ODAとは? 援助政策

ガーナ国別援助計画

<1>最近の政治・経済・社会情勢

(1)政治情勢

 1957年の独立後、81年末の軍事クーデター以来、軍政下にあったが、ローリングス議長の率いる暫定国家防衛評議会は、91年より民主化に着手し、複数政党制導入等を規定した新憲法を採択し、大統領選挙(ローリングス大統領選出)、議会選挙等を経て、93年1月、民政移管を果たした。96年12月には、2回目の大統領選挙及び議会選挙が実施され、同大統領が再選された。
 ガーナには70を越える民族が存在し、多種多様な言語及び宗教の混在という周辺諸国と同様の不安定要素が存在するが、こうした困難な社会的状況を乗り越え、民主制を着実に定着させつつあり、アフリカにおける民主化のモデルともなりうる国である。
 ガーナは独立以来、非同盟・中立を基調に、近隣諸国との関係を重視する一方、先進諸国との良好な関係の維持・強化に努めてきた。また、リベリア和平達成への貢献、シエラレオネ紛争の解決への努力等、西アフリカ地域の平和と安定のため積極的に活躍し、アフリカ統一機構(OAU)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)等の地域機構においても指導的な役割を果たしている。

(2)経済情勢

 ガーナは、経済面においても、西アフリカにおける拠点としての地位を確立しようと努めている。道路を中心に比較的充実した交通網が整備されている他、テマ港、タコラディ港は西アフリカ有数の近代的港湾施設を誇る。
 産業は、農業が中心である。輸出品もカカオ豆や金となっており、典型的な一次産品依存型の経済構造であり、一人当たりGNPも390ドル(97年)と低水準である。 83年に世界銀行・国際通貨基金(IMF)の主導による経済復興計画が実施されて以来、構造調整改革等の経済社会開発計画を策定し、社会インフラの整備や民間セクターの活性化等を実現すべく積極的に取り組んでおり、その結果、年5%の経済成長(96年、97年)を達成するなど、構造調整改革を実施するサブ・サハラ・アフリカ諸国の中では、改革が比較的順調に進んでいるといえる。一方、多額の援助に依存する脆弱な経済体質、カカオ豆市況や金価格の変動の影響を受けやすい不安定な経済構造にかわりなく、財政赤字、経常収支赤字、インフレ(15.7%、98年)等の問題に対処するために、引き続き経済改革の推進が必要である。

(3)社会情勢

 1850万の人口のうち約6割が1日の所得が1USドル以下の極貧層に属すると推定され、その大部分が農村に居住する。北部のサバンナ気候帯*1では換金作物の生産が極めて難しく、農民が南部のカカオ農場や金鉱山へ出稼ぎ労働者として流出する現象が見られる。元来、南部のカカオ耕作地域と北部サバンナ地帯との間には、植生や民族の相違に加えて宗教的な相違(キリスト教とイスラム教)もあり、歴史的な背景に起因する経済格差が見られる。
 北部から南部への労働者の流出は、北部農村での労働力不足をもたらし、その結果、生産が減退し貧困を悪化させ、更には、首都アクラを中心に人口の都市集中化をもたらし、都市部の貧困問題を拡大するという悪循環を引き起こしていることから、地方と都市の均整のとれた開発による地域格差の是正が今後の課題となっている。

