平成13年10月
<1>政治・経済・社会情勢
78年に始まった改革・開放政策は、92年のトウ小平による「南巡講話」以降加速され、中国経済の「市場経済化路線」が定着した。その結果、経済成長の加速や貿易・対中投資の大幅な伸びがもたらされ、国民の生活水準の向上、対外経済関係の拡大が進みつつある。一方、中国の海洋調査活動等に対して国内に厳しい雰囲気が生じ、かかる事態に対応すべく、相互事前通報の枠組みが成立し、中国の海洋調査活動が適切に行われるよう努めている。また、市場経済化の進展に伴う課題への対応も急務となっており、中国政府によって、三大改革(国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革)を始めとする取組みが積極的に進められている。さらに、長期的に社会的な不安定要因となり得る問題(例:地域間格差、雇用問題、人口増加)も顕在化しつつある。
<2>開発上の課題
(1)中国の開発計画(第10次五ヵ年計画)
2001年3月、2005年までを対象期間とした「国民経済と社会発展の第10次五ヵ年計画綱要」が報告・採択された。
同計画は、今後5年間の中国の国民経済と社会発展のあり方について、成長、構造調整、改革・開放、科学技術の発展、国民の生活水準の向上、経済と社会の協調的発展などを主題に課題を述べ、それぞれについて達成目標(例:経済成長率年平均7%など)を掲げている。
(2)開発上の主要課題
第10次五ヵ年計画などを踏まえた中国における社会・経済分野における開発上の主要課題は以下のとおり。
(イ)市場経済システムの形成と成長の持続
(ロ)持続可能な発展の実現
(ハ)地域間経済格差の是正
(ニ)教育振興と人材育成
(ホ)雇用・社会保障制度の拡充
<3>我が国の対中国経済協力政策
我が国の中国に対するODAは、この20年余における中国の改革・開放政策の推進を支援し、目覚ましい経済発展の実現に貢献してきた。
しかしながら、近年、中国では、経済発展に伴って援助需要や援助に対する期待の変化に加え、環境・感染症等我が国に直接影響が及び得る問題が増大している。また、我が国では、厳しい経済・財政事情などを背景として、援助の効果・効率性の向上に対する要請や、対中援助に対する厳しい見方が存在するなど対中ODAを取り巻く状況は大きく変化している。
こうした変化を踏まえ、新たな対中ODAのあり方を指向していく。具体的には、
(イ)中国の経済発展を踏まえ、中国が自ら実施できることは自ら実施する。貧困や格差の問題についても、我が国は中国の自助努力を促し、足らざる部分を側面から支援していく。
(ロ)「ODA大綱」の「原則」の考え方について、様々な機会を活用して中国側に引き続き提起し、中国側の認識と理解を深めていく、
(ハ)特定地域、特定課題に援助資源を投入するモデル・アプローチを推進するなど、限られた援助資源の効果的・効率的活用を図る、
(ニ)中国側の広報努力を一層促すとともに広報活動の強化、人と人との交流や我が国が有するノウハウ・技術の活用を図り、我が国の「顔」が見える援助を実施する、
(ホ)本計画に基づき、評価を適時適切に実施し、評価結果を迅速にその後の援助実施に反映するとともに、国民に対し広く情報を開示し、その理解と支持を得るよう努める。
(1)対中国経済協力の意義
我が国の安全と繁栄を維持・強化するためには、平和な国際環境の保持が必要であり、特に我が国が位置する東アジア地域の平和と発展が不可欠である。そのためには、中国がより開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくようになることが望ましい。
我が国は、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく必要がある。このような観点から、我が国としても、中国との間で幅広い重層的な関係を構築していくとともに、両国間の相互理解及び相互信頼の増進を図ることが極めて重要である。ODAを通じて中国の改革・開放政策を支援していくことも引き続き大きな意義を有している。
(2)我が国経済協力の目指すべき方向
対中ODAを取り巻く状況の変化を踏まえ、今後の対中ODAを取り進めるに当たって、基本とすべき考え方は以下のとおり。
(イ)中国の新たな開発需要を踏まえつつ、国益を踏まえ、個々の案件を精査し、重点分野・課題に沿って効率的に援助を実施する。
(ロ)中国の発展に伴い、中長期的には中国自らの国内資金や海外からの民間資金調達がより大きな役割を担っていくようにする。
(ハ)ODAのみならず、その他の公的資金、さらには民間資金とも連携を図ることにより、目標の効率的かつ効果的な実現に努める。
(ニ)中国が国際経済社会の中に一体化され、政治的にも国際社会の責任ある一員となることが我が国にとっても望ましいとの認識を踏まえ、市場経済化などに向けた努力を促していくようなODAを実施する。
(ホ)我が国の対中ODAが軍事力強化に結びつくことなど、「ODA大綱」の「原則」にそぐわないことのないよう注意を払う。
なお、今後は円借款も含むODA全体について、従来の支援額を所与のものとすることなく、中国の我が国に対する新たな支援需要に適切に対応しつつ、以下の重点分野・課題を中心に、我が国の厳しい経済・財政事情をも勘案し、個別具体的に案件を審査の上、実施する「案件積み上げ方式」に基づいて供与する。
(3)重点分野・課題別経済協力方針
従来型の沿海部中心のインフラ整備から環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などを中心とする分野をより重視する。また、日中間の相互理解促進により資するよう一層の努力を払う。
(イ)環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
(例)環境保全(水資源管理、森林保全・造成、環境情報の作成、対応政策に関する調査研究)、新・再生可能エネルギーの導入及び省エネルギー促進、感染症対策(HIV/AIDS、結核)
(ロ)改革・開放支援
(例)世界経済との一体化支援(制度整備や人材育成支援を含む市場経済化促進、世界基準・ルール(WTO協定を含む)への理解促進)、ガヴァナンス強化支援(法の支配や行政における透明性・効率性向上、草の根レベルでの啓発・教育活動支援)
(ハ)相互理解の増進
(例)専門家派遣・研修員受入・留学生支援・青年交流・文化交流・学術交流・大学間交流などの強化(日本研究促進、日中共同研究を含む)、留学生受入の環境整備、観光促進のための政策提言・人造りなど
(ニ)貧困克服のための支援
(例)貧困対策に関する政策・制度面での整備・人造り、貧困層を対象とした草の根レベルの保健・教育分野の支援、貧困人口を多く抱える地域の民生向上に向けた協力で貧困層に裨益するもの(日本農業などへの影響の有無に留意)
(ホ)民間活動への支援
(例)中国側の投資受入のための基盤整備努力支援(知的所有権保護政策の強化など)、我が国の優れた設備、システム、技術などの活用を図ることができる案件の発掘努力
(ヘ)多国間協力の推進
(例)日中両国による第三国に対する支援、東アジアにおける環境分野などでの域内協力の推進
(4)援助実施上の留意点
(イ)ODA大綱に基づく働きかけの強化
(ロ)顔の見える経済協力の推進
(ハ)対中技術協力の一層の活用と柔軟な実施
(ニ)プロジェクトの共同形成
(ホ)その他(モデル・アプローチの推進、OOF及び民間資金との連携、国際機関など主要援助機関との連携強化、二国間及び域内協力を念頭に置いたIT協力の推進、評価体制の強化)