軍縮・不拡散

軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第4回外相会合
(概要と評価)

平成24年6月16日

  • (写真)軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第4回外相会合-1
  • (写真)軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第4回外相会合-2

1 全体概要

 6月16日,イスタンブールにおいて,軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第4回外相会合が開催された。NPDIは,2010年9月の国連総会の機会に日豪主導で立ち上げた,核軍縮・不拡散分野における地域横断的な有志国グループであり,本件外相会合は,昨年9月にニューヨークで行われた第3回会合に続く4回目の会合。
 会合は午後1時30からのワーキング・ランチに続きワーキング・セッションが行われ,その後5時30分より6時過ぎまで共同記者会見が行われた。出席者は以下のとおり。

我が国
玄葉外務大臣
トルコ
ダーヴトオール外相(議長)
豪州
カー外相
オランダ
ローゼンタール外相
アラブ首長国連邦
ガルガーシュ外務担当国務大臣
ドイツ
ピーパー国務大臣
カナダ
シンクレア駐リビア大使(前国際安全保障局長)
チリ
レイエス駐トルコ大使
メキシコ
アマラル駐トルコ大使
ポーランド
ウィルチェク駐トルコ大使

 今回の会合の評価は以下2.また,会議の概要は以下3.のとおり。

2 評価

  1. (1)第一に,2010年NPT運用検討会議の行動計画の履行促進を目的として設立されたNPDIは,今年5月のNPT運用検討会議第1回準備委員会への作業文書の提案により,グループとしての最初の具体的成果を国際社会に提示することに成功した。今後の課題は,設立当初の新鮮さが退潮する中で,引き続き軍縮・不拡散分野で具体的な意義のある成果を提示し続けることができるかどうかであり,その点がこのグループとして重要であることを,メンバー諸国の出席者が共通に感じ始めていることが看取された。
  2. (2)第二に,その観点から,玄葉大臣が(イ)核兵器国の民生用の原子力施設への保障措置の拡充を提案したこと,(ロ)IAEA追加議定書(AP)未締結諸国への締結促進を求め,NPDI外相が合同で書簡を発出することを提案したことは,今後の具体的成果に向けての積極的動きとして,参加諸国外相から歓迎された。同時に,他の参加諸国外相からも,(イ)核軍縮の進展の報告フォームについてのNPDI提案に対し核兵器国からは未だ返事がないが,その要請をNPDIとして共同で行うべきではないか,(ロ)AP未締結国への働きかけをNPDI諸国が地域で分担して働きかけてはどうか,(ハ)市民社会との対話を強化する方策を具体的に進めてはどうか,といった具体的提案がなされた。これらは今後の活動の成果に向けてのステップとなった。
  3. (3)第三に,2010年NPT運用検討会議の行動計画に含まれている中東非大量破壊兵器地帯設置のための国際会議の開催は,NPTの無期限延長とのパッケージとして1995年以来の懸案となっているところ,その実施の成否はNPT体制全体の今後に大きな意味を持つ。この点から,NPDIとして強い関心がある。今次外相会議において,その会議の推進役を委託されているフィンランド外務省次官補の代理の大使より,その準備状況,克服すべき課題,関係諸国の意向,全体的見通しなどを詳細かつ包括的に聴取し,意見交換できた意義は大きかった。
  4. (4)第四に,NPDIでは,個別の国の問題を指摘することには慎重な姿勢を維持してきたが,北朝鮮やイランのようにNPT体勢自体に対する挑戦となりつつある問題については,議論をする必要があるとの認識が確認された。こうした深刻な問題については,敢えて個別の国に関する問題であっても,踏み込んで議論する姿勢が見え始めてきたことは,今後のNPDIの取り組みに新たな扉を開くことになったと感じられた。