<2> 開発上の課題

(1)ガーナの開発計画

(イ)概要

 ガーナ政府は、95年1月に長期経済・開発計画である「ヴィジョン2020」を発表した。本計画は、2020年を目途に中所得国入りの実現を大目標として掲げ、「人間中心の開発計画」をテーマに、人間開発、経済成長、農村開発、都市開発及び開発のための環境整備の5分野に重点をおいている。
 計画では、国民所得の成長率を少なくとも年率8%までに引き上げること、経済成長と同時に国民の健康・福祉の増進をはかること、開発の成果を公平に配分すること、絶対的貧困を撲滅し、年率の人口増加率を現在の3%以上から2%に引き下げること等、長期経済社会開発上の具体的目標が定められている。
 また、「ヴィジョン2020」を踏まえた形で、96年から2000年までを対象とした第一次中期経済社会開発計画が発表された(その後開始年次がずれて97年となった)。同計画では、1人当たりGDPを500ドルへ引き上げること、年率平均8%のGDP成長、現在の人口増加率3%を2.75%に引き下げること等を目標として掲げている。
 我が国をはじめ他の援助国は、「ヴィジョン2020」が、ガーナ政府の強い主体性(オーナーシップ)のもとで策定されたこと、また、ガーナ政府がその目標実現に向けて各分野毎に開発戦略を作成し実施に努めていることを高く評価している。

(ロ)DAC新開発戦略*2の目標との関連

 「DAC新開発戦略」に掲げられている諸目標との関連では、上述の第一次中期経済社会開発計画において、「貧困層の社会経済サービスへのアクセスの改善」、「乳幼児・妊産婦死亡率の改善」、「初等及び中等教育システムの強化・改善」などが掲げられており、方向性を同じくした内容となっている。

(2)開発上の主要課題

(イ)農村地域を中心とする深刻な貧困

 83年以降比較的良好な経済成長を達成したにもかかわらず、依然として農村を中心に貧困が深刻である。
 貧困削減を図るには、特に貧困層の大多数が生活する農村部の開発が重要となる。具体的には、貧困層の所得向上の原動力となる農業生産性の向上をはかり、基礎教育や保健医療などの基礎的社会サービス部門の拡充を図っていく必要がある。

 (A)低い農業生産性
 農林水産業は、GNPの41%、全就労人口の60%、輸出額の50%を占めるガーナの基幹産業である。主要な農産物はカカオ豆であり、全輸出収入の3割を占めるが、政府は、パイナップル等の輸出拡大に努めるなど、農業産品の多様化をめざしている。又、国内消費用農産物として、キャッサバ、ヤムイモ、トウモロコシ等があげられる。
 農業の発展は経済成長の基盤としてだけではなく、貧困層の大半を占める農民層の生活レベルの向上という観点からも特に重要である。しかしながら、小規模農業(農地2ヘクタール以下)がガーナの農業の主体であり、天水に依存した伝統的な耕作法が中心であることから、近年の天候不順、土地劣化等により、生産性は低迷しており、生産性の向上が課題である。
 (B)不十分な基礎教育
 基礎教育の普及の遅れが顕著である。ガーナの教育分野の大きな問題点は、低い初等教育就学率、高い中途退学率、学校施設の不備、教材不足、教員不足及びその質の問題等である。この結果、国民の識字率(60%)、基礎学力水準は低く、特に地方部において状況は深刻である。又、初等教育就学率等に見られるように、基礎教育における男女間格差の是正も課題である*3
 (C)不十分な保険・医療サービス
 ガーナにおいては他のアフリカ諸国同様に医療施設は絶対的に不足しており、特に農村部では近代的な医療に接する機会を持ち得ない人が圧倒的に多い。
 ガーナの高い人口増加率(3.1%)は、貧困層の増大、教育、医療サービスの低下、食糧不足、失業問題を悪化させ、経済成長の効果を減殺する要因となっている。また、平均余命は80年の53歳から97年には60歳に、5歳未満の乳幼児死亡率は80年の1000人当たり157人から97年には102人に、それぞれ改善傾向が見られるが、依然として劣悪な水準にある。
 さらに、近年、HIV/AIDS問題がサブ・サハラ・アフリカ全体で深刻な問題となっているが、ガーナにおいても、約129.5万人(全人口の約7%)がHIV/AIDSに感染(96年)しており、勤労者層の人的資源喪失等経済・社会開発にも深刻な悪影響を及ぼすに至っており、緊急に取り組むべき課題となっている。
 (D)安全な水へのアクセスの不足
 ガーナにおいては、安全な飲料水を入手できる比率が65%(都市部88%、農村部52%)(95年)と依然として低く、特に農村部においては、不衛生な水の摂取や水浴びを原因として、下痢症、寄生虫(ギニア・ウォーム*4等)等の感染症による被害も見られる。不衛生な水の摂取による感染症の問題は乳幼児の死亡率を上昇させる要因となっている他、遠距離の水汲みは女性や子供にとって過酷な労働負担となっている。

