対インド経済協力を我が国外交戦略の不可欠の一環として明確に位置付けることとする。 以上が基本認識であります。 「2.インドの開発にかかわる状況」であります。 「(1) 政治、社会、経済全般の概要」として、(イ)2004年4月から5月にかけて行われた下院総選挙で、マンモハン・シン首相を首班とする統一進歩連盟(United Progressive Alliance:UPA)政権が成立しました。 外交面では、印パ両国は、カシミール問題を含む問題に関し複合的対話(Composite Dialogue)を開始することに合意しており、UPA政権においても、パキスタンとの対話の継続が確認されております。 (ロ)社会情勢については、1990年代から順調な経済成長が続いているものの、所得分配面での不平等が是正されず、人口増加も著しいことから、農業就業者や都市部の低所得層、低カースト層にとって貧困問題は依然として深刻であります。 (ハ)1991年以来、インドは経済改革への取組を本格化させた結果、1990年代を通じて年平均6 %の経済成長を実現し、特に1990年代中盤には3年連続で7%を超える高い経済成長を達成しました。2003年度のGDPは、好調な農業生産及び製造業、サービス業の高い伸びに支えられ、 8.2%の( 5,990億ドル)の成長を達成しています。 「(2) 経済及び社会開発の状況と課題」。まず「経済改革の影響」でありますが、1991年から、国内投資規制の撤廃、変動相場制への移行、外国直接投資の規制緩和、貿易自由化等を骨子とする経済改革を実施しております。1991年度から2003年度までの年平均GDP成長率は、製造業が6.5%、商業・観光・運輸・通信が 7.5%、個人・社会サービスが 7.2%で、全体の成長率は6.1~6.2 %だと思います。他方で、国民の約6割が従事する農業は、国民の購買力、貧困削減の観点から見て重要ですが、同期に年平均 2.7%しか成長していない状況であります。 2点目は「貧困と地域格差」であります。インドにおける貧困削減に対する根本的な問題は、人口の増加とともに増大した労働力を吸収するだけの雇用が十分に創出されていないことにあります。また、経済改革の開始以降、州間格差がより顕著になっております。 3点目は「財政とインフラ整備」であります。財政赤字の対GDP比率は、危機直前の1990年度の 6.6%から1995年度の 4.2%に低下したわけですが、その後また少し上昇しまして、2002年度には再び 5.3%まで上昇しております。これら財政赤字の拡大は経常赤字の増大によって引き起こされており、この結果、公共投資のみならず、民間投資の制約の一因ともなっています。 4点目は「環境」であります。人口の増大、工業化の進展、エネルギー消費量の増大によって大気汚染をはじめとする環境問題が深刻化しておりまして、主要河川では生活・工業・農業排水の流入が増大し、水質汚染が深刻化しています。都会から排出されるゴミ処理の問題も深刻であります。 「3.開発戦略の動向」でありますが、今の統一進歩連盟の共通政策綱領がここに書いてありますが、(a)社会的融和の維持・促進、(b)経済成長と雇用創出、(c)農民・非組織部門就業者の福祉の増進、(d)女性のエンパワーメント、(e)指定カースト・指定部族等への教育と雇用の優先的機会提供、(f)企業家・技術者等に対する支援ということを政策綱領として掲げておりまして、これがいまの第10次5か年計画にも反映しております。 「4.対インドODA実施にあたっての基本認識」であります。「(1) インドの特殊性」ということで、購買力平価で計測しますと、インドのGDPは世界第4位と言われておりまして、特に近年はBRICs の一翼として大きな注目を集めておりますが、他方で、2003年時点での世銀統計ですけれども、1人当たりGDPは 500ドルに満たないという、典型的な低所得途上国という面も持っておりまして、それが大国ゆえの特殊性ということであります。 「(2) 援助受け入れに対するインドの考え方」ですが、援助受け入れに関しては、オーナーシップが確立している国でありまして、他の国では見られない、一番インド的な特殊性ではないかと思います。インドの高いオーナーシップを尊重し、そのようなODA受け入れ姿勢の長所を生かした援助のあり方を模索する必要があります。 「(3) 日印関係の特殊性と経済関係強化の必要性」でありますが、我が国のインドとの経済関係(貿易、直接投資、経済協力)はこれまでODAに集中する形で推移してきております。言いかえますと、貿易、直接投資は微々たるシェアしか占めていませんが、近年、我が国企業のインド経済への関心が急速に高まっておりまして、民間部門においても経済協力強化の機運が高まりつつあることも強調しておきたいと思います。 今後は、インドにおいても、我が国と東アジアや東南アジア諸国の間で見られたような、円借款によるインフラ建設とそれを支える技術協力による人材育成が、民間直接投資の増加をもたらし、やがて経済発展と生活水準の向上に繋がるという因果連関を効率的に強化することが望まれております。 「(4) 対印ODAの方向性」であります。これは前述した点と重なるところがございますけれども、「対インドODAに関する基本認識」の(1)として、インドが世界最大の貧困層を有する国であることは事実であります。今でも2億 6,000万人の貧困層がいると言われております。しかし、この事実は、インドが劣った国であることを意味するものでもありませんし、また、我が国の援助が狭義での貧困プロジェクトに集中すべきであるということをも意味しておりません。これは先ほどの話と関係しますが、インドは、貧困問題、所得分配問題を基本的には国内の問題として理解していることを、我々は理解する必要があるということであります。 (2)は繰り返しですけれども、インドは自助努力の考えが確立している国で、特に援助を受け入れに対しては確立している国であります。 (3)インドが最終的に望んでいるのは、直接投資・貿易・技術移転の拡大です。ODAが民間の経済関係を促進するという流れを作り出すことが、我が国ODAが果たすべき役割の一つと思っております。 (ロ)として「対印ODAの方向性」で、第1は、日印グローバル・パートナーシップを構築するために、政治・安全保障、経済、文化、地球規模問題等とともに、対印援助を通じた協力関係を我が国の今後の外交戦略の重要な柱の一つとして位置付けること。第2は、我が国の対印ODAは、外交関係強化のベースとなる人材交流の飛羅的発展に力点を置く必要があるということであります。 「5.対印ODAの重点分野」でありますが、以下の3分野を重点分野と考えております。 (1)は「経済成長の促進に資するインフラ整備支援」でありまして、具体的には、電力または運輸セクターヘの支援、特別経済区という輸出加工区を最近修正しまして国内でも売れるようになっていますけれども、その特別経済区の質を向上させるためのインフラ整備支援。特にハード支援とソフト支援を有機的に組み合わせることによって、ODAの付加価値を向上させていくことに留意したいと思っております。 2番目の柱は「貧困・環境問題への対処」でございます。(イ)「貧困問題への対処」としては、我が国に比較優位があると思われる保健・衛生分野に対する支援、農業・農村開発、とりわけ灌漑ですけれども、その支援、それから、防災の視点を十分に取り込んだ支援、雇用創出に資する観光開発支援を考えております。 (ロ)は「環境分野に対する支援」でございまして、これも我が国の比較優位があるところを重点的に行っていくべきだろうと考えておりまして、上下水道への支援、植林への支援、再生可能エネルギー支援、都市環境の改善、河川・湖沼の環境保全など、実績があるところを重点的にやっていきたいと思っております。 「(3) 人材育成・交流の(飛躍的)向上のための支援」ということで、人材の育成・交流、魅力ある投資環境整備のためのソフト面での人材支援、日印知的交流の高まりを想定しております。 「6.援助の効率化と実施体制」についてですが、「各種経済協力手法の間の連携の強化」ということで、今までの対印援助は、95%が円借款で行われておりまして、技術協力がほとんどありません。いろいろな理由があってそのようになっているわけですが、今後はやはり各援助手法(有償資金協力、無償資金協力、技術協力)の特長を生かして、最適な援助手法を組み合わせて対応することが必要だと考えております。特に、資金協力と技術協力の連携は、ハード面とソフト面の支援を組み合わせることによる相乗的な効果の発揮が期待できますし、既に幾つかそういうプロジェクトもございます。ここを積極的に伸ばしていきたい。 2点目は「援助体制の強化」ということで、インドの各セクターの事情に精通した専門家を、もう少し、大使館やJBIC、JICAからなる現地タスクフォースに増やしていく必要があると思っております。 「7.援助実施上の留意点」ということで、「軍拡・不拡散上の対応」ということですが、1998年の核実験に対して経済措置を行いましたが、それを停止した際に、同措置の停止に当たっては、核不拡散分野における状況が悪化するような場合には、措置の復活を含めて然るベき対応を検討することを明確にし、インドに対して、核実験モラトリアムの継続及び輸出管理体制の強化、NPT加入、CTBT署名・批准を含め、核兵器をはじめとする大量破壊兵器及びその運搬手段に関する軍縮・不拡散上の進展を強く求めてきており、こうした働きかけに対するインド側の対応を引き続き注視していくということが留意点であります。 以上でございます。ありがとうございました。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 本日は中間報告でございますので、さらにここでの議論をいろいろと踏み込んでいただける時間的余裕もございます。どうか、本日のご発表に対してのコメントを、どんな立場からでも結構ですのでご発言ください。 |
(青山委員) | 包括的なご説明をどうもありがとうございました。インドは大変重要な国で、経済的にも大きく、また民主主義国家であるということをふまえ、経済的な側面が中心のご説明であったように感じました。 ただ、保健医療やジェンダーの問題に取り組んでいる者の立場からは、やはり、インドは社会開発上の問題が大きい国と捉えざるをえないと思います。いくら経済が発達したといっても、子どもの半数が栄養不良であるとされています。また、女性のエンパワーメントという言葉がありましたが、エンパワーメント以前の問題があります。女性といってもいろいろで、上の社会階層の女性にはいろいろなチャンスがあると思いますが、下層の女性になりますと結納金が少ないから焼き殺されるなどという問題すらありますし、中産階級でも、選択的に女の子を妊娠中絶するといった、女性の人権に関わる問題があります。その一方、地域によっては、南部のケララ州のように、人間開発の進んでいるところもあり、改善していくのは不可能でないと思います。 全体的に経済的側面に焦点を絞っておられるというお考えは理解できるのですが、やはり、ODAで何かする以上は、貧困問題のところなどに、もう少し女性の問題といったことにも重点を置いていただきたいと思います。インド側が、国内格差について、国内問題として理解しているとはいっても、外からも圧力がないと、やりたくてもなかなかできないということもあるかもしれませんので、そういった意味でも、圧力をかけてあげてはどうだろうかと思います。 それから、貧困問題の対処の中に、保健・衛生がありましたが、インドのようにある意味で進歩した国だと、今度は高度な医療支援などを求めてくる可能性があると思います。そういった側面は、むしろ大学間の研究協力などでできると思いますので、ODAでは、貧困削減の視点から保健、医療、衛生といったことに取り組むのだという縛りをかけておいてはいかがかと思いました。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 それでは、牟田さん、浅沼さんの順序でよろしくお願いします。 |
