グローカル外交ネット
第50回駐日外交団による地方視察ツアー(奈良県・大阪府堺市)
視察地「なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)」への書面インタビュー
令和7年5月19日
奈良県立なら食と農の魅力創造国際大学校の谷垣裕子校長へ、大学校の概要や国際的取組、地方創生との関わり等について、書面にてインタビューを実施しました。
1 奈良県立なら食と農の魅力創造国際大学校の設立目的と活動の概要について教えてください。
- 「なら食と農の魅力創造国際大学校(Nara Agriculture and Food International College )」(以下、「NAFIC」。)は、農業や農業経営の技術を学ぶ「アグリマネジメント学科」と、農業を理解した料理人を育成する「フードクリエイティブ学科」の2学科からなる大学校として開校し、今年で10年目を迎えます。
<NAFIC設立の背景>
- 奈良県では、2010年に「平城遷都1300年祭」を、平城宮跡を中心に県下全域で開催し、国内外から多くのお客様をお迎えしました。その準備段階から、奈良の観光にとって「美味しい食」は必要不可欠な要素だと考え、「奈良のうまいもの」づくりや、奈良の美味しい食を楽しめる屋外型イベント「シェフェスタ」の開催などに取り組んできました。これらの取組を通じ、県内飲食店の料理人には「県産農産物を積極的に活用したい」、農家には「西洋野菜や奈良の伝統野菜などレストランがどのような食材を求めているかを知り生産したい」との思いがあり、奈良県の「食」と「農」の振興には、食材のことを理解した料理人=「農に強い食の担い手」を育成することが必要不可欠であると気づきました。
- そこで、奈良県では、50年の歴史のある県立農業大学校を「アグリマネジメント学科」に改編、料理人等食のプロを育成する「フードクリエイティブ学科」を新設し、2016年、2学科制のNAFICを新たに創立しました。
<NAFICのご紹介>
- NAFICは、「料理等食」と「農業」に関する両方の技術分野について、分野の垣根を越えた幅広い学び、実践の現場で役立つ技術やノウハウを提供する、「食」と「農業」両方の学科を兼ね備えた、日本でただ一つの県立の大学校です。
- 具体的には、農業にかける生産者の思いや野菜それぞれの特性を理解し、農業や料理等食に関わる高度な技術力と、食を提供する者としての哲学、お客様に満足と感動を与えるおもてなし力、経営知識、地域の農業生産者とのネットワーク構築や、地産地消の推進など、よりおいしい、豊かな食を実現していくための学びを提供しております。
- 学生定員数は、80名。学生の年齢層は、18歳から60代まで、高校・大学卒業者、社会人経験者など幅広く、一流の料理人、レストランの開業、農業経営者になりたい、など様々な目標を持って学んでいます。目的意識を高く持って学ぶ学生に、高い指導力を持つ教員が日々情熱をもって授業、実習を行っており、学ぶ意欲と活気にあふれた、魅力あふれる学校です。
2 奈良県においても重要な課題である地方創生において、NAFICはどのような役割を果たすことを目指していますか。またその取組についても教えてください。
- 農家がレストランや飲食業界の求める食材を知ってそれを生産、また、県内の飲食店などが地元で作られた農産物を積極的に活用し地産地消を進めるという、奈良県の食と農の推進行政において、NAFICは、県内の食と農を盛り上げていく、実践力のある人材を育成するパートを担っています。2025年3月時点で8期生までを送り出し、卒業生達が力強い奈良県の食と農を担うプロとして頑張ってくれている姿を頼もしく思っています。
- 具体的には、卒業生は、自ら県内で飲食店等を開業、また、高級レストランやホテル等に就職し、奈良県産の野菜を活用した料理の提供を積極的に行っています。また、奈良県の南部・東部の中山間地域の空き古民家を活用し開業している卒業生も増加しています。現在は県外の有名レストランで修業中ですが、将来奈良へ戻って開業することを目標に頑張っている卒業生もおります。