(ロ)持続可能な経済成長の必要性

 経済成長は人間の福祉向上の手段として必要であり、貧困を緩和し、「人間中心」で持続可能な社会開発を実現するためには、上述の様な貧困緩和の実現に配慮しつつ、持続的経済成長を確保していくことが必要である*5

 (A)安定化が望まれるマクロ経済
 サブ・サハラ・アフリカ諸国の中では、構造調整改革*6の成功例と評価される一方、多額の援助・一次産品輸出に依存する脆弱かつ不安定な経済体質・構造に変化はなく、マクロ経済の課題(財政赤字、経常収支赤字、インフレ(15.7%、98年)等)への対処を迫られており、構造調整改革の継続によるマクロ経済の更なる安定化努力が必要である。
 (B)未熟な国内産業
 構造調整改革を通じて、貿易為替政策の自由化、公企業改革、民営化の面で進展がみられるものの、持続的経済成長を遂げるための核となる国内産業は伸び悩んでいる。持続的成長の制約要因となっている対外債務を短期的に返済可能としていく有力な産業は国内に十分存在しない。直接生産部門は生産性が低く、また、産業はカカオや金等の特定の一次産品輸出に依存しており、生産及び輸出の構造の多様化が必要である。
 今後、援助依存の体質から脱却し、経済の自立化を達成するためには、国内産業の育成、生産構造の多様化及び高付加価値化を促進していく必要がある。
 (C)拡充が必要な経済インフラ
 ガーナ政府は、自立的経済発展を支える基礎的経済インフラの整備が不可欠であるとの認識から、特に国の経済が大きく依存する農業・鉱業等の一次産業を支える道路を中心とした運輸セクターを、最重要投資分野として位置付けている。また、地域格差の是正という観点からも、道路を中心とした交通利便性の向上を重視している。
 (a)運輸
 運輸形態のうち道路輸送は、ガーナにおける最も重要な輸送形態であるが、道路の未整備、維持管理の不備、過積載等による劣化が各地でみられる。こうした道路及び道路維持管理体制の未整備が輸送時間・コストの増大を招き、ひいては農産物の損失を産み出す原因となっている等、経済発展の阻害要因となっている。
 また、道路輸送に加え他国と連結させる港湾が、施設の老朽化、処理能力不足等の状況から、ガーナの輸出入の伸びに対応しきれておらず、港湾の整備も今後の重要な課題である。
 (b)その他
 ガーナは、エネルギー供給の約70%を薪炭に依存しており、電力の割合は約10%を占めるに過ぎない。電力供給については、そのほとんどを水力発電に依存しているが、乾期を中心に、深刻な電力不足が発生しており、経済発展に伴う電力需要に対応できない状況にある。また、地方の電化率は依然として低い。さらに、通信の整備も課題の一つである。
 (D)持続的な経済成長を支える人的資源の不足
 産業を担う人材が不足していることが、自立的経済発展の阻害要因となっている。今後、産業育成、インフラ整備等の経済開発を担う人材の育成が不可欠であり、基礎教育の普及とともに職業技術訓練分野の開発需要も高い。