(牟田委員) | ご丁寧なご説明をありがとうございました。私の意見はかなり細かな話でございまして、5の「対印ODAの重点分野」のところでございます。ここで3つの分野が書かれておりますが、例えば (1)の「経済成長の促進に資するインフラ整備支援」に書かれていることは、「資する」という言葉の前に書いてあるものは目標でありまして、後に書いてあるインフラ整備支援が手段ということで、ここには目標と手段がパラで書かれていると思います。 そういう見方で見ますと、 (2)の「貧困・環境問題への対処」は、貧困・環境問題の改善に資する支援だと思いますが、その支援の中身については、下の行には書いてありますけれども、上にはない。 (3)もそうです。 そこで、私の提言は、もし、このように目標と手段をセットということで書かれるのであれば、例えば (1)ではインフラ整備だけが突出しているように見えますので、 (1)が「経済成長の促進に資する支援」、 (2)「貧困・環境問題の改善に資する支援」、(3)はこれでよろしいかと思います。そうすると3つのバランスがいいのかなという気がいたします。それが一つの意見でございます。 2点目は、今の言い方とは違うのですが、ここで重点分野といいますと、どうしてもインプットベースで書かれているのではないかという気がします。これをもう少しリザルトベースで書いていただけないかというのが私の意見です。例えば、「重点分野」ではなくて「重点目標」と書き直して、 (1)は「経済成長の促進」、 (2)が「貧困・環境問題の改善」、 (3)が「人材育成交流の向上」と。支援の中身はこれでよろしいかと思いますが、言い方をそのようにして、要するに、手段を言うのではなくて目標を言うほうが、わかりやすいかと思います。この3つの大きな目標をさらにブレークダウンして小さな目標があって、そのための手段としてインフラ整備があるのだというような書き方をなさったほうがわかりやすいかなと思います。 |
(渡辺議長代理) | それでは、浅沼さん、お願いします。 |
(浅沼委員) | 私は、ここで書かれていることは大変意味があることで、ほとんどの点について賛成ですけれども、1点だけ。ここで絵所さんがおっしゃっているように、インドは中国と並ぶアジアのスーパーパワーになる可能性、蓋然性が非常に強いわけですね。言ってみれば、地域的なヘゲモンになっていくわけで、アジア地域においては、経済の面から見て、外部からのアメリカと、日本、中国、インドを軸にして経済関係がどんどん発展していくと思います。 そういう中で、一体、地域的なヘゲモンとのODA関係はどう判断するかは一つの大きな問題として考えていかなければいけない。例えば、今、この後で議論になる中国の問題がありますよね。中国とインドで、インドは中国よりもどれくらい後れているだろうと思ったら、10年ぐらいの間に同じような問題が出てくるだろうと思います。それを一つ考えた上で、ヘゲモンに対するODA関係をどう構築していくのだろうということを考えておく必要があると思います。 第2に、それは、絵所先生が、「インドの特殊性」という言葉を使って2ページに書かれてある第2項のオーナーシップの問題にもかかわってくるわけです。ここでは、オーナーシップが確立しているということで、どちらかというとポジティブな面を強調されていますけれども、これを裏返してみると、政策対話が成立しない、政策対話を受け入れるつもりがない国であるとも取れるわけです。それは多分、過去にいろいろな援助機関がインドと付き合ってきた中で痛感していることであるに違いないと私は思います。 そうすると、そういう状況の中で、インド政府からすれば、今度は、重点といったときに、例えばインフラ整備、電力セクターの整備とか、この場でそういう表現を使っていいかどうかわかりませんけれども、援助してくれるなら玄関にお金だけ置いていってくださいという態度になってくる。 例えば、電力セクターというものを考えてみたときに、インドは連邦政府ですから、電力問題は州政府レベルの問題です。今までのやり方ですと、インドの州電力公社は、ほとんどすべて破産状態。それは、今までの政策からいって余りにも隠れた電力消費者に対する補助金が多すぎて、そういう破綻状況になっているわけです。そこで、インド政府もしくは各州政府は、この政策問題をどう扱うのかということが大きな問題になります。 ですから、日本が電力セクターへの支援を重点的に取り上げることはいいと思いますが、やはり政策まで踏み込まないとどうにもならないだろうと思います。そのときに、インド政府が、政策対話はほとんどしないという態度をとったときに、上手にうまく実施できるのかどうかという疑問が残ります。 それが私のコメントで、これをどう解決するかはよくわかりませんけれども、考えなければいけない点ではないかという気がいたします。 最後に、細かい点ですけれども、2ページの「経済改革の影響」の中で、農業の成長率を、年平均 2.7%しか成長していないとおっしゃっていますが、私は、農業分野での 2.7%の成長は、偉業とは言わないまでも、相当いい成績であると考えて、「しか」に多少の反発を覚えます。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 それでは、伊藤さん、小島さん、お願いします。 |
(伊藤委員) | 私は、2点の質問をさせていただきたいと思います。青山委員の質問に関連するのですけれども、一つは、絵所先生の、この中間報告における基本的な考え方についてです。二つ目は、インドと日本、それから、日本側は国民参加という視点からのNGOの参加をどう見られるかという点です。 第1点目は、青山委員もおっしゃったように、読んでいますと、インドという国はオーナーシップの精神が強く、書かれ方によってこういう理解をしたのかもしれませんけれども、健康問題、所得分配問題は、基本的には国内問題として理解しているという意味は、そこまで日本のODAが入ると内政干渉という印象を受けます。恐らく、そういう意味ではないだろうと思いますけれども。 ただ、インドの場合は、実は私もインドに行っていますけれども、貧困問題が広がっていて、貧富の格差は想像を絶するような状況があることを目の当たりにしました。例えば、18未満の子どもがインドには約4億人いますけれども、そのうちの1億人が何らかの形で労働せざるを得ない。それから、路上で生活をしている。そういったような状況を、ITの盛んなバンガロールでさえ見てきました。 そういった問題があることを踏まえて、日本のODAが今まで、要請式という形で、向こうの政府から言ってきたことを聞くという立場が以前はあったと思いますが、ここで変わって、それが、日本側とインド政府側と共同でODAプランをつくっていくという協調主義に変わったと理解しています。そういった理解の上に立てば、貧困問題に関しても、できれば日本政府から積極的に提案する姿勢をとられてはどうかと思います。 その中で、もちろん、ODAそのものが貧困問題にタッチすることも必要ですけれども、インドは、ご存じのように、NGO大国と言われるほどNGOの数が多くて能力が高くなっている。日本のNGOも20団体程度インドに参加して活動していますけれども、規模的にはまだ限りがあります。そういった中で、ODAの立場として、インドのNGOと日本のNGOが協働して貧困問題に取り組むところにODAを流すような方針、考え方が盛り込められないのかなと思いました。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 それでは、小島さん、お願いします。 |
(小島委員) | 簡単に2点申し上げます。 1点目は、浅沼先生からもご指摘があった、日本のアジア外交といいますか、日本の国益の中でインド支援をどう位置付けるのかという点については、台頭する中国に対抗してインドとの協力関係を深めていくなどということは、とても言えません。そのことからいけば、私は、ここに書かれている対インド支援理念の目的の冒頭の1、2で、これはこれで十分ではないかと考えるのが1点目。 2点目は、対インドODAの重点分野のところですが、これについては牟田委員と同じ意見です。やはりここで一番強調されている部分はインフラ整備支援であって、それがなぜそうなのかといえば、インドは自助努力の考えが確立している国であって、そこから、インドが最終的に望んでいるのは直接投資であると位置づけているのですから、私は、ここのところは、そういう形で対印ODAの重点分野の第1は、まさに自助努力に資する支援という書き方でいいのではないかと思います。 ただし、だからといって、貧困・環境問題への支援は必要ないというわけではありません。これは、中期政策あるいはODA大綱の中で、貧困の問題については、基本的には持続的成長を通じた貧困対策、貧困支援ということになっているわけですから、そういった形で、この「貧困・環境問題への対処」を位置づけて記述すればいいのではないかと思っています。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 関山さん、どうぞ。 |
(関山委員) | この中間報告ですけれども、よく書かれていて、私は全面的に賛成します。特に、民間としては、インド経済への関心が、最近非常に高まっています。というのは、もちろん、インドが最終的に望んでいることは、ここに書かれている直接投資とか貿易、技術移転の拡大ですが、直接投資などは、日本からの投資は本当にミニマムで、全くやっていないのと同じです。 その理由は、民間の経済関係を促進する流れをつくり出せていないこと。これは、我が国のODAが果たす役割の一つかと思います。特に、大国ですが、国の規模に比して脆弱な経済インフラであることは如実でありまして、円借款によって、ODAによってインフラを建設する、それを支える技術協力といいますか、それによる人材育成が今最も重要でありまして、それによって民間の直接投資を促して、経済発展と生活水準の向上につなげることがプライオリティではないかと思います。 ただ、浅沼先生もご指摘されましたように、インドの電力とか、こういうものはどのようにして立て直したらいいのだろうということは確かに言えると思います。インフラ整備の電力セクターとか運輸セクターの支援ということでは、最後の6にも書いてありますように、「援助対象の強化」にもつながると思います。インドは、電力一つをとっても、中央にCEAという電力公社があって、地方には各々州の電力公社があって、全くバラバラの政策です。したがって、ODAでそういった研究会というようなものを立ち上げまして、中央政府や州政府とのつながりとしてどういった援助が一番効果的かという面をODAで整備をしていく、また、投資環境に関しましても整備が不備で、特に行政の非効率、不透明性とか、中央政府と地方政府の齟齬とかたくさんありまして、そうした投資環境の整備、ソフト面をODAが整備することは非常に重要ではないかと思います。 人材交流に関しては、ほとんどと言っていいくらいありません。例えば、インドは、「リライアンス」とか「タタ」など世界的な企業がたくさんありますが、日本との交流はありません。これはいろいろな理由があると思いますが、今後、民間もこういった形で関心が高まってきましたので、そういった、いわゆる政府主導の研究会、例えば電力とか交通、投資面でそういうものを立ち上げていただいて、頻繁に交流をすることによって、今後、民間も含めて、インドに対していろいろな面で日本政府も協力していけるのではないか、と思っています。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 それでは、荒木さん、砂川さんの順序でお願いします。 |
