グローカル外交ネット

令和7年9月19日

和歌山県国際課 主任 坂本卓也

1 はじめに

「エルトゥールル号」が沈没した和歌山県串本町の沖合

 皆さんご存じのとおり、日本とトルコ共和国は大変良好な関係を築いています。この友好のきっかけとなった「エルトゥールル号海難事故」が発生したのが、和歌山県の串本町です。
 今から135年前の1890年9月16日、親善使節を乗せて来日していたオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」は、明治天皇への拝謁を終えて帰国の途中、台風による暴風雨に巻き込まれ、和歌山県串本町の沖合で岩礁に衝突し、流入した海水により機関部の爆発を引き起こし、沈没しました。この海難事故では、串本の住民による献身的な救護により69名が生還することが出来ました。残念ながら587名が死亡・行方不明になりましたが、串本の住民は、事故後2週間以上にわたって海の中まで捜索して、遺体や遺品を引き揚げ、丁重に弔いました。
 エルトゥールル号海難事故から95年後の1985年、イラン・イラク戦争の最中に、イラクのフセイン大統領(当時)が「イラン領空の全航空機を攻撃対象とする」と発表しました。この時、イランの首都テヘランにいた各国民が次々と自国に避難していく中、テヘランに日本人215人が取り残されてしまいました。日本からの救援機の派遣は航行の安全が確保できないとの理由から見送られ、空港にいた日本人が絶望におちいっていた時、立ち上がってくれたのはトルコ共和国でした。トルコ航空が航空機をテヘランに派遣し、自国民よりも日本人を優先して救出してくれました。
 このことは、現在の日本とトルコ共和国の友好の象徴として、今も広く語られています。

2 和歌山県知事と串本町長のトルコ共和国訪問

土日基金と青少年交流を目的とした覚書を締結

 2025年8月、宮﨑 泉 和歌山県知事は、「エルトゥールル号」の海難事故から135周年、イラン・イラク戦争時のトルコ航空機による邦人テヘラン脱出から40周年を迎えたことを受け、メルシン市との姉妹都市縁組から50周年を迎える串本町の田嶋 勝正 町長とともにトルコ共和国を訪問しました。
 首都アンカラでは、トルコ共和国における日本との本格的な二国間交流活動の拠点として、文化・経済等において交流を行い、両国の友好協力関係を一層発展させることを目的に活動を行っている「土日基金」との間で、防災・文化理解等に資する青少年交流を目的とした覚書を締結しました。
 覚書の締結式には、勝亦 孝彦 駐トルコ共和国日本国特命全権大使やコルクット・ギュンゲン トルコ外務省二国間関係局長(前駐日トルコ共和国特命全権大使)などが出席され、今後の和歌山県とトルコ共和国との友好発展に期待する旨のご挨拶をいただきました。あわせて、宮﨑知事は、会場に集まった現地の子どもたちやトルコ共和国外務省関係者、土日基金職員などに向けて、和歌山県の魅力や今後の青少年交流に関するプレゼンテーションを行いました。
 イスタンブールでは、ターキッシュ エアラインズを訪問し、同社のビラル・エクシCEOと、関西―イスタンブール直行便の再開によりますます活発化することが期待される人的交流などについて、意見交換を行いました。ちなみに、同社は上の1に記載した両国の友好を象徴する2つの出来事を描いたドキュメンタリー映像「串本-KUSHIMOTO-」を作成しておりYoutubeで視聴することが可能です。
 メルシンでは、串本町との姉妹都市縁組から50周年を迎えたことを記念し、メルシン県知事及びメルシン市長を表敬訪問し、今後の交流の深化と継続について意見を交わすとともに、慰霊碑への献花・追悼を行ってまいりました。

3 今後の青少年交流

和歌山県串本町に建つエルトゥールル号殉難将士慰霊碑

 今後、和歌山県は、土日基金と締結した覚書に基づき、地震国という共通点を持つ日本とトルコ共和国の次世代を担う青少年が命の大切さをあらためて考える機会となるよう、防災学習や文化理解の深化のための交流事業を行う予定です。和歌山県では、地震災害への備えや地震が起きた時の対策など、正しい防災知識が身につくよう、子どもの頃からの防災教育に力を注いでいます。これらを踏まえて、和歌山県におけるプログラムとしては、トルコ共和国の青少年による串本町のエルトゥールル号慰霊碑やトルコ記念館への訪問のほか、県内の地震津波の防災にかかる資料館「稲むらの火の館・津波教育防災センター」での防災学習、地震体験車による地震体験なども予定しております。
 交流を通じて、次世代を担う青少年には、お互いの国の文化を知ることに加えて、防災知識を共有することなどにより、困難にあった時こそ支え合い助け合う心を育んでもらいたいと考えています。青少年交流を通じて、和歌山県とトルコ共和国との関係がさらに深まり、友好が長く継続されていくよう取り組んでまいります。

グローカル外交ネットへ戻る