(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取り組み

 83年に始まった世界銀行・IMF主導による構造調整の開始にあわせ、各国からガーナへの援助が本格的に開始された。以降、ガーナの民主化進展及び構造調整改革への継続的な取り組みを評価して、先進国は、ガーナに対し周辺諸国と比して多額の援助を実施している。
 97年の国別援助実績は、日本、米国、ドイツ、デンマーク、英国の順となっており、日本が全体の約3分の1を占めている。国際機関による援助については、世銀が全体の3分の2を占めており、EU、アフリカ開発銀行も主要援助機関となっている。
 また、各種国際NGO及び現地NGOが農村開発、基礎医療、飲料水供給、教育、人権擁護等多岐に亘る分野で活躍している。現地NGOの中には、我が国の青年海外協力隊、草の根無償資金協力等と連携しつつ活動しているものもある。
 現在、ガーナでは、保健、教育、道路及び農業の4分野におけるセクター・プログラムが策定・実施へ向けて進展しており*6、世界銀行が中心となって調整が進められている。これに関連して、分野別あるいは開発政策全体にかかわる政府・ドナー会合が頻繁に行われている。

<3> 我が国の対ガーナ援助政策

(1)対ガーナ援助の意義

 我が国は、以下のとおり、ガーナが、西アフリカ地域における中心的国家であり、アフリカ諸国がかかえる2つの大きな課題である民主化、経済構造改革の双方において着実な進展を続けており、開発のために積極的な自主努力を行っていること、さらに、同国の国連平和維持活動(PKO)に対する貢献及び地域の平和・安定のために果たしてきた役割を高く評価し、ガーナに対し、今後も引き続き支援を行っていくことが、伝統的な友好関係を強化し、アフリカ開発への我が国の協力効果を高め、我が国の国際貢献に通じるものであることから、我が国はガーナを対アフリカ援助の重要な拠点として、同地域における最重点国の1つとして援助を実施していく。

(イ)我が国との二国間関係において、ガーナ独立以前の1927年野口英世博士が黄熱病の研究のために滞在して以来の長い歴史をもち、近年は、ローリングス大統領が頻繁に来日する等、良好な二国間関係を維持しており、さらに、同国は我が国の外交政策に対してもこれまで非常に協力的な姿勢を堅持していること

(ロ)経済社会開発のため主体性を発揮し、具体的な開発目標を掲げて努力していること、その開発政策がDAC新開発戦略の方向性とも合致していることに鑑み、「第2回アフリカ開発会議」(TICAD II)*7にて採択された「東京行動宣言」においても強調されている、アフリカの自助努力支援をより具体化していくとの観点から、ガーナは西アフリカ地域全体における我が国援助のモデル及び開発支援の拠点となりうること

(ハ)西アフリカ地域の中心的国家であり、アフリカ統一機構(OAU)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)等の地域機関の場でも指導的な役割を果たしており、アフリカ諸国の間で政治的に大きな影響力を有していること

(ニ)リベリアの和平達成、シエラレオーネ紛争解決において重要な役割を果たす等、地域の平和と安定のために活躍している他、国連平和維持活動(PKO)への積極的貢献により(PKOの派遣兵員数は世界第3位(98年))国際的な地位の向上に努め、国際的発言力を高めようと努力していること

(ホ)政治的に、公正かつ透明性のある大統領選挙・国民議会選挙を実施し、民主化プロセスを着実に進展させており、地域における中立的で安定した政治勢力であり、上述の歴史的に友好的な二国間関係に鑑みても、我が国がアフリカ外交を展開していく上での良きパートナーとみなされること

(ヘ)1人あたりGNPが390ドル(97年)と低く、国民の半数以上が極貧層に属すると推定され、平均余命、乳幼児死亡率等の指標に見られるように、依然として膨大な援助需要が存在しており、人道的観点からも引き続き援助を行っていくことが適当であること

(ト)83年以来、構造調整政策を実施し、経済改革に積極的に取り組んでおり、サブ・サハラ・アフリカの開発の牽引力となりうる国である。しかし、構造調整はじめ貧困削減、産業育成等は今後も課題であり、継続的に支援を必要としていること

(2)ODA大綱原則*8との関係

 93年の民政移管以降、順調かつ確実な民主化プロセスを進展させている。また、ローリングス大統領は、国家元首就任以来一貫して腐敗・汚職の追放に努力してきている等、ODA大綱原則との関連で特に問題はない。