(荒木委員) | 私は、インド国別援助計画に参加しているメンバーの一人ですが、援護射撃の意味でちょっとお話ししたいと思います。 第1点に、これは貧困削減の問題ですけれども、インド政府はそもそも、貧困削減あるいは保健・衛生問題については最初から、これはNGOに各州それぞれあるので、それと連携してくれという話が出てきました。その背景は、自分の国を援助する国を自分で決めるという快挙を成し遂げたというか、理想的な形だと思います。ですから、最初から、こういう国を援助したいと思っております。何故かというと、行政コストの問題。それで、ノルウェー、デンマーク、カナダ、いろいろと小さな人道的援助を行っているのですが、政府ベースでやると行政コストがかさむので、それはなるべくNGOベースでやって、日本をはじめ、ドイツ、フランス、アメリカなど規模の大きい援助については政府間でやる。そういう流れをつくっているわけです。 そういう中で、当然ながら、二国間援助で日本に要請されるものは、保健・衛生の問題については、貧困問題も含めて、ある意味において、庶民ベースについてはNGOと協力してやってくれないかという話に最初からなっていると聞いております。 したがって、日本に求められる政策は、日本との経済関係を強化するために、日本の企業あるいは世界的な企業等の投資を呼び込むインフラ整備について力点を置いてくれないかということです。 その他については、インドという国は、先程浅沼さんがおっしゃったように、政策対話をやっていない、世界銀行さえも手をつけられない国です。それは中国も同じです。やはり自分の国は自分でやるのだという、中国と同じレベルの政策をとっているわけで、世界銀行が介入して国の将来を左右するというのは、その能力がない国々のことであって、インドや中国は自分でやるということです。 そういうことですので、ここに書かれている問題は、こちらが勝手に書いたわけではなく、かつ、向こうが勝手に言ったことを鵜呑みにしたわけでもなくて、向こうとのかなりの現場レベルにおける対話も通じながら、もちろん、そのプロセスで、我々もODA大綱に即して貧困削減を明記していますから、それについては言いましたけれども、それは、持続的経済成長を通じて貧困を削減していく路線でやろうということに決まってきたということで、追加説明をさせていただいた次第です。 |
(砂川委員) | 全体の方向がよくわかって、非常にいい方向に進んでいると思います。 1点、民間の経済活動あるいはインドとの民間の交流で、具体的には、直接投資、貿易、技術移転の問題と、ODAの流れを別個のものに扱っておられる点に違和感を覚えます。すなわち、インドでは、最近、特に、インフラにおける民間の参画、インフラに対する民間投資が随分進んでいるようであります。そういったことを念頭に入れた形で日本のODAを考えていかなければいけないのかと思います。 世銀の話などを聞いておりますと、インドでは、従来は、民間の参画によって行われるインフラの中で、道路は余り進んでいなかったのですが、今、道路において画期的に進んでいるように聞いております。具体的な数値なども出てきているのですけれども、道路においてさえそういうことであるならば、恐らく、電力や水道といった問題についても民間投資がインフラにおいて行われる可能性はかなりあるのではないか。現実にそういうことで進んでいる。それを日本としてももう少し積極的に考えていく必要があるのではないでしょうか。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 米山さん、どうぞ。 |
(米山委員) | 基本的に、民間の立場から申し上げますと、関山さんの意見と全く同感です。インドという国はオーナーシップを確立していて、貧困問題は国内問題であって自分で処理したいという話が書いてありますし、私もそうだと思います。宗教的、社会的な背景の問題があって、対外的なODAという軸を使ってやることはなかなか難しいだろうと認識しております。したがって、NGOに何らかの予算措置をしてやっていただくこともいいだろうと思います。 前から申し上げているように、ODAの一番の根源は貧困の削減であると、私は自分自身で決めておりまして、やはりインフラ整備が大事です。今現在、インドが求めているのは直接投資ということであれば、先ほど関山さんがおっしゃったように、人的交流が非常に少なく、お互いにわかり合えていないことが一番大きな問題であって、これをまず早急に、重点的にやるべきだと思います。 2点目は、同じような問題ですけれども、私どもはインドに生産工場を持っていまして、官僚的な非効率さという表現がありましたが、官僚主義がものすごい抵抗勢力で進んでおりませんので、簡単には進まないと思います。その辺を、ODAを軸にしながら、その辺は内政問題になりますけれども、何らかの形でやらない限りは、インドとの交流は進まないと思います。その辺について、何らかの形でアプローチを試みていただければ幸いです。 |
(渡辺議長代理) | 短い時間であるにもかかわらず、大変多様な意見を出していただきましてありがとうございました。 しかし、私が聞いておりますに、基本的な流れとしては、絵所先生の中間報告は強く支持されたと感じております。インドというのは、絵所先生がご主張のように、誇り高い国で、所得分配にしても、貧困の問題にしても、これは基本的には国内問題だと認識して、強いオーナーシップを発揮して発展を進めようと考えている。そういうタイプの国である以上、敢えて言えば、在来の日本型のODAの仕方、つまり、インフラを中心にして、内外の民間企業がそこに進出してきて経済発展を牽引していくというプロセスで、貧困もまた削減されていくという力強い流れが出ているわけです。ただ、それを一直線に書くには、インドという国は貧困層が依然として多すぎるのではないかと思います。そこに何らかの付加的な手当がODAの面でなされるべきだとまとめられるのではないかと思います。浅沼先生、小島先生がおっしゃった覇権については、この程度の書き方以上はできないだろうと思います。 そういう意味で大体の了解が得られたように思いますが、絵所先生、コメントをお願いします。 |
(絵所主査) | 本当にありがとうございました。勉強になりました。 ただ、去年の10月に向こうの財務省等々と、英文のドラフトを持ってまいりまして議論したのですが、日本として初めての試みです。事前に、長期計画をつくりますということと、それをインド側と協議するということ自体がとても画期的なことで、インド側も随分驚いていたのではないかと思います。こういう努力を積み重ねていくしかない。長い間、世銀等々にいじめられたという感覚を持っている国ですから、内政干渉に対して敏感なところがありまして、そう一筋縄ではまいりません。ただ、幸い、日銀は、人的には信頼関係が強い軸が長い間に培われてきているので、それをうまく利用していく。信頼関係の構築がまず先発ですね。そうしないと、貧困問題も何もできないということを強く感じました。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 本日の中間報告にありました多様なご意見をさらに斟酌して、より優れた最終案に向けてご尽力いただきたい。 絵所先生、本日はどうもありがとうございました。 本日は町村大臣がお見えになっておられます。ご案内のように、対中ODAについての議論をこれから始めるわけですが、それに先立ちまして、まずは、町村大臣から一言ご挨拶をいただければありがたいと思います。 よろしくお願いいたします。 |
(町村大臣) | 皆さん、おはようございます。座ったままで失礼いたします。 ODA総合戦略会議の先生方には、我が国のODAのあり方について、貴重なご意見をいつもいただいておりまして、大変感謝をいたしております。先般お決めいただきました中期政策につきましても、閣議で了解を得るということで、先生方のご議論の成果が、これからより具体化されていくことになろうかと思っております。平素のご協力に心から感謝をしております。今日は、対中ODAということで忌憚のないご議論をいただければと思っております。 私は、1月の国会の冒頭の外交演説でも申し上げたのですけれども、中国との関係は最も重要な二国間関係の一つであり、この関係を少しでもよくするためにいろいろな努力をこれからしていかなければいけないと考えているところでございまして、そのための今後のいろいろな政策展開も、今、中国側と議論し始めているところであります。 そういう中にありまして、対中ODAの話がこのところずっと、いろいろな方々から議論にも出ております。私が申し上げるまでもないことでありますが、中国自身が急速な発展を遂げてきております。もちろん、大変大きな東西の地域格差、産業間格差はあるのでしょうが、一部の分野では、日本をはるかにしのぐほどの経済力を維持するに至っている。そういう中で、中国自身が、かつてのように資金調達ができない時代から、今やみずから資金調達も相当できるようになってきた。あるいは、第三国への経済援助もみずからの判断で、実は随分活発にやるようになってきたという状況の変化を踏まえながら、日本は国内的にも、ご承知のように、財政が大変厳しいということもありますけれども、例えば参議院のODA調査団が昨年、中国その他各地区に行きまして、特に中国に対するODAのあり方については、大変厳しい報告書を取りまとめて参議院に提出していることもございます。 そのようなこともありまして、これは、私から、あるいは、小泉総理からも国会の質疑の中で、今までの対中ODAをこれまでどおり続けていくことは適切ではないのではないかという発言をし、そろそろ卒業も間近と思います。どうも、この「卒業」という言葉が中国を見下した言い方だと言われて、私もびっくりいたしまして、言葉というのはことほどさように難しいものだと思いました。別に、見下すとか見下さないとか、そういうことではなくて、普通の日本語の感覚で言うところの、文字通り順調に進んで卒業するというような状態にそろそろ立ち至っているのではないかと。このようなことを言ってまいりました。 そういう中で、また、これはODAの観点からの見方、中国政策全体からの見方、ODAについてのいろいろな見方があろうかと思いますので、いずれにしても、対中国政策全般の中でしっかりと位置づけて考えていく必要があるだろうと思っております。 実は、もう既に中国側とは、先般来から事務的に議論を始めております。それは、2004年度の円借款を、今年度内ですから、3月末までに決めなければいけない状況の中で、いかにこの円借款を軟着陸させていくのかということについて、事務的に意見交換を始めておりまして、かなり議論も煮詰まってきつつあるところかなと思っております。 そのようなことで、今日はぜひ、皆さん方から、専門的なお立場からのご意見もいただければありがたいと思っておりまして、私もぜひそのご議論を拝聴させていただきたいと考えているところでございます。 なお、この後、国会の都合があったりして、11時前ごろには失礼いたします。いつも、中途から入ってきてまた中途退席で大変申し訳なく思っておりますが、ひとつお許しをいただきたいと思います。 なお、事務当局から、簡単に現状説明がありますので、どうぞよろしくお願いいたします。 |
