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ベトナムから舞い込んだ依頼

 冷戦後に始まった旧東側諸国の市場経済化。多くの国が試行錯誤ながらマクロ経済の改革を図っているところだが、その典型的な国の一つベトナムが、日本に最近新しいタイプの協力を求めてきた。法律の整備である。

ドイモイ政策にフィットした法律を

 ベトナムは、従来の法律が86年以来進めているドイモイ(刷新)政策にフィットしないという問題に直面している。国を統制するという意味での法は存在していたが、個人の権利・義務や、個人対個人の関係を規定する法律の整備が立ち遅れていた。
 例えば、所有権という概念がなかったし、詐欺、倒産、契約不履行に打つ手もなかった。とくに民法、商法が未整備なわけだ。
 元来ベトナム人は合理的な考え方の持ち主。それなら旧西側の国から法律を導入しようと考えた。
 かつての宗主国フランスやスウェーデンなどに手本を求めてみたが、社会的文化的習慣が違い過ぎてどうも馴染まないことがわかってきた。そこで、もっと他の国を見ることにした。すると、日本は明治維新以来諸外国の法律をうまくアレンジしているではないか。日本に聞いてみよう、ということになったわけである。

日本の経験の紹介、人材育成が柱

 法整備支援は日本の経験を紹介して助言とすること、人材を育成することが柱だ。まず、個別プログラムが行われた。93年に日本の法律学者、森島教授が外務省文化事業部事業(知的支援)としてベトナムに派遣されて民法の改編作業に助言、教授の協力が高く評価された。そして、この民法は95年秋に国会で採択された。
 また94、95年度には法律分野の研修を実施。若者から党の幹部まで、ベトナムの司法関係者すべてが対象だ。ベトナム側のニーズに合わせて裁判制度、家族・婚姻法、登記制度などの講義が進められたが、日本での短期研修では、裁判所を視察したり民間企業の法務部など現場担当者と率直な意見交換もあった。
 研修員たちは皆、学習意欲が高い。「日本が明治維新後、約100年かけてヨーロッパの法体系をアレンジして独自の法律を作ったそのプロセスを参考にしたい」と、期待を寄せている。また、国会の役割に関連して、「党の政策と議員個人の意見が合わないときには、議会に個別の提言をしてもいいと思うか」と日本の議会関係者に率直に質問をする場面も。
 日本に多大な期待を寄せるベトナム政府と日本政府は、個別プログラムではなく、95年度から「重要政策中枢支援協力事業」に発展させた。これまでの協力が一つの事業として一本化、予算化されて、3年計画で長期・短期の法律分野の専門家の派遣と研修員の受け入れを行うのである。

日本は「法意識調査」を進言

 それにしても、まだ共産党一党支配を続けている中、旧西側にどしどし助言を求めるとは、画期的だ。それというのも、植民地時代はフランスの法律を、ドイモイ政策前は旧ソ連の法制度をそのまま取り入れたものの、現地の慣習に合わなかった事情があるからだ。ゆえに、ベトナムらしいものを造り上げて、国民の意識を変えたいという意思がある。
 日本も熱心にこれに応えている。現在日本は「法意識調査」を持ち掛けている。まず法律ありきで国民をまとめるのではなく、まず自国民の考え方、慣習をしっかり把握し、それに馴染むように法律を導入した方がよい、という考えにより、法意識調査の必要性を提言している。日本以外にも数か国が法律支援を行っているが、こうした方策は日本ならではのこまやかさである。
 法整備支援は今後も続くだろう。「民法、商法が制定された後には訴訟法や司法習修制度、戸籍、不動産登録制度など、早急に整備しなくてはならない。助言と、人材育成に今後も協力してほしい」と、ベトナム政府は身を乗り出すように語っている。日本ならではの経験が生かされる、日本にとってもベトナムにとっても“いい話”である。

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