3 会合の概要

(1)ワーキング・ランチでのやり取り

 ワーキング・ランチでは,中東非大量破壊兵器地帯構想設置構想に関する国際会議をテーマに本年開催の可能性について議論が行われた。同国際会議のファシリテーター代理であるポルホ大使(フィンランド外務省)が出席し,同大使より会議開催に向けた米英露(NPT寄託国)及び中東諸国との調整状況につきブリーフが行われた。ポルホ大使は,本件国際会議開催にあたり,考慮すべき要件として,(1)本構想は,核兵器を含む,全ての大量破壊兵器を対象とするものであること,(2)本件国際会議のマンデートは国連及びNPT寄託国の米英露にあり,彼らと域内当事国の主体的取組が重要であること,(3)全ての関係国の安全保障上の懸念に応えるものでなくてはならないこと,(4)会議の成果として将来設立される地帯は,当事国の自発的な意思によるものであること,が述べられた。
 玄葉大臣からは,我が国として,域内の大量破壊兵器の脅威を除去すべくイスラエル及びイランに働きかけていること,イスラエル及びイランを含む全ての関係国の参加を得て会議が開催されることが重要であること,8月の軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム(於:長崎市)においても,本件構想を取り上げる予定である旨述べた。
 各国からは,関係国が,中東和平等のフォーラムのような対立的な姿勢ではなく,友好的・建設的な姿勢で臨むことが重要,化学兵器の問題を抱えるシリアを含め,中東情勢の変化が会議にも影響を及ぼすこと,といった発言があった。
 また玄葉大臣からは,NPDIとして本件国際会議の実現に向けてどのような貢献が可能と考えるかとの問題提起がなされ,ポルホ大使からは,このタイミングで会議を開催することの重要性について発信し,会議開催に向けた雰囲気を醸成することを期待する旨発言があった。

(2)ワーキング・セッションでのやりとり

(ア)玄葉大臣の発言

 玄葉大臣は,NPDIが発足以来,核軍縮措置の報告フォームをはじめとして着実に成果を挙げ,NPT運用検討会議第1回準備委員会ではグループとして一定の存在感を示したとして,これまでのグループの活動を振り返りつつ,グループの存在感を高めるためには,外相レベルで軍縮・不拡散に関する議論を活性化するなど,政治的なダイナミズムを強化していく必要がある旨述べた。軍縮・不拡散分野の課題として,(1)NPDIが提示した核軍縮の報告フォームについて,5核兵器国から前向きな反応を引き出すこと,(2)兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の一刻も早い交渉開始,包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進,(3)IAEA追加議定書(AP)の普遍化を主張し,(4)核兵器国の民生施設への保障措置拡大に関する作業文書を我が国として提案すると述べた。また,AP普遍化を促進するためのNPDIとしての取り組みとして,AP締結への働きかけが効果的な国を特定し,NPDIメンバー国外相の連名で書簡を発出することを提案した。また,2014年のNPDI外相会合を広島で開催する予定であること,各国外相に原爆ドームをはじめ,文明の記憶に残る核兵器の悲惨さを目に焼き付けて会合に臨んで欲しいと述べた。
 また,グローバルな文脈における軍縮・不拡散の問題として,北朝鮮及びイランの核問題がNPT体制への重大な挑戦であることを述べた。また,イラン核問題に関し,我が国がイラン及びイスラエルに対して問題の解決に向け働きかけを行っていることも紹介した。

(イ)各国参加者からの発言

 各国からは,(1)核軍縮の報告フォームについて核兵器国からの前向きな反応を得る必要がある,(2)国際的な不拡散体制を強化すべく,関連条約への加入促進に向けた作業計画を策定する用意がある,(3)核軍縮・不拡散の取組を進めていく上で,一般市民,議会,学術界を含む市民社会を巻き込むことが重要であり,2013年のNPDI外相会合や2014年の核セキュリティ・サミット等の機会に,市民社会との連携を強化していく考えであること,等について発言があった。また,唯一の戦争被爆国である我が国がNPDIのメンバーであることに大きな意義があること,また日豪がパイオニアとなってこのグループを立ち上げたことを評価するとの発言があった。
 APについて有望な未締結国に書簡を発出するとの我が国の提案に対しては,各国の賛成が得られた。また,北朝鮮の核問題については,各国から我が国の立場を支持する発言が相次いだ。イランの核問題については,EU3+3とイランとの会合について,今後の見通し等について発言があった。

(3)共同ステートメントの採択

 この後,(1)核兵器国に対し,核兵器廃絶に向けた一層の努力を求める,(2)FMCTについてCDが会期末までに作業計画に合意できない場合,選択肢を議論する用意がある,(3)CTBTの無条件かつ遅滞なく署名・批准することを求める,(4)核軍縮・不拡散の関連条約に最大限の加入を促進するための作業計画の策定,(5)国際的な不拡散レジームの不遵守の問題への深い懸念,(6)中東非大量破壊兵器地帯設置構想国際会議に関し,地域内の全ての国と国際社会による誠実かつ建設的な関与を求める,(7)軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラムを歓迎,(8)2013年及び2014年外相会合を,それぞれオランダ及び日本で開催する,ことを内容とする共同ステートメント「イスタンブール宣言」を全会一致で採択した。

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