(渡辺議長代理) | 大臣、どうもありがとうございました。 まずは、対中協力についての基礎的な資料を、佐藤経済協力局長、和田国別開発協力第一課長からご説明いただき、その上で議論に入りたいと思います。認識を共有してから議論したいということでございます。よろしくお願いします。 |
(佐藤経済協力局長) | ありがとうございます。対中ODAをめぐる状況、対中ODAの中でも特に大部分を占める円借款についての状況につきまして、ただいま町村大臣からお話がありましたとおりでございます。 本日は、対中ODAについてはいろいろな確度からのご議論があり得ると思いますし、ご意見があると思いますけれども、委員の皆様に自由にご議論いただきたいと考えております。あくまでも議論のご参考にということで、この四半世紀、対中ODAを行ってきているわけですが、その事実関係を中心に、ごく手短に事務局からご説明させていただきます。 |
(和田国別協力第一課長) | お手元に資料が、資料2-1、資料2-2、資料2-3ということで3点配付されていると思います。この資料の内容だけ一言ご説明させていただきます。 資料2-1は、これまでの対中ODAの実績についての資料でございます。2ページが累積額。3ページが円借款の推移。最近のところでも、償還額が約束額を上回っているようなデータが出ております。4ページは最近の案件を載せたもので、5ページが無償資金協力の推移。これも、核実験のときに大きく下がっていることを見ていただければと思います。7ページが技術協力の近年の推移でございます。 政府といたしましては、中国の変化に応じまして、対中ODAについては政策を変更してきておりますが、資料2-2は、宮崎先生ほか渡辺議長代理にも参加していただいて懇談会を開いていただいて、提言をいただいたという経緯の資料でございます。そして、それを受けまして、平成13年10月に対中国経済協力計画の見直しを行い、円借款についての単年度方式の見直しや沿海地域のインフラはもうやらないなど、そういった変更をこれまでに行ってきております。 内容についてご説明するのは、時間の関係で差し控えさせていただきますが、こういう形で、2001年以降、対中ODAについては大幅に変更がなされてきているという状況がございます。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 さて、ここからしばらく、自由なご議論をいただきたいと思います。 |
(小島委員) | では、手短に、2点もしくは3点、お話しさせていただきます。 日本の対中ODAは、私は、最も成功したODAであると同時に最も批判を浴びているODAであると思います。その評価を踏まえて考えていかなければいけないのではないかと思っています。今、大臣からも、卒業の時期ではないかというお話がありましたが、私もそう思います。とするならば、考慮すべき第1の点は、きちんと対中ODAのこれまでの実績を評価する、いわば事後評価とでもいいましょうか、それをきちんと行う必要があるのではないか。 その評価を行う際の第1の基準は、申すまでもなく、1979年に日本が対中ODAを始めたときに掲げた目的、つまり所期の目的の達成度、これをきちんと行う必要があると思います。それから、その評価の際には、やはり国内に向けての説明と、国際社会に向けての説明、そして中国に向けた説明、こういう3つの観点をきちんと踏まえたものでいかなければいけないのではないかということであります。中国に向けての配慮は、「卒業」という言葉自体に敏感に反応する点をきちんと我々も評価の際には考えておく必要があるだろうということであります。 2点目は、「卒業」とする際のその理由づけをやはりきちんとしなければいけません。それは、中国に向けても、国内に向けても、国際社会に向けても。ちなみに、中国の1人当たりのGDPは、現在の段階では、せいぜい 1,300ドル前後だろうと思いますが、これが国際的に言われているODAの卒業の基準に当たるのかどうなのか。このあたりも説明しておく必要があります。 3点目は、今後の中国との関係の中で、もしODAをこれで終えるとするならば、DAが担っていた役割を、どういった新しい対中政策の中でそれを果たしていくのか。そこのところを考えておく必要があるのではないかということであります。これまでのODAを通じた対中協力が日中関係の安定的な発展に貢献してきていたとするならば、その部分をどのようにしてこれからも持続していくのかということが重要になってこようかと思います。 そして、最後の点は、恐らく、これは最初に言うべきことなのかと思いますが、中国にもはやODAは必要ではないというときの議論の出発点は、中国の経済発展が目覚ましい、経済大国になったという中国の現状評価ですが、これからの対中ODAの方向を考えていくときに、中国の現状をどう評価するのか、そして、中国の将来をどう見据えるのか。一言で言えば、中国の現状分析と中国の将来シナリオ、ここのところも、それを公表する、しないにかかわらず、きちんと試みておく必要があるだろうということであります。 中国の将来シナリオについて言えば、一方で中国は2020年には日本のGDPに追いつき追い越し、2050年よりももっと早い段階でアメリカに並ぶという評価もありますが、他方では、現状の中国の社会的な不安定状況の深刻化を考えれば、中国のガバナンス にかなり大きな問題があり、もしかすると、ある種のカオスも将来の一つの可能性として考えておかなければいけない。後者の場合、ODAが本当に卒業なのかどうなのか。こういった点もきちんと見据えた形で、中国に対するODAの終息を図っていくことが必要ではないかと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 本日、特に議論として出してほしいのは、卒業ということがもう既に言われているわけで、後から膏薬をつけるようで具合が悪いのですが、理論武装と言っては強すぎるかもしれませんけれども、理由づけとおっしゃいましたが、このことがうまくできるかどうかに焦点を当てるような議論をしていただけると、なおありがたいかなと思います。しかし、議論の方向制約しようとしてそういうことを言っているわけではありません。望むらくはという程度にお受け取りください。 |
(草野委員) | 今、渡辺議長代理がご指摘になったような趣旨とは若干かけ離れるかもしれませんけれども、考えていることを申し上げたいと思います。 非常に重要なポイントだと私自身は認識しているのですが、現在、日中両国で、国内的にはナショナリズムが非常に高まっております。ですから、仮に、「卒業」という言葉を使われましたけれども、円借款を含めて、計画をもって終了させることを明示する場合には、ナショナリズムが高まらないように、双方でうまくソフトランディングするような配慮を十二分にしていただきたいと思います。 これは日中関係ではありませんけれども、日韓で竹島の問題が話題になっていて、そして、韓国の外務大臣が来日を控えるというような騒動にまで発展しておりますし、そういうことがないように。つまり、日中関係が、大臣が冒頭におっしゃいましたけれども、非常に重要であるということであれば、日中関係の現状もさることながら、将来に対してもマイナスの影響が出ないような、そういうような配慮を十二分にしていただきたい。 とりわけ、中国は、朝鮮半島、これは単に北朝鮮ではなくて、韓国を含めた挑戦半島の我が国に対する将来の意味を考えれば、中国と緊密な関係を維持、拡大、発展させることは、日本外交にとって極めて重要だろうと思います。釈迦に説法でございますが、そのように申し上げます。 その上で、放っておいても、円借款はいずれ極めて近い将来になくなると思うのですけれども、私は、先ほど来申し上げているように、円借款を中心としたODAは、日中関係のシンボルですから、例えば環境案件だけは大切にとっておく。環境案件というのは、単に中国の経済発展に資するだけではなくて、日中関係にとっても、あるいは、地域にとっても、とりわけこれは三角協力ということで、環境センターが北京にもある、インドネシアにもあり、タイにもありということで、環境ということでは地域の協力が非常に進んでおります。そういう意味では、環境の案件に関しては引き続き円借款を、どのくらいの規模がわかりませんけれども、シンボルとして取っておくことは非常に意味があるのではないか。 もちろん、経済インフラに関しては、先程ご紹介がありましたように、自前で十分に資金調達ができることは事実です。とりわけそこで思いますのは、日本の企業がかなり進出していて、中国の経済発展にも寄与していると同時に、日本の経済にも大変にプラスの効果を及ぼしている中で、たくさん日本の企業も中国でエネルギーを消費していることから考えれば、やはり環境案件を大事にとっておくことが一つかと思います。 それから、日本の財政事情という観点から、財政事情が厳しいので対中ODA削減という議論は、一見わかりやすいですけれども、実は、事業費ベースでは確かに、円借款ですから削減されることになりますが、対中ODAを減らすといっても、一般会計予算ではほとんど減らないわけです。ここら辺を国民が知ったときに、全然減っていないじゃないかという話になりはしないでしょうか。財政的に寄与しないのではないかという議論が出てくる可能性もあるので、そこら辺は十分に注意したほうがいいと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 国会審議のために町村大臣はここでご退席をせざるをえません。その前に何か一言ございますか。 |
