平成23年5月10日
(英語版)
ゲアン大臣閣下,御出席の皆様,まず,不正薬物取引の撲滅に向けての議長国フランスのイニシアティブに対して,敬意と支持を表明いたします。関係国の閣僚が一堂に会して,この困難ではあるが極めて重要な問題を供給,需要両面から討議することは,誠に時宜を得たものと考えます。
世界的に見ても薬物問題は深刻な状況にあり,アフガニスタンの麻薬,高濃度大麻の世界的普及,アフリカを中継地とする不正取引の急増,合成薬物の製造・乱用の拡大等多くの課題が山積しています。不法薬物は社会的・経済的に脆弱な国・地域,人々に大きな打撃を与え続けており,国際社会として取り組むべき喫緊の課題であります。
議長,麻薬問題に対しては,各国が生産,中継,消費の区別なく,それぞれが抱える国内問題に応じて対策をとりながら,国際社会として包括的・調和的・協調的に行動する必要があります。生産国は,その背景となっている貧困等の経済的・社会的問題に焦点を当てつつ不正薬物の生産削減を目指す必要がありますし,消費国は社会的啓発等を含め需要削減対策の一層の強化に取り組むべきです。日本は,政治宣言案が掲げる「共有責任」の概念を強く支持します。
また,ますますグローバル化,活発化している犯罪組織・テロ組織との結びつきに対処することも欠かすことはできません。薬物犯罪から生じた不法収益の没収や資金洗浄における国際協力も重要な対策です。
さらに,薬物の撲滅は,地域や国家レベルで平和と安全に関わる問題であると同時に,社会レベルで個人の尊厳と人間の安全保障に関わる問題でもあります。薬物常習者の治療や社会復帰が不可欠であり,そうすることによって,個人を保護し,薬物に対抗する能力をつけることが可能となります。
以上の観点から,第52会期国連麻薬委員会で採択された政治宣言及び新行動実施計画に基づき,関連国際機関及び各国が世界的に薬物施策を進展させていることを,改めて評価したいと考えます。引き続き各国が一体となって努力を継続,強化することが重要であり,更には市民社会及び民間部門を含め全ての関係者の関与を得ることが不可欠です。
我が国では,国内外における違法薬物問題に対する各種の取組を,これまで指摘した諸原則にのっとって進めております。アフガニスタンでは,包括的な麻薬対策は安定と発展にとって鍵となる分野の一つであり,これまで我が国はUNODCの「麻薬対策・国境管理・刑事司法能力強化事業」に約800万米ドルを拠出してきています。さらにUNODCとロシアと共同で,アフガニスタン警察職員に対する麻薬取締訓練プログラムの実施を予定しています。
また西アフリカ地域では,西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が2008年に薬物乱用,不法薬物取引及び組織犯罪の防止に向けて作成した地域行動計画と政治宣言に沿った実施能力及び調整能力の強化のため,ECOWASに対する支援を行っています。
議長,日本国内では,主に海外から流入し国内で大量に消費されるアンフェタミン系興奮剤(ATS)が大きな問題となっています。我が国の関係機関は,国民に対する意識啓発から水際での摘発に至るまで,それぞれの所掌分野で必要かつ可能な対策をとるとともに,情報交換と政策調整のための協議を定期的に行いつつ,効果的・効率的な対策に積極的に取り組んでいます。
同時に,特にこれまで日本に密輸される麻薬のかなりの部分を産出してきた東南アジアにおいて,薬物分析,取締りをリードする人材の育成支援や機材供与,濫用防止のための啓発活動を実施し,また,国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)において,刑事司法実務者を対象とする様々な研修・セミナーを実施してきています。更に,この地域で実施されるUNODCのSMARTプログラムにも協力しています。
これらの協力は十分な成果をあげてきていますが,一方で,最近では,局地的な取組が完全でないことも明らかになってきています。ATSは小規模な製造所でも密造可能ですが,近年密造場所の多様化,密造工程の分業化が進んで,取締りが難しいこのような「キッチン・ラボラトリー」が世界的に拡散しています。我が国でも,実際に,西アフリカで製造された覚醒剤の流入量が昨年急増し,アジア諸国からの減少分を埋め合わせている傾向が看取されています。この事実は,全世界的な取組がより必要になってきていることを示唆していると言えます。
議長,各国代表の皆様,今回,大西洋を越えるコカイン取引という具体的な問題を協議して,行動計画を得られたのは大きな成果と考えます。行動計画に掲げられている一連の具体的な対策は,あらゆる地域やあらゆる種類の薬物に適用可能かつ有用なものとなっており,世界各国がこの機会にこの問題への関与を再確認し,国際協力が進展することを強く希望いたします。
御清聴ありがとうございました。