(3)我が国援助の目指すべき方向

(イ)我が国のこれまでの援助

 我が国が、ガーナに対する経済協力を開始した73年以降、98年度までの援助累計実績は、有償資金協力が1、191.00億円でアフリカ域内第2位、無償資金協力は533.88億円で域内第5位、技術協力は209.34億円で域内第4位、となっており積極的に協力を行ってきた。ガーナはサブ・サハラ・アフリカでは我が国の最大の援助対象国となっているほか、ガーナにとっても88年以来我が国は最大の援助国である。
 有償資金協力については運輸・通信分野等経済インフラ整備や構造調整関連分野について協力し、無償資金協力については、食糧援助、食糧増産援助をはじめ、水産、保健・医療、水供給、基礎インフラ整備等の分野を中心に協力を行っているほか、草の根無償資金協力も積極的に行っている。技術協力については、保健・医療、運輸、交通、通信、農業等の分野で援助を実施してきている。

(ロ)今後5年間の援助の方向性

 我が国の政府開発援助に関する中期政策*9に述べられている「人間中心の開発」支援、すなわち、経済成長に加えて、従来以上に貧困対策や社会開発側面を重視し、バランスよく経済社会開発の支援を進めていくことが重要であるとの認識から、上述のガーナの開発の状況及びその課題を踏まえ、(a)農業開発、(b)基礎的生活基盤の改善(基礎教育の拡充、保健・医療体制の拡充、安全な水の供給拡大)、(c)経済構造改革、(D)産業育成、(E)経済インフラの整備を我が国援助の重点分野としていく。特に、貧困削減がガーナにおける最大の課題であることを踏まえ、貧困層に直接裨益する基礎的生活基盤の改善に関する援助を優先的に実施していく。なお、ガーナは重債務貧困国であることから、同国の債務負担能力を勘案しつつ、無償資金協力、技術協力に重点を置いた支援を検討していく。また、ガーナ政府が自助努力による債務返済への意思を国際的に明確に表明していることから、有償資金協力についてはガーナの経済・債務状況などを十分に見極めながら、無償資金協力・技術協力との連携を考慮しつつ検討していく。

(4)重点分野・課題別援助方針

(イ)農業開発

 ガーナ政府は、食糧作物の生産性向上、非伝統農産物の生産拡大等により、農業分野での年4.1%の成長率達成を目標としている。この目標達成のためには、農家経営、農業技術の改善、農民の組織化等が不可欠である。
 我が国は、ガーナ政府による農業生産性向上の努力を支援することとし、農業生産のほとんどを占める小農の生産性向上のため、小規模灌漑技術の移転及び施設の修繕・拡充への支援を検討していく。また、地域格差の是正を図るという観点から、地方の農産物を都市へ流通させることにより、地方農民の収入増加を可能とするため、ポスト・ハーヴェスト(貯蔵、流通、加工)部門の強化・充実を支援することとし、その一環として、地方の農業道路、小規模橋梁の整備への支援を検討していく。