(町村大臣) | 本当は、出番がもっと遅いはずだったのですが、めったにないことですが、審議異常に早まっているので急いで出てこないと。誠に不合理なる国会なるものにいつも振り回されるので。 明確な評価をしたり、説明をしたりしていくことの重要性はおっしゃるとおりだろうと思います。これだけの議論になっている中ですから、余り理由もなくもやもやとしてすべてを結論だけありきということにはないようにしなければいけないと思っております。 将来シナリオを勝手に、おまえの国はこうなるだろうということを全部日本国政府が公式に言ってしまうことは、そこはなかなか難しいのかもしれませんが、可能な限りきちんとした説明は国の内外にする必要があるということだろうと思います。 草野先生のインフラなかんずく環境案件という話は、最近の対中ODAは、植林や何かを含めて環境案件が非常に多いです。あと、プラス人材育成が若干ありますけど。なので、シンボルとしての環境案件というと、実は大半が残ってしまうという悩ましい問題があるのかなと思いますが、一つのご議論として承らせていただきます。 大変申し訳ありません。あとはよろしくお願いいたします。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 それでは、米山さん、お願いします。 |
(米山委員) | 私は、草野先生と似ているところと違うところがありますが、まず、先程、結論ありきで、陸続き云々ということについてはここで議論すべきではないと思います。やはりもっとフェアにやるためには、基本的に、日中関係の過去の問題、将来に向けた考えた場合、国益との関係を考えた場合、中国は間違いなくこれから東南アジア、また世界でも大きな国であることは間違いないわけですから、そことの関係を考えた場合、国内事情、感情問題を含めて、今、対中国に対してはいろいろな問題がありますけれども、5年と限ってODAをやめる方向については、私は、そういう方向にあるべきではないと思っています。もう少し中長期的な関係で日中関係を考えるべきであって、5年間で漸減するという形で決めること自体、私は基本的に違うのではないだろうかと思います。 確かに、潜水艦問題とか尖閣諸島、竹島問題を含めて、いろいろな問題がありますけれども、間違いなく将来、日本の国益を考えた場合には、中国と共存しなければいけないという大前提があるわけです。それを、単なるODAという狭い枠で限るのではなくて、東アジアの中で、中国と日本はどうかかわっていくかと考えた場合、彼らは誇り高い国ですから、そこに対して、卒業云々ということは、実態はそうかもしれませんけれども、やはりシンボル的なものを含めて、ODAは将来の国益を考えた観点から継続すべきだと思います。額については漸減する方向でも構いませんけれども、時間を区切ってODAをやめてしまうことについては、基本的には反対です。 それによって、恐らく、中国もどんどん経済力が発展すれば、自分たちのニーズとか面子の問題もだんだん薄れてきますから、そういう状況を見てからやめましょうという話であって、今、5年でやめるということの方向性については、私はいかがなものかと思っております。 もう一つは、草野先生がおっしゃったように、やはり環境問題という点で、今、環境問題でのODAが多いと大臣もおっしゃっていましたが、あの国民が自動車をたくさん持ったら、もし化石燃料を使ったら、今でさえ島根とか鳥取は酸性雨でやられているわけですから、日本全体が大変になると思います。 それから、日中間で、中国サイドは、反日教育というと言葉は悪いですけど、かなり偏った教育をしていますので、これに対して何らかの歯止めを設けるべきだし、それに先立って人材の交流をもっとやるべきだと思います。 加えて、宝山製鉄所を日本のODAでつくったけれども、結局、中国は、日本からのお金でつくったなどとは一言も国民にPRしていません。これはまたとんでもない話で、そういうこともきちんとPRするようなことも言いながらも、ODAは続けるべきだと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 浅沼さん、荒木さん、伊藤さんの順序でお願いします。 |
(浅沼委員) | 私も、小島さん、草野さんの、大筋での理解に賛成です。ということは、中国は、もうこれで自律的な成長路線に完全に乗って、多分、ODA需要は縮小しているということで、それを理由にして、そろそろ卒業といいますか、グラジュエーションという言葉が悪ければ、ODA関係のディスエンゲージメントの時期に来ているのだと考えます。 しかしながら、その政策を実施するときの幾つかの原則として、まず第1に、漸進的に行わざるを得ない。今やっているように、フェーズをつくってフェーズアウトしていくよりしようがないと思いますが、そのときに、私も、余りはっきりした時間的な枠をつくらなくてもいいような気がします。5年程度ということで、漸進的にODAの量を減らしていけばいいのではないかと思います。 第2に、しかし、その間において何かあったとしたら、もう一度ODA需要が出てきたとしたら、例えば、先程議論していたインドの場合、ラジブ・ガンジーが出てきて、1980年の半ばから国内の改革に手をつけて、それが余りうまくいかなくて、91年の危機がありました。あのときには国際的な一種のレスキューオペレーションが必要になったわけです。そういうことも考えて、この間において、もし何らかのコンティンジェンシーが出てきたときには、十分にサポートする用意がありますという条件つきでフェーズアウトをやるということ。復活があり得ると。ただ、それは一種の、本当にコンティンジェントな状況ですよね。インドの91年の国際収支危機のような状況においては、十分にODAを再動員する用意ありという含みを残しておくべきような気がいたします。 理由として日本の財政を挙げるのは、すべきではないという気がいたします。日本は未だに相当規模のODAを維持しているわけで、その中の配分の問題ですから、財政が厳しいことを直接的に対中ODAに結びつけるべきではないと思いますし、同時に、対中国の国民の意見といいますか、そういうものもこれに結びつけないで、やはりODA政策としては、長期的にODA需要があるかどうかという日本の判断をベースにやっていくという姿勢を貫くべきで、そうすることによって初めて、これが政治的な二国間の問題にならないようになるという気がいたします。 そうすると、漸進的にフェーズアウトする期間の中で、政策として考えなければいけないのは、部門、対象地域、我が国のスキーム、この3つの点でどこかに集中していくことではないかと考えております。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。今のご意見で、財政を理由にすべきではないということの論拠。それから、日本人の対中国民意識が今悪化しているわけですが、卒業をこれと結びつけるべきではないとおっしゃったのですが、そこのところをもう少しパラフレーズしてほしいのですが。 後者について言えば、日本は民主主義国であり、対中外交政策も結局は民意に添わなければならない。我々はそういう政治のシステムの中に生きているわけですね。卒業を世論と結びつけるべきではないということが、どれくらい正統性を持ち得るのか。財政が苦しいということは、小さな国に対するODAであればまだしも、中国やインドネシアのような巨大な援助対象国に対して、財政が苦しいから削減または中止というロジックは、それなりの正当性を持ち得るように思います。 |
(浅沼委員) | 今、日本は相当額のODAを世界中の国に出しているわけですよね。その中で、苦しいからといって、中国だけにそれを負わせるのかという論理は成立しないと思います。その上に、さっき草野さんがおっしゃいましたように、環流部分があるわけで、対中ODAの大きな部分を円借款が担当しているわけですから、環流部分だけは使ってもいいのかという議論にもなりかねないわけです。それが第1です。 第2に、その国に対して、その時々の状況によって、その国の好き嫌いが国民に出てくると思います。それを余り表面に押し出しますと、ODA政策の安定性が失われるわけです。相手国にしてみますと、自分の国を開発あするためにODAの取り入れをしているのだとしたら、その資金の流れにはある程度の安定度が必要です。そういうことを考えれば、やはりこの際、議論としては、あくまでも、我々が判断するODA需要が減っているのだと。その根本には、自律的な経済成長路線に乗ったという事実があることを強調すべきで、みんなが中国を嫌いになったからとか、中国が、例えば宝山のプロジェクトに対して感謝の意を表さないからというような理由で政策を変えるべきではないと思います。 |
(渡辺議長代理) | わかりました。ありがとうございました。 それでは、荒木さん、お願いします。 |
(荒木委員) | 昨年がODA50周年記念でありまして、そこでシンポジウムを、外務省の後援あるいはJICAが主催して「転機の海外援助」が開かれた。そのときに、緒方貞子さんが、世界は非常にグローバル化しており、その中で相互依存が高まった社会になってきたと前置きして、日中間の経済的相互依存はその典型的なものだと述べられた。UNDPのマーク・ブラウン総裁は、日本のODAはアジアで成功したとおっしゃった。特に中国に対するODAは大成功して、今日、アジアに対して、新しい発展の流れをつくってくれたと評価した。 いろいろ議論を聞いていたわけですけれども、結局、皆さんのご意見を総合して申し上げますと、この際、日本は、中国と、環境保全センター等、環境問題についてはかなり協力してきていると。ですから、環境問題等で中国と場合によっては共同して第三国協力みたいなものをやってはどうかと思います。それは、裏を返せば、日本が、この何十年間、30年以上、対中経済協力をやってきて、その投資効果というか、このままうやむやに中国も反日感情を残すような形で終わったら、一体今まで何をやってきたのかということが問われる。 そういうことを考えますと、ここで、ある意味で、日本と中国との協力については有終の美を飾るというか、何か発展的な意味のソフトランディングをやっていくべきではないかという議論がいろいろと聞けた感じでした。アフリカの場合も、日本が協力した中国の経験、あるいは、その経験を受けた中国、それをまたアフリカへお願いしたいということを、アフリカのAUの議長が言っていました。 そういうことで、国際的な観点から言うと、日本がアジアで果たした役割は大きくて、特に中国に対する役割が大きい。それを引き続き国際社会でその実績を示し、アジアと平和の安定のためにこうするということを、日本はきちんとアナウンスメントすべきではないかということを言っているわけです。 私は、その説に大賛成でして、日本の国民感情は、不況のせいか知りませんが、エキセントリックになっているという感じがします。やはり日中関係は、アジア総合政策の中で考えてみても、中国抜きには、先程のインドの議論ではありませんけれども、中国抜きには考えられない中で、いかに日本が中国とアジアの中にあって、中国の力を抑えるという意味ではなくても、うまく利用してアジアの発展、それを世界の発展につなげるような、つまり触媒的な役割を果たすべきではないかという議論もかなり出ていますので、私はやはり前向きにそういう方向へ行くべきだと思います。 そこで考えるのは、ODAの中の我々の議論は、外から見ると、縦穴の中で議論しているように聞こえるそうです。したがって、我々が今問われているのは、中国のみならず、中国も含めて、対アジア総合政策の中で、外交政策の中で考えられて、その中の対中政策はどうあるべきかということなのに、全くそういうバックグラウンドなしに、中国だけを、政治的な刺激的な言葉、あるいは、反日感情がどうということで、大きく軌道を外そうとしていることについては、一応警戒しなければならないのではないかという意見がありますので、私もそれについては全く賛成です。 したがって、こういう議論をするときに、アジアに対する政策は既に出ているわけで、例えばASEAN重視がその一つで、ASEANを重視していこうということで、インドシナ半島政策も一つあるわけです。そういうものとの絡みで、中国との関係を考えていくベースがあるわけです。そういうことも含めて、日本の戦略を全部表に出すことはできないにしても、一応、アジア政策の中でそれが議論されているので、その脈絡で見ると、対中政策はもっとソフトにやっていくべきではないかと思っております。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 伊藤さん、どうぞ。 |
