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佐久市とエストニア共和国サク市 深まる友好の絆
長野県佐久市移住交流推進課
長野県の東端、県歌「信濃の国」に歌われる県下四つの平の一つ、佐久平の中心に位置する佐久市。浅間山や八ヶ岳といった雄大な山並みに抱かれ、詩情豊かな千曲川が南北に流れる、緑と清流に恵まれた高原都市です。高燥で冷涼な気候に加え、高い晴天率を誇ることも特徴です。北陸新幹線で東京駅から約70分、高速道路では、練馬インターチェンジから約100分でアクセスでき、自然と都市機能が調和した利便性の高いまちです。
一方、バルト三国の一つ、エストニア共和国のサク市は、首都タリンの南20キロメートルに位置する、ハリュ地方にある市です。市内には、エストニアを代表するビールブランド、「SAKUビール」の醸造所があり、19世紀初頭から生産されています。この遠く離れた二つの都市が、いかにして深い友情を育んできたか、その歩みをご紹介します。
1 偶然の出会いが紡ぐ友好の歴史
佐久市とエストニア共和国サク市は、ある偶然の出来事から特別な絆を育んできました。その始まりは1998年9月、駐日エストニア共和国大使館の一等書記官が、上信越自動車道を走行中に「佐久インターチェンジ」の標識を目にしたことです。母国の「サク市」と同名であることに気づいたことが、両市の交流の第一歩となり、このユニークな偶然を契機として友好関係を深めてきました。
2 交流の深化と市民の力


2007年5月1日の友好都市協定締結を経て、2019年5月1日には姉妹都市協定へと発展しました。この間、交流は多岐にわたり、市民グループの訪問をきっかけに「日本・エストニア親善協会」が発足し、活発な市民交流が展開されています。特に、2016年から始まった未来を担う子どもたちの相互ホームステイは、互いの文化や風土への理解を深める貴重な機会となっています。
佐久市は、文化交流にも力を入れています。これまでも、エストニアのアーティストによる伝統楽器の音楽公演やエストニア製ピアノを活用したエストニアフェアなどを通じて、市民がエストニア文化に触れる機会を創出してきました。今年9月にはサク市を代表するトゥルヤック混声合唱団の音楽公演を開催します。
また、スポーツを通じた交流も活発です。2019年の世界柔道選手権東京大会では、エストニア柔道選手の事前合宿を受け入れ、市内の高校柔道部との合同練習や市民による応援ツアーを実施しました。さらに、2021年の東京オリンピック・パラリンピックでは、エストニア共和国のホストタウンとして、フェンシング、柔道、レスリング、陸上競技の4種目8名の選手の事前合宿を受け入れました。佐久市で最終調整を行ったフェンシング女子エペ団体が金メダル、同種目個人でも銅メダルを獲得したことは、両市の友好関係の象徴的な成功事例として深く記憶に刻まれています。こうした交流は継続しており、今年9月に開催される東京2025世界陸上でも、マラソンと十種競技の選手が佐久市で事前合宿を行います。スポーツは、両市を結ぶ強い絆となっています。
長年の交流の成果は、国家レベルでも高く評価されています。2021年2月には、姉妹都市交流を通じた両国関係発展への功績により、栁田清二佐久市長がエストニア共和国から外国人に授与される最高位の勲章である「テッラ・マリアナ十字勲章4等級」を受章しました。同年8月には、佐久市がエストニア共和国との相互理解促進に寄与した功績により、外務大臣表彰を受賞しています。
3 心を通わせる相互訪問

両市の関係をさらに強固なものにしているのが、公式訪問の際の心温まるおもてなしです。2024年10月には、姉妹都市提携5周年を記念して、サク市からマルティ・レヘマー市長、エーロ・アラマー議長らが佐久市を訪れました。共にお祝いするとともに、市内の高校を視察し、生徒たちと交流を深めました。
佐久市からは、今年7月、ユネスコ無形文化遺産にも指定されている「歌と踊りの祭典」に合わせて訪問しました。訪問団は、サク市役所で日本の国歌「君が代」による歓迎を受け、両国の国旗が並んで掲揚される光景を目にしました。我々佐久市を温かく迎え入れようとするサク市の皆様の深いおもてなしの心を感じる瞬間でした。
佐久市でも同様に、サク市からの訪問団を迎える際、市職員で構成する「佐久市エストニア会」がエストニア語で国歌を斉唱しています。こうした互いの文化と敬意を重んじる心遣いやおもてなしが、両市の信頼と友好を深めているものと実感しています。
かつて佐久市から贈った「兜飾り」や、市内在住の荻原信子画伯の「鶴は千年。耐雪梅花麗」図がサク市で大切に展示されているのを目にしたことも、両市が築いてきた深い信頼関係を再確認する瞬間でした。
4 「グローカル外交」のモデルとして
佐久市とエストニア共和国サク市との交流は、地理的な距離を超え、市民レベルでの深い理解と信頼を築きながら発展してきました。これは、地方都市が国際社会とつながり、相互理解を深める「グローカル外交」の理想的な事例であると確信しています。
今後も、両市は姉妹都市としての絆を大切にし、教育、文化、スポーツなど多岐にわたる分野での交流をさらに深化させていくでしょう。とりわけ、次世代を担う子どもたちの友情を育む機会を継続的に創出していくことこそ、両市の友好関係を未来へと繋ぐ鍵になると信じて。