(ロ)基礎的生活分野

 (A)基礎教育
 「ヴィジョン2020」では、2000年までの中期目標として、初等・中等教育システムの強化、2020年までの長期目標として基礎教育の完全達成をそれぞれ掲げている。ガーナ政府は、教育の量と質の向上のため、就学率向上、カリキュラムの充実、教員の質の向上に努めてきている。
 現在ガーナでは、基礎教育分野においてセクター・プログラムが実施されており、我が国としては、他のドナーと協調を図りつつ、教育施設建設や機材の充実等に対する協力に加え、カリキュラムの充実、教員養成等の技術協力の実施を検討していく。また、その実施にあたっては、NGOや青年海外協力隊との連携も深めていく。
 さらに、教育分野に於ける男女間格差を改善するため、ガーナ政府は、女子就学率を97年の33%から2001年には45%へ向上させることを目標としているが、我が国としては、当該分野への技術協力を実施する際には、男女格差是正(ジェンダー)に配慮した支援を行う。
 (B)保健・医療
 我が国は、これまで、ポリオ根絶のためのワクチン供与*10、母子保健医療サービス向上計画等、保健医療分野において多岐にわたる協力を実施してきた。その中でも、ガーナ大学野口記念医学研究所に対する施設整備、感染症対策等の技術協力は、我が国の国際医療協力の代表例の一つともなっている。
 今後とも同研究所を活用して、HIV/AIDS等の感染症対策、98年のバーミンガム・サミットで提唱された国際寄生虫対策*11のための協力の実施を検討していくとともに、感染症や寄生虫対策については、地域レベルでの取り組みが効果的であるとの観点から、同研究所を拠点として、ガーナ国内にとどまらず、アフリカ地域全体の中心的な医療機関として発展させるため、地域の人材育成を念頭に置いた協力の実施をも検討していく。
 また、我が国は、ガーナを「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ」(GII)*12の重点国の一つと位置づけており、前述の野口記念医学研究所でのエイズ対策の支援を進めてきたが、さらに、ガーナ政府の人口問題対策を支援するため、開発福祉支援事業*13等により家族計画に関わる教育・啓蒙活動支援の実施を検討していく。
 さらに、乳幼児死亡率と妊産婦死亡率を低下させるために、引き続き予防接種の実施を支援していくとともに、医療従事者の再訓練、貧困層に対する啓蒙活動、農村部における保健所等のインフラ整備等の支援を検討していく。
 (C)安全な水の供給
 我が国は、これまで、地方において安全な水を入手できるよう、ガーナ各地において、井戸掘削による簡易給水施設の整備を支援してきており、貧困層が直接利益を受ける援助として、大きな効果を発揮している*14
 今後も給水分野での支援を継続し、さらには、衛生面での教育・啓蒙活動、給水施設の運営・維持管理体制の確立にかかる支援を検討していく。地方給水の分野では、2004年までに1万6000本の深井戸の建設を行う等のガーナ政府の戦略的投資計画実施への支援を環境への十分な配慮を行いつつ検討していく。

(ハ)経済構造改革

 ガーナがマクロ経済の安定化を促進し、持続的な成長を確保していくためには、経済構造改革の推進が不可欠であるが、これに伴う財政負担を軽減するためにも、経済が自立的発展軌道に乗るまでは、引き続き国際社会による協力が必要である。
 これまで我が国は、構造調整支援の一環として、有償資金協力による世界銀行との協調融資支援、及び、ノン・プロジェクト無償資金協力を実施してきている*15。経済構造改革は世銀・IMFが積極的に支援してきており、我が国は貧困削減支援の一環として、世銀・IMFとの連携・協調を視野に入れつつ、マクロ経済バランスの安定化のための支援を検討していく。

(ニ)産業育成

 国内産業の活性化は持続的な経済成長に不可欠であり、我が国もガーナに対し、産業振興に資する環境づくりや支援を検討していく。特に、貧困削減と国民福祉効果が高い中小企業の育成に焦点をあてた支援を検討していくとともに、生産構造の多様化、加工度向上による高付加価値化、投資環境の整備等に対する支援の実施を検討していく。
 また、我が国は教育分野での開発調査や専門家、青年海外協力隊による技術移転等を通じて、産業育成に不可欠な人材養成基盤の拡充への支援を検討していく。