(伊藤委員) | 私は、基本的に米山委員の考えに賛成ですけれども、今の段階で、対中ODAをやめる、あるいは、期限を切って廃止する方向性を打ち出すべきではないと思っています。 それはどういう理由かといいますと、私も中国へ行ったことがありますけれども、貧富の格差がすごいわけです。東海岸と西部側では。そういった問題で、どなたかがおっしゃいましたけれども、社会不安が増大する可能性が大きいと思っています。そのときに、中国政治が乱れた場合、日本に対する影響は大きくなるだろうと読んでいます。 もう一つは、今、外交上では、賠償問題は解決したことになっていますけれども、中国政府あるいは中国の民衆側から見れば、それはまだまだしこりが残っていて、自分たちが東海外で経済成長は遂げているのだけれども、結局、日本が迷惑をかけた量に比べればそれは当然だという考え方が根底にあるのではないかと思っています。 今後どうしたらいいかということですが、私は、この方向性を変えながらODAを考えたほうがいいのではないかと思います。一つは、内容、対象地域、対象となる社会階層です。内容は、もう既に皆さんがご議論の環境、貧困問題に行くのかなと思います。対象地域は、もちろん西部が中心でしょうけれども。それから、もう一つは、社会階層でも、今、日が当たっていないところに焦点を当てるべきではないかと思っています。 方法としまして、私は2000年に北京で開かれた世界NGO会議に出席しました。そのスポンサーはフォード財団であり、アジア開発銀行、世界銀行、UNDPも共催ながら入っていましたけれども、国内外から 400人ぐらいの関係者が集まっていました。私も非常に驚いたのですが、中国政府の関係者も参加されていまして、2000年から10年間、西部の貧困問題を解決するためにということで、中国政府が「NGO」という言葉も正式に導入して、NGOを支援していくという方針を打ち出しています。 そこに参加していた日本のNGOはわずか2人でしたが、欧米のNGOはかなりたくさん既に参加していまして、西部の地域でいろいろ事業を展開していました。西部からいらしていた方は、地方の行政、大学の先生などいらしていましたけれども、そういったところと手をつなぐ必要があるのではないかと思います。結局、まだまだ日本は、政府レベルあるいは経済レベルでは関係を持っていますが、中国政府の言葉を借りると、民衆レベル、人民レベルではほとんどつながっていない。その信頼関係たるや非常におそまつなものであると認識しています。 そういった意味で、今後10年、20年を展望した場合、中国というのは、これからアジアで最大の影響を及ぼす国だと思いますので、いかに日本が中国と共存するか、この戦略を立てるためには、急がば回れですけれども、民衆、市民、そういった草の根レベルでの信頼関係を構築することが大事だと思っています。 皆さんは信じ難いでしょうけれども、今、中国でもNGO活動が広がっています。もちろん、それは共産党系の影響を受けたものであることは認識していますけれども、NGOのリーダーが、ドイツ、アメリカ等に留学して、そして帰ってきて、欧米のシビック・ソサエティの発想を持った若手リーダーが今どんどん生まれつつある中で、日本は戦略的に、市民レベルでもっともっと国民参加型の支援をする必要があるのではないかと思います。そこには、ここに書かれていますけれども、留学生の支援、もっと人的交流を支援する。それから、日本のNGOが25ぐらい中国に入って、農村開発とか植林等をやっていますけれども、そういったところと中国のNGOを連携させる形の戦略も一つあってもいいのではないかと思っています。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 砂川さん、どうぞ。 |
(砂川委員) | 小島先生がおっしゃいましたように、最も成功し、最も批判されているのが中国に対する援助だと思います。今後、そのために実績の評価をしなければいけない。それを対中国に言っていかなければいけないということをおっしゃったのですが、その実績の評価のところで、どうしても、マクロの、総論的な部分に対する評価というか、そういうものが中心をなすだろうと思います。 そもそも79年にこの援助が始められたときには、国際社会に入ってもらうようにということが一つの大きな目標でしたが、それが見事に成功しました。そういうマクロ的な外交的な面と、中国の経済発展にこういう具合に貢献したともう少し具体的に指摘してはどうかと思います。例えば、部門的に、電力の分野、輸送の分野等においては大変な貢献をなしているわけですが、そういうことを具体的に部門別あるいは地域別に説明していく必要があるのではないかと思います。 対中国ODAに関する批判は得てして、例えば北京空港の問題とか地下鉄とか個別のプロジェクトの問題がどうしても取り上げられがちですけれども、そういう個別の問題の前に、向こうの空港設備の整備等、大きくは輸送・交通手段の整備に大変貢献があったことを、具体的に、部門別に、地域別に説明していく必要があると思います。 もう一つ付け加えますと、ODAだけで、こういった運輸部門あるいは電力部門に支援してきたのではなくて、円借款、技術協力、無償という3つのODAの形態に加えて、OOF、民間の投資が一体となって協力してきたことをぜひ説明してほしいと思います。 一方、日本側に説明をするときに、私には、いわゆるODAの4原則がどうしても引っかかります。現在、中国の状況を見ると、この4つの原則のいずれも反していると思います。中国側後の議論に際しては、日本の立場をはっきりすべきではないかと思います。日本は、79年以降、ODAについての日本の立場について、はっきりとものを言うべきときに言ってこなかったのではないかという気がしますので、今はもう最終の段階に来ているわけですから、はっきりと4原則に対して我々はこう理解している、こう主張したいのだということを、はっきり言ったほうがいいと思います。 あと1点は、中国の対外援助ですけれども、先ほど荒木さんが、日本のアジア外交の一環として中国と協力をしていく視点のことをおっしゃいました。ASEANのみならず、むしろ、中央アジアであるとか、ベトナム、ラオス、ミャンマー、それにモンゴル等、中国の周辺地域に対する中国の進出はものすごいものがあるわけです。これらの諸国に対して、日本もODAを実施してきましたが、今はかなり対立した状況、あるいは競争関係になっているように思います。対立関係ではなくて、大きな流れの中では協調していく姿勢を出していくことが、現在の国際情勢の中においては非常に重要あなのだろうと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 それでは、関山さん、お願いします。 |
(関山委員) | 基本的には、日本政府は半年をかけていろいろな案件リストを精査して、軟着陸のシナリオを描くということですが、民間の立場として、民間との協調ということを説明したいと思います。もちろん、環境問題は、草野さんがおっしゃったように、今後、前近代的な製造プラントがたくさんありますから、これに円借款をつけていくことは意味があると思いますが、私は、水に焦点を当てたいと思います。 中国は非常に悪い水を飲んでいますし、水事業といいますか、水の状況が非常によくないです。我々も、成都市で水事業をBOTでやっています。これは、水をもらって、それを一定の質に変えて成都市に売るということをやっているのですが、これは成功している例です。他の市も、もしくは成都市も、どんどん水事業を民間でやりたいわけです。ところが、民間ではペイしないわけです。どうしてかというと、水源開発が非常に難しいからです。例えば、水源を日本のODAで開発して、トランスミッション(移動、移転)さえやってもらえれば、その上物は、浄水場を民間資金でBOTをやることは可能です。こういった案件を各都市で展開できるのではないでしょうか。それにはやはり水資源の開発なり、トランスミッションなりにODAの資金を使えば、いわゆる民間とODAの協調で、中国の水状況が改善していくのかなと思いました。 これは水だけではないのですが、そういった意味で、今後、量は若干減っていくでしょうが、そういった形で日本政府が貢献できることは十分に考えられると思いますので、その辺を考慮していただきたいと思っております。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 青山さん、草野さん。 |
(青山委員) | 先程の伊藤委員のご意見にもありましたが、やはり中国は巨大な国で、国内格差が大変大きく、都市では経済発展が進んでいても、辺境地域は非常に貧しく、社会開発も遅れています。また、一度確立された保健医療などの社会政策も、経済発展とともに、たちゆかないところもでてきております。 さらに、先程のインドと中国を比べてみますと、どちらもオーナーシップが強い大国ですが、決定的に違うのは、インドは民主主義国家ですけれども、中国は正直なところそうではないということかと思います。国内格差の問題など、国内で処理していくのでしょうが、外からもいろいろな点で少しずつ助言をしていく窓口が必要ではないかと思います。私の専門としているリプロダクティブヘルスの分野では、出生前診断により妊娠中絶をするなど、いろいろ人権に関わる問題もあり、そういったことなども話し合いのできる窓口が要るのではないかと思います。本当はNGOが取り組むべきことかもしれませんが、正直なところ、NGOがどこまで主体的に活動できる国かわからないように思います。 対話の窓口を残すという意味で、技術協力のようなものは継続していくべきではないかと思います。大きな円借款はだんだん減らしていくとしても、民間レベルのほかにODAとしても、たとえば社会政策の質を向上させることなど、いろいろな点での技術協力を少しずつ継続するべきと思います。その中で、全体の額については、浅沼委員のご意見にもありましたように、フェーズアウトしていく方向がよいのではないかと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 草野さん、どうぞ。 |
(草野委員) | 先程大臣から、環境案件で私がご提案を申し上げたら、実は、円借款の大半は環境案件だというご指摘がありました。ただ、こういうようなカウンターアーギュメントは可能だろうと思います。 実は、環境案件といっても、日本は、グローバルスンダードでいくとものすごく幅が広いわけです。その意味で、ここは関山さんと違ってしまうのですけれども、特に日本、あるいは、地域に影響がある円借款に絞る。具体的に言えば、大気汚染、酸性雨対策とか、そういうものに絞る。水のお話が出ましたけれども、こういう国内の環境案件は、これだけ経済発展しているのですから、これは自分でやってくださいと突き放すと、額はかなり減るだろうと思います。これは浅沼さんもおっしゃいましたけれども、部門を特化するとか、プロジェクトを特化することによって、日本の納税者にきちんと説明ができる円借款にしたらいいのではないかと思います。 もう一つ。実は、貧困削減は日本の納税者にはなかなか説明しにくい部分ではないかと思います。もちろん、メディアの報道ぶりも関係しています。上海や北京など、ああいう高層ビルの裏側には大変な貧しい人がいるといいますけれども、所得格差については、基本的には中国政府が面倒をみるべきではないかという議論が当然出てくるわけで、私は、貧困削減はどちらかというと消極的です。 人材育成に関しても、日本が今までやってきたのは、学校をつくって、校舎をつくってといいますけれども、これがもう少しセレクトして、戦略的にやったほうがいい。例えば、初等教育は基本的には中央政府の責任だと思っていますから、やらないほうがいいと思っていますけれども、仮にやるのであれば、例えば日本企業が上海とか色々なところに進出していて、そこには民工と言われる出稼ぎ労働者が来る。だけど、その民工の子弟は、教育の機会に十分には恵まれていません。いわゆる私設の学校みたいなところで、小学校を卒業すると、また地方に、親子離ればなれになって帰ってしまう。 2つの理由があって、一つは、例えば上海地域で言えば、学校が足りない。教員が足りない。そういうところに集中して、戦略的に、この初等教育で援助をするにしても知恵を絞るというようなことにしたほうが、日本の納税者にとっても説明がうまくいくのではないかと考えます。 |
(牟田委員) | それでは、簡潔に。 対中ODAを減らしていく、あるいは、やめるというのは、ある程度をやむを得ないと思いますけれども、従来、ODAでたくさんのお金を注ぎ込んで、ODAでいろいろなことをやってきて、その財産というものがあると思います。例えばインフラとか人のつながりとか。そういうものが、感情的に、何だというようなことで、今後失われ、使われなくなるということであれば、これは非常に困ることです。これまでODAでつくってきた財産を活用して、日中がいい関係を続けていくことが一番重要なことだろうと思います。 ODAにはODAのいいところもありますが、やはり限界もあるわけです。例えば、ODAを使った研修、大学教育への支援ということもやりましたし、国費留学生もやってきたわけですけれども、そういうものを、大学間交流の増加、私費留学生の増加、インフラを使った民間との交流の増加、といった、ODAではない形で利用していけることがあると思います。 ですから、ODAのお金を減らすと言えば反発があるかもしれませんけれども、ODAが担ってきた役割を他の方法で代替して、それで日中関係はもっとよく緊密につなげるという言い方を工夫していけばいいのではないかと思います。 特に一般無償であれば、中国が経済発展すればおのずとなくなっていくわけで、そういうODAのいろいろな制限も説明して、ODAではない形で、これから日中関係を今まで以上にやっていきましょう、ぜひ、ODAでつくった財産をこれからも活用して、いい日中関係がつくれるような、そういう議論の方向が欲しいと思いました。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 大変多くの意見をいただきました。特定の意見に偏ったものではなく、非常に多様な意見が出たと思います。それにもかかわらず、今、マスコミで、一般的な対中援助強硬論といいますか、卒業、廃止、全廃を直ちにやるべきだという単線的な議論とは随分違った、深みのある議論が本日はなされたのではないかと思います。 この議論を今後どのようにまとめていくかはなかなか難しい。逢沢副大臣がお見えになっておりますので、今のご議論等を聞いた上での、コメントをいただけると大変ありがたいのですが。 |
(逢沢副大臣) | 対中ODAのあり方について、それぞれの立場から大変高い見識をご披瀝いただきました。言うまでもないことでありますが、渡辺先生からもご発言をいただきましたように、様々な観点から、まさに思慮に富む深みのあるご議論をいただきました。お礼を申し上げたいと思います。 ざっくばらんな話をいたしますと、政治家をやっておりますと、もちろん選挙区もございますし、様々な場所で国民の皆さんと会話を交わします。やはり関心がありますね。ODA、特に中国に対するODAは非常に不評です。それは、草野先生からもご発言がありましたけれども、メディアの影響ももちろん非常にあるわけですが、大概の国民の方は、中国に随分たくさんのODAを出していると思っている。もっとも 1,000億円とかそういうオーダーが全部無償であげたきりのお金と誤って理解をされている部分が、まだかなりあることも事実であります。そこは、新規に供与するよりも戻りのほうが多くなっていますよと。しかも、中国は外貨をたくさん持っているし、そういう意味では安心して貸せる相手でもあるのだという話をすると、わかる人はわかってくれますが、それはごく一部分でありまして、潜水艦もあれば、調査船もあれば、人工衛星も上げるような国に、みたいなことが大半の国民の方々の頭の中に平均値として入っていることを踏まえながら、やっていかなければいけないのだろうと思います。 ただ、今日は冷静に、大変いいご議論をいただいたのは、この25年、26年に培ってきた財産を、下手な形で失ってしまうことは双方にとって大変不幸なことでありますし、日本からも、中国からも感謝、評価、それによって新しい形に姿を変えていく、あるいは、ある部分は終息モードに入ってく、そういうアプローチは当然必要なことだろうと考えられます。 実は、今、別のホールで、ニューヨークから来られましたジェフリー・サックス教授が講演をなさっていらっしゃいます。今年はミレニアムサミットの5年後に当たる年でレビューをする、2015年を目標に、いわゆるミレニアム開発目標をどう確保していくかというレビューの大事な年でありますし、日本的に言えば、国連改革、安保理のことにも一つの結論を出さなければいけない、そういう大事な年でありますが、安全の確保と開発と、両方が一体となって、今後の国連は世界に責任を負っていくべきであるという議論を、おそらく、今、別のホールで展開をなさっているはずです。 それに先立って、サックス教授と懇談をしていたわけですが、サックス教授からも、日本の対中ODAを含めた対アジアODA政策は、国際社会では大変高く評価をされている。この経験を中東やアフリカは欲しているのだという趣旨の話がありました。実は、私も同じ話をサックス教授に申し上げたわけですが、例えば中東のあたりに出張に参りますし、アフリカへも参りますけれども、彼らからよく出ますのは、いきなり自分の国がイギリスやアメリカや日本のようになろうとしても、そういうわけにはいかない。まず、ASEANのようになりたい、どうしてああいうふうになれたのだろう、中国は今すごいけど、どうしてああいう状況になれたのか。今から40年前、50年前までは、自分たちと中国、自分たちとアジアを比べれば、むしろ自分たちのほうがよい状況であった。そういうときもあったのに完全に水を開けられたというか、アジアと我々中東、アジアと我々アフリカは随分こんなになってしまったという趣旨の話があります。私もよく出張先でそういう話を聞きますし、実は、サックス教授も同じような情報を随分たくさん耳になさっていらっしゃる。 ある意味では、 1,000ドルあるいは 1,500ドルがくれば、卒業の一つのタイミングということもあるのでしょうが、そういう日本の成功体験、日本とともに成功したアジアの経験を世界に生かしていく視点は非常に大事だと思いますし、それをさらに高度化するといいますか、環境ということが一つ焦点に当てられていますが、そういう、ある一定の目標を達したODA政策が次なる目標といいますか、ちょっとうまい表現ができなくて申し訳ないのですが、さらに高いレベルを目指すODAのあり方が何かあるのではないかという気がしてならないわけであります。 そういう国際社会から非常に高く日本のODA、日本の国民が感じている、意識している、何倍もの高い評価を、実はいただいているし、現地その成果は中国やASEANで上がっていることを、もっと日本国民自身が知る必要がありますし、それを自信の一つの背景にしながら、しかも、謙虚にさらに高いレベルを目指していく日本のODAのあり方を、何とか専門家の先生方のお知恵もいただきながら展開していくということで、具体的に中国をどうするかという、ある意味では目の前のゴールもありますけれども、それに対してはまさに複眼志向で、いい意味でしたたかな、好きとか嫌いとか言っていられないですよね。中国とは一緒にやっていくしかないわけですから、近視眼的な、潜水艦と東シナ海、沖ノ鳥島、それだけで感情に任せて何かを決めたということは、絶対に避けなければならないと思っております。 |
(渡辺議長代理) | どうもありがとうございました。 日中の政治関係が非常に冷え込んでいるときに、憎悪むき出しに首脳部がぶつかり合うような風景が、サンチャゴとかビエンチャン等でも見られたわけですけれども、そういう状況下でODAを廃止することになると、今まで79年以来築いてきたこれだけの巨大なODAの蓄積を無にしてしまうという、実に残念なことが発生しかねない。これは困ったことです。これまでの蓄積を有効に使う手段を考えるべきだというのが牟田先生のご意見でした。 将来に向けて、ODAを中心とした日中関係をどうマネージしていくかという、つまり将来像を盛り込んでいくことが必要であり、これが、対中ODAをうまくソフトランディングさせる一つの大きな方法ではないかと思います。この点については、荒木さんが、日中が協力して第三国で共同プロジェクトを展開してはどうかという案を出されているわけです。浅沼先生はフェーズアウトという言葉を使いましたけれども、うまいフェーズアウトの仕方、過去の蓄積の活用、将来への展望、この3つくらいをキーワードにして対中交渉にぜひ臨んでいってほしいと思います。そういうまとめでよろしいのかどうかわかりませんけれども、短い言葉でまとめれば、そんな表現になるかなと思っております。 さらにご意見があることは承知しておりますけれども、対中ODAについては、今日の意見交換でひとまず終わらせていただき、政府におかれましては、今日の議論を踏まえ、対中ODAの今後のあり方に対する重要な参考意見にしてほしいと思います。 砂川さんに確認ですが、ODA4原則のことについて触れられてました。もう少し述べてもらえませんか。 |
(砂川委員) | 軍事面に限らず、あとの2点についても説明が難しいと思います。開発と環境の両立というのは、実際にどうでしょうか。これも両立されていると理解するにはかなり難しい面があります。それから、基本的人権という点も、中国ではやはり阻害されていますよね。そういう原則に反するところがだんだん見えてきているわけです。従いまして、これらの点に関し日本国内に対して説明する必要がありましょうし、そういうことを日本政府としても考えていますということを、中国に対しても言うべきではないかと思います。 |
