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北海道苫小牧市とニュージーランド・ネイピア市の交流 時代の変化にあった姉妹都市関係を考える
在ニュージーランド日本国大使館 広報文化センター長 田口貴子
ニュージーランドと日本の緊密な関係は、単なる外交や貿易を超えて、市民レベルで非常に濃密な交流によって支えられています。ニュージーランド国民の約80%が日本を友人と考え、学校や地域での人的交流も盛んです。JETプログラムの参加者は国民1,500人に1人と多く、日本語は当地の教育機関では重要な外国語5言語の一つに指定されています。そして両国を結ぶ姉妹都市関係は、実に44件も存在します。
日本の地方自治体との姉妹都市件数は、米国(471件)、中国(383件)、韓国(171件)、及びオーストラリア(107件)の4か国がそれぞれ100件を上回っている中、ニュージーランドの44件は全体の11番目に過ぎません。しかし、533万人というニュージーランドの人口規模を考えると、人口100万人当たりの姉妹都市件数は約8.3件で、人口比では上記4か国よりも遙かに多く、次点のオーストラリア(人口100万人当たり約3.9件)の倍以上です。人口規模を考慮すると、ニュージーランドは日本との姉妹都市関係において、特別に深い結びつきを持つ国の一つだと言えるのではないでしょうか。
ニュージーランドと日本の姉妹都市交流の形は多様です。学校間交流、文化イベント、スポーツ大会、行政間の連携、さらには共通の課題に取り組むプロジェクトなど、都市ごとに独自の活動が展開されています。その中でも、苫小牧市とネイピア市の姉妹都市関係は、1973年に苫小牧・ネイピア両港間に定期航路が開設され、パルプを輸送する経済的結びつきが生まれたことをきっかけに、1980年に正式な姉妹都市関係が結ばれました。そこから学校間交流やスポーツ交流など、民間主導の多彩な活動へと発展していきました。
ネイピア市はニュージーランド北島北東部にある港湾都市で、温暖な気候をいかしたワイン用ブドウ生産やパルプ生産が盛んで、ネイピアの港から輸出しています。アールデコ調の町並みは有名で、毎年2月に行われるアールデコフェスティバルには多くの観光客が訪れます。また、ニュージーランドのマオリ族で最も大きな部族ナティ・カフヌヌ族が居住するエリアで、マオリ関連の施設が多い点も特徴の一つです。
2025年11月、このネイピア市で苫小牧市との姉妹都市45周年記念式典が盛大に行われ、苫小牧市からは訪問団の方が多くいらっしゃいました。関連行事には大澤誠駐ニュージーランド日本国大使も出席し、金澤俊苫小牧市長やリチャード・マグラス・ネイピア市長と意見交換をしました。45年を超える歴史を持つこの関係は、ニュージーランド国内でも三番目に長い姉妹都市交流であり、長年にわたり企業や自治体、市民の力で維持されてきました。
(45周年記念式典に集う姉妹都市関係者)
しかし、時代の変化とともに、苫小牧–ネイピアの姉妹都市交流も岐路に立っています。両市間の定期航路やパルプ輸送はすでに終了し、両市を結んでいた強固な経済関係の基盤は失われました。過去の関係を知る人々による交流維持には限界があります。「経済関係に変わる新たな『なにか』が必要だと考えています」との、金澤市長の言葉が示す通りです。また、自治体の財政状況や人的資源の制約、コロナ禍による交流の中断など、従来の形での交流を維持するのは容易ではありません。スマートフォンやSNSで海外情報が手軽に得られる現代において、姉妹都市関係を通じた国際交流の価値を理解してもらうことは以前より難しくなっています。
それでも、「人と人」との交流を基盤に、市民レベルで築かれた信頼関係や文化交流の価値は失われません。冒頭に述べた緊密な日ニュージーランドの関係は44の姉妹都市が長い時間をかけて築いてきた市民レベルの心の通った交流の成果であると言っても過言ではありません。姉妹都市関係は単なる情報収集の手段ではなく、異なる文化を持つ人々と心を通わせる場であり、住民が自らの街や文化を学ぶ貴重な機会です。
今回の苫小牧市訪問団には「苫小牧うぽぽ」というアイヌ団体の方々が参加し、記念式典でアイヌ文化を披露してくださいました。苫小牧うぽぽの佐々木義春代表は、アイヌ民族とマオリ民族に共通する自然との共生の思想を通じ、1998年から両民族間の文化交流推進に尽力してきました。アイヌの口琴楽器「ムックリ」の音色を聞きながら、歴史や文化の深みを生かした新しい姉妹都市交流の形のヒントがあるのかもしれないと思いました。
(記念式典でムックリを演奏する苫小牧うぽぽのメンバー)
(苫小牧市訪問団としてアイヌ文化を披露した苫小牧うぽぽの皆さんと佐々木代表)
これからの苫小牧–ネイピアの姉妹都市交流には、時代の変化にあった新しい触媒が求められます。アイヌ民族とマオリ民族との文化プログラムの企画、地域の特色を生かした教育プロジェクト、デジタル技術を活用した学校間のオンライン交流など、多様なアプローチによって時代の変化にあった関係構築を考えていく必要がありそうです。