(ホ)経済インフラ整備

 (A)運輸
 我が国は、これまで有償資金協力により、アクラ、タコラディ、クマシを結ぶ幹線道路である「ゴールデン・トライアングル」と、これに繋がってガーナを南北に貫く主要幹線道路の修復・改修事業を実施してきており、協力対象道路は、全国の舗装幹線道路の約9%(693キロメートル)に及んでいる。
 今後も、ガーナの経済・債務状況を十分に見極めつつ、劣化した幹線道路の修繕及び地方の農民が直接裨益する農道等の支線道路及び橋梁の整備支援の可能性を検討していく。また、ガーナ自身の道路維持管理能力の向上のために、実施機関のキャパシティ(実施能力)強化、人材の育成等のための支援を検討していく。
 また、地方と都市、内陸と港湾のアクセスを確保すると同時に、効率の良い物流システムの整備も課題であることから、港湾等の修復・拡張等、他の運輸部門についても支援の対象としていく。
 (B)その他
 ガーナ政府は、新規に450MWの火力発電施設を建設するとともに、2020年までに全国を電化する計画である。また、地方においては小規模の太陽光発電の整備をめざしている。我が国は、発電施設の改修・新設及び地方電化の促進についての協力の可能性を検討する。さらに、通信分野においては、都市部・地方部における通信網整備・リハビリ等に協力する可能性を検討していく。

(5)援助実施上の留意点

(イ)援助受け入れ体制・能力の強化

 援助プロジェクトの実施機関等において、我が国の援助スキームへの理解をより一層促進していくことが重要である。さらに、DAC新開発戦略に適応した案件の発掘と実施の観点から鑑みれば、政策立案・援助調整・モニタリングといった分野での能力向上も今後の課題となる。予算運営改善計画や行政システムの改善プログラムといった制度改革のための体制整備も緊急の課題である。

(ロ)債務問題への対応

 ガーナは、GNPの88.6%の対外債務を抱えており(97年)、HIPC(重債務貧困国)と認定されている。しかしながら、ガーナは債務管理システムの向上や、抑制的な借り入れなどの努力を通じて、債務削減措置の適用を求めずに、新規資金により経済社会開発を進めるとの姿勢を明らかにしており、我が国としても、こうしたガーナの自助努力を高く評価している。今後ともガーナの債務負担能力を勘案しつつガーナへの支援を検討していく。

(ハ)セクター・プログラム(SP)・アプローチ

 現在、ガーナでは、政府との個別分野毎の専門的な協議のほか、ドナー協調に際しても分野別の協議が行われ、個別分野ごとのアプローチが求められている。 上述のとおり、ガーナにおいては、保健、教育、道路、農業の4分野においてSPについての議論が相当程度進められており、特に、保健、教育の分野については進展が見られる。また、道路分野の開発についてもこれまで多くのドナーが関わってきている。
 我が国は、ガーナが、世銀の包括的開発アプローチであるCDF・アプローチ*16のパイロット国であることを踏まえ、ガーナをサブ・サハラ・アフリカにおけるSP実施の重点国、又、保健、教育分野を重点セクターとして、他の援助実施国・機関との有機的な連携を強化しつつ、その中で主導的な役割を果たしていく。我が国は、ガーナを開発パートナーシップ推進していくにあたってのモデル的な拠点としていくことを考えており、セクター・プログラムの推進を重点的に支援していく。SPへの具体的対応としては、JICA企画調整員の拡充・柔軟な活用、政策アドヴァイザー型専門家の派遣を通じて、セクタープログラムの計画策定・実施において貢献していくとともに、セクタープログラムを踏まえた案件形成や、開発調査によるセクター調査、プロジェクト方式技術協力の成果のプログラムへの反映等、具体的対応を検討していく。

(ニ)南南協力推進

 これまでの我が国の協力実績を踏まえ、ガーナに対しては、技術移転や人的交流の促進を通じ、西アフリカ地域の発展と安定に資するよう南南協力を推進していくことが必要である。
 TICAD IIにおいても域内協力の重要性が取り上げられているが、我が国は、ガーナ大学野口記念医学研究所をアフリカにおける保健・医療分野の人造りの拠点として*17、また、HIV/AIDS等の感染症、国際寄生虫対策の地域の拠点の1つとして発展させるべく引き続き支援していくことを検討することとし、南南協力・域内協力を着実にフォローアップしていく。

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