(渡辺議長代理) | お約束の時間が来ておりますけれども、まだ一つ審議事項が残っております。短く申し上げます。 卒業論とかあ廃止論とか、そういう議論で話題になっているのは、日本の中国に対する巨大な資金の流れのうちの円借款についてですよね。無償とか技術協力については、議論の対象になっていないことの前提はお忘れなきように。これは一つのフットノートですが、大事なフットノートではあろうかと思います。 さて、3番目の議題に入ります。 この戦略会議の場では、引き続きメインのテーマとして、国別ODA計画に関する議論は続けていかなければなりません。しかし、今後は、国別援助計画に関する議論と並行しまして、新しいテーマについて、例えば今日は対中ODAについてやったのですが、そういった議論を手がけていきたいと考えております。あるいは、既にご覧いただいているかもしれませんけれども、お手元の資料3-1、3-2にありましたとおり、我々は14年6月にこの会議が立ち上がって以来様々な議論を展開してまいりました。 一つには、ODA大綱、ODA中期政策、何よりも国別ODA計画といった、いわばODAの基本政策についての議論がなされました。2点目には、ODAをめぐる内外の動きを踏まえまして、ODAに関する折々の主要課題について事務局から説明を受け、それに基づいて議論してきました。ただし、お気づきのように、2番目のほうはテーマを設定して本格的に展開することがこれまでは少な過ぎた。そういう意見を何人の委員からもいただいておりますし、私もそう思います。 そこで、今後はどうしていくかということですが、2つの柱を考えております。一つは、言うまでもなく国別ODA計画を次々と打ち上げていくことであります。これは既に戦略会議において了承されていることです。 第2の柱ですが、これが今、私が申し上げたODAの主要課題についてであります。この主要課題として、何を設定したらいいかについてのご議論を伺いたいわけです。前回の戦略会議の終わりのところで、例示として、ODAの卒業政策とか、分野別の援助政策とか、今、副大臣からもお話がありましたMDGs、それから、対アフリカ支援、平和構築等などについて申し上げました。しかし、あくまでも例示です。各委員のご意見を伺った上で、議長代理並びに事務局でいろいろ考えて提案を申し上げてみようと思います。 今後議論すべきテーマについてご発言いただきたい。それから、今日ご発言ができなかった場合には、事務局に改めてメモを出すなり、電話をするなりしてほしい。それを集約して、一応のプライオリティ、こんな形で議論していきますよという私どもの案を次回までに提起させていたいだきます。 |
(草野委員) | 2点ありまして、早急に議論すべき話として、MDGsにひっかけまして、日本のODAの実施体制を、情報を中心にし、この委員が共有することが重要ではないかということを申し上げたいと思います。 これはどういうことかというと、最近、機会がありまして、参議院の決算委員会で私がプレゼンをしたわけですが、その際に、いろいろと情報を収集していく中で、MDGsは重要だけど、アフリカ53か国のうち、我が大使館は22か国だけです。しかも、先ほど副大臣がおっしゃったように、アフリカは重要だと。この22か国で十分だろうか。ローカルな人、現地職員の数もきちんと出していただきましたけれども、例えば、この分野を得意にしているイギリスとかフランスに比べれば、かなり見劣りする。 さらに言えば、単に大使館の数よりも、そこに配分されている後方支援としての官房予算はどのくらいのものかということを調べてみますと、やはりODAがこの財政事情の中カットされるのは、そういうところからまずカットされる。例えばドナー会合に大使館のスタッフが出かけるにも、言ってみれば、大変苦労しながら、綱渡りするような形でこの仕事をされている。こういう現状を、我々ODA戦略会議の委員はどこまで知っているだろうかということで、別に外務省の応援をするという意味ではないのですけれども、ここはきちんと情報共有をしておいたほうがいいのではないかと思います。8つのMDGsを、目標を達成することももちろん重要ですけれども、同時に、そういう態勢の点について、ぜひ議論を一度はしておきたい。 2点目は、新防衛計画大綱で、ご存じの方はどのくらいおられるかわかりませんけれども、昨年の11月に閣議決定されたものですが、ODAの戦略的運用が明示されています。何を申し上げたいかというと、ODAというのは、オールジャパンとして議論されるべきもので、安全保障的な観点から、もう一度ODA大綱に書かれていることがきちんと、ODAの具体的な中身を担保できているのかどうかということを議論する必要があるだろうと思います。 例えば平和構築というとDDRの話が中心ですが、このODA大綱の最初のところをよく読みますと、繰り返し、テロ対策ということがでています。一体、そのテロ対策は十分に、日本が技術協力を含めてやっているのか。テロ対策というと、警察部門を含めて、JICAの協力等々、私はこの情報を収集してブリーフィングも受けたのですけれども、やっているのですが、一番肝心な軍事部門に対しては、できないというルールがあるものですから、効果的な援助ができていないという結果になっていると。しかしながら、我が国民が全世界に旅行をする中、あるいは、ビジネスを展開する中で、インドネシアでの大量テロとか、そういうものに遭遇する危険性は決して少なくないわけです。そういう意味で、途上国におけるテロ対策、能力向上に、もっと日本が持っているノウハウを提供できるのではないかと思います。これはかなり限界的なところだろうと思います。 実は、地下鉄サリン事件のときに日本の自衛隊が発揮した能力などは、世界中探してもなかなかない。しかしこのような能力をODAを通じて提供できるかというと、できないわけです。こういうような限界と、日本の安全保障に資するようなODAを一度議論する時期に来ているのではないかと思います。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。大変説得力あるご提案をいただいたと思います。 |
(砂川委員) | 今、草野さんがおっしゃった第1点のところ、実施体制についての知識の共有とおっしゃったと思うのですが、私もそれが非常に大事だと思いますので、もう少し深めて、実施体制あるいは実施方法、大きく言うならば、日本のODAの実施能力まで含めたほうがいいと思います。 と申しますのは、今まで50年という長い間、長らくODAを実施してきたわけですけれども、例えば貧困削減という新しい命題に対して、今までやってきた体制、方法が果たして十分に適用できるのかというところに私は非常に疑問を持っております。したがって、その辺を議論することが大切だと思います。 重要課題については、ここに挙げられている問題に賛同します。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 牟田先生、どうぞ。 |
(牟田委員) | 2点あります。一つは、先ほどから話題に出ているMDGsです。これは、秋の国連総会での中間評価ということで、我が国も何か意見の表明をしなければいけないということですので、できるだけ早急にこの場でとりあげていただいて、MDGsの達成に向けて、我が国が具体的にどういう貢献をすべきかという議論を一度するのがいいのかなと思います。 草野先生とは違う立場で申し上げているのですが、MDGsの観点の一つは、国際的に達成目標を決めて、それをみんなでやりましょうということだと思います。特に援助協調の動きの中で、例えばアフリカですと、コモン・バスケットということで、とにかくみんなで話し合ってお金を出し合いましょう、実施はみんなでやりましょう、あるいは、その開発途上国が中心にやりましょうということになりますと、ODA大綱とか中期政策で、我が国はこうすると書かれていることが、コモン・バスケットという形での協力しかできないということであれば、うまく動かないのではないかとも思います。 では、そのコモン・バスケットには参加しないということであれば、援助協調の世界的な潮流の中で、実際に、日本が援助できなくなる国も出てきます。そういう中で、我が国として、コモン・バスケットのようなものに、乗るのか、乗らないのか、あるいは、乗るとするとどのようにやっていくのかということは、一つ議論すべき課題ではないかと思っております。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 浅沼先生、どうぞ。 |
(浅沼委員) | 私は、援助体制論もしくは援助機関論をそろそろ議論すべきときかなという主張には賛同いたします。 その他に、日本のODA政策は最近随分受け身ですよね。他の国なり機関なりが主導権を取って、アフリカ問題にしても、今のジェフリー・サックス教授が来られて主張されていることにしても、グラント対クレディットという議論にしても、債務削減という問題にしても、どうも日本のODA政策はどちらかというとリアクティブで、もう少し積極的になれないかなと思います。アフリカ問題、グラント論、債務削減を一つのパッケージにして話してみてはどうでしょうか。エチオピア、ガーナが出てきますから、アフリカ問題は今後話さなければいけないのですけれども、一般論として、これがそのときにも、その議論の前提になるのではないかと思います。 |
(伊藤委員) | 私もMDGsをテーマにした検討がこれから必要になるのではないかと思います。その中で特に、過去のレビューも必要ですけれども、今後、2015年まで、日本のODAがMDGsに対してどういう戦略で活動を展開していくのかという点が議論されなければいけないと思っています。また細かいことはメモして事務局に提出します。 もう一つは、ODAと国民参加。国民参加というのは、渡辺先生が委員長をされた第2次ODA懇談のキーワードになっていると思います。これをもう一度レビューして、そして、真に国民に支持されるODAと、あるべき姿を議論すべきではないかと思っております。 |
(渡辺議長代理) | ありがとうございました。 次回から議論すべきテーマについて、このような短い時間で決定するのは無理のようです。どうでしょうか、この点につきましてはいろいろなご意見がおありのはずですので、これを別途事務局に何かの形でご連絡いただけますでしょうか。それらを踏まえて我々のほうで、議長代理と事務局が相談しながらテーマを決めさせていただきます。 今後のやり方ですけれども、国別援助計画という一本の大きな流れでかなり時間を取られますから、それと並行的にテーマを適宜、一つぐらい選びながら前に進んでいこうと考えます。1テーマが1回で終わるという保証もありません。議論が紛糾すれば、それをもう一度次に持ち越すということもあり得るわけではありますが。 扱うテーマやその順序については、議長代理と事務局等にお任せいただくことにさせていただきたいと思います。 本日は以上でございます。次回以降の具体的な日程につきましては、また事務局から別途ご案内を差し上げます。 急ぎすぎでしたが、以上をもちまして本日の会議を終わらせていただきます。ご協力、大変ありがとうございました。 |