- 両学科の学生混成の班を作り、アグリマネジメント学科の学生が栽培した野菜を活用し、フードクリエイティブ学科の学生が野菜の特性を活かしたレシピを開発し、班ごとにその仕上がりを競う「食材活用ワーキング」という科目があります。これにより在校生同士の学科を超えた強いつながりを築くことができます。実習等で培った地元の農業生産者とのネットワークとともに、卒業後地元農産物を活用した食産業の振興に大きく寄与しています。
3 NAFICは「駐日外交団による地方視察ツアー」では視察先の一つとなりましたが、受入れに当たってどのような狙いがありましたか。
- 奈良県は、2012年、国連世界観光機関(UNWTO)アジア太平洋地域事務所の誘致に成功し、奈良市内に事務所を開設していただきました。このUNWTO(注)が主導して世界的に推進しているのが、ガストロノミーツーリズム、すなわち、その土地の気候風土が育んだ食材・習慣・伝統・歴史を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズムです。奈良県はUNWTOと連携し、2022年には「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム」を奈良で開催するなど、奈良の食の全世界に向けた発信による観光振興に取り組んできております。(注:世界観光機関は、2024年1月に略称を「UNWTO」から「UN Tourism」に変更しています。)
- 2023年度「駐日外交団による地方視察ツアー」のテーマは「ガストロノミーツーリズム」でしたので、ぜひ奈良県の現状を大使の皆さまにご覧いただきたく、立候補させていただきました。実際にNAFICへ駐日外交団の方々がお越しくださった折には、ちょうどお菓子を作る実習の最中で、大使の皆さまにも調理室へ入っていただき学生達と交流をし、大いに盛り上がりました。
- その際、NAFICについてご紹介させていただき、大使の皆さまからは「これほどまでに農業と料理とのつながりを大切にして人材育成をし、成果の上がっている公立施設は自国にはない。素晴らしい大学校だ」と、多くのお褒めの言葉をいただきました。
- そのご縁で、昨年、ロベルト・セミナリオ駐日本ペルー特命全権大使より、「世界一の美食の国ペルーの食を、ぜひ貴校の学生達に紹介したい」とのご連絡をいただき、「ペルー大使館連携交流事業」として、ペルー大使や大使館シェフを招き特別授業をNAFICで実施していただきました。
- 同大使館のウーゴ・ルエダ シェフからのペルー料理や自国への愛と誇りに満ちた授業、共に取り組んだ調理実習に学生達は大変感激し、「とても貴重な経験をさせていただいた」「ペルーについて、食を通じて文化や歴史も深く理解できた」と話しており、国際的な交流を深められたと共に、他国の食文化についての体験が学生達の料理人としての将来の仕事に活かされることと思いました。「駐日外交団による地方視察ツアー」を事後の具体な取組のきっかけとすることができました。
4 今後のNAFICの地方創生・地方活性化に向けた取組への展望をお聞かせください。
- 奈良県では、平城宮跡に隣接する広大な県有地に、食のハブ拠点を目指し、インバウンドの集客も見込み、宿泊施設等を誘致する方針を発表しております。そのような施設では奈良県の農業に精通した料理人、また美味しい地元野菜を生産する農業者として育った卒業生達が大いに活躍してくれるものと考えております。
- これにとどまらず、県民が幸せに暮らすために美味しくて安全な食と農を供給していくために最も重要な要素は、それを担う人材です。そしてまた、魅力的な地域づくりを進めるのは、確かな技術と郷土への愛と誇りを持つ人材です。NAFICはそのような素晴らしい人材をこれからもずっと育成していきたいと思います。
- 以上のように、「なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)」は、他に類のない手法で地域の食と農の振興を図る大学校です。ご関心がおありの方はぜひ視察においでください。当校の魅力を余すところなくご案内致します。また、敷地内に、学生の実習施設のオーベルジュ(宿泊施設のある高級レストラン)「オーベルジュ・ドゥ・サンヴィ」やセミナーハウス「ホテル奈良さくらいの郷」を営業しており、奈良の食材を活かした美味しいお料理を楽しんだり宿泊もしていただけます。
- ひとりでも多くの方にNAFICについて知っていただき、奈良県の食と農の発展につながっていくことを願いつつ、今日も皆で元気に